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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生69巻8号

2005年08月発行

雑誌目次

特集 介護予防をどうすすめる?・1 老人保健,介護保険制度の改革

介護保険時代の老人保健事業の展望

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.616 - P.619

「社会保障」という言葉は,戦後,日本人が特に大切にしてきた言葉ではないだろうか.ことあるごとに「社会保障の充実」ということがいわれてきた.この場合,「充実」が期待されたのは,間違いなく「保障」の内容であったと思われる.それでは,ここでの「社会」とは,一体,何だと考えられてきたのだろうか.おそらく「国」と思われてきたのであろう.しかし,その「社会」が,それほど「国」ということだけでよかったのか,どうか.今日,日本人はそのことを問われているのではないか.そのことから考えてみたい.

イギリスでの歩み

 今日につながる人類の社会保障の体系は,イギリスで生まれたのである.16世紀,ヘンリー8世の時代である.1517年にルターの「95か条の論題」によって宗教改革の火の手があがった.1534年,ヘンリー8世は首長令を発表した.ローマの権威よりも,国王の権威がまさることを宣言したのである.

介護予防と老人保健事業の見直し

著者: 三浦公嗣

ページ範囲:P.620 - P.624

介護保険制度(以下,「本制度」)が平成12(2000)年に施行されて以来,介護サービスの利用者数と利用量は急速に拡大し,同16(2004)年10月末現在では,認定者数は404万人と,制度発足当時の218万人(同12年4月末)に比べて85%増加している.また,給付に関する総費用も平成12年度の3.6兆円から6.8兆円と,年10%を超える伸びを示している.

 このような状況の中で,本制度施行5年にして見直しの検討を行うとする介護保険法(以下,「法」)の規定に基づき,本制度見直しの検討が行われた.昨年7月にとりまとめられた社会保障審議会介護保険部会の報告では,①本制度の「持続可能性」,②「明るく活力ある超高齢社会」の構築,③社会保障の総合化を基本的視点として,本制度の基本理念の徹底と新たな課題への対応が指摘され,具体的には,サービスの質の確保・向上をはじめとした多方面からの提言が行われた.

 これを受けて,法の一部を改正する法律案が国会に提出され,6月に可決・成立した.

介護予防のエビデンス

著者: 辻一郎 ,   大森芳

ページ範囲:P.626 - P.629

介護予防に関連するサービスは多種多様なものがあり,その効果に関するエビデンスについても様々な検討が行われている.本稿では,欧米で行われたメタアナリシスと,厚生労働省による市町村モデル事業を紹介したい.

これまでのメタアナリシスから

 根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine: EBM)の立場では,複数の無作為割り付け対照試験(Randomized Controlled Trial: RCT)について,メタアナリシスを行ったものが最も妥当性の高いエビデンスであるとされている.そこで,メタアナリシスに関して世界で最も高く評価されているコクラン共同計画(Cochrane Collaboration)のレビュー結果を紹介したい.

介護予防チェックリスト

著者: 新開省二

ページ範囲:P.630 - P.633

高齢期に生活機能が低下してくる最大の原因は,心身機能の低下である.心身機能の低下をもたらす主要因は2つ,それは疾病と老化である(図1).これまでの保健活動は,疾病の予防,管理およびリハビリテーションに関するものであった.それに対して介護予防は,老化に伴う心身機能の低下を抑制,あるいは改善する取り組みである.

 高齢者の生活機能に影響しやすい心身機能は,認知機能,咀嚼・嚥下機能,下肢機能などであり,それらが低下すると,認知症,低栄養・気道感染,転倒・骨折などの健康障害が生じる.また,心身機能の低下を促進する生活像として「閉じこもり」がある(図2).

 そこで,介護予防上の取り組みとして,認知症予防,低栄養予防・口腔ケア,下肢筋力の向上,閉じこもり予防などが挙げられているのである.

高知県の介護予防への取り組み

著者: 今井淳

ページ範囲:P.634 - P.638

高知県は,平成16年10月1日現在の推計人口813,949人,高齢化率25.3%(全国第3位),年少人口割合12.9%(全国第45位),2025年に高齢化のピーク(高齢化率33.7%)を迎える,全国に比べて10年先をいく少子高齢化県である.老人医療費は1人当たり年間86万円(全国第6位),要介護認定率15.1%,要介護度2以上の施設入所率は51.8%で,高騰する医療費と介護保険料が大きな財政上の課題となっている.このため,高知県健康福祉部では「治療から予防へ,施設から地域へ」の社会仕組みづくりを経営方針・政策形成の基本的な視点に掲げ,「介護予防の体系的な推進」を重点課題に取り組んでいる.

