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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生69巻5号

2005年05月発行

雑誌目次

特集 こころの健康問題への挑戦

疫学的に見た「こころの健康問題」

著者: 竹島正 ,   長沼洋一 ,   立森久照 ,   川上憲人

ページ範囲:P.352 - P.357

現在,わが国では厚生労働科学研究費補助金による研究事業として「こころの健康に関する疫学調査」が進められている.これはWHO(世界保健機関)の提示した精神・行動障害に関する国際的な疫学研究プロジェクトであるWMH(世界精神保健:World Mental Health)に参加し,精神障害の生涯罹患率,時点有病率,社会生活の影響等を,国民の代表とみなせるサンプルについて調査するもので,こころの健康に関する最新の本格的疫学的研究である.

 WMHは,WHOプロジェクトの定める方法論に則り,WMH調査票[WHO統合国際診断面接(composite international diagnostic interview: CIDI)をもとに危険因子等のセクションを追加したもの]を用いた訪問面接によって,こころの健康に関する疫学,つまり感情障害など国民の健康に直結する障害の現時点での有病率,生涯にわたる罹患率,社会生活への影響について,調査することを目的とするものである.

自殺予防運動の実践とその評価

著者: 本橋豊

ページ範囲:P.358 - P.362

自殺予防運動の進め方

 自殺予防の問題が公衆衛生学の課題として社会的に論じられるようになったのは,決して古いことではない.わが国で本格的に自殺予防が国のプログラムとして認められたのは,2000年に開始された健康日本21においてである.その後,秋田県,青森県,岩手県,鹿児島県などで,メンタルヘルスの観点から地域の自殺予防活動が活発に展開されるようになった.このことは,わが国において,公衆衛生活動としての自殺予防対策が動き始めたと言うことができる.

 一方,2004年9月にWHOは次のようなメッセージを世界に向けて発信した1).「自殺は大きな,しかしその大半が予防可能な公衆衛生上の問題である.自殺は暴力による死の約半分を占め,毎年約100万人以上の死亡原因となっており,何十億ドルもの経済的損失をもたらしている」.心の問題は個人の問題であり,行政が介入すべきでないというような意見が唱えられやすいのであるが,WHOは明快に自殺を「公衆衛生学の問題である」と断言したのである.21世紀における公衆衛生学的課題としての自殺予防対策が,国際的にも十分に認知されたと言うことができる2)

うつ対策と疫学的研究

著者: 今田寛睦 ,   川上憲人

ページ範囲:P.363 - P.366

厚生労働省が「うつ」を正面から「対策」として取り組むようになったのは,近年の自殺者の急増が背景にある.わが国における自殺による死亡数は,厚生労働省の人口動態統計によると,平成9年23,494人であったのに対し,平成10年に31,755人と急増し,3年連続して3万人を超えている.平成13・14年には3万人を若干切ったものの,平成15年には再び32,109人となった.

 とりわけ男性の自殺による死亡率は,人口10万対38.0(平成15年人口動態統計)で,死因の第6位,25~44歳の男性においては死因の第1位となっており,自殺者数の増加に男性の中高年の自殺が大きく寄与していることが特徴の1つである.

地域における「うつ対策」の実践と保健所の役割

著者: 宇田英典

ページ範囲:P.367 - P.371

厚生労働省においては,平成16年1月に作成した「うつ対応マニュアル」の中で,地域保健でうつ対策に取り組む理由として,自殺の重大な背景要因の1つにうつ病が存在していること,しかもうつ・うつ病は頻度が高く増加傾向にあること,公衆衛生上見逃せない重要な病気であること,地域住民が相談・受診しやすい環境づくりを進めるためには地域ぐるみの取り組みが必要であること,これまで新潟県や岩手県などいくつかの自治体で実績が上がりつつあること等を挙げ,行政の積極的な取り組みを求めている1)

 しかしながら,自殺やうつという表現により,地域のイメージ悪化が懸念される,市町村合併を控えてゆとりがない,ノウハウがない,指導者や相談できる体制が整っていないといった様々な理由から,自殺対策やうつ対策に関して地域行政の位置づけは高くなく,うつ対策に取り組む自治体の数はいまだに少ない.

