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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生70巻10号

2006年10月発行

雑誌目次

特集 インフルエンザ

新型インフルエンザ対策の基礎知識

著者: 田中政宏 ,   谷口清州

ページ範囲:P.746 - P.751

 本稿の目的は,公衆衛生従事者のために新型インフルエンザとその対策に関する基礎的事項を概説することである.本稿の内容は2006年7月初旬のものであり,今後のインフルエンザに関する知見の集積およびその流行に対する対策準備の進行に伴い,文中で述べられる情報・理解は今後変化してゆくことが予測される.

鳥インフルエンザ

著者: 大槻公一

ページ範囲:P.752 - P.757

鳥インフルエンザとは何か

 鳥インフルエンザとは,インフルエンザウイルスが感染することにより引き起こされる家禽類を含む鳥類の疾病の総称である.病勢から本病は2型に大別される.まず,かつて家禽ペストと呼ばれた鶏を含む家禽類に激烈な臨床症状を伴い,非常に高い死亡率をもたらす甚急性の疾病がある.現在では強毒の高病原性鳥インフルエンザと呼称される.家畜伝染病予防法では,法定の家畜伝染病に指定されている.2004年に山口県,大分県,京都府で発生した疾病がこれにあたる.もう一方は,死亡率の低い,臨床症状も軽微な,多彩な病性を示す疾病である.ウイルスに感染しても,鶏は明らかな臨床症状を示さず,不顕性感染に終始する場合も少なくない.本病は家畜伝染病予防法では届出伝染病に指定されている.

 1980年頃まで,インフルエンザは,鳥類を除けば人,あるいは豚,馬のような一部の哺乳類のみが感染する疾病であると考えられてきた.しかし現在では,インフルエンザウイルスは様々な種類の哺乳類,たとえばアザラシ等の海獣類,クジラ,あるいはフェレット,ミンク等の北方系の肉食哺乳類などにも,本ウイルスは感染して発病することがわかっている(図1)2).一方,強毒の高病原性鳥インフルエンザの病原体がA型インフルエンザウイルスであることが1955年に判明して以来,鶏以外の外見上健康な各種鳥類が,様々な種類のインフルエンザウイルスを,その体内に保有していることが知られるようになった.鳥類が保有している大部分のインフルエンザウイルスは,鳥類に対して激烈な病原性を示さないこともわかっている.

インフルエンザワクチンの現状

著者: 田村愼一

ページ範囲:P.758 - P.762

 インフルエンザワクチンには不活化ワクチンと生ウイルスワクチンがあり,わが国を含む多くの国では,不活化ワクチンが用いられ皮下(あるいは筋肉内)に注射されている.不活化ワクチンには,全ウイルス粒子ワクチン,HAワクチン[エーテル処理によりウイルスの脂質が除去された蛋白質成分から成るワクチンで,主要な防御抗原であるヘマグルチニン(HA)がその約3割を占めるため,「HAワクチン」と呼ばれる]およびサブユニット・ワクチンがあるが,わが国では1972年以降,HAワクチンが用いられている.一方,生ワクチンに関しては,低温馴化生ウイルスワクチン[25℃で増殖する低温馴化親株と自然流行株を混合培養し,遺伝子の再集合により,HAとノイラミニダーゼ(NA)遺伝子が野生流行株でそれ以外が低温馴化親株由来のウイルスをワクチン株として用いる]1)が,旧ソ連では1977年から全世代に,米国でも2003年から5~49歳までの世代に限って使用が認可され,経鼻噴霧投与されている.

 一方,ここ十数年の間に,インフルエンザに関してウイルスの性状,感染発症の機構,および防御免役機構等の研究が急速に進み,ワクチンの有効性の基礎が明らかにされてきている2,3).

 このような状況下で,本稿では感染によって誘導される強い防御機構を基に,現行のワクチンによって誘導される防御機構の有効性を評価し,さらに,より有効かつ安全なワクチン開発の可能性について述べる.

インフルエンザを巡る最近の話題

① 口腔ケアをインフルエンザ予防に繋げる

著者: 奥田克爾

ページ範囲:P.763 - P.765

口腔ケア

 デイケアに通う要介護高齢者に対する歯科衛生士による継続した口腔清掃を中心とした口腔ケアが,2003/2004年の冬期間,インフルエンザ発症を抑えた.その期間における高齢者に対するインフルエンザワクチンの効果は低かった.本稿では,なぜ口腔ケアがインフルエンザ発症を抑えたのかについて,検証した事柄を中心に解説する.