介護予防への取り組みのきっかけ

 高知県香北町では高知大学医学部老年病科の支援を受けて,平成2年度から高齢者の生活機能に着目した取り組み(香北町長寿計画)を実施しており,ADL自立度の大きな改善と,老人医療費の低減に効果が上がったことから,全国的にも注目を浴びていた.この取り組みを参考にして,平成13年度に,管轄の現・中央東福祉保健所から生活機能をチェックできる「高齢者健診」の施策化への提案がなされた.「健診」という手段をどのように「介護予防」に活用するのか,高知大学医学部の協力も得ながら,平成14年度に研修を重ね,介護予防への機運を高めていった.

介護予防対象はどのくらいいる?―東京都杉並区の介護予防実態調査から

著者: 山田恵理子 ,   市瀬佳子 ,   檜谷照子 ,   齋藤夕子

ページ範囲:P.639 - P.643

介護予防をすすめ,効果をあげていくためには,対象者を早期に把握することが必要となる.さらに介護予防事業については,個々の利用者ごとに,生活機能を向上させるといった目標を明らかにし,一人ひとりについて適切なアセスメントを踏まえたサービス内容の検討や,サービス提供の効果の把握・評価を行っていくことが必要である.

 杉並区では,平成12年度の介護保険制度のスタートに合わせ,高齢者が要介護状態になることを予防する介護予防事業を実施してきた.杉並区では,老人保健法の訪問指導事業も介護予防事業の1つと位置付け,地域型在宅介護支援センター(以下,通称の「ケア24」と記す)に相談があった方を対象に,訪問による介護予防サービスを提供してきた.しかし,こうした介護予防の対象者の多くは,本人や家族からの申請者であり,相談があった時には,すでに介護保険サービスが必要な状態である対象者も多く,介護予防対象者の早期の把握,介入が課題となっていた.

介護保険の見直しと財源問題

著者: 横山純一

ページ範囲:P.644 - P.649

高齢社会の進行と要介護者の増大

 介護保険のスタートから5年が経過した.この間,高齢化が一層進行して,被保険者数は2,456万人(2004年5月)となった.要介護認定者数は218万人(2000年4月)から390万人(2004年5月)に増大し,被保険者数の伸び(13%)を大きく上回って79%の増加となった.

 介護保険の給付サービスを受けている高齢者の動向をみると,在宅サービス利用者数は2004年3月に228万人となり135%増加した(2000年4月97万人).施設サービス利用者数も増加したが(2000年4月52万人,2004年3月75万人),その一方で都市部を中心に特別養護老人ホーム待機者数が大幅に増大した.

視点

保健所におけるシミュレーションの活用

著者: 荒田吉彦

ページ範囲:P.610 - P.611

誰にでも,深い後悔を伴う,忘れようとしても忘れられない思い出がある.中学生時代,家族が寝静まった深夜,なぜタバコに手を伸ばしてしまったのか.仕事納めの日に,誰からも勧められていないのに勝手に飲んで,なぜ正体をなくすほど泥酔してしまったのか.人生を「あの時」からもう一度やり直したいという思いはあっても,そういう願いが叶えられるのは,小説や映画の中だけのお話である.

 もちろん,日々の生活に限らず,公衆衛生の現場においても後悔の種は尽きない.「あの時,もう少し丁寧に説明しておけば」,「あの時,一言声をかけておけば」と何年経過しても,ふとした瞬間に思い出す場面がいくつもある.できるだけ新たな後悔を生み出したくはないが,どういう状況にも対応できる万能のマニュアルは,この世に存在しない.結局,初めて経験する事態に,科学的な根拠と法令に幾ばくかの想像力を加味して,スタッフとディスカッションを繰り返しながら対応することになる.そして,そのディスカッションこそが,保健所にとって最も重要な仕事なのだと思う.

特別寄稿

大学の利点と現場の利点

著者: 吉村健清

ページ範囲:P.650 - P.652

昨年3月,医学部卒業以来,長年私の活動の場としてきた大学を離れ,4月からいわゆる地方衛生研究所といわれる県の試験研究機関に勤務することとなった.大学では公衆衛生学,臨床疫学という場にいたので,公衆衛生,予防医学の立場から,保健環境研究所での仕事も大きな差はないのではないかと考え,現職を引き受けることとした.

