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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生7巻2号

1950年02月発行

雑誌目次

特集 榮養 論述

榮養と公衆衞生

著者: 齋藤潔

ページ範囲:P.63 - P.65

 自然界から生産されるそのまゝの食糧が,人口に比較して豊富であつて,人々は欲するまゝに食欲を充たしていた時代から,食物は生理的の必要量を攝るように考え始めた。今日までのわれらの食生活には,さまざまの變遷を經て來た。
 最近數10年間の榮養學の著しい進歩は,榮養素の質と量からくる諸種の疾病を教えて食生活の改善を促がし,更に食は單に特殊の疾病を豫防するばかりでなく,進んで一般の疾病豫防の根抵となり,活力を養い,仕事の能率を高め,生命さえも延長する要素であることが明かになつた。然るにこゝに不思議な理象は,"食糧は足り民衆はうえる"ことがありうる。食の問題が單に量だけで解決し得ないのと,今日の食の問題が1國1民族の間だけで解決されるものでなく,國際間の問題であることと,食糧の解決が經濟と緊密に關聯しているからである。換言すれば,食の問題は生理的のものであるが,これが所期の目的を達するためには,經濟,農業,畜産業,水産業,工業との關聯に於て考慮さるべき性質のものであることを物語るものである。

食品衞生法の改正を促す2,3の問題について

著者: 尾崎嘉篤

ページ範囲:P.66 - P.70

 食品衞生行政は,他の上下水道,汚物掃除,鼠族昆虫驅除などの環境衞生部門と共に公衆衞生の基礎であり,この上に疾病豫防對策とか保健婦事業などはつみ上げられるべきで,又こうしてこそ効果もあがるものなのである。しかるに,日本に於てはその特異な國家發展事情のため,この基礎工事が十分出來ないまゝに經過してゐたが,今次敗戰を契機として,後ればせながらこれらの面がとり上げられて來ていることは,甚だ喜ばしいことと云はなければならない。
 この再出發に當つて,食品衞生は,それに必要な取締基準である食品衞生法令を第1國會にて制定公布したことは,それに從事する食品衞生監視員1767名をfull time officerとして整備し,それが運營に必要な府縣の經費も國庫がその1/2を負擔し,それ以外に營業許可手數料を徴收しうることにしたことと相俟つて急速な行政の展開と滲透を可能ならしめた。

患者食指導の要點

著者: 原實

ページ範囲:P.71 - P.76

 健康者と異り患者の榮養においては,榮養素の必要性は疾病の特殊性によりそれぞれ異つていて,それぞれの食養法に從つて行う。食品は消化性であること,利用率の高い食品たること,患者の嗜好性に適應し,食欲を増進する様調理の上で考慮さるべきこと,よくそ嚼して食べる習慣を守らせることなどが食養法として必要な事柄である。

患者食調理について

著者: 松本敦子

ページ範囲:P.76 - P.79

 本來食餌療法は庇護療法で病氣の自然療法を助長し促進するに利用されるものであるから,他の藥物療法や醫學療法等と同時に併用して,治療をより效果的ならしむる爲に施されるものである。
 患者食の献立はその疾病の種類や經過によつて異つて來る。例えば糖尿病の場合には糖質制限を行い,腎臓病の場合には蛋白,食鹽,水分制限の食餌を與えるように,又經過により流動食または半流動食(1分粥,3分粥,5分粥,7分粥,全粥)や固型食(常食)を與えるのはそれである。

妊産婦の榮養状況調査

著者: 大塚協 ,   廣瀨恭三

ページ範囲:P.80 - P.82

Ⅰ.緒言
 妊娠から分娩,産褥,授乳と母體の生理は大なる變化と負擔を要求し,妊産婦の榮養が母體と胎兒,乳兒の發育,保健に著しい影響をもたらすことは最近の外國文献にも強調されているところである。
 戰後の食糧事情のもと妊産婦榮養の實情を知り,妊産婦の保健指導の資料を得るため,次の如く榮養調査を行つた。

