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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生70巻1号

2006年01月発行

雑誌目次

特集 コミュニティと関係性の再構築

コミュニティ活性化とソーシャル・キャピタル

著者: 山内直人

ページ範囲:P.6 - P.9

弱体化するコミュニティ

 日本のコミュニティは弱体化が進み,地域によっては崩壊の危機に瀕している.家族,学校,職場などでの人間関係は希薄化し,信頼関係が揺らいでいる.一方で,地域格差の拡大や社会の階層化が進んでいる.国の画一的な地域振興策と地域間再分配政策によって,これまで表面的には格差拡大が抑えられてきたが,最近の規制緩和や地方への権限委譲によって,再分配政策の効果が弱まり,地域間格差が顕在化しているのではないだろうか.

 同時に,多くの地域で,犯罪や自殺の増加,不登校,ドメスティック・バイオレンス(DV)などの家庭問題,若年失業の増加,商店街の衰退,ホームレスの増加などの深刻な社会問題が発生している.

コミュニティの再構築と健康なまちづくり

著者: 渡邊能行

ページ範囲:P.10 - P.13

21世紀も早5年が経過したが,わが国はバブル経済の破綻からようやく脱出しかけており,経済状態も踊り場にあるようである.他方で,日本中で痛ましい事故や事件が後を絶たない.このような社会状況と無関係でない地域保健の現場では,ヘルスプロモーションの日本的展開を図る健康日本21の推進と,介護保険制度導入5年後の改定による介護予防と新予防給付の新たな取り組みが,大きな課題となっている.

 本稿では,このような時代背景の中で,今なぜコミュニティの再構築が注目されているのか,そして健康なまちづくりがコミュニティにとっていかに重要なのかについて,ヘルスプロモーションとセーフティプロモーションの考え方を概括した上で,京都市上京区春日学区の事例を通して見つめ,併せて,英国ならびに米国での最近の社会学的潮流を重ね合わせて考えてみたい.

公衆衛生と地域組織活動―その変遷と今後の展望

著者: 小山修

ページ範囲:P.14 - P.18

公衆衛生と地域組織の関係は,古くは行政の末端協力機関として1),戦後は公衆衛生活動を支える3本の柱の1つとして2,3),あるいは地域保健活動の主要な構成要素として意義づけられ4),パートナー関係を維持してきた.特に,公衆衛生分野ではアルマ・アタ宣言(1977)以降,プライマリヘルスケアの活動原則として住民参加の必要性が国際的に強調され,1986年のヘルスプロモーション(オタワ憲章)の登場で,その重要性がいっそう確実なものとなっている.

 今日では,「健康日本21」や「健やか親子21」の計画策定のプロセスに見られるように,地域組織の参加と活動は必要不可欠な存在と言える.

協働型まちづくりとコミュニティ事業のあり方

著者: 山田晴義

ページ範囲:P.19 - P.22

コミュニティによる協働型まちづくり

 静岡県の中山間地域で,婦人たちが中心となってつくり上げた熊地区1)の「特定非営利活動法人夢未来くんま」の活動は,地域づくりの関係者にはよく知られている.山間の地域で食堂,ものづくりと特産品販売,体験活動の提供などで年間8,000万円を越える事業を立ち上げ,婦人たちの雇用の場を創出してきたことは大いに評価されてよいだろう.しかし,それだけであれば,近年クローズアップされるようになった産直市場や農家レストランなど「くんま」と同じような実績を上げているグループは少なくない.ここで肝心なことは,その事業で地域婦人の副業の場が確保されただけでなく,その利益から,地域の高齢者のケアや生きがいづくり,住民の生涯学習,環境保全の活動など,地域の価値を高め,維持存続させていくための活動の経費に充てている事実は,コミュニティ組織の新たな可能性を提示しているものと言えよう.

市町村合併とコミュニティの再構築

著者: 岩永俊博

ページ範囲:P.23 - P.27

本稿の目的は,一つには,いま多くの地方自治体を襲っている大規模な市町村合併の波の中で,コミュニティのあり方の視点から問題提起をすることです.合併で小規模自治体を飲み込んだかのような自治体,飲み込まれたかのような自治体,対等合併であるが故に混乱が生じている自治体,合併しないという決定はしたもののこれからどう進めればいいのかという自治体など,いずれも,これからどうすべきかということに悩んでいる自治体は多いのではないでしょうか.

 もう一点は,崩壊したと言われる最近のコミュニティにおいて,その活動を活発にする戦略はあるのかという点です.コミュニティ活動が,行政からの依頼や押しつけではなく,コミュニティ自身の話し合いによる活動の推進.しかもそれが,ヘルスプロモーションやノーマライゼーションなどの時代的な要請を受けた,その地域での新たな社会規範の創造の手段としての活動になりうるのか,それこそコミュニティの再構築と考えられるものです.