 私自身,公衆衛生は対象とする住民があって成り立つものと考えていたので,現場と大学が車の両輪のごとく連繫することが不可欠であるし,また連繫しなければ発展もないと述べてきた.これまで大学からの公衆衛生は経験してきたので,今回は現場からの公衆衛生に挑戦してみたいと,この世界に飛び込んだ.

 現実に大学の場を離れ,衛生行政の場に飛び込んでみると,外からでは見えないいろいろな発見があった.今回,衛生行政の一研究機関に入って1年の経験を振り返って,これからどのような公衆衛生の展開が可能かを模索してみたい.

クライシス・コミュニケーションとは何か

著者: 田中正博

ページ範囲:P.653 - P.656

「人は起こしたことで非難されるのではなく,起こしたことにどう対応したかによって非難されるのである」.クライシス・コミュニケーションについてこの言葉ほど,端的に明快に語るものはない.2000年7月,東京商工会議所が発刊した小冊子『企業を危機から守るクライシス・コミュニケーション』は,この冒頭の一文から始まっている.ちょうどこの時期,日本中の関心の的となった雪印乳業食中毒事件と三菱自動車のリコール隠し事件が相次いで発生したこともあって,クライシス・コミュニケーションに対する関心が産業界やマスコミ界に一気に高まった.筆者はこの小冊子の執筆に携わった関係上,多くのマスコミ記者から取材を受け,同時に彼らの所感を聞くことができた.共通した指摘は「まったくこの通りだ.何か問題を起こして“失敗”したケースは,ほとんどクライシス・コミュニケーションの失敗と言っていいね」,ということであった.

 世の中には,さまざまな概念を示すおびただしい数のヨコ文字がデビューするが,「クライシス・コミュニケーション」は,冒頭の一文によってほとんど即座にすべての人々が同じ理解をすることができる,珍しいケースであろう.

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・17

「家庭医」考

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.612 - P.613

前回は世界保健総会(WHA)の話をしたが,今回は,その後,今年5月30日に京都で行われた家庭医(Family Physician/General Physician)に関する私の講演の話をしよう.

 ジュネーブでの世界保健総会(WHA)終了後,私はかねてから約束していた世界家庭医学会(World Organization of National Colleges, Academies and Academic Associations of General Practitioners/Family Physicians: WONCA)でのアジア太平洋地域総会で講演を行うため,京都へ向かった.

公衆衛生ドキュメント―「生きる」とは何か・17

セミパラチンスクの悲劇―旧ソ連邦

著者: 桑原史成

ページ範囲:P.614 - P.614

東西の冷戦が始まって数年後の1949年に,ソビエト連邦はカザフスタンのセミパラチンスクの広大な草原で原爆の実験を開始した.アメリカが広島と長崎で原爆を投下してから4年後のことである.

 掲載の写真は1993年に撮影したものだが,実験場はカザフスタンの西方120kmのところにあった.その面積は日本の四国ほどに匹敵するが,爆心地は草も生えない不毛の地と化していた.1991年に旧ソ連邦は崩壊し,同年12月16日に,カザフスタンのナザルバエフ大統領は実験場の閉鎖令を出している.それまでの40年間に約470回の原爆実験が繰り返されてきた.

グローバリゼーションと健康・8

リプロダクティブヘルスとグローバリゼーション―ブラジルとアメリカから

著者: 三砂ちづる

ページ範囲:P.657 - P.660

ブラジルと妊娠中絶

 ブラジルでは,妊娠中絶はご法度である.女性の生命に危険が及ぶとき,あるいはレイプのケース以外では,合法的な妊娠中絶は禁じられている.

 妊娠中絶は,合法であろうとなかろうと,宗教的に問題が提起されようとされていまいと,文化的に受け入れられていようといまいと…これらすべてにかかわらず,多くの女性が人生において直面しなければならない「現実」である.いくら子どもが好きでも,いくら赤ちゃんを産みたいと思っていても,いくら相手の男を心から愛していても,女性が妊娠中絶を選ばなければならないことがあるという現実は,どのような国にも存在する.政府が禁止すれば,女性は危険であると知りながら,あらゆる手段を講じて妊娠中絶をしようとする.だからこそ,世界の妊産婦死亡の大きな原因のひとつが妊娠中絶であり,「妊娠中絶の違法化は,妊娠中絶を減らさない,危険にするだけである」と言われているのである1)

