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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生69巻5号

2005年05月発行

文献概要

特集 こころの健康問題への挑戦

「社会的ひきこもり」への支援活動の現状と課題

著者: 後藤雅博1 香月富士日1

所属機関: 1新潟大学医学部保健学科

ページ範囲:P.378 - P.383

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1980年代くらいまでは,青年が長期間自宅にひきこもって社会との関係がとれないとなると,地域精神保健の領域としては,かなりの確率で統合失調症(精神分裂病)を予想して対応を考えれば大体問題なかった.つまり精神科医療の対象として,あるいは精神疾患のサインとしての「ひきこもり」を考え,いかに医療に結びつけるかという対応が一般的であった.また,精神療法や大学生を対象とする学校精神保健,思春期・青年期精神医学における「ひきこもり」を主とする病態については,「スチューデント・アパシー」あるいはそれに類する概念がある.これらの概念に該当するケースは,概ね青年期特有の自我同一性の不安定さを基本にしており,大方予後はよいとされていた3,4)

 しかし,2000年に柏崎の少女監禁事件と福岡のバスジャック事件が相次いで社会的に注目を浴び,両者は全く違った「症状」あるいは「病態」を持っていたにもかかわらず,共通項,特に反社会的傾向につながるものとして「ひきこもり」があたかもその原因かのように取り上げられ喧伝された.けれども,それらの事件以前から,1990年代に入って,多くの精神科医や地域精神保健担当者は,必ずしも「病気」とは確定できない,「社会的なひきこもり」と呼ぶのが妥当な,たとえば不登校が遷延しているような一群の人々が増えていることに気がついていた.そして対応や治療に苦慮していたのである4,6,9)

参考文献

1) 「10代・20代を中心とした『ひきこもり』をめぐる地域精神保健活動のガイドライン」―精神保健福祉センター・保健所・市町村でどのように対応するか:厚生労働科学研究研究費補助金 こころの健康科学研究事業「地域精神保健福祉活動における介入のあり方に関する研究」総合研究報告書(主任研究者 伊藤順一郎), 2003
2) 伊藤順一郎(監修):ひきこもりに対する地域精神保健活動研究会(編集);地域保健におけるひきこもりへの対応ガイドライン. じほう, 2004
3) 笠原嘉:退却神経症. 講談社現代新書, 1988
4) 狩野力八郎, 近藤直司(編):青年のひきこもり 心理社会的背景・病理・治療援助. 岩崎学術出版, 2000
5) 金吉晴, 堀口逸子, 横山知加:ひきこもり事例の有病率に関する実態調査. 厚生労働科学研究研究費補助金 こころの健康科学研究事業「地域精神保健福祉活動における介入のあり方に関する研究」総合研究報告書, pp19-39, 2003
6) 近藤直司:非精神病性ひきこもりの現在. 臨床精神医学26(9): 1159-1167, 1997
7) 近藤直司(編著):引きこもりケースへの家族援助 相談・治療・予防. 金剛出版, 2001
8) 近藤直司:青年期ひきこもりケースへの予防可能性について. 日社精医誌10: 193-199, 2001
9) 斉藤環:社会的ひきこもり. PHP新書, 1998
10) 斉藤環:ひきこもり救出マニュアル. PHP研究所, 2002

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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