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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生7巻1号

1950年01月発行

雑誌目次

特集 結核

結核豫防工作の振興

著者: 野邊地慶三

ページ範囲:P.1 - P.3

 今次大戰中我國の公衆衞生事業は結核豫防に焦點をおかれてあつたのであるが,戰後發疹チフス及び天然痘の劃期的流行,赤痢の大蔓延等敗戰にともなう急性傳染病の多發のために,公衆衞生事業の重點は急性傳染病對策に移されたのは止むを得ない行政處置であつた。しかしながら結核が已然死因の第一位を占め,年々15萬内外の生命を奪い,その凡そ10倍と推定される,多數の患者があつて國家再建途上の一大ハンデイキヤツプとなつている我國に於いては,一日も早く結核豫防を主軸とする衞生行政方針に復歸すべきは理の當然である。幸いに占領軍衞生當局の適切な指導と支援の下に,急性傳染病は我國の衞生史上見られない低位に制壓され主力を結核豫防に割きうる状態となつた。そして又ヂフテリア豫防接種禍以來,ツベルクリン及びBCGの使用を封ぜられ,不可缺な羅針盤と武器を失つてこの数カ月後結核豫防施策の空白を生じたのである。しかしながら此の兩劑の使用も解禁され本格的結核豫防工作が可能となつた。衞生當事者は今こそ再び結核豫防工作を強化して結核禍の侵襲から國民をまもるべきである。
 米國のマサチューセッツ州の結核死亡率は同州の本格的公衆衞生活動の始まつた當初すなわち前世紀の中葉から今日にいたる約百年の間に人口萬對44強から4強に下り實に1/10以下に減少したのである。

農村結核の疫學的研究—埼王縣富岡村における調査成績(第1報)

著者: 染谷四郞 ,   重松逸造 ,   川村達 ,   平山雄 ,   宍戸昌夫 ,   下舌富太郞 ,   山下昇

ページ範囲:P.4 - P.12

1.まえがき
 戰後わが國農村における結核の増加蔓延がしきりに報ぜられているが,同一集團について戰前と戰後の調査成績を比較檢討した報告は未だ殆んどみられない。われわれは昭和23年8月埼王縣富岡村において全村民を對象として,結核の疫學的調査を行つたが,同村は既に昭和14年第一回調査を實施して以來,同15,16,18,21年の前後5回に亘つて繼續調査を實施してきているので,こゝには昭和23年度に行つた第6回調査の成績を中心に,前5回の調査成績と比較檢討した結果の概略を報告する。尚本村昭和14,15年度の調査成績は第一報として野邊地他9名によつて報告ずみである(1)

福岡市に於ける結核の疫學的研究

著者: 城戸春分生

ページ範囲:P.12 - P.18

緒言
 我國の結核死亡率は依然高率であり,靑年期においては特に顯著である。而して戰後には全國的に増加の傾向を示したが,福岡縣は從來に比して昭和21年,22年には甚しく高率となつて,全國で第1位及び第2位となつた。私はその人口の9分の1を占める福岡市の疫學的資料を昭和17年より23年度迄の7カ年分について補足整理して次の如き研究を行つた。

工場結核

著者: 黑澤辰男

ページ範囲:P.18 - P.21

 結核問題の中で「工場結核」が何故特殊な地位を占めるのであろうか。
 工場化による住民の都市密集化,農・林・漁業等に反して不自然な勞働環境,勞働制による過度の疲勞が結核蔓延,感染の機會を増し,個體の結核感染乃至發病素因を高め,發病結核を増惡せしめると考えられている。

小兒結核の特異性について

著者: 山縣武人

ページ範囲:P.21 - P.25

 小兒結核症といつても,小兒結核菌によつておこる傳染病である點から,何ら成人結核症と本質的に異るものではなく,特別な病型があるわけではない。唯,その發病と進展の様式が體質等の内的因子,ならびに,小兒の結核菌へのばく露の強さ(菌量,期間,頻度),生活環境等の外的因子の外に,成人と異り,年令的差異という小兒獨得の因子の爲に多様性を示すことである。以下小兒結核として意義のあると思われる2,3の項目について述べる。

小兒結核の疫學

著者: 大坪佑二

ページ範囲:P.26 - P.34

1.小兒結核と年齡
 年齡は結核に大きな影響を與える。結核に對する生物學的反應,感染形式,榮養,生活條件など多數の複雜なる因子が結核に對して大きな影響があるものと推察されるが,それ等の各因子の年齡的の差異も亦大きな因子であろう。その綜合的な結果の現れが,年齡別死亡曲線であつて,世界各國のその曲線を見ると,乳幼兒より學童までに漸減し,學童期には最低の谷を作り,以後上昇傾向をとることは共通している。
 ところが乳幼兒の死亡率と其の後學童より靑年を經て老年に至る死亡率との割合は必ずしも平行的關係を示さない。全體の死亡率は減つても,その割合に乳幼兒の死亡率が減らなかつたり,又その逆に全體の死亡率は餘り減らないにかゝわらず,乳幼兒の死亡が激減したりする。久保博士の昭和15年の報告を見ると,各國年齡別死亡曲線で5歳頃の谷と20歳頃の比率は各國とも大體7〜8倍であるが,5歳以下の幼兒死亡の比較割合は5〜9歳における死亡數との割合が日本にて最も小さく,次でイタリー,ドイツ,イギリス,アメリカの順に多くなつている。全結核死亡數と乳幼兒死亡數との比率は必ずしも一致しない。

