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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生7巻4号

1950年04月発行

雑誌目次

特集 1949年度の回顧と50年の展望

世界保健の歩み—主としてWHOついにて

著者: 山口正義

ページ範囲:P.191 - P.192

 1948年4月7日結成以來2年,既に数10ケ國に加盟を得てWHO(世界保健機関)は世界保健の中心として着実にその歩みを続けている。
 WHOは1948年夏,ジユネーヴにおける第一回総会において,1949年度に重点的に採り上げる問題として,結核,性病,マラリア,環境衞生,栄養,母子衞生の6項目を決定したが,その具体的な現われとして次のような事業が行われている。

精神衞生

著者: 村松常雄

ページ範囲:P.192 - P.194

 國際的には1949年8月ロンドンで開催された精神健康國際会議International Congress on Mental Healthの際に設立された世界精神健康連合World Federation for Mental Helthが1949年2月にその機関雜誌The Bulletin of the World Federation for Mental Healthの第1号を発行し,実際にその世界的活動が開始された。
 此の世界精神健康連合はユネスコ及び世界健康組織World Health Organizationとの協力團体で46ケ國が參加しており,世界中の医学関係者のみならず,社会科学者・教育者等の協力を要望している。

勞働衞生

著者: 石川知福

ページ範囲:P.194 - P.197

 終戰後4年を経過した1949年は労働基準法が実施されてから第3年目の年に当る。日本の現在の労働衞生の実際面の歩みは労働基準法の実施がその原動力をなしている。労働基準法は労働衞生を基調としているが,その実施細綱に挙げられている。生命と健康の防護に関する数字は,或る意味で從來の労働衞生学的研究の総決算を示すものと見ることが出來るであろう。然るに戰後外國文献,特にアメリカの定期刊行物及び單行本を入手する事が出來るようになつて,戰時中のアメリカの進歩と比較し,我が國の労働衞生領域の研究の方向と実際面の運営技術について多くの修正を加えなければならないことが考えられる。この意味で,私共労働衞生の研究に携つているものにとつては,日本の労働衞生についての從來の諸研究を外國のものとも比較して,國際的なものにまで修正することが,私共に負わされた一つの責任であると思う。
 一方産業労働上の活動のうち,特に日本独特のものについて,或いは國際的な観点から日本がとくに遅れている方面の研究を急速に促進させることも私共の一つの任務であろう。

新政大學の保健教育

著者: 重田定正

ページ範囲:P.197 - P.198

1.体育必須科目となる
 体育の價値は,理論としてはわが國の学校教育においても早くから認められていたが,他の教科にくらべて実際には高く評價されていなかった。また学校の種別については,小学校より高等学校に至るまでは,終戰後いちじるしい進歩が保健教育の面において見られ,1949年度においても前年度までの企画が着々と実を結びつつあるとも見られるので,既に明確な地歩を占めており,今後は保健計画と保健教育とに関する文部省の指導が各学校に徹底してこれが具体化し個性化することが新年度の課題といえるのである。然るに1949年度に新制大学において体育が必須科目となつたのは,わが國の教育史上まことに新時期を画するものといわなければならぬ。
 その内容としては高等学校における保健体育,生物等と密接な関連をもつものであつて,大学の体育は,その対象たる学生の年齢,素質能力等の点のみより見ても,特殊の意義を認めざるを得ない。

學校保健

著者: 佐藤孫二

ページ範囲:P.199 - P.200

 終戰後の学校保健は教育方針の根本的な改善により著るしく進展した。
 文部省が創置されたのが明治4年,文部省に医務課が設置されたのが明治5年であるから,学校保健の発足をみて,80年の歴史を数えたことになる。この間,我が國の学校保健施策は大きな進歩を示してはきたが,満足すべき段階には未だしの感が深かつた。

母子衞生

著者: 田波幸男

ページ範囲:P.200 - P.202

 一年位はぢきに経つてしまうもので,年初にたてた計画の半分も終らない中に又もや年頭の計をたてるべき新しき元旦がやつて來るのである。昨年は所謂母子衞生5ケ年計画の第2年目であつた。計画の中には勿論乳幼兒死亡の減少という項目が大きくとりあげられているのであるが,23年の統計をみると,肺炎はひどく減少して,このため下痢腸炎死亡が浮上つて來た。肺炎の減つたのはペニシリンやズルフオン剤の普及による所が大きいので,これは將來も減少をつずける可能性があると考えられる。そこで24年は下痢腸炎の減少を目的として進んだ譯である。
 下痢腸炎死亡を減少させるには色々な方法があろうが,先ず第一に乳幼児の栄養の問題に着手した。そして24年は一言をもつてすればこの栄養問題に明け暮れしたといつてもよいであろう。