 広義に使われる「口腔ケア」とは,口腔の持っているあらゆる働き,すなわち摂食,咀嚼,嚥下,構音,審美性・容貌の回復,唾液分泌機能などを助けることをいう.狭義の口腔ケアは,口腔衛生管理に主眼をおく一連の口腔清掃と義歯の清掃などをいう.また口腔ケアは,口腔衛生管理に主眼をおく器質的口腔ケアと,機能面に重点をおく機能的口腔ケアに分けられる.さらに,口腔ケアに指向性,方向性をもたせる考え方もある.

② 夏季のインフルエンザの流行

著者: 平良勝也

ページ範囲:P.766 - P.767

 わが国のインフルエンザは,通常11月~翌年3月の冬季に流行することが知られている.ところが,2004/2005年シーズンの沖縄県では,冬季に流行し終息したかに思えたインフルエンザが,6月下旬~8月の夏季に再び流行するという異例の事態が起きた.本稿では,その時の流行状況について報告する.

 本県のインフルエンザ患者数は,県内58か所(小児科34,内科24)のインフルエンザ定点医療機関から保健所に週単位で報告され把握されている.2004/05シーズンインフルエンザ定点当たり患者報告数を図1に示す.患者は,第3週(1/17~1/23)に定点当たり1.0人を超え,第11週(3/14~3/24)には69.6人となり,全国より2週遅れてピークに達した.過去10シーズンと比べると2004/05シーズンのピークの高さは,2002/03シーズンに次いで2番目であった.その後,患者は減少し一時は終息したかに思われた.しかし,第25週(6/20~6/26)から患者が再び増加し,第27週(7/4~7/10)には注意報発令基準値である10人を超え,第29週(7/18~7/24)まで続き,異例の夏季流行となった.第30週(7/25~7/31)には注意報発令基準値を下回り終息に向かったが,その後も定点当たり少なくとも1.0人以上の患者発生が52週(第48週を除く)まで続いた.

③ 家禽の鳥インフルエンザ発生時の人の健康管理対策

著者: 緒方剛

ページ範囲:P.768 - P.771

 平成17年6月に茨城県内の養鶏場で,鳥インフルエンザA型H5N2亜型が発生し,その後県内40か所の養鶏場で抗体陽性が確認された.茨城県では鶏の殺処分を行い,約1年後の平成18年6月23日に終息宣言が出された.県保健福祉部では,発生養鶏場の従業員等の健康調査を行うとともに,殺処分等の防疫作業従事者に対する健康管理を実施した.

④ 医療経済学的観点からのインフルエンザの予防と治療

著者: 大日康史

ページ範囲:P.772 - P.774

 具体的な検討に入る前に,まずインフルエンザ流行のインパクトを確認しておこう.図1は,2004/2005シーズンまでの外来受診者数と超過死亡数をまとめたものである.ここで超過死亡とはインフルエンザが流行していなければ生じていなかったであろう死亡数のことで,インフルエンザ流行と関連した死亡と考えられている.外来患者数(左目盛り)は,1,000万人前後であり,2004/2005シーズンには1,770万人にも達した.超過死亡(右目盛り)はほぼ0の年も散見されるが,最大は1998/1999年シーズンで,4万人に迫る超過死亡を観測した.以下では,特に断りのない限り,近年では大きな流行であった2004/2005シーズンにおける外来患者数と超過死亡数を用いて検討することとする.

 本稿では,インフルエンザに対する2つの基本的な対応である予防と治療について,特にその費用対効果の側面から比較する.特にここでは,予防はインフルエンザワクチンの予防接種,治療としては現代においては標準的な治療であるタミフルの内服(1日2カプセル,5日間処方)を比較することとする.

新型インフルエンザ対策

① 宮城パンデミック-インフルエンザ研究会―地域のボランティアとしての活動

著者: 西村秀一

ページ範囲:P.775 - P.778

 世界のどこかで,私たちにとってそれまでとはまったく違う新しいインフルエンザが出現したとすると,それがまもなくパンデミックとなって,私たちが住む地域を襲ってくることは避けられない.すると,地域ではほとんどの住民がそれにかかり,大勢の患者,重症患者,そして死者が出る.それは歴史が証明している.そのときに被害をできるだけ少なくするためには,そのときに備えて,実際の流行の現場となる「地域」が事前に何らかの準備をして,やってきた時にその準備を活用し,これと戦う必要がある.その事前の準備が,「地域のパンデミック・プランニング」である.だが,現代社会の奢りか無知か怠慢か,われわれの準備は非常に遅れていると言わざるを得ない.数年前まで地域行政には,そうしたことを真剣に考えられるだけの人的資源に乏しく,その危機の存在すら知らないところがほとんどであった.