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醫藥分業と國民醫療

著者: 渡邊定

ページ範囲:P.83 - P.87

 わが國の醫藥分業は明治7年「醫制」が制定せられ,ドイツにならつて醫藥分業の方向が規定されたが,藥劑師の教育程度,人員數の不足の實情から今日まで暫定的の經過法という見方で醫師の調劑權を認めてない。昭和23年7月制定の現在の藥事法には,以前は附則にあつた醫師の調劑權を本則中に但し書きとして「醫師は自己の處方箋により自ら調劑し又は藥劑師に調劑させる場合はこの限りではない」と規定している。この動向に對して,藥劑師の數10年に亘る強制醫藥分業制度の制定に對する建議や請願があり,醫師會と烈しい論爭が繰返されて今日に及んでいる次第である。然るに昨年7月來朝の米國藥劑師協會使節團は,數週間に亘る關係各方面の調査の後に日本の藥劑師方面に關する報告書及び45ケ條に亘る勸告書が作製され,これが總司令部のサムス准將から9月13日に厚生省及び關係團體代表者に正式に手交されたのである。その内容の詳細については,こゝに記述する事を省くが,醫藥分業の實現への努力,教育の向上,藥劑師政府諸機關における藥事活動への注意,模範工場の設置,大學の教程及び經理問題に對する問題が取扱れている。勸告書中,醫藥分業に關係のある條項を擧げれば次の如くである。

勞働者住宅の住まい方研究

著者: 相澤龍

ページ範囲:P.88 - P.93

緒言
 荒廢した住生活が傳染病の蔓延や道徳の頽廢を惹起する事は既に古くエンゲルスが産業革命に伴つて起つた勞働者の悲慘な居住状態を「イギリスに於ける勞働者階級の状態」に於て,又横山源之助氏が明治初期の勞働者の有樣を「日本の下層社會」に於て述べた所からも明らかである。
 戰後我國は未曾有の住宅難に直面しているが,大阪市に就て當研究所が行つた住宅調査の結果からも明らかな如く,戰災に依る著しい住宅不足の結果は居住状態に於ては他世帶との同居で暮している家族の著しい増加を來し,居住面積に於ては極度の過密住と過密就寝が見られ,住生活の荒廢が容易に想像されるのである(1)

地域別年度別に見た復員引揚患者の統計的觀察

著者: 馬場弘 ,   木下咲子 ,   熊坂年成

ページ範囲:P.94 - P.95

 終戰以後各地より引揚げて來た人々の中で,所謂復員引揚患者として各地の國立病院及び療養所等に收容せられた者は相當多數に上つている筈であるが,これ等患者の詳細に關しては數字的に發表された例を聞かない。われわれはこのたび當院に於て終戰以後今日までに收容した復員引揚患者777名(長野縣の北部に住所を持つ患者の大半は當院に收容せられる)について地域別(引揚前の地域は南方諸地域,中國地域,ソ連地區の三つに大別)及び年度別(當院收容時)に集計し,患者數の比較を爲すと共に,更に主要病名別の統計をとり,且つこれらの轉歸についても比較檢討をした。
 われわれは結論的に次の事實を指摘するに止めよう。

身體障害者福祉法—更生援護施設の設置

ページ範囲:P.112 - P.113

(施設の設置)
第27條
 國は,身體障害者更生援護施設を設置しなければならない。
 2.都道府縣は厚生大臣の認可を受けて,身體障害者援護施設を設置することができる。

冬の脅威,流感か感冒か異型肺炎か

著者: 宮川米次

ページ範囲:P.114 - P.118

 私のすきな明るい夏も過ぎ,柿の實が赤くなつて來て,我等の同業者は青くなつておるが,やがてあの陰慘な冬將軍が襲いかかつてくる。それは決して寒冷という不快な敵だけではない。色々なお伴がついてくるが,青くなつたやからも,息をふきかへしてくるのだと昔からいわれたものだ。それだのに籔井竹庵居士を風ひき醫者といつてさげすんで居るのにはうけとれないことが澤山ある。御醫者さん自身でさえもこの點を充分にわきまえて居られないような氣がしないでもないから,シーズンを前にし禿筆を架してみる氣になつた。それは何故であろうか?
 如何に臨牀の大衆が多くも病者を1診して,流感か感冐か異型肺炎かを斷定し得る人はあるまい。チフス性病者をみて,チフスと斷ずるには,屡々あまり六ケ敷くないことがあるが,それが腸チフスかパラチフスA,B,Cの何れかといわれると,血清菌學的檢査をせずに診定したとしたならば,輕卒のそしりを免れないと同様に,感冐性の病者に於ても,それが流感か感冐か,況んや異型肺炎かを斷定するには,やはり細かな細菌血清學の檢査の結果にまたなければ出來ないというのが正しいゆき方だと思う。かぜ引の診斷がらくにつかないといつて,直ちに竹庵なりと決して笑うわけにはゆかないのが現状である。それ程に今日感冐學は進んで居る。所謂感冐の種類は何程あるか。