急性傳染病

著者: 川畑愛義

ページ範囲:P.202 - P.204

1)法定傳染病
 いままでずつと減少の一歩をたどつてきた法定傳染病がごく少数ではあるが,増加したのは残念なことにちがいない。増加の最大の原因は赤痢の激増であつて,昭和23年14,600名の患者数が実に約24,000名に増したことである。そして,これには多くの集團発生即ち爆発流行が含まれている。しかも,致命率は23年の27%から24年の30%に増加している。致命率がダイアジン,其の他のスルフア剤,ペニシリン等の普及などにもかかわらず,高くなつてきていることは,まだ相当に患者隱蔽の疑いをもたせる。昨今一流の病院では殆ど赤痢の致命率は5%以下に下つてしまつているからである。即ち届けられたものは,本当に重症なもののみに限られているものと見られている。
 赤痢に次いでは猖紅熱が増しているが,其の他は概むね減少している。

慢性傳染病

著者: 小谷新太郞

ページ範囲:P.204 - P.205

 我が國に於ける慢性傳染病のうち最も重要なものは,何と云つても結核である。結核は相変らず,國民死因順位の第1位を占め,1948年には届出結核死亡数は145,259で,人口万対18.1に相当し,國民総死亡の15.2%にあたる。1949年の統計は,此の稿を書いている時までには,発表されていないので,此を述べることはできないが,國民死因順位の第1位を占めることは明かである。併しながら,死亡数も若干減少し,人口万單位死亡率は1949年11月頃迄の統計から推定すれば,恐らく17前後になるようである。とうなれば近來にない低率といえる。
 結核患者の届出も年々良好となつて來ている。1947年には318,316であり,1948年には389,436となつている。1949年の統計はまだ出ていないが恐らく46万以上になるであろう。1949年に於ては,結核予防対策上特記すべき二つのことがある。その第一は,BCGか予防接種法に依り0歳から30歳迄の人に強制的に実施されることになり,又BCGワクチンも液ワクから乾燥ワクチンに切りかえられ,しかも此のワクチンに対し國家檢定が行われるようになつたことである。又ツペルクリンも國家檢定を受けることになつた。此等の事情のためにBCGの出まわりも惡く,1949年中には,僅かに200万程度のBCGの接種が行われたにすぎなかつた。

栄養と食品衞生

著者: 尾崎嘉篤

ページ範囲:P.206 - P.207

 昭和24年は,戰時中及び戰後の窮乏した食生活がやや生色をとり戻した年であつたが,この食糧事情の好轉は日本経済の漸次的立直りと世界の食糧生産が増大したことによつてもたらされたものであつた。
 國民の食生活を保障するための要求者たる性格を有する厚生省では,これまでも世界に比類のない規模で全國的な栄養攝取状況及びその健康に及ぼす影響を調査し,この科学的基礎にもとづいて経済安定本部や農林省に種々要求して來ていたが,昭和24年度もこれをつづけた。昭和23年度の配給量の増加につづいて本年にては配給食糧の質的改善が多く見られ,更に國民の攝取カロリーの基準が成人換算一人当2,4000カロリーより2,500カロリーへ引上げることが科学的だと公的に考慮されたり,配給量が3合にまで高めることが云々されるに到つたが,これらは栄養調査及びこれにもとづく前述の要求が一つのモーメントとして貢献しているものと信ずる。

製藥界の回顧

著者: 椙山庸吉

ページ範囲:P.207 - P.210

昭和24年の製藥界は一言にしていえば,戰時中,終戰後10ケ年にわたる資材の隘路が油脂類・グリセリン等の隘路資材を残すのみで資材関係の好轉により飛躍的に生産を増加し年間約315億円に達し一應全般的には医藥品の需要を満したと言い得る。輸出は大いに期待されたが中間の政治情勢等により一部の家庭藥を除き期待されていた金額には到底達することが出來なかつた。現在登録されている医藥品の製造業者数は約2,700社であり実際稼動しているものは約1,000社,残りの1,700社は経済事情を含む種々の事情から経営困難になつており殆ど操業していないものと考えられる。24年の総括的な命題とは集中生産による企業の合理化と原價の引下即ち輸出の促進と來るべき輸入に備えての準備である。各社共生産品目の整理による重点生産を行い労務効率の上昇を計り漸く年末には製藥工業界も主要業者は企業として一應の安定性をもつに至り金融難は尚他工業と同樣免れ得ないが,各製造業者はその努力によつてこの難局をのりきつて行くことが可能であると考えられる。品目についてはペニシリン,ヘキシルレゾルシン丸,D.D.T.などその増産は目ざましいものがある。又これ等の新製品の規格が数多く発賣されたとともとの年の牧穫であろう。2,3の重要医藥品についてその生産概況を述べると