 このように,ニーズはありながら事業が進まない,展開に困難が伴う分野において,専門的・技術的拠点として保健所の果たす役割は大きい.

 本稿では筆者が鹿児島県伊集院保健所や川薩保健所において,管内市町と協働で平成13年からうつ対策に取り組んできた経験や,全国の先進的取り組み事例を参考にしながら,保健所が担うべき役割や機能等について検討してみたい.

情報化社会におけるこころの健康問題―マスメディアによる自殺報道と群発自殺を中心に

著者: 高橋祥友

ページ範囲:P.372 - P.377

ある人物の自殺が生じた後に,他の複数の自殺が誘発される群発自殺(clustered suicide)という現象が知られている1).高度に情報化した現代社会において,マスメディアは,自殺予防に十分に寄与する可能性がある反面,報道の仕方によっては広範囲に及ぶ複数の自殺を誘発する危険についても指摘されている.ある種の自殺では,「伝染」や「模倣」が大きな役割を果たしていることが古くから指摘されていた3).しかし,精神医学や社会学の分野で,自殺に及ぼす模倣性や伝染性の役割,特に群発自殺とマスメディアの関係について詳しく検討されるようになったのは,ようやく1960年代後半からである.

新聞報道の影響

 1. 米国における研究

 1967年にMotto4)は,新聞のストライキがあった期間には自殺率の減少をみるのではないかという仮説を立てた.米国の7都市において新聞のストライキがあった期間の自殺率を,過去5年間の同時期の自殺率と比較した.人口の増加,人口の特徴,季節による自殺率の変動,年間の自殺率の特徴なども考慮に入れて,調査に影響を及ぼさないように工夫した.Mottoらの調査では,デトロイトで起きた268日間に及んだ新聞のストライキ期間中に,過去4年間と,翌年に比べて,女性の自殺率が減少していたことが確認されたが,その他の都市では仮説を証明できなかった.

「社会的ひきこもり」への支援活動の現状と課題

著者: 後藤雅博 ,   香月富士日

ページ範囲:P.378 - P.383

1980年代くらいまでは,青年が長期間自宅にひきこもって社会との関係がとれないとなると,地域精神保健の領域としては,かなりの確率で統合失調症(精神分裂病)を予想して対応を考えれば大体問題なかった.つまり精神科医療の対象として,あるいは精神疾患のサインとしての「ひきこもり」を考え,いかに医療に結びつけるかという対応が一般的であった.また,精神療法や大学生を対象とする学校精神保健,思春期・青年期精神医学における「ひきこもり」を主とする病態については,「スチューデント・アパシー」あるいはそれに類する概念がある.これらの概念に該当するケースは,概ね青年期特有の自我同一性の不安定さを基本にしており,大方予後はよいとされていた3,4)

 しかし,2000年に柏崎の少女監禁事件と福岡のバスジャック事件が相次いで社会的に注目を浴び,両者は全く違った「症状」あるいは「病態」を持っていたにもかかわらず,共通項,特に反社会的傾向につながるものとして「ひきこもり」があたかもその原因かのように取り上げられ喧伝された.けれども,それらの事件以前から,1990年代に入って,多くの精神科医や地域精神保健担当者は,必ずしも「病気」とは確定できない,「社会的なひきこもり」と呼ぶのが妥当な,たとえば不登校が遷延しているような一群の人々が増えていることに気がついていた.そして対応や治療に苦慮していたのである4,6,9)

視点

堺市医師会と公衆衛生

著者: 樋上忍

ページ範囲:P.346 - P.347

堺市は大阪市と大和川を隔てて南に位置し,大阪府では概ね真中にあり,近々政令指定都市への移行を目指している.

