icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生7巻5号

1950年05月発行

雑誌目次

特集 鼠族昆蟲

人と動物に共通な病氣に就ての最近の研究

著者: 北岡正見

ページ範囲:P.255 - P.259

 まえがき 人も動物の仲間であるが特に人と動物と断つた理由は,人の疾患が中心であるからである。更に動物の中には哺乳類を始め,極めて多くの種類の動物が包含されているが,ここでは人と関係の深い家畜,家禽並に囓歯類の一部に限定して話を進めることにする。
 さて人の病氣は医学方面で,家畜,家禽のそれは獸医畜産の方面で夫々研究が進められているが,之等研究の日的は,人類が如何にすれば健康な生活を樂しみ得るかという事である。人の健康は人のみを対象とした研究では完全に保たれない。人類は物質的に,時間的,更に空間的に関聯のある各種動物,植物並に鑛物等と入り乱れ,之等と不可分の生活を営んでいるからである。此に述べる事柄は医学或は獣医学に於て夫々別個に縦に研究され報告されていることであり,またこの両者の疾患を相互に媒介する昆虫に就て,日進月歩の発展をなしつつある衞生昆虫学は,われわれに幾多の示唆を與えているのであるが,この三者を横に廣く通覧し,以て人の保健の參考に供したいのである。このような線に沿つて既に單行本(Hull(1))が刊行され又最近ではMyer(2)の廣汎な綜説,滝田(3)等の單行本も発表されている。

最近の環境衞生行政上の諸問題について

著者: 松田心一

ページ範囲:P.260 - P.262

 現在わが國の環境衞生行政の主流をなしているものは,廣義の所謂衞生工学施設(Sanitary Engineering)としての上水道,下水道,汚物掃除鼠族昆虫駆除等の事業を初めとし,食品衞生,乳肉衞生,公共の場所の衞生,建築衞生等の業務であるが,最近何れもその業務が,内容に於ても,業績に於ても,著しい進境を示して來ていることは事実である。その反面に於て,更にまた諸種の進歩的で特異な構想やテーマを必要とすると同時に,行政上複雜で困難な問題にも遭着している事例が少くない。
 先づ汚物掃除事業に就ては,戰後に於ける國内,特に都市の不潔状態にかんがみ,その強化をはかるため,昨年二月閣議決定を経て,公共事業として清掃施設の整備充実を期するよう努力を続けたが,國家財政の見地から充分な國庫補助予算等が確保出來なかつたことは至極残念なことであつた。しかし汚物處理施設を整備する財源に当てるため,目的税としての共同施設税を徴收し得るように,昨年度に於て地方税法の改正せられたので,それに伴つて全國の数都市では既にこれを実施に移し,またはその実施準備中のものもあることは,この事業の進展上甚だ力強いことであつて,今後この制度が清掃事業の強化のために,漸次他都市に於ても実施にうつされるものとわれわれは期待している。

ねずみのとり方

著者: 権田権三郞

ページ範囲:P.263 - P.265

 ねずみを一匹でも多くとるにはいかにしたら良いかを研究しなければならない,その第一はねずみの習性をあらかじめ知つておくことが必要である。ねずみは暗い場所を好む陰氣な動物で一定の通路を活疏する人間も顔負する程悧巧で,鋭敏で,聽覚と臭覚は特別発達しているのが特徴である。なを要心深いから捕そ器や毒餌に如何においしい好む餌を用いても置き方が惡いと近寄らない。又さいぎ心が強く復讐心もありますから巣を見つけて取り去つたり子ねずみを捕えて親ねずみを残して置くと飛んでもない仇討をされることがあるから警戒しなければならない。
 次は好む餌の吟味である。ねずみは貧食だからなんでも食べるが家ねずみ,溝ねずみは植物性のものが好きで特に甘味あるもの油氣のあるものが大好物である。然しねずみによつては洋食好きなものもあつて動物性の牛豚肉もバターやチーズから牛乳,卵,魚肉を好むものもあるからその環境によつて異つたものを試みて用うること必要である。まず植物性のものでは生甘藷(太白,農林一号紅赤)などの甘味の強いものを選ぶこと,人參(長きもの)馬鈴薯(白)桃色は不可,食パン,油あげ,さつま揚,南京豆,南瓜の種子,そば粉,小麦粉,唐もろこし粉,米糠,蚕の蛹などがよい。不思議にとうがらし,こしようが好きであるから餌を作るときに少し混合してもよい,塩辛いもの,にが味のあるものは余り好まない。然し貧食だけに飢えると共食いすることもある。