結核のストレプトマイシン療法

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.34 - P.37

 Waksmanが放線菌の一種であるStreptomyces Griseusから新しい抗生物質をとり出し,之をStreptomycinと呼んだのは1943年の秋のことである。
 ペニシリンは,葡萄状球菌の培養基に偶然にもとび込んだ靑かびから發見されるに至つたのであるが,このストレプトマイシンの方はワクスマンの科學的な想念によつて研究が計畫的になされ,遂に之が發見されるに至つたものである。

勞働者結核問題の反省

著者: 黑田芳夫

ページ範囲:P.38 - P.41

1.罹病率,死亡率
 戰後,結核豫防對策のめざましい進歩が語られている。死亡率の減少はことに著しく,青年期結核死亡のヤマがだんだん低くなつて歐米のような老人期だけのヤマの型に似て來つゝあるという。實にうれしいことだ。
 だが,これが必ずしも社會生活における結核問題を一擧に解決するものとは速斷できない。勞働--社會通念的にいえば生活のために努力すること,これが人間の本姿である。そこでは常に強じんな精神と肉體とが要求されている。働けるか否か,それが人間生活を營み得るか否かの大前提である。この前提があるからこそ,僅かの下痢や鼻カタルやケガを無理して醫者にかゝらずに治そうとする。健康保險を利用する者が激増した,とはいつても一回の治療ですむ位の輕症が激増したのではない。半日の,いや1時間の醫者通いが勞働者には氣輕にはできない。茲に結核死亡率の減少を以て素朴に勞働生活えの好影響とのみ言い難い理由がひそんでいる。

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畫期的厚生行政の轉換—シヤウプ勸告を中心として

著者: 福井一雄

ページ範囲:P.42 - P.44

 國民待望のシヤウプ勸告は去日發表され,これに基く税制改正及び補正豫算は,臨時國會に提出された。
 厚生行政としては,税制の面でも,醫療費の特別控除,身體障害者の特別控除,固定資産再評價,靑色申告制度,地方税でも固定資産税,附加價値税社會保障税等,關心を佛うべきものが少くないのであるが,より重大な關係を有するのは,地方財政制度に關する勸告である。

衞生行政のうごき

ページ範囲:P.45 - P.53

覺醒劑等の製造及び販賣について
 近時プロパミンやメチルプロパミン等のいわゆる覺醒アミン及びその製剤が,主として醫療用以外の目的に濫用されて甚しい惡影響を來し,ことに靑少年に及ぼす害毒はまことに憂慮されるものがあるので,厚生省ではこの製造業者に對してその自肅を促すと共に,藥局及び醫療品販賣業者に對して,これらの製劑が藥事法第37條の適用を受ける劇藥であることをさらに周知徹底せしめ,その取扱いにいかんのないよう嚴重に監視し,眞に治療上必要と思われる者に對して販賣する場合を除いてはこの種の製劑を取扱わないように指導するよう,10月27日附をもつて各都道府縣知事に通牒を發した。なおプロパミン,メチルプロパミン及びその散劑,錠劑は,さきに國民醫藥品集藥品から除外されて以來,公定書外藥品としてその後あらたにその製造を許可されていない。

海外文献

看護内容の改善特に人の教育に就いて

著者:

ページ範囲:P.54 - P.60

「看護(Medical Care)」とは從來否本日でも一部の者は「醫師の奉仕(Services of a Physicisn)」と同義に考えている。然しながら近時豫防,診斷,治療,厚生等各醫學分野の發達が廣範圍となるにつれその意義も變化して來た。その1例として病院看護の問題をとり上げて數年前或る有名な臨床家であり醫學教育者が發表したことを紹介してみよう。彼は2人の同一疾患,同一經過の患者が同一病院で1908年と1938年に看護を受けた例を對比している,第1例(1908年)の患者2頁半の診療録によれば2週間の入院中主として手當を受けたのは醫師2名と一病理細菌專問家計3名のみであつた。第2例は約30年後同様心臟病疾患で19週入院していたものであるがその29頁の診療録によれば手當を受けたのは普通醫師10名,專問醫師14名技術者等計32名の多數であつた。勿論之れは病院常在の人達ばかりではないが本日の看護には如何に多數を必要とするかがわかる。最近Franz Goldmannは「看護」とは全保健業務に手傳はる者,全病醫院,その他健康の最善を計り,疾病を豫防し,疾病に關係ある不具,經濟不安等の輕減に必要な機關に關係ある全人員の奉仕を包含するものであると述べている。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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