 本市において,平成8(1996)年7月,腸管出血性大腸菌O157による学童集団下痢症が発生し,二次感染を含め,患者数は9,492名に達した.この学童集団下痢症に罹患した児童の約1.4%に当たる133名に溶血性尿毒症症候群(以下HUS)が発症した.そのうち,不幸にも3名の女児が犠牲になった.また二次感染等でその家族を含めて約1,500名が感染し,この感染者から20名のHUSが発症した.本稿ではその対応について述べると共に,フォローアップについて言及する.さらに,平成12年6月,M総合病院にてセラチア菌による院内感染が発症し,免疫力の低下した高齢者,がん患者の3名が犠牲になった.

 このような状況下で,堺市内の44病院で構成する堺市医師会病院部会に「院内感染防止対策委員会ネットワーク」を立ち上げ,主なる病院における院内感染防止策について報告し,互いに評価し合うディスカッションを行ってきたので詳述する.

越境する公衆衛生

[対談]「幸福」ってなんだ?―進歩・グローバリゼーション・平和のゆくえ

著者: 関野吉晴 ,   長倉洋海

ページ範囲:P.385 - P.393

「グレートジャーニー」で世界の辺境の地を歩いた医師であり探検家の関野吉晴さんと,アフリカ,中東,中米,東南アジアなど世界の紛争地を歩いた写真家の長倉洋海さんは,一昨年『幸福論』(東海教育研究所)という対談集を出版しました.自らの足で世界の大地を歩き,世界の人々に出会ってきた2人が,根源的な人間にとっての「幸福」について,再び語り合います(2004年12月6日,武蔵野美術大学にて).

競争社会とスピードの関係

関野 今日の対談は,“「幸福」ってなんだ?”という大きなテーマですね.最初に競争社会とスピードについて話しますか.

 僕が「グレートジャーニー」の旅をしながら,「スピード」ということで一番印象的なのはアマゾンです.だいたいどこかの村に入る時は,いつも「泊めてください.食べさせてください.何でもしますから」と言って入っていきます.最初にアマゾンの先住民に会った時も,僕は「食べさせてください」と言って世話になりました.彼らは,僕がパパイヤが好きだと知ると優先的にくれたり,とても親切にしてくれます.しかし「何でもしますから」と言うものの僕は何もできなくて,森に入っても大人の足手纏いになるだけで,負い目を感じるしかないんですよ.でも1つだけ,それを感じなくてすむことがあった.狩りや魚取りに一緒に行き,陽が傾いてくると暗くなるから帰ろうということになる.彼らは太陽の動きで時間を見ているのです.ところが雲が厚い時,雨の時は時間がわからない.すると僕のところにやってきて「太陽はどこにあるか」と聞く.僕は自分の腕時計を見て「太陽はここだ」と言うと「よくわかるな」と(笑).太陽は彼らにとって,光,エネルギーとしても大切なのですが,時計としての役割も持っている.また1年という時間の感覚などは,雨季が終わって次の雨季が終わったから1年が経ったと自然にわかるわけです.

特別寄稿

血液透析患者の医療情報の授受に関する患者と医師の認知

著者: 浅川達人 ,   西三郎

ページ範囲:P.394 - P.397

問題の所在

 患者への説明,すなわち“Informed Consent”の重要性が唱えられて久しい.特に近年,患者は自己決定権に基づいて自らの権利として説明を要求するようになった.読売新聞の「医療に関する全国世論調査(1996年)」の結果を受け大平は,患者への説明は「医師が仮にそれを行ったつもりでいても,患者がそれを受けたと感じていなければ回答は[否]となり,その反省が必要となる1)」と医師の自戒を促している.

 医療情報の授受は,残念ながら情報提供者の努力だけで十全に行えるものではない.大平も指摘しているように,受領者側が提供を受けたと感じること,すなわち受領者が能動的に情報を受け取ることが必要不可欠である.したがって,医療情報の授受の実態を把握するためには,提供側と受領側の両者を対象として調査を行うことが必要となる.