日本の高齢者―介護予防に向けた社会疫学的大規模調査・8

高齢者の健康とソーシャルサポート―受領サポートと提供サポート

著者: 斎藤嘉孝 ,   近藤克則 ,   吉井清子 ,   平井寛 ,   末盛慶 ,   村田千代栄 ,   「健康の不平等」研究会

ページ範囲:P.661 - P.665

今回は,高齢者の人間関係に注目し,それがいかに健康と関連しているか,あるいはその人間関係がいかに他要因(所得や教育年数など社会経済的地位,あるいは農村・都市的地域などの地域特性)と関係しているかについて検討する.データは他の連載回と同様,AGES(Aichi Gerontological Evaluation Study:愛知老年学的評価研究)プロジェクト(連載第1回参照1))のものを用いる.

人間関係をどうとらえるか

 人間関係は,2つの側面──ソーシャルネットワークとソーシャルサポート──に分けてとらえることができる.別居家族や友人,隣人などとかかわった回数など,構造的・量的側面であるソーシャルネットワーク2,3)と,どのような支援関係が別居家族や友人などとの間にあるのかといった,人間関係における機能的・質的側面であるソーシャルサポートである.今回はソーシャルサポートに焦点を当てたい.

医師が保健所研修にやってくる―ピンチをチャンスに変える保健所を目指せ!・3

―保健所の宝の活かし方②―医療を外側から見せるために

著者: 川島ひろ子

ページ範囲:P.666 - P.669

「人の振り見て我が振り直せ」ということわざがあるが,一般に,人は自分のことが最も見えていないらしい.私が20年近く前に臨床から行政に移ってきた時,まるでタイムマシンで別世界に来たような気がした.見るもの聞くもの知らないことばかりで,かなり戸惑った.なかでも,物事の判断基準が全く違うのに非常に驚いた.それまでの私は,今思うと恥ずかしいことではあるが,世の中に判断基準がいくつもあるとは,思ってもいなかった.自分が臨床で学んだ物指しが,そのまま世の中に通用すると信じていた.その時,保健所の大先輩から「あなたは今やっと本当の社会に来て,娑婆学を学んでいるのだ.これが本当の“世の中”であって,これまでいた臨床という医師の世界は,“世の中”から見れば,非常に特殊な世界なのだ」と言われた.医学部卒業の24歳まで18年間も学生をやり,その後本当の社会に接することなく,すぐに臨床という名の特殊社会にどっぷりと長い間浸かっていたのだ.その時はあまりピンとこなかったが,あれから20年近く経った今,大先輩の言葉の意味がよくわかり,思い出すたびに冷や汗が流れる.

 研修医の中には,一度社会人として活躍した後に,医学部へ入り直した人もいる.このような人は,世間の物指しを持っているので,臨床という社会を世間と比較して考えることができる.しかしほとんどの研修医は,かつての私と同様,世間を経験することなく臨床に入った,いわゆる「世間知らず」である.これまでのように,診察室の中だけにいて,患者の病気だけを診ているのならそれでもいいが,全人的医療を目指す21世紀の今,これでは困る.患者は世間の物指しに従って暮らしており,臨床の物指しは,彼らの普段の生活には無関係である.よって,医師のほうが世間の物指しを身につけ,臨床の物指しと二本立てで,全人的医療を目指す必要がある.

 研修医たちに世間の物指しを持たすためには,医療の外側に身を置いて,外側から医療を眺めさせるのが,一番効果的な方法である.そのためには,普段から仕事を通して医療を外側から見ている,保健所での研修が役に立つ.保健所には,外側から医療を見るのに都合の良いものがたくさん揃っている.対人サービスのケース記録,医療相談の記録,医療監視の記録,医療計画書等,他では絶対に得られない,宝の山を持っている.

現場が動く!健康危機管理・3

セラチア院内感染

著者: 橘とも子

ページ範囲:P.670 - P.672

健康危機管理とは「医薬品・食中毒・感染症・飲料水,その他何らかの原因により生じる国民の生命・健康の安全を脅かす事態に対して行われる健康被害の発生予防・拡大防止・治療等に関する業務」である(厚生労働省健康危機管理指針).健康危機管理における保健所の役割は,「平常時における発生予防」「発生時の健康被害拡大防止」「健康被害回復支援」「再発防止」のいずれの段階にも存在すると考えられる.

 2002年1月,世田谷区Ⅰ病院(救急指定病院,33床)で,筆者が感染症対策所管課長として経験したセラチア院内感染事故対策の経験・教訓から,対策の具体的要点を考察してみたい.