[インタビュー]YOSAKOIソーラン祭りの不思議な力に魅せられて

著者: 長谷川岳 ,   阿彦忠之

ページ範囲:P.28 - P.32

阿彦 最近,全国各地で若い人たちを巻き込んだ新しいお祭りができています.なぜ今,新しいお祭りに人々が動かされるのでしょう.寄るべきコミュニティが先細りしている中,お祭りには「コミュニティと関係性の再構築」を考える上でのヒントがあるのではないでしょうか.

 今日は札幌市「YOSAKOIソーラン祭り」の創始者である長谷川岳さんに,お祭りの不思議な魅力やそれにまつわる人々の結びつき,安全対策の経験をもとにした「危機管理」のお考えなどについてお話を伺いたいと思います.

病める「関係性」の再生をめざして

①自殺の分析からみた病める「関係性」と今後の対策

著者: 高原正興

ページ範囲:P.33 - P.36

本稿で述べる「病める関係性」とは,「現代社会における人々の関わりの型・方法の喪失」を意味している.それは,コミュニケーション能力,自己表現能力,人間関係の形成・維持能力などの弱化や欠如を表す概念である.現代社会の「関係性」は,その希薄化を基調としながら,浮遊,濃密化,歪みの各方向にブレる(複雑に絡む)という特徴を示している.

 関わりを持つことに疲れ,関わりを放棄する自殺は,そのような「病める関係性」から生じる典型的な社会病理現象であり,浮遊する関係性ゆえの青少年の自殺,濃密化・歪む関係性ゆえの中高年の自殺がある1)

②関係性の再構築による児童虐待の予防

著者: 櫃本真聿

ページ範囲:P.37 - P.39

わが国では,この四半世紀,中央主導型の補助金行政による全国一斉の保健医療福祉施策が展開され,その結果世界一の長寿国となった.しかし新たな課題が浮上し,ますます深刻化している.例えば,①健診等が普及しても生活習慣病は増加の一途,②介護保険制度導入後も要介護者は増加し続け,自己負担の急増,③相次ぐ健康危機問題,そして児童虐待もその代表的な課題として列挙することができる.公費の支出増を食い止めたい国の財政事情の厳しさと,これら諸問題解決への具体的な対応策の行き詰まり,そして歯止めの利かない少子化等,中央主導の限界は如実に現れている.上意下達の地方分権化が進められているが,今後市町村合併や三位一体改革により解決され得るのであろうか?

 わが国の厳しい財政状況において,すべてが経済優先の観点から見直されており,保健・医療・福祉においても聖域なしの民営化(?)が検討されており,今後抜本的改革が行われるとのこと.しかし,医療福祉費等削減を最優先に掲げる行政姿勢では,地方行政へ権限が委任されても,山積する課題解決は期待しがたい.

視点

他力本願―行政のできること,できないこと

著者: 白井千香

ページ範囲:P.2 - P.3

新しい年を迎えるたびに,何か抱負を,今年の計画を…と思っていた時期がある.希望(思い込み)と努力(自力)で何とでもなると思っていた頃だった.

 医師免許をいただいてから今年でちょうど20年となる.診察室で待つ医師ではなく,人々の生活を診たいと思い公衆衛生に期待して,自分なりの研修も組み立ててきた.その間,妊娠,出産,子育てを経験し,正味20年の医歴ではないが,それなりに母子保健にはリアリティがある.阪神淡路大震災では渦中にあり,自宅は半壊,危機管理や災害時の自治体間支援やボランティア,住民間協力の実際に触れた.また震災後はうつ状態で休職せざるを得ず,精神科に通ったことから「こころのケア」には当事者として共感することもできる.

特別記事

[新春インタビュー]公衆衛生人の哲学―反省からの思想

著者: 大谷藤郎 ,   細川えみ子

ページ範囲:P.41 - P.47

細川 今日は「新春インタビュー」ということで,国際医療福祉大学総長の大谷藤郎先生にお話を伺いたいと思います.

 大谷先生のご著書『公衆衛生の軌跡とベクトル』(医学書院,1990)も読ませていただいて素晴らしいと思ったのですが,先生の最新作『医の倫理と人権-共に生きる社会へ』(医療文化社,2005)にも感銘を受けました.特に先生がこの本の中でおっしゃりたかったところや,人権への視点など,公衆衛生人の核となるところの思想が深まるようなお話を,今日はご教授いただければと思っております.

越境する公衆衛生

[インタビュー]魂に響く根源的な力―人形に生命を吹き込む敬虔な作家に聞く

著者: 川本喜八郎 ,   三井ひろみ

ページ範囲:P.49 - P.54

時代を経ても変わらない,普遍的なものとは何か.

 日本人のこころ,存在のありよう,自然の中に感じる平穏,安らぎ,祈り.そして信を貫き,一心に相手を思いやった仕事もまた,時を経ても人の心を惹き付け続ける──.