 血液透析患者とその担当医師の両者に対して,全く同一の質問項目を用いて医療情報の授受について尋ねた調査がある.「全国腎不全患者(血液透析患者に限定)の医療と生活等についての実態調査」がそれである.この調査から得られたデータを用いて,血液透析患者の生活実態,就労実態などについて分析した結果が,既に報告書としてまとめられている2,3)

 本稿では,この調査から得られたデータに基づいて,医療情報の授受の実態を明らかにした上で,そこに潜む課題を指摘する.

トピックス

市町村の健康日本21の進捗状況と策定推進

著者: 工藤啓 ,   荒井由美子

ページ範囲:P.398 - P.400

本年は健康日本21の中間評価の年である.しかし,中間評価では策定時よりも悪化している指標もあることが懸念されている1).健康日本21の実施主体は市町村であり,対人保健サービスの要となる市町村こそが健康日本21の推進に大きな役割を果たす.しかし,健康日本21の市町村計画の策定自体がそれほど進んでいない現状がある.

 本稿ではわれわれが平成15年に実施した健康日本21に関する市町村へのアンケート調査を基に,健康日本21に関連した市町村の状況と策定推進について分析してみよう.

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・14

鳥インフルエンザ対策―「縦割り」の壁

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.348 - P.349

今回はSARSの話は少し休みにして,今年1月号(本誌69巻1号)に書いた「鳥インフルエンザ」について,その最新の状況と,2005年2月23日から3日間開催されたホーチミンでの専門家会議,そしてその後,私が経験したちょっとした“冒険”について,今月と来月の2回にわたって話そう.

 鳥インフルエンザについては,アジア地域での感染の拡大と当該ウイルスのこの地域における“土着化”が懸念されると以前書いたが,その懸念が現実のものとなり,H5N1型インフルエンザの「人」への感染例は,例えばベトナムでは昨年と同様,旧正月の1月下旬から2月上旬を境に増加してきた(図1).

公衆衛生ドキュメント―「生きる」とは何か・14

被爆から60年,韓国の被災者たち

著者: 桑原史成

ページ範囲:P.350 - P.350

日本が太平洋戦争に敗戦して,今年は60年を迎える.その1945(昭和20)年の当時,日本には朝鮮半島から強制連行や徴用,出稼ぎなどの人々が約230万人ほど滞在していた.

 植民地の朝鮮から連れて来られ,また自らやってきた人たちにとって最大の悲劇は,同年8月6日に広島,次いで長崎で起きた,米国による原爆の投下である.死者たちの正確な数は不明だが,広島で約5万人,長崎で2万人とされる.生き残った被爆者のほとんどは韓国また北朝鮮に帰って行ったが,すでに被爆から半世紀余が過ぎて,その生存者の数は少なくなった.現在,韓国に約2,500人,北朝鮮に約900人とされる.

グローバリゼーションと健康・5

グローバリゼーションとハンセン病

著者: 湯浅洋

ページ範囲:P.401 - P.405

医療問題としてのハンセン病

 公衆衛生問題として捉えられた感染症としてのハンセン病そのものは,元来グローバルだったものが,ローカリゼーションの道を辿って,現在では,地球上のごく限られた局地にしか存在しない問題になったと言える.世界の先進国はもとより,発展途上国の大半でも,ハンセン病が現在重要な問題として一般の人々の間で認識されている例はほとんどない.大半の人たちは,その存在すら知らないと言える.