性のヘルスプロモーション・3

[インタビュー]「ゲイ」というセクシュアリティ

著者: 長谷川博史 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.673 - P.678

ゲイコミュニティも公衆衛生の対象

岩室 現在の公衆衛生の問題の1つに,わが国のHIV/AIDS感染者・患者が1万人を突破したことがあります.ゲイコミュニティ内でも実際に広がっているのに,公衆衛生現場はそこに入り込めていない現実があります.これは,そもそもゲイというセクシュアリティを,私たち公衆衛生従事者が十分理解できていないということではないでしょうか.

 私はさまざまなゲイの人と出会うことを通して,結局,ゲイにもいろいろな人がいるという点ではヘテロ(異性愛者)の世界と同じである.ゲイというセクシュアリティは恋人として付き合うのでなければ重要な問題ではないと,私の中で腑に落ちています.私は泌尿器科の外来診療もしているのですが,患者に「あなたはゲイですか」とぱっと聞きます.「そんなストレートに聞いていいのですか」と言われますが,ゲイの方に必要な支援も用意しているつもりなので,聞かないとその情報も伝えられません.

 今日は,自らカミングアウトされている長谷川博史さんにお話を伺うことで,「ああ,ゲイってそういうことか」と腑に落ちる読者が増えることを期待しています.

衛生行政キーワード・10

戦略研究課題

著者: 伊藤弘人 ,   高階恵美子

ページ範囲:P.679 - P.681

健康フロンティア:戦略研究課題の背景

 平成17年度から「戦略研究」課題の仕組みが開始されることになり,準備が進められている.これまでの厚生労働科学研究は,毎年10月末頃に公募課題が示され,その課題に沿った研究テーマついて,研究班を組織して研究計画を応募する.この一般公募型に加え,今年度から戦略研究という新たな研究類型で「糖尿病対策戦略研究課題」と「自殺関連うつ対策戦略研究課題」が開始される.共に公衆衛生領域の関係者にも関係の深い研究課題なので,その概要を紹介する.

 戦略研究課題創設の背景を理解するために,まず健康フロンティア戦略の説明から始める.「健康フロンティア戦略」とは,平成17年から平成26年までの10年間を実施期間とし,「生活習慣病対策の推進」と「介護予防の推進」を柱として健康寿命を2年程度伸ばすことを基本目標とする戦略である.平成16年5月の与党幹事長・政調会長会議においてまとめられた.この戦略の推進のために,6月の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」で関係府省が連携して重点的に政策を展開することとされ,厚生労働省と文部科学省は,推進の準備をしてきた.

 この過程で,厚生労働省の科学技術の振興を審議する第21回厚生科学審議会科学技術部会では,健康フロンティア戦略の科学技術ロードマップを示した(図1).そして,研究寿命の延伸という観点から,健康負荷が大きく,かつ研究の推進による健康負荷の軽減が大きいと考えられる糖尿病や心の健康等の分野については,これまでの公募型,指定型という枠組みを超えて,規模の大きい戦略研究(仮称)という枠組みを導入することになった.これが戦略研究課題創設のきっかけである.

赤いコートの女―女性ホームレス物語・12

ドラマチックなアパート入居

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.682 - P.684

T福祉事務所のAケースワーカーに連絡を取り,これまでのアパート見学の経緯を説明した.見積書と契約書の申し込み表,いつ入居するか月の日割り計算書が必要だった.いよいよ入居の日を,3月某日と決めた.

 「(平沢さんと)一緒にアパートに入ってもいい」と波さんは言ったものの,それは,責任ある約束の言葉ではない.なぜなら彼女は,相変わらず路上生活に固執する姿勢は変わらなかったからである.新たな生活は,波さんの心に大変な負担となるものであろうと推察した.どのようにして波さんを野宿場所から引き離していくか,検討する必要があった.

フォーラム

Y駅異臭事件において保健所の果たした役割10年後から振り返って

著者: 逢見憲一

ページ範囲:P.685 - P.687

あの「地下鉄サリン事件」の直後,1995年4月19日に都心近くのJR線Y駅で異臭事件が発生してから,10年が経った.筆者は,当時,同駅を所管するN保健所の医師として事件の現場に出動して救急活動を行った.事件にかかわった当事者としての筆者の経験は貴重であり,記録に留めておくべきものと考える.

 本稿では,Y駅異臭事件に際してのN保健所の活動を筆者の経験を交えて振り返り,考察を加えて,今後の公衆衛生活動に資したい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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