政府の社會保障制度審議会について

著者: 黑木利克

ページ範囲:P.210 - P.213

 社会保障制度は單に医療,厚生方面のみならず,社会全般に及ぼす影響が極めて大きい。すでにこれを実施しているイギリスにおいても各方面の意見は區々のようである。わが國の社会保障制度は果して実現する見込があるか,またどのような方向にむかつているか,主管課長の黑木氏に就筆を依頼した次第である。

厚生行政の動向

著者: 伊部英男

ページ範囲:P.213 - P.214

 終戰以來の我國の公衆衞生は,幾多の惡條件にもかかわらず,飛躍的な進歩をみせ,今日に至つたのであるが,その主要手段とするところは,いわば,公衆衞生の活動の医学的方面の推進であつたように思われる。行政機構の整備.医師等関係者の資質の向上,新しい医藥品の利用等によつて急性傳染病は,明治以來の低率に止めることができたのは,聯合軍の指導よろしきを得たとは言え,日本側としてもやはり誇るに足る業績であろう。今後の課題は,この成績の維持向上であろう。本年に入つてからは,発しんチフスの問題がある。しかし,急性傳染病の問題は,ようやく第二線に退き,結核,性病その他所謂國民病が前面にでて來ている。
 結核については,一應結核予防法案が研究されたのであるが,財政上の理由から延期の止むなきに至つた。この疾病は,長期を要するものであつて,当然その間の医療費,生活費の問題がある。この問題は,今日の経済情勢の下では,より一層深刻な問題となつている。今日の問題は,医学的な面の改善もさることながら,より社会的な面が重視されなければならない。ここに社会問題としての医療問題が浮び上つてくるのである。

昭和24年における

乳兒死亡と乳兒關係國際死因分類の改正について

著者: 瀨木三雄

ページ範囲:P.215 - P.219

--昭和25年より國際疾病死因分類が改訂され,小兒関係分野に於ても極めて重要な変更がなされた。本文に於ては最近算出せられた昭和24年の乳兒死亡について述べると共にこの変更事項について説明する、--

傳染病及び性病の概況

著者: 角田厲作

ページ範囲:P.220 - P.224

1.はしがき
 医師が法定傳染病性病及び届出傳染病の患者を診断したときは,無料郵便の届出票によつて,その病名,患者氏名,住所,性,年齢その他の事項を,保健所に届出なければならないこととなつている。
 その疾病は,從來10種の法定傳染病の他昭和21年5月から日本腦炎が加わり,更に昭和22年3月傳染病届出規則により,麻疹,百日咳,流行性感冒,黄熱,破傷風,肺炎,産褥熱,狂犬病,炭そ,鼻そ,結核,らい,トラホームが,届出を要することとなつた。尚これよりさきマラリア,デング熱が届出をすることとなつていたが,更に22年8月急性灰白脊髓炎が,23年6月傳染性下痢性が加わり,合計28種である。その他性病予防法により,りん病,梅毒,軟性下かん及びそけいリンパ肉芽腫症の4種を入れて32種が届出を規定されている。

人口動態統計—特に死因別死亡について

著者: 福島一郞 ,   林弘

ページ範囲:P.225 - P.233

 國民衞生の動向を知る最良の指標の一つとして人口動態統計が挙げられることは誰しも異論のない所であろう。この人口動態統計の数字は厚生省から毎月その概略が公表されているが,最近昭和24年12月分の発表をみて昭和24年を通じての動向が明らかとなつたので,筆者はこれらの数字に基いて若干の観察を試みてみた。なお昭和23年,24年両年の数字は概数として発表されたものであるので,この中から前年以前に事件発生のものを除いて眞にその年度内発生のものを製表したいわゆる確定数は追つて年報として公表される予定であるので若干の誤差は免れないが大体の動向はこの概数によつて充分に察知しうるものと思う。

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人口と結婚

著者: 菱沼從尹

ページ範囲:P.234 - P.238

 結婚は出生に関連し,出生は人口と関連する。
 人口問題は人類が國家形成を行つた当初から,中心的な課題であつたことは疑いのないところである。原始國家においては人々はより粗野でより動物的でより本能によつて行動する。權力に対するあこがれは,原始國家をかつて自國の強大を計るための動物的なたけだけしい斗爭として他國家に対する侵略戰爭の形となつて表われた。從つて戰士の数ということは最も重要な関心事であると共にさらに國家を維持するために租税の徴收を計らなければならない。主としてこの二点から人口問題は常に時の問題として脚光を浴びたのである。