 しかし,ハンセン病は元来グローバルな存在で,世界のあらゆる人種の中でハンセン病に患らないのは,エスキモー人たちだけだと言われてきた.紀元前数世紀から数十世紀のエジプト,インド,中国等の古文書にも,明らかにハンセン病とわかる病気の存在が記されている.また一部には明らかに他の病気との混同はあるものの,旧新約聖書に「らい病」の記載がある.そこに記されている古代イスラエル人たちが示したハンセン病患者への拒否反応は,その後世界各地,あらゆる人種またはすべての宗教下でも起こり,共通したものである.その見地からは,あらゆる疾病の中で,もっとも古くから世界各地で人々に恐れられ,人類共通の反応行動を起させた,グローバルな問題だったと位置づけることもできる.

日本の高齢者―介護予防に向けた社会疫学的大規模調査・5

地域在住高齢者の趣味活動と社会経済的地位

著者: 竹田徳則 ,   近藤克則 ,   平井寛 ,   斎藤嘉孝 ,   吉井清子 ,   村田千代栄 ,   松田亮三 ,   「健康の不平等」研究会

ページ範囲:P.406 - P.410

高齢者は,仕事や家事,社会活動など,従来から担ってきた活動からの引退で自由な時間が増える.その時間をどのように過ごすかが,高齢者のQOL(Quality of Life)だけでなく,介護予防においても重要である.なぜならば,趣味や余暇活動(以下趣味活動)とそれを通じて期待される知的活動や社会的ネットワークの多寡が,閉じこもりや痴呆発症の因子の1つとして近年注目されているからである1~5).欧米では,趣味活動と生活満足度や幸福感とは関連し,老後の不安や無力感を緩衝する可能性が報告されている6~9).わが国でも横断調査において,身体機能やQOLの維持・向上,社会参加の促進などとの関連が報告されている10~12).また,人間関係と健康との関連も指摘されている13)

 高齢者が近所の人たちと交流する方法としての趣味活動の割合は,日本では25.4%,韓国では24.1%,ドイツでは18.5%,米国では18.1%,スウェーデンでは15.3%で,国や地域による違いも大きい14).わが国で複数の自治体に在住する高齢者を対象として,趣味活動の実態や心理・社会的側面との関連,社会経済的地位(Socioeconomic Status: SES)との関連を報告したものは未だ少ない.

 そこで本連載5回目の目的は,次の3点とする.第一に,地域在住の高齢者の趣味活動の実態を明らかにする.第二に,趣味活動と心理・社会的側面の関連を検討する.第三に,趣味活動と社会経済的地位との関連を明らかにすることである.なお,用いたAGES[Aichi Gerontological Evaluation Study(愛知老年学的評価研究)project]データの調査方法,分析対象者,分析で用いた社会経済的地位などの詳細は,既出論文を参照されたい15)

「PRECEDE-PROCEEDモデル」の道しるべ・14

[鼎談]PRECEDE-PROCEEDモデルの進化と今後の展望(上)

著者: 藤内修二 ,   神馬征峰 ,   中村譲治

ページ範囲:P.411 - P.418

藤内(司会) 今日は「PRECEDE-PROCEEDモデルの道しるべ」と題した1年間にわたる連載の著者である神馬先生と中村先生に再度お集まりいただいて,本連載の締めくくりとして,このモデルの展望についてディスカッションができればと思います.

 私も1年間連載を読ませていただいて,このPRECEDE-PROCEEDモデルが現場の人から見ればちょっとわかりづらい理論であるとか,使えない方法論であるとか,そう思われていたのが,本連載によって使える方法論,使いたくなる方法論というように身近なものに感じられてきたのではないかと思います.また,神馬先生からこのモデルのさらなる進化についてご紹介いただき,私も関心を持って拝読させていただきました.

 今回Green先生が第4版のテキストをすでに出版されたとお聞きしましたので,まず神馬先生のほうから,この最新の第4版の特徴について簡単に触れていただければと思います.

