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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生69巻4号

2005年04月発行

文献概要

連載 グローバリゼーションと健康・4

水俣病のグローバルな視点

著者: 原田正純1

所属機関: 1熊本学園大学社会福祉学部

ページ範囲:P.308 - P.312

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グローバルな視点「水俣学」

 2002年から熊本学園大学で「水俣学」を提唱して授業を開始している.本年度からは福祉環境学科として修士・博士課程も立ち上げている.それほどに水俣病にこだわるのは,1956年に正式発見されたこの事件には重要なグローバルな問題を含んでいるからであり,また,地域の大学としてはこの地域最大の問題に真正面から取り組み,地域に還元するある種の責任があると考えているからである.水俣病におけるグローバルな視点とは,その事件が持つ普遍性であり,国際性である.筆者はインターナショナルという概念よりユニバーサルという概念に近いと考えている.

 最近,グローバルな環境問題といえば国際的問題,地球的環境問題と読み替えられることが多いが,それは最近の公害問題から環境問題へと転換する風潮と無関係ではない.以前,筆者は水俣病を鏡にたとえて,「水俣病は鏡である.この鏡はみる人によって深くも,平板にも立体的にもみえる.そこに,社会のしくみや政治のありよう,そして,自らの生きざままで,あらゆるものが残酷に映しだされてしまう」と書いた1)

 水俣学は水俣病の医学的な解説でも,その知識を普及するものでもない.水俣病の持つ普遍性は医学・医療ばかりでなく,法律,行政などあらゆる分野において見られるのである.さまざまな分野の学問や立場を水俣病事件に映してみて何が見えるかという,エキサイティングな知的作業である.それはグローバルな視点を持つ学問,いのちを中心に現場に学ぶ学問などを模索することである2)

参考文献

1) 原田正純:水俣が映す世界. 日本評論社, 1989
2) 原田正純(編著):水俣学講義. 日本評論社, 2004
3) 原田正純:公害の原点としての水俣病. 公衆衛生67:137-142, 2003
4) 原田正純:公害における差別の構造. 公衆衛生67:301-305, 2003
5) 原田正純:胎児性水俣病. 周産期医学29:448-451, 1998
6) 原田正純:胎児からのメッセージ. 実教出版, 1996
7) 原田正純:医学における認定制度の政治学, 水俣病の場合を中心に. 思想908:103-123, 2000
8) 原田正純:慢性水俣病, 何が病像論なのか. 実教出版, 1995
9) 熊本日々新聞:平成16年10月16日付
10) 原田正純:水俣病と世界の水銀汚染. 実教出版, 1995
11) 原田正純:水俣病と世界の水銀汚染. 丸山徳次(編):応用倫理学講義②環境, pp73-79, 岩波書店, 2004
12) Charbonneau SM, et al: Subacute toxicity of methylmercury in the adult cat. Toxicology and Applied Pharmacology 27: 569-581, 1974
13) 原田正純・他:カナダ・インデアン水銀中毒事件疫学的・臨床的調査. 公害研究5(3):5-18, 1976
14) 宋増仁・他:松花江流域(黒竜江省肇源県)の水銀汚染と漁民・住民に対する臨床疫学的調査報告. 環境衛生科研論文集, 1984年3月
15) 原田正純・他:ブラジル・アマゾン水域の採金による水銀汚染調査. 公衆衛生59: 307-311, 1995
16) Harada M, et al: Mercury pollution in the tapajos river Basin, Amazon. Mercury level of head hair and health effects, environ. International 27: 285-290, 2001
17) 原口浩一・他:市販鯨肉製品における重金属及び有機塩素系化合物の汚染実態調査. 食衛誌41:287-296, 2000
18) WHO:環境保健クライテリア1. 水銀, 環境庁環境保健部保健調査室刊, 1979年3月
19) 原田正純:有機水銀中毒研究の最近の動向, IPCS報告書をめぐって. 公害研究19(3):12-15, 1989
20) Marsh DO, et al: Fetal methylmercury poisoning, arch Neurol 44: 1017-1022, 1987
21) Kjellstoro¨m T, et al: Physical and Mental Development of Children with Prenatal Expousure to Mercury from Fish, Stage 1, Preminary Test at Age 4, National Swedish Environmental Protection Board Report 3080: 96, 1986
22) McKeown-Eyssen G.E, et al: Methylmercury Exposure in Northern Quebec Ⅱ, Neurological Findings in Children. Am J Epidemiol 118: 470-479, 1983
23) Grandjean P, et al: Congenital deficit in 7-year-old children with prenatal exposure to methylmercury. Neurotoxicology and Teratology 19: 417-428,1997
24) Agenda for Change:日本版共同翻訳グループ:アジャンダフォーチェンジ. 変革へ向けての行動計画書. ほんの木, 1995
25) 原田正純:水俣病における安全性の考え方, 予防原則をめぐって. 環境ホルモン3:31-42, 2003

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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