公象衞生の發達(2)

著者: 杉靖三郞

ページ範囲:P.239 - P.241

軍隊及び監獄醫學
 18世紀に於ては,近代的な意味で軍陣医学とも云えるものが漸く起りかけてきた。この軍陣医学は一般の予防医学のさきがけとみなすべきであつて,18世紀の社会においては,一般人に対する疾病の予防的取締りや統計的観察ということは,未だ充分に行われず,この樣な取締り及び統計的観察は陸海軍の兵士達を対象としてます行われた。
 イギリス陸軍における最初の医事的改良者のなかで最も重要な仕事をしたのはベールハーヴエの弟子でスコツトランド人のプリングル卿Sis John Pringle(1701-1782)であつた。この人はイギリス陸軍の外科医として永い経驗をもつており,後には重要な地位についていろいろな意見を実行にうつしたのであつた。発疹チフスと軍隊の野営熱と監獄熱との3つが同一の種類のものであることをはじめて発見したのも彼である。また腐敗現象が病氣の原因になることを発見して消毒という観念をはじめて説いた人だとも云える。

臺所の改善

著者: 川畑愛義

ページ範囲:P.242 - P.242

 住宅の改善は,「台所と便所の合理化」に重点がおかれる。にもかかわらずわが,國においてはまことにこれがふしぎなほど行われていない。住宅不足とはいいながらも,相当に新しい家がたちつつある。しかしそこには衞生上一歩の前進すらみとめることができない。台所改善の実のあがらないのは,主婦の発言力がまだ用いられないからであろうか,それとも主婦自身衞生的に無知なためであろうか。それでも都会の台所はかなりよくなつた点をみとめることができる。しかし農村の台所のいかに旧態いぜんとして不衞生・不能率・不便利であることよ。これらはかならずしも新築する必要はないが,わづかの改造と運用で相当な効果をあげうることができるはずである。
 それでは,台所改善の要点はどこにあるか,つぎにかんがえられる数項をかかげて參考とする。図はC. I. E. の好意によるもので,標題には,One of the chartson exhibit for a C. I. E. housing and community Planning projectとある。

一筆啓上

著者: 南條剛史

ページ範囲:P.244 - P.245

或結婚について
 私はそのお孃さんを知つていた。といつてもこれが近頃ばやりのエロ・ナンセンスの物語りでないことは筆者の名前をみれば,御推量がつくというもの………そのお孃さんは花ならば眞白なはちすの花か。はでやかな存在ではないが清らかさ,けだかさ,健やかさにおいては,類らべきものがそんなに多くないかもしれない。
 彼女は我國では指おり数えられる某医学書店の社長の愛孃である。しかし私がここに貴重な紙面をかりてあえて紹介しようとするのは決して残念ながら彼女自身のことではない。

厚生省便り

ページ範囲:P.246 - P.252

發疹チフス流行の概況とその對策
 本年1月東京に発生した発疹チフスは,漸次上野驛地下道や淺草附近を根據としている浮浪者の間に蔓延し,2月上旬に入つて東京を中心に全國10縣におよそ150名位の患者を出したが,当時はその90%までが上野地下道に関係ある浮浪者とその接触者に限られた観があり,東京以外には集團発生は見られなかつた。
 その後横浜でも,日傭勞務者の宿舎である西片町共栄会の宿舍から集團発生があり,つづいてあちこちの宿舍や水上宿泊所等に密集生活をしている日傭勞務者や浮浪者の間に続々と多数の患者を出し,厚生省で受理した報告によれば,本年1月以降2月23日までの全國発疹チフス患者発生数は,神奈川287名(内眞症決定164名死亡11名),東京214名(内眞症決定158名,死亡13名),千葉13名,埼玉6名,茨城5名,愛知5名,長崎5名,長野4名,大阪3名,廣島3名,靜岡2名,岩手1名,宮城1名,福島1名,鳥取1名,兵庫1名,佐賀1名,熊本1名合計555名(昨24年は年間を通じ105名)の多数に上つている。

海外文献

ペニシリン内服による淋疾の治療/海水の殺菌性能

著者: ,  

ページ範囲:P.253 - P.253

 急性淋疾男女309名につきペニシリン内服治療を実施した。治癒の判定は塗抹檢鏡並に培養法を3囘実施して陰性となつたものを治癒としたその結果は下表の通りであつた。
 以上でわかる樣にペニシリン内服は20万單位以下は無効,40万乃至万60單位の内服は有効である,本法は無痛,実用的でしかも効果があるから実際に推奨するに足る.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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