鼠の習性と生態

著者: 佐々学

ページ範囲:P.265 - P.268

 鼠のことは昔からよく調べられているようで意外に分つていないことが多い。殊に鼠の習性や生態についての色々な定説なもるのが案外に非科学的な憶測にすぎないものが多いのである。あまりにも我々に身近い問題で,本氣になつて学問の対象にした人が極めて少なかつたようである。
 鼠に関しては私も本誌の4雀1号に「鼠の衞生的檢査法」(1)と題して文献をつけてかなり委しく述べたし,また中央公論社の「自然」(2)1948年10月,11月号に「ネズミ」と題して全般的な解説を試みた。この両誌ともなお出版元には残部もあると思うので,今回の限られた紙面にはもう一歩進んだ考え方をのべてみたいと思う。特に鼠の生態についてJohns Hopkins大学のD.E.Davis一派が哺乳類生態学の專門家としての本格的な調査を行い,幾つかの注目すべき論文を出しているのであつて,私も在米中その研究の一班に參加していたので,その一部も紹介したい。

疫学における蚊族研究の近況

著者: 細井輝彦

ページ範囲:P.268 - P.270

 19世紀末から今世紀初頭の医学に画期的な波紋を投じたフイラリア,マラリア,及び黄熱に関する蚊の媒介説は,その後30年間に現れた大小無数の追試によつて実証され,ふえんされて,傳播蚊の種類,分布,習性,及びそれらによつて決定される蚊の疫学上の役割りが,あらまし解決された。デング熱の傳播蚊確定について,マニラで行われた実驗(1926,'31)を最後として,蚊の研究はようやく疫学の一線から退いたかのように見えたが,そのころから話題を賑わわせ始めたものが3つある。
 その第1は,欧洲におけるマラリヤの主要傳播蚊Anopheles maculipennisの"race"に関する問題である。從來ただ1種と考えられてきたmaculipennisが,実は卵型と,吸血性や幼虫生育所などの生態とによつて区別される,5以上の亞種または変種から成り立つているということが,各國における多数の独立した研究から綜合的に判明し,この結果,これまでmaculipennisが多数に発生しているにも拘わらず,マラリアがあまり見られない地方があるという,いわゆる"anophelism sine malaria"のパラドツクスが氷解するに到つた。即ち,ある亞種または変種では原虫に対する感受性に変りがなくても,家畜を好んで吸血するために,実際上はマラリアの傳播にあずからないことがある。その際,氣候,土地,生物などの環境要素によつて,種々いろの変化を生じてくることも肯かれる。

種類別にみた蚊の発生地について

著者: 生沢万壽夫 ,   武衞和雄 ,   林德夫

ページ範囲:P.271 - P.275

1.蚊族幼虫の發生分類
 近年わが國各地における日本腦炎の発生にともない,これが媒介者として重要視される蚊の防遏の見地より,蚊族の発生環境に関する調査は最も重要と思われる。
 筆者らは,大阪府下において,昭和23年度にこの調査を行つたのであるが,その概要をのべ,発生環境について考察してみたいと思う。

蠅の生態

著者: 長花操

ページ範囲:P.276 - P.277

 廣い意味での蠅は非常に沢山の種類が含まれるが我々が日常,蠅と言つて居るものは家蠅類で,その中でも人家内又は附近で見かける種類の家蠅,姫家蠅,大家蠅,黒瑠璃蠅,金蠅等である。ここで蠅と言うのも後者の意味である。
 蠅が色々な傳染病,殊に腸管傳染病を傅播することは古くより言われて居ることで今更之のことに就て申述べる必要もないこととは思うけれども乞によつて,ここに蝿の生態とこれ等の関係を略述することとする。

蚤・虱の驅除剤の批判

著者: 石井信太郞

ページ範囲:P.278 - P.281

 蚤と虱の驅除法は生物学的性状から考察し極めて異なるものであるから之を一括して述べることは当を得ていないのである。それで両者の驅除法の共通した点に就て述べることとする。
 蚤は寄生虫ではなくて,虱は寄生虫であるという生物学的性状の差異があるのであるが,蚤は人体又は動物体の体表に於て其発育を全うするものではなく,主として床下や疊の下などで産卵して幼虫,蛹,成虫が発育し然る後に人体や動物体に附着して吸血するものである。一方虱は産卵を人体の体表に於て行い,そこで幼虫.成虫となるものである。即ち之は寄生生活を営むものと謂えるのである。