 そこで,そうした地域の準備を提唱,啓発する目的で,宮城県で筆者らが始めた応援団的な会が「宮城パンデミック・インフルエンザ研究会」である.

② 行政が問われるもの

著者: 細川えみ子

ページ範囲:P.779 - P.783

 ここ数年,東南アジアでは野鳥や家禽での高病原性鳥インフルエンザの流行が散見され,この1年ではヨーロッパやアフリカまでその流行は拡大している.ひとたび新型インフルエンザが発生すれば,1917年の「スペイン風邪」にも匹敵する世界的大流行になることが専門家の間でも危惧されている.またわが国の推計でも,医療機関にかかる患者数が1300~2500万人,そして死者は17~最大64万人とされており,年間死亡数100万人のわが国にとって,恐るべき数値となっている.

 新型インフルエンザ対策の基本については,本特集で他の著者が書いているので詳細はそちらに譲るが,本稿では行政に問われる対策準備について考察してみたい.

視点

性差を考慮した健康支援をめざして

著者: 品川靖子

ページ範囲:P.742 - P.743

 東京都板橋区では平成20年度の保健所改築にあわせて,生涯を通じた女性の健康づくりの拠点として,板橋区女性健康支援センター(仮称)を開設予定である.「なぜ,今,女性の健康なのか?」を考えてみたい.

トピックス 禁煙治療最前線①

たばこ規制推進における禁煙治療の位置づけと今後の課題

著者: 大島明 ,   守田貴子 ,   増居志津子 ,   中村正和

ページ範囲:P.784 - P.787

 2006年4月の診療報酬の改定においてニコチン依存症管理料が新設され,禁煙治療に保険が適用されるようになった.また,ニコチンパッチが薬価に収載され,6月からニコチンパッチにも保険が適用されるようになった.これは,たばこ規制の重要な要素である禁煙治療を普及する上で,重要な第1歩であると評価することができる.

 本稿では,たばこ規制の取り組みの現状の評価に加えて,たばこ規制の推進における禁煙治療の位置づけと今後の課題について考察する.

トピックス

日本とカナダの高齢社会に向けた取り組み―「日・ケベック社会問題対話」シンポジウム参加記

著者: 須賀万智

ページ範囲:P.788 - P.790

 日本の社会において少子高齢化の急速な進行が予想されており,老年人口(65歳以上)とそれを支える生産年齢人口(15~64歳)の比は,現在(2005年)の1対3.3人から,10年後(2015年)には1対2.4人に,20年後(2025年)には1対2.1人になると見込まれている.高齢者が生きがいを持ちながら安心して暮らせる社会づくりは重要な課題である.

 このような事情は日本以外の先進諸国においても変わらず(図)1),その国なりの背景や状況に基づいた高齢者対策が進められている.他国の実状を知ること,特に現場で働く人たちがどのような目標を掲げ,どのように取り組み,どのような問題を抱え,どのように解決しようとしているかを知ることは,相互の理解を深めるだけでなく,自身の問題解決の糸口を得られる可能性もあり,将来の方向性を検討する上で有意義である.

 そこで,2006年5月31日,モントリオール日本月間 05 2006実行委員会主催による「日・ケベック社会問題対話」シンポジウムが開催された.モントリオール市内のマギル大学Faculty Clubを会場として,医療関係者や一般市民を含めた100名以上が集まり,「高齢化社会の問題と対策」をテーマとして公開討論が行われた.日本側とカナダ(ケベック州)側の各10名のシンポジストは,大学,地方自治体,保健医療施設,その他第一線で働く医師,看護師,保健師,理学療法士などから選ばれ,既存の政府レベルや学術レベルの交流でなく,現場で働く人たちのネットワークづくりの契機として企画された.

 本稿では,シンポジウムの概要を報告して,日本とカナダの高齢社会に向けた取り組みについて考察する.