 人と向き合い,人に寄り添い,人と人とをつなぐ重要な役割を担っている公衆衛生人のみなさまに,川本喜八郎氏の芸術の世界から,魂の響きを.(編集部)

連載 公衆衛生ドキュメント―「生きる」とは何か・22

―水俣病から50年④―姉に続いて四女も業病に襲われた

著者: 桑原史成

ページ範囲:P.4 - P.4

1960年,水俣市立病院で水俣病患者が収容されていた専用病棟に,当時6歳の女の子が入院していた.彼女に母親が付き添い,日夜,看護を担っていた.

 私が水俣で取材を開始して数日後のこと,その母親・アサヲさんが「漁村ば行きなさったとですか」と声をかけてくれた.患者が多発した漁村部落を歩いていたが,患者宅での撮影は成果を見ないでいた.

感染症実地疫学・1

日本の感染症サーベイランス

著者: 岡部信彦

ページ範囲:P.56 - P.59

サーベイランスとは

 疫学を行う上でサーベイランスは欠かせない.サーベイランス(surveillance)の原義は,sur(上)+veil(見る)=広く見渡す,ことである.米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention)では,疾病の空間的発生状況およびその時間的変化を継続的に監視することによって,疾病対策の企画,実施,評価に必要なデータを系統的に収集,分析,解析し,その結果を関係者に迅速かつ定期的に還元する,と定義している(CDC,1986).

 感染症のコントロールのためには,的確な臨床診断とそれを裏付ける病原診断,これらに基づいた合理的な治療が行われることがもっとも重要であることは言うまでもない.また感染症に罹患しないための個人・社会衛生,予防接種など,あらかじめ感染症の発生を防ぐための予防方策も重要である.そしてこれら感染症の予防,診断,治療への基本的な情報を与えるデータとなるものが,感染症サーベイランスである.

精神医療ユーザーが語る・1 精神障害者が精神障害者に日本で初めて行ったアンケート結果から①

精神科医療の実態

著者: 中条アトム

ページ範囲:P.60 - P.63

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エイズ対策を評価する・1

疫学的現状と将来予測(上)

著者: 岩室紳也 ,   永井正規 ,   鎌倉光宏 ,   稲垣智一 ,   上野泰弘

ページ範囲:P.65 - P.70

岩室(司会) これまでも様々なところで様々な形で,エイズ対策の評価が行われてきたと思います.しかし,雑誌等で掲載されているもののほとんどが疫学,医療,教育といったその分野の専門の先生お一人が執筆されたもので,お一人の責任では書き切れないことや,少し違った視点での検証や議論がないまま,結果的には評価に関する議論も十分なされていないのではと考えています.

 そこで,本連載を企画するに当たって,東京都庁で10年前にも,そして現在もまたエイズ対策に関わっておられる稲垣智一先生にご協力いただき,私ども二人が意識的に異なる視点でそれぞれの専門家の方々にインタビューをさせていただきながら,今まで行われてきたエイズ対策を多角的な視点から評価し,今後の取り組みとして何が求められているのかを本連載を通して明らかにしていきたいと思います.

衛生行政キーワード・15

麻疹および風疹定期予防接種の2回接種の導入

著者: 前田光哉

ページ範囲:P.72 - P.73

麻疹定期予防接種について

 麻疹(はしか)は,麻疹ウイルスによって引き起こされる高熱と発疹を特徴とする急性疾患で,小児が罹患する一般的な疾患の中では比較的重篤であり,肺炎や脳炎などの合併症をみることもある.

 わが国では,2001年には全国で年間の推定患者数が約29万人という比較的大きな麻疹流行があったものの,その後は報告患者数は減少し,2004年には定点報告数は過去20年で最低となった.2005年においては,その2004年も下回る流行状況にある(図1,表1).

赤いコートの女―女性ホームレス物語・17

育児は可能か

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.74 - P.75

波さんと子ども

 「波さんに,赤ちゃんを育てさせるのは無理かしら」

 「ダメですよ.子どもが可哀相ですよ」

 Aケースワーカーに即座に拒否されてしまった.

 「やっぱり子育ては無理かなぁ」

資料

高校生に対するピア・エデュケーションによるHIV/AIDS予防教育実践と効果

著者: 奥野ひろみ ,   樋口まち子 ,   永田文子 ,   兒島佳子

ページ範囲:P.76 - P.79

背景および目的

 性行動の若年化や,性感染症者の増加は,近年著しい.高校生で性交体験をしている者は,1999年に実施した東京都の調査では高校3年生で40%1),ほぼ全日制と同様の年齢の生徒が通う夜間高校の調査でも42.8%2)となっており,若年層の性体験では,初交年齢が早まり,多数の相手を持ち,性交までの付き合い期間も短縮化されているという(セックスのカジュアル化)傾向が指摘されている3)

 木原らは,HIVはプールや握手では感染しないという知識は比較的普及しているが,他の性感染症の知識や,性感染症に罹っているとHIV/AIDSに罹りやすいなどの知識は少なく,自分たちに感染のリスクがあると考えていないと指摘している4)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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