昭和24年2月及び5月の國民榮養調査成績發表

ページ範囲:P.118 - P.119

 終戰後引續き國民の榮養調査を實施してから,今年で4年目である。今までの經過をふりかえつて見るとだんだんと好轉している。今度2月,5月の結果が公表を許された。
 其の成績から見ると國民の攝取の状況は,本年度に於いても2月は都市が約1968「カロリー」,農村は2115「カロリー」で,5月は都市2004「カロリー」,農村は2174「カロリー」であつて,前年よりは2月は都市2.8%,農村は2.2%増加し,5月は少し之より上廻はつて,都市が4.7%,農村が5.9%である。

厚生省便り

ページ範囲:P.120 - P.122

ジフテリア豫防接種の再開
 昭和23年京都,島根に起つたヂフテリア豫防接種事故により,同年12月からワクチンを再檢査するため各種の豫防接種を1時中絶することになり,中でもこの事故を起したジフテリアトキソイドについては,特に嚴重な製造施設の査察,接種液の再檢査の處置等のためその再開が意外に手間どり,防疫上に少からぬ支障を來していたが,この程充分な査察や檢査を受けて全く安全な2000立あまりのジフテリアトキソイドが出來上つたので,ジフテリアの流行期を控え去る12月6日付をもつて,1年振りで,ジフテリア豫防接種が再開されることになつた。
 この豫防接種は,昭和23年12月24日付の次官通牒による豫防接種中絶以降の定期該當者のすべてについてさかのぼつて實施することとなり,また前記中絶の際に初回免疫を受ける筈の考であつて,3回接種のうち1回又は2回接種しただけで中絶している場合は,その接種に引つづいて殘りの接種を行うことになつている。

日本體力醫學會第1回總會講演抄録

1 精神疲勞判定の一方法としての數讀取法について,他

著者: 佐藤勉

ページ範囲:P.98 - P.112

 私共は2より9迄の數字200を不規則に並べた數字板を實驗者が一定速度で讀み上げ,その中から指定した2個の數字例えば5と8を被驗者に一方の數字は左手他は右手で數え取らせ,その誤謬數(+-の符號を附す)を測定して大腦の働きを判定する方法を考案し,それを2・3作業現場に應用してみた。この報告はその基礎研究である。實驗の結果兩手の誤謬數(a,d)の絶對値の和c,+の發現,adの差の絶對値d等が判定の示標となり,adは參考となることがわかつた。又成年者に於ては特に年令的差異を認めず,某新制中學生の測定例は一般作業者に對する最低基準となり得た。なお本法は被驗者に特に苦痛を與えないで,しかも短期間に如何なる場所に於ても簡易に行い得て,實用的檢査法として極めて便宜であつた。

海外文献

原子戰に於ける心理學的諸因子に就て,他

著者:

ページ範囲:P.122 - P.124

 原子放射は人類に危害乃至に殺滅を與える邪惡な道具であると解してはいけない。人類が原子放射の中に住まざるを得ない以上寧ろこれに確固たる見透しを以て處すべきである。所謂原子爆彈の原子核爆發と同時に發生する莫大なイオン放射の出現以來一般の心理的恐怖は言ふにいわれないものがある。放射による危害をあえて過少視するものではないが戰場で殺人が行われるのは當然のことであり,若し之れによる障害が他の障害以上でないとすれば當然うけ入れられねばならない。若し原子爆彈が自分の現に歩いてゐる地におちたことがあるからと言つてその二次放射を恐れるなら機銃でうたれて10人の内1人が死んだからと言つて戰場でこれをおそれるのと少しもかわりわない。戰場で人は多くの危害を受ける。彈の外マラリア,花柳病,寒濕,飢餓各種の傷害をうける人は原子放射を少し重くみすぎてゐる。1946年8月原子病から快復した多數の日本人に面接したが彼等は全く正常にみえ,日常生活には何等の支障がなかつた。廣島,長崎の死亡の5-15%が原子病によるものと思惟せられる。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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