連載 21世紀の主役たち・7

極東シベリアの子どもたち(極東シベリア・インチョウン村)

著者: 関野吉晴

ページ範囲:P.741 - P.741

 11月になると,北極海に面したインチョウン村には流氷が押し寄せてくる.海岸でコロニーを形成していたセイウチも氷を伝わって沖へと移動していく.流氷が着岸すると子どもたちの格好の遊び場となる.巨大な流氷の上によじ登り,這い上がる.その後また飛び降りる.強い波が来ると再び流氷を沖に連れ戻してしまうこともある.子どもたちをさらってしまうのではないかと思うほどの大きな波もやってくる.寒空の中,自分たちの身の周りのあるものをフルに利用して遊ぶ子どもたちはとても楽しそうだ.大人たちも少々危険だとわかっていても叱ることはない.年長の子たちがどこまでが危険なのかわかっている.

 都会の子どもたちはテレビゲーム等のエンターテインメント機械やおもちゃがないと遊べなくなっている.ここではそんなものがなくても,自分たちの創意工夫で十分遊べる.かえってそのほうが面白い.自分ひとりの世界に閉じこもることがない.様々な年齢の子どもたちと遊ぶことによって,社会性が身についていく.

感染症実地疫学・10

大学病院におけるサルモネラ症集団発生の事例調査

著者: 神垣太郎 ,   松舘宏樹 ,   鈴木葉子 ,   中島一敏

ページ範囲:P.791 - P.795

背景

 全国で約28,000名(2004年)報告されている食中毒患者のうち,細菌性食中毒の中ではサルモネラ属菌による報告が最も多い1).またPatrick2)らによれば,85~99年での米国におけるSalmonella Enteritidis(以下,SE)集団発生時の致命率(CFR)は0.3%程度であるが,医療施設では約3%まで上昇すると報告されている.このために医療施設では,平素からのSE集団発生予防とともに,発生した場合には迅速な対応が必要であると考えられる.

 2004年7月中旬より大学病院の入院病棟にて消化器症状を呈する患者が多く発生した.病院の院内感染対策チームと届出のあった保健所は直ちに協力して調査を行い,SEによる集団発生であり,汚染の原因は院内感染の可能性が否定できないが,厨房視察において卵の取り扱いに問題があり,事例発生後の食品からSEが分離されたため食品媒介の可能性が高いと判断し,厨房の使用を停止した.患者の発生数は厨房の休止後著しく減少したが,給食再開後も散発的に患者発生を見たために,県より事例発生1か月を経て国立感染症研究所に実地疫学専門家養成コース(以下,FETP)の派遣要請があり,全体像の把握,感染源の特定および伝播経路の解明を目的として,自治体に協力して現地調査することとなった.

精神医療ユーザーが語る・10 自分史③

トンネルの先にある光へ

著者: 徳山大英

ページ範囲:P.797 - P.800

本文献は都合により閲覧が許可されていません

エイズ対策を評価する・10

マスコミ報道を考える(下)

著者: 岩室紳也 ,   宮田一雄 ,   日比野守男 ,   稲垣智一 ,   上野泰弘

ページ範囲:P.801 - P.805

日本の取り組みはすごい?

岩室(司会) お2人とも海外に行かれていると思いますが,日本はエイズに関して,わあっと盛り上がってトピックスだけに燃えて,それであとはシーンとなってしまったという印象ですが,海外ではどうですか.

性のヘルスプロモーション・10

[インタビュー]障害者の性に学ぶ

著者: 倉本智明 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.806 - P.812

岩室 私が初めて障害を持った方の性を意識したのは,エイズ予防にかかわり始めた頃に出会った聴覚障害の方でした.「文字になっている情報は読めるけれど,どうもエイズも性感染症も身近に感じない」とおっしゃっていました.その後も障害を持った方々の性をどう支えればいいのか,試行錯誤しているのですが,倉本さん編著の『セクシュアリティの障害学』を読み,ぜひ『公衆衛生』の読者の方々に倉本さんのお考えを伝えたいと思い,本日はご登場をお願いしました.

 倉本さんご自身は視覚障害をお持ちですよね.障害を研究されるに至った経緯を含めて,自己紹介いただけますでしょうか.