衛生行政キーワード・8

国民医療費

著者: 長谷川学

ページ範囲:P.419 - P.422

概要

 「国民医療費」はわが国の医療経済における重要な指標の1つであり,厚生労働行政の基礎資料として昭和29年以降毎年推計されている.国民医療費は当該年度内(4月~3月末)における病院や診療所等での病気やけがの治療に要する費用を推計したものであり,診療費,調剤費,入院時食事療養費,訪問看護療養費等が含まれている(図1).なお,正常な妊娠や出産等に要する費用,病気を予防するための健康診断・予防接種等に要する費用,固定した身体障害のために必要な義眼や義肢等の費用,差額ベッド代,歯科の差額分等の費用は含まれていない.

 国民医療費の算出に当たっては公費負担医療給付分,医療保険等給付分(医療保険制度,労災保険等),老人保健給付分のそれぞれについて支払い確定額を用い,患者の一部自己負担額と全額自費分を推計,合算して算出している.

 医療費に関する他の指標としては,厚生労働省保険局調査課から月次で発表される「医療費の動向」(メディアス)1)がある.また,国際比較可能な医療費統計としては,毎年経済協力開発機構(OECD)が公表しているOECDヘルスデータ2)がある.

赤いコートの女―女性ホームレス物語・9

パイプ役の男性ホームレスを探せ!

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.423 - P.425

波さんの恋

 隅田川遊歩道の脇に並ぶ青いテントの一角に,喋りまくる波さんと私は立っていた.波さんは嬉しそうな表情をして,テント内の片付けをしているその男性にしきりに話しかけている.男性は,ニコニコして手を休めることなく聴いている.

 「雷門メンタルクリニック」を出た私たちは,パイプ役のホームレスを探しに向かった.果たして示された条件に当てはまる知人のホームレスはいるのか.その条件により近い男性を思い出したのだった.波さんにとって権威の象徴のようなヤクザっぽさには欠けるが,この上ない優しく誠実な人物である.名前を平沢さんといった.私とはボランティア活動で長い付き合いのある人物である.彼であれば波さんの閉ざされた心を開き,語り合える関係になってくれるかもしれない.波さんの,人に対する緊張や恐怖感を感じる心の壁を優しく解きほぐし,路上生活からの脱却を手伝ってくれるかもしれない.

活動レポート

在宅言語障害者に対する相談支援―相談利用者の特性とコミュニケーション上の問題点,ニーズの検討

著者: 原修一 ,   加藤ますみ ,   坂本由郁 ,   吉原孝 ,   大友昭彦

ページ範囲:P.426 - P.431

平成12年より介護保険による在宅高齢者に対するサービスが整備され,言語障害を持つ利用者に対しての言語聴覚士(ST)が行う地域サービスは,地域福祉センターにおける機能訓練事業,老人保健施設や特別養護老人ホーム等でのデイサービス等,徐々に増加している1,2).聴覚・言語障害を持つ障害者は,全国で約34万人と推計されている3).一方で,病院1施設あたりの言語聴覚士の数は,平成13年で0.3名と,PT,OT(それぞれ2.3名,1.2名)と比較しても明らかに少なく4),保健・福祉施設においても常勤または週2回以上の非常勤によるST勤務体制を取っている施設は28%であったといった報告5)からも,病院・施設サービスはもとより,地域のSTサービスが普及したとはまだ言い難い状況である.このことは病院外来や在宅にて言語聴覚療法のサービスを受けたくても受けられずに生活している言語障害者が多く存在することが推測され,言語障害者に対する何らかの在宅サービスの整備は急務と考えられる.

 宮城県では,高齢者や障害者に必要なリハビリテーションサービスが,総合的かつ一貫性を持って提供されるための連携体制を確立することを目的に,地域リハビリテーション支援体制整備事業を実施しているが,平成5年度よりその一環である専門スタッフ派遣特別支援事業として,県施設所属また県内在住の言語聴覚士が在宅の言語障害者に対し,個別指導,集団指導,関連職種へのカンファレンス等により支援を行っている.

 本稿では,言語相談事業を利用する在宅の言語障害者の特性,相談ニーズ,および言語相談事業の意義を検討・考察した.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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