最近に於ける食品衞生の動き

著者: 遠山祐三

ページ範囲:P.282 - P.285

 最近我が國民の公衆衞生に関する運動が日増に盛んとなり,新憲法にも政府の機構にも,又一般國民の日常生活にも,此の氣運が次第にきざしつつある事は誠に喜ばしい現象である。凡そ公衆衞生の包含する範囲は極めて廣く,特に食品衞生に関する部門は人生に寸時も切り離すことの出來ない重要な事柄であるため,終戰後の第一國会の昭和22年12月法律として,食品衞生法が制定された次第である。此の法律は,從來比較的漠然と考えられていた食品衞生に関して,食品の汚染,腐敗,変質は勿論のこと食品の本來有する品質を低下させる樣な代用品を混入する,所謂僞称や看板に僞のある樣な僞称をも,積極的に防ぎ取締る事が眼目とされておる。從つて此の法律の目的とする所は,單に食中毒の防止という樣な消極的な面斗ばかりでなく,食品の純正を嚴重に保持するという点にある。
 今回厚生省に於ては,我が國衞生檢査施設で現在行われている細菌檢査,臨床檢査及び食品衞生檢査の方法が,可なり多種多様で,其の上正確を欠くものの少くないことを認め,之等術式の標準法を制定し,之を全國に普及徹底して檢査の適正を計る事により,医療内容の改善と公衆衞生の進歩発展に寄與せんとする目的の下に,厚生省内に衞生檢査指針審議会を設け,其の一分科として食品衞生檢査指針を作製することとなつた。

ガンマグロブリン

著者: 吉川春壽

ページ範囲:P.286 - P.289

 最近麻疹の予防治療などにガンマグロブリンが利用されているという報道が外國雜誌に見られ,日本でも数ヶ所の研究室でガンマグロブリンの分離の研究が行はれている。このガンマグロブリンとは一体何であるか,何故に最近これが有名になつて來たかということをやさしく解説して行こう。
 ガンマグロブリンというのは約10年前にスウェーデンの学者Tiseliusが,彼の考案した電氣泳動裝置で血漿の蛋白質の成分を觀察した結果名づけた血漿蛋白質成分の一つである。

齒牙齲蝕豫防の新段階—抗菌性,抗酵素性物質の應用

著者: 伊丹一男

ページ範囲:P.290 - P.292

 歯科疾患の予防対策は,公衆衞生活動の基礎的業務の一つとして,当然とりあげられなければならない問題である。
 齲蝕予防に関する弗素の應用が発見されて以來,局所塗布法,内服法,水道水投與法等の價値が次第に認められ,集團的予防法として廣く実施されるに至つた。

埼玉縣高坂村における罹病調査成績—第1報 昭和23年12月より昭和24年5月に至る半ヶ年間の成績

著者: 染谷四郞 ,   重松逸造 ,   平山雄 ,   川村達 ,   芦原義守 ,   下舌富太郞 ,   岩崎愛子 ,   大村潤四郞 ,   高橋暉良 ,   松崎正宜 ,   山口智道 ,   塩満忠 ,   中村久二男 ,   池上正哉 ,   松村康夫 ,   斎藤禎藏 ,   山下義彦

ページ範囲:P.292 - P.297

1.まえがき
 われわれ公衆衞生にたづさわる者にとつて國民の健康状態を確実につかむことは当然要求せられる基礎知識の一つでなければならないが,この問題に関して從來われわれのもつている知識は專ら届出でられた統計的数学によるのみであつて,國民の健康状態を知る上に最も重要な資料となるべき全疾病の量については殆ど知る所がなかつたといつても過言ではない。この点我が國において見るべきものは済生会に於いてなされた昭和9年より3ヶ年間に亘る調査成績があるのみであらう。われわれは昭和23年以降1ヶ年間の予定で埼玉縣高坂村を対象に毎月の罹病状態を調査してみたのでここにはまず昭和24年5月迄半ヶ年間の調査成績を概括して報告する。尚本調査は厚生省保險局で同期間に全國的に行われている医療調査の一部としてなされたものである。