石川中央保健所「健康しかけ人」レポート・2

子どもを守るために県型保健所ができること その① 予防接種体制整備を支援する

著者: 谷村睦美

ページ範囲:P.813 - P.817

 予防接種は母子保健と並び市町村における子ども対策の大きな柱です.予防接種により免疫を高めることは,子どもの病気へのリスクを減らす確実な方法であり,そのための予防接種体制の整備は必須ですが,医師のいない一般の市町村では限界があり,そのバックアップは県型保健所に課せられた重要な課題のひとつです.

 1997(平成9)年,現所長の赴任とともに石川中央保健所の予防接種体制強化が本格的にスタートし,すでに8年が経ちました(表).この間,当所が取り組んできた活動について述べてみたいと思います.

統合化を模索する国際保健医療政策・3

妊産婦死亡削減を目指す安全な母性の保健医療政策(SMIとEmOC)

著者: 湯浅資之 ,   柴田貴子 ,   中原俊隆

ページ範囲:P.818 - P.821

 毎日,世界のどこかで500人乗りのジャンボジェットが3機墜落し,その搭乗者全員が死亡する.搭乗者のすべては女性で,その多くが人生の最良のときにあり,幾人かはまだ十代の若さである.彼女らは皆妊娠中か出産直後であり,そのほとんどが家庭で子どもを育てており,家族は彼女らに大きく依存している.だが,これだけ重大な事件にもかかわらず,報道はほとんどされず,話題にもされないのはなぜだろうか.妊産婦死亡に対して世界が冷酷なまでに無関心である惨状を,1980年代半ば世界保健機関(WHO)はその広報誌上でこのように表現した(一部筆者改変)1)

 同じ時期に米国コロンビア大学のMaine Dらは,近年母子保健活動(MCH)が注目されてきているが,母親の健康(M)はどこに行ってしまったのだろうか(Where is the M in MCH?)と問い,妊産婦死亡削減の対策がほとんど進んでいない現状を世に訴えた2)

 現在世界では毎年,15~49歳までの女性のうち約60万人が,妊娠や出産に関連した疾患や合併症が原因で死亡している3).世の中が彼女らの死にようやく注目するようになって,まだ20年にも満たない.このため,妊産婦死亡と産後障害を削減する活動の歴史は浅く,国際保健医療政策上,議論に混乱も見られ,具体的政策は模索の現状にある.

 本稿は政策形成の歴史を展望する中で,現在中心的に行われている母性に関する政策とその課題について考察したい.

衛生行政キーワード・24

がん対策について

著者: 加藤雅志 ,   佐々木健

ページ範囲:P.822 - P.824

 がんは,昭和56年からわが国の死亡原因の第1位となり,現在に至っており,国民の生命および健康にとって重大な問題となっている.政府は,昭和59年度より「対がん10か年総合戦略」を,平成6年度より「がん克服新10か年戦略」を策定し,がん対策に取り組んできた.この間,がん対策が大きく進展し,胃がん,子宮頸がんなどの死亡率は大きく減少し,これまで増加傾向にあった多くの部位のがん死亡率・罹患率は,最近10年間で増加が頭打ちに転じている.その一方で,乳がんと前立腺がんの死亡率・罹患率については依然として増加傾向が続いており,さらに,高齢者人口の増加により,多くの部位のがん死亡数・罹患数は増加傾向にあることから,がんに対する画期的な治療法の開発や,全国どこでも標準的ながん医療を受けることができる体制の整備が強く求められている.

資料

岡山県南部健康づくりセンター利用者のストレス状態と肥満の影響

著者: 山下綾子 ,   宮武伸行 ,   河崎優理子 ,   沼田健之

ページ範囲:P.825 - P.829

 健康づくりの3つの柱は運動,食事,休養であると言われて久しい1)が,岡山県南部健康づくりセンターでもこれら3つの柱を中心に,平成9年の開設以来,肥満(症),糖尿病,高血圧症などの生活習慣病の予防,改善に取り組んできた2).休養面では,日本大学医学部公衆衛生学教室式ストレスチェックリスト(以下,ストレスチェックリスト)3,4)を用いて利用者のストレス状態を把握し,個人に合ったストレス対処法のアドバイスを行ったり,リラクセーションセミナー,肥満改善教室の中でのストレス対処法の講話や実技を通して,利用者が健康づくりを効果的に行えるように配慮している.

 今回私たちは,今後の適切な休養指導のプログラム作成の資料とするために,ストレスチェックリストを用いて当センター利用者のストレス状態を把握し,肥満が身体,精神に及ぼす影響を検討した.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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