東南アジア栄養会議に出席して

著者: 大磯敏雄

ページ範囲:P.298 - P.299

 國際連会,PAO(Food and Agriculture Organigation)では,毎年國際米殼会議(I. R. C.)を開催して來た。本年はビルマのラングーンで1月30日から2月15日まで開かれた。この会議は,更に東南アジア栄養会議,裁培技術会議,米殼一般会議の三つに分たれている。私は此の栄養会議にSCAPのお伴をして列席したので,短期間の見聞で誤りあるを恐れるが,公衆衞生に関係ある2,3のルポルタージュを試みようと思う。
 ビルマの1,2月は1年中で一番よい季節といわれ,所謂,乾季で氣温は22°〜23℃位,毎日雲一つ無い晴天続きで,戸外に出れば,直射日光は熱帶だけあつて,痛いように強烈だが,室内で陽ををさえぎつて電扇をゆるく廻して居れば別に汗をかく程でもなく至極快適である。これが2月終り頃からぐつと暑くなり,雨季の始まる5月頃に最高に達し,5月から10月末までは,雨期が続くのださうである。私の滯在中は晴天続きであつたが,イラワジ河には濁水がどうどうと流れており,熱帶の木々は相変らず青々と繁りさつぱりしおれることを知らない。果物は季節外れで,バナナと,此方でとれるミカン位のものであつた。

公衆衞生の發達(3)

著者: 杉靖三郞

ページ範囲:P.300 - P.301

傳染病のコントロール
 ペスト:18世紀に於ては,ヨーロツパ各國に於いて諸種の傳染病に対する組織的な國家管理がはじめて行われた。18世紀の間及び19世紀の初期ではペストがまだ屡々近東諸國(トルコ及びダニユーブ沿岸)からヨーロツパえ侵入して恐ろしい猛害をもたらした。18世紀のはじめ,1709年には,ロシアでペストの大流行があり,翌年の1702年には,マルセイユ及びツーロンで大猖獗を極めて9萬人の人が死んだ。1734年にもダニユーブ沿岸及びウクライナで大流行あり,1743年にシチリー島のメツシナで3万人の死亡者を出した。1770年からその翌年えかけてはモスコーで大流行あり,人口23万のうち5万2000人がそのために死亡した。これらの大流行によつて,昔から行われていたカランチン(Qurantine−40日間という意味で,海港檢疫では40日間船を港外に停舶させた)による防疫法が時勢おくれで非人道的且つ労多くして効なきことが判り.傳染病を限られた地域内で食い止めるという方法が工夫されるようになつた。また,各地に傳染病者を隔離する病院も数多く作られるようになつた。
 天然痘:世紀のヨーロツパに於いては,天然痘はまた到るところで流行する普通の疾病であつて,ただその大流行の折の記録が残つているだけである。

--------------------

厚生省便り

ページ範囲:P.302 - P.312

保健文化賞第一回授賞
 毎年保健衞生の向上に顯著な功勞のあつた人々並びに團体を表彰するため,わが國ではじめて設けられた第一生命保險相互会社主催,厚生省並びに朝日新聞社厚生事業團後援による『保健文化賞』については,去る3月21日春分の日東京朝日新聞社講堂で林厚生大臣,総司令部公衆衞生福祉局長サムス准將ほか多数出席して盛大な授賞式が挙げられ,第一生命賞賞金として個人え10万づつ,團体えは結核予防会と石川縣え20万圓.琴平保健所え20円万計100万圓,厚生大臣賞として表彰状,朝日新聞厚生事業團賞として記念品がそれぞれ贈られた。

海外文献

ページ範囲:P.313 - P.314

連邦保護司は健康,教育及福社等の諸問題を解決する(U.S.I.S.提共)
 最近10名からなる日本婦人界の指導者たちが訪問した,米國連邦保護司は,米國の家族たちに健康と教育と福祉との実現を期すために,米國議会で通過した諸法律の実施をするため作られた合衆國政府の一部門である。同司の仕事を説明すべく同司の司長Orcar Ewing氏は謂はく"米合衆國の如く民主的に一丸となつて吾々の仕事をするためには,其手段の一法として吾々の政府及び市町村も郡も州も國民も一致して仕事を爲すべきである。吾々は健康を保全するためにも,教育を準備するためにも,そして基礎的の保護を確立するためにも,吾々の政府である上記の諸部門の総てを働らかすことであり,唯の一人でも亦唯一家族でも孤立しているものはないように,唯の局地的一部落でも孤立しては此仕事は出來ない"のである。
 此仕事をするのに,連邦保護司は人類福祉に関係している殆んど全階層に亘つてサービスの手を差伸べている。四つの主なる機関である社会保護教育,健康,それに特別勤務の各部門を使つて,連邦保護司は米國人が唱導する生活の樣式を決定するのに,種々なる影響の大部分の改善を決定する爲めに仕事をしているのである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら