icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生70巻11号

2006年11月発行

雑誌目次

特集 医療制度改革と疾病予防活動

わが国の地域保健活動の到達点

著者: 北川定謙

ページ範囲:P.838 - P.842

はじめに

 21世紀に入って社会は大きく流動化している.日本の国内に限ってみても,小泉内閣の規制緩和の大きな政策は,公衆衛生の分野にも大きな変化をもたらしつつある.

 昨今,企業経営の好調の波から,日本経済はやや明るい兆しが見えつつあるようであるが,国や地方の行政をとりまく環境は依然として厳しいものがある.

 (1) 社会の需要としては,少子高齢という人口構造の中で,サポートを求める人口集団は様々な課題を抱えている.例えば,以下のようなものがある.

 ⅰ) 老人の様々な健康問題,介護問題.

 ⅱ) 障害者の自立支援の問題(支援を求める障害者に対する地域支援の問題).

 ⅲ) 母子保健の問題(出生数の減少と低体重児などの出生と障害発生の問題).

 ⅳ) 生活環境の問題(食品衛生,環境汚染の問題).

 (2) これらに対応する社会の基本的構造はどうなるのであろうか.

 ⅰ) 医療供給体制の抜本的改革が求められている.

  ○ 医療保険者自体の医療費抑制策

  ○ 疾病の予防への直接参加(メタボリックシンドローム対策)

 ⅱ) 高齢者保険制度の創設.

 ⅲ) 医療計画の抜本的改革.

 これらは,医療費の増大を抑制するという必要性に厳しく追いかけられているからである.これらの点を踏まえて,地域保健の基本的構造体である保健所や市町村の現場はどうなっているだろうか.

 (1) 保健所

 ⅰ) 福祉事業との連携を求めて,保健福祉センターなどの組織が生まれている.

 ⅱ) 広域化への構造変化が進んでいる.

 ⅲ) 健康危機に対応する専門機能の整備.

 これらに従って,かつて800余を数えた保健所の数は,500台に集約され,その守備範囲は医療圏を骨格としてとらえ,広域化の方向をたどっている.

 このような動向の中で,本来ならばもっと強化されるべき専門的職員,特に医師や保健師など,中核的役割を果たすマンパワーは数的に減少している(表参照).

 (2) 市町村

 これに対して,「日常的保健サービスは市町村で」という流れが大きくうねっている.

 一つには市町村合併による,地方自治体数の減少と大型化が進んでいる.当然,これは機能強化という観点からみるとプラスの面が大きい.その一例が地域保健法施行令による政令市の増加である.

 しかし,このように政令市の数は増加しているが,全体としての保健所数,およびそこで働く医師・保健師などの保健医療関係者の数は減少している.これをどう分析・評価するか,大型化によって機能は強化されているのか,あるいは,下部機能(例えば市町村保健センターなど)が育っているのかなどの分析が必要である.

 これらの自治体においては,医師や保健師などの専門職の数は,都道府県のそれと比べると相対的に手厚くなっているように見えるが,その実数はやはり大きく減っているようである.この現実の上に,いかにして地域保健の水準を高めるかを考えなければならない.

 また,市町村合併による自治体の大型化が進む中で,ヘルスサービスの面ではマイナス面もあることに着目する必要がある.これまで,首長さんのリーダーシップで先進的な保健サービスの実績を持っていた小さな町村が,大型市に合併されることにより,キメ細かな保健サービスの芽がつぶされているという話をよく聞く.これは大変に大きなマイナスである.これらの活動を温存・発展させる手立てを何とか考える必要がある.

 以下に,これからの地域保健の取り組みの方向について分析してみよう.

地域現場で見てきた疾病予防活動の現状と課題―今こそヘルスプロモーションを

著者: 牧野由美子

ページ範囲:P.843 - P.847

 2006(平成18)年6月14日,医療制度改革関連法が成立した.これが医療費適正化を目的とした一連の諸改革であることは論を俟たない.この中に生活習慣病対策も1つの柱として位置づけられた.しかし,医療費対策を重視するあまり,近視眼的にハイリスクアプローチに重点が置かれ,20年後を見据えた地域保健対策の総合的な推進,ヘルスプロモーションの推進方策がほとんど触れられていないことに,現場の多くの関係者は不信感を抱いている.しかも,下手をすると一人ひとりの国民にとっても,健康づくりが状態別で寸断されるモグラ叩きに終わる懸念が大きくなっている.本稿ではこれらの政策に取り組むことを求められている地域保健の現状と課題について述べてみたい.

医療制度改革と保険者機能―疾病予防活動の取り組み

著者: 一圓光彌

ページ範囲:P.848 - P.851

医療保険と予防重視

 医療保険は,われわれが病気になったときに医療費の心配なく安心して医療が受けられるように備える制度である.人々の重大なリスクに対処する上で,保険は非常に合理的な仕組みである.そして,このような意味での保険の合理性さえ発揮できればいい時代には,保険者は,しっかりと保険料を徴収し,確実に医療機関に診療報酬を支払い,被保険者に給付を行い,安定的に保険を運営し,被保険者からも医療提供者からも信頼される制度を維持することが重要で,それさえできれば保険者としての機能は十分に果たせた.

 しかし,前世紀の後半を通して,各国で医療保障制度が整備され,十分な医療財源が確保されるようになるに伴い,医療供給体制も整備され,いつでもどこでも医師にかかることのできる環境が整うようになると,医療費全体をコントロールする必要性が生まれた.それとともに,疾病構造も感染症中心から慢性疾患中心に変わり,後者では,医療が人々の生活の一部分として定着するようになった.被保険者は,月々保険料を支払いながら,同時に毎月医師にかかって医療給付を受けるような状態が珍しくなくなった.医療リスクは,生活を危機に陥れるある日突然の短期的な事故から,日々の生活の中で継続してコントロールするような事態にと,大きく変わるようになった.

アメリカ医療制度改革と疾病予防活動―マネジドケアの光と影

著者: 岡本悦司

ページ範囲:P.852 - P.855

 皆保険制というインフラを持たない米国は,疾病予防という市場原理に本来なじまない「商品」も自由経済の中で取り引される,という大きなハンディを負っている.HMO,PBM,PPO,IPA,MCOといった意味不明の略語,ディジーズマネジメント,リスクシェアリング,ゲートキーパーといった辞書に載っていない英単語の数々は,統制なきアメリカ医療がこれまでに生み出してきたおびただしい産物といえる.

イギリスの医療制度改革―その歩みと到達地平

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.856 - P.860

改革の歩み

 イギリスの人々の医療を担う制度は,19世紀中葉における医薬分業体制の確立,および1911年の国民保険法の制定,1948年の国民保健サービスの創設,1974年の国民保健サービス機構改革という,時代を画する改革の歩みを経て,「地域主義」の理念に立って,大きな実績が積まれてきた.しかし結果として,実績が大きければ大きいほど,医療の流れに深刻な停滞が生まれることになり,1990年の法律によって「内部市場」の論理が導入され,イギリスの医療制度に,大きな展開がみられることになった.

地域の公立病院における疾病予防活動の歩みと展望

著者: 山口昇 ,   林拓男

ページ範囲:P.861 - P.864

 少子高齢化が進んでいる.尾道市御調町の高齢化率は約30%で,25年後の日本の姿を先取りしている.

 本来,わが国の保健活動は国保サイドがこれに積極的に取り組んできた.昭和53年までは国保保健師を設置し,効果を上げてきた.その後,これらは市町村保健師となり,老人保健法施行後は市町村が実施主体となってこれに取り組み,さらに地域保健法,健康増進法と変遷を重ねてきた.中でも健康日本21では生活習慣病の予防が重視されている.

 一方,国保診療施設(直診)は,国保の理念の下に当初は予防と治療の一体化を目指して設置されたが,現在では予防から治療まで,さらにその後の介護,福祉までをも視野に入れた地域包括医療(ケア)を実践し,保健事業の重要な一翼を担っている.

 御調町では,国保直診である公立みつぎ総合病院を核として地域包括ケアシステムを構築し,行政と一体となって保健・医療・介護・福祉の連携を図り,住民サービスを提供している.以下,公立病院を核とした疾病予防活動の現状と今後の展望について述べる.

疾病予防活動における保健師の地域活動の課題

著者: 津村智惠子

ページ範囲:P.865 - P.867

 地域保健活動における保健師の役割は,地域で生活する健康者から疾病・障害をもつあらゆる健康レベルの人々,高齢者から乳幼児に至るまでのあらゆる年齢層への地域特性を踏まえた,個別および集団に対する支援であり,対象の主体性とエンパワメントを志向した適切な支援を行うことである.しかしながら,近年市町村等の行政機関で働く保健師数は増えているにもかかわらず(図1),平成12年の介護保険発足の前・後から,地域保健活動の予防的課題への取り組みの中心的な役割を担うはずの保健師の活動が見えなくなってきている.本稿では,表題に関する保健師の課題を,①地域保健福祉行政に起因するものと,②保健師教育に起因するものに分けて取り上げる.

視点

行動変容

著者: 藤村隆

ページ範囲:P.834 - P.835

 6月14日,医療制度改革関連法が成立した.この中で,平成20年度からのメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の概念を導入した特定健診・特定保健指導が医療保険者に義務付けられた.国は,医療費適正化の中長期的対策の柱の1つとして,対象者の80%以上が健診を受け,糖尿病等有病者・予備軍を25%減少させる政策目標を掲げている.

 高知市でも,平成20年度からの健診をどのように実施していくのか,国保担当,衛生担当との打ち合わせが始まった.特に高知市は基本健診の受診率が低く,いかに受診率を上げていくのか,また,保健指導体制をどうしていくのかなど,検討しなければならない課題は多い.その話し合いの中で,「そもそも病気にならないように生活習慣を改めるなど,土佐の人間には難しいのでは?」といった意見もたびたび聞かれた.本当に行動変容への介入は,土佐人にはなじまないのだろうか?

特別寄稿

2型糖尿病の地域基盤型1次予防

著者: 小谷和彦 ,   黒沢洋一

ページ範囲:P.869 - P.872

増加する2型糖尿病

 糖尿病は心血管病,神経障害,網膜症,腎症といった多種の合併症を引き起こし,罹患者の生活の質ならびに社会保障資源に大きな影響を与える.2型糖尿病(本稿では以下,単に糖尿病という場合には2型とする)の有病率には,民族差や地域差の存在が指摘されているが,いずれにしても近年,先進国や近代化の進む開発途上国において,2型糖尿病は増加の一途を辿っており,2025年には世界中で3億人以上が保有するとの推測もある1)

 本邦においても,平成9年の国民栄養調査に際して行われた糖尿病の実態調査によると,20歳以上の国民のうち,「糖尿病が強く疑われる人」が約690万人で,「糖尿病の可能性が否定できない未治療の人」は約680万人であったのが,平成14年の同調査では,それぞれが約740万人と約880万人に達し,増加の実態が明らかとなっている2).

タミフルの薬剤経済

著者: 五十嵐中 ,   津谷喜一郎

ページ範囲:P.873 - P.876

 2005~2006年の冬にかけて,インフルエンザ以上に日本全土に響きわたった「タミフル狂想曲」.新型インフルエンザの脅威とも相まって,備蓄の不備や生産増強が声高に叫ばれていた.

 2005年1年間でのタミフル(Tamiflu(R),一般名はリン酸オセルタミビル:oseltamivir phosphate)の国内売上高は,前年2004年の約4倍となる352億円に達した1).タミフル全体の7割が日本市場のみで使われているとも報じられたが2),全世界的にタミフルの需要・売上げが急増したこともあり,2005年1年間の売上高では日本市場の占める割合は2割強にまで低下している3)

 本稿のテーマは「タミフルの薬剤経済」だ.ややもするとこのようなおカネの動きの問題のみを気にしてしまいがちになる.

 しかし薬剤経済学の目的は,高価な薬や新しい薬を闇雲に否定することではない.薬の有効性・安全性と経済性の双方を評価することで,効率的な使用を図っていくのが本来の目的である.薬剤経済評価分野で最も広く使われているデータベースは,英国ヨーク大学が作成・管理しているNHS-EED(National Health Service-Economic Evaluation Database. URL: http://www.crd.york.ac.uk/crdweb/)であるが,ここでもコストとアウトカム双方のデータをコントロールと比較している文献だけが「完全な経済評価」(full economic evaluation: FEE)とみなされ,構造化抄録(structured abstract: SA)が付与されている.

トピックス 禁煙治療最前線②

地域や職域での禁煙治療・支援の推進のために(上)

著者: 中村正和 ,   大島明

ページ範囲:P.877 - P.881

禁煙治療・支援の意義

 禁煙治療・支援は,保健医療に従事する専門職が日常活動の中で実施できるたばこ対策であり,その有効性ならびに経済効率性について,十分な科学的根拠が示されています1).また,禁煙治療・支援を含む禁煙対策(喫煙者の禁煙を推進する対策)は喫煙防止対策(喫煙の開始を抑制する対策)に比べて即効性があり,最近急速に拡大しつつある喫煙による健康被害の当面の抑制策として期待されています(図)2).禁煙治療・支援の効果については,喫煙習慣の本質がニコチン依存症であるため,禁煙率は決して高いとは言えません.しかし,それでも禁煙すれば多くの疾患のリスクが低下するため,禁煙治療・支援の経済効率性は,数ある保健医療プログラムの中で特に優れており1),その普及により肺がんをはじめ,多くの喫煙関連疾患を予防することができます.

連載 21世紀の主役たち・8

ベーリング海のクジラ捕り(アラスカ)

著者: 関野吉晴

ページ範囲:P.833 - P.833

 冬の間,ベーリング海は凍り,氷に閉ざされている.4月になり,暖かくなると,「リード」といって氷に割れ目ができる.そこに冬の間南のカルフォルニア沖とか,ハワイ,小笠原諸島沖で子育てをしていたクジラが北上してくるのだ.このときが捕鯨のチャンスだ.

 4月中旬,島民はみなクジラか来るというので,生き生きとしてくる.スキンボートに乗る必要のある小中学生には「捕鯨休暇」が出る.ジョージは小学校の6年生だが,父親の手伝いでボートに乗る.もちろん重要な役割はまだ果たせない.キャプテンや射手に怒鳴られながら,小間使いに専心する.しかし,この中で大人たちの動きを観察し,将来キャプテンや射手になるための知識を覚え,技術を盗んでいく.

感染症実地疫学・11

宮崎県での麻疹アウトブレイク調査

著者: 森伸生

ページ範囲:P.882 - P.886

 わが国では1978年から麻疹ワクチンが定期接種として行われ,その後,麻疹の患者数は減少した.2001年には,過去10年間では最も多い患者発生がみられ,小児ばかりでなく,小学校から大学,医療機関などを巻き込んで発生し,重症者や死者も出て,地域での問題となった.定点からの患者報告数は33,812人(推計:発生数 年間20~30万人,死亡者数 約100名)であった.これは,わが国における麻疹ワクチンの接種率は70~80%程度で,もっとも必要とする1歳代での接種率は50%程度と低いことによるものと考えられた.そこで,麻疹ワクチンの1歳早期(12~15か月)での接種をすすめた.各地では,「はしかゼロ運動」が起こり,多くの人々の努力と協力により1歳代のワクチン接種率は急速に改善した.2005年は定点報告数545人(推計5~6千人程度)まで減少した.

 麻疹は,世界中でも多くの人が罹患し,感染症による死亡の第6位を占めている.WHOは,世界から麻疹を排除(elimination)する(地域での発生をゼロとし,他から持ち込まれても流行が拡がらない)ことを目標とし,南北アメリカではこれを達成しつつあり,ヨーロッパおよび旧ソ連邦地域では2007年,地中海地域では2010年を排除(elimination)達成の目標時期としている.日本を含むWHO西太平洋地域では,2012年を目標に設定した.

 そのような背景の中,筆者は国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)在籍中の2003年に,宮崎県における麻疹アウトブレイクに関わる経験をした.本稿ではその経験の概要,麻疹対策の重要性を述べる.

精神医療ユーザーが語る・11 自分史④

精神科医療システムと共に歩む人生

著者: 山梨宗治

ページ範囲:P.887 - P.890

本文献は都合により閲覧が許可されていません

エイズ対策を評価する・11

わが国におけるエイズ対策(上)

著者: 稲垣智一 ,   関山昌人 ,   上野泰弘 ,   川口竜助

ページ範囲:P.891 - P.895

稲垣(司会) 今日は厚生労働省疾病対策課の関山課長と,課長補佐としてエイズ対策を担当されてきた川口さんをお迎えしました.今回岩室先生はお休みで,私が司会となります.私は東京都の職員ですが,この連載は「東京都」を背負わずにやっております.今日はわが国のエイズ対策について,お2人からお話を伺っていきたいと思います.よろしくお願いします.

 まず,今年(2006)はエイズ発見25周年ですが,日本の最初の四半世紀のエイズ対策はどうだったのか.エイズ予防指針改定という対策の節目を含めて,お話を伺いたいのですが.

石川中央保健所「健康しかけ人」レポート・3

子どもを守るために県型保健所ができること その② 保育所の感染症対策を支援する

著者: 中田有美

ページ範囲:P.896 - P.899

 近年,様々な健康危機が多発している中で,保健所には地域における健康危機管理拠点として,役割を果たすことが求められています.

 当保健所では,健康危機管理の中でも感染症対策を重点施策の1つとして,地域のハイリスク施設における感染症対策強化の取り組みを行っています.地域のハイリスク施設としては,保育所や学校,高齢者施設等がありますが,中でも保育所は,抵抗力も十分にない乳幼児の集団,オムツ使用等,様々なリスク要因を併せ持っており,最もリスクが高い施設と言えます.

 そのため,当保健所では平成9年度より試行錯誤を繰り返しながら,健康危機管理チームを中心として継続的に保育所における事前管理型感染症対策への支援を行ってきたので,本稿ではこれまでの活動(しかけとその効果)について述べてみたいと思います.

統合化を模索する国際保健医療政策・4

ヘルスプロモーション戦略に基づく統合型学校保健政策(FRESH)

著者: 湯浅資之 ,   中原俊隆

ページ範囲:P.900 - P.904

 途上国では健康と教育が不可分の関係にあることはよく知られている.女性の教育程度が子どもの死亡率の改善に寄与する例として,女子の初等教育就学率が10%上昇すると乳児死亡率(IMR)が出生1,000あたり4.1低下し,女子の中等教育就学率が同じだけ上がると,IMRはさらに5.6減少するという1).逆に疾病の程度が就学に与える負の例として,学童の鞭虫症重症度と学校欠席日数の間に相関関係を見出した報告がある(表1)2).これらの事例が示すように,途上国における健康の改善は教育の向上につながり,教育の改善は健康の向上に寄与するという双方的関係が健康と教育にはある.そこで本稿では学校教育に保健を統合化した国際保健医療政策を紹介したい.

衛生行政キーワード・25

特定保健用食品(トクホ)制度と最近の動向

著者: 田中央吾

ページ範囲:P.905 - P.907

 「中性脂肪に告ぐ」という宣伝文句が目を引く.某企業のトクホ製品の見事な販売戦略に感心させられる.主力製品のブランド力を生かし,消費者の欲求,「脂肪の吸収を抑える」とうたい,高めの料金設定で自信の高さを示す.様々な情報ツールから製品の売れ行きは好調と伝え聞く.しかし何よりもトクホ製品であることを前面に出し,その信頼性をアピールしていることは,この製品の売り上げに大いに貢献しているものと思われる.

 (財)日本健康・栄養食品協会によると,平成17年の特定保健用食品(トクホ)の市場規模は6,299億円と予測されている.平成18年8月末現在で,特定保健用食品として許可・承認を受けた件数は590件に上る.これらの数字に表されるように,消費者や企業のトクホへの関心の高さが窺える.

 ただ,人が両手を上方に広げたマークは知られていても,特定保健用食品がどのような制度であるかはあまり知られていないと思われる.今回,特定保健用食品の制度,および最近の動向について紹介する.

資料

乳幼児をもつ母親の「虐待の気がかり」に関連する要因と予測因子―3か月児健診と1歳6か月児健診における縦断調査

著者: 新田紀枝 ,   和泉京子 ,   山本美穂 ,   村上徳子 ,   野原洋子

ページ範囲:P.908 - P.912

 近年,都市化の進展や少子化のいっそうの進行など,子どもや子育てをめぐる問題が多様化し,子どもへの虐待が深刻な社会問題になっている.公衆衛生における虐待の第1次予防は発生前に対応するものであり,ハイリスク家庭を把握し,援助による問題の解決を図り,虐待への進行をくい止めるものである1).虐待の周囲には,それを取り巻く虐待リスクのある家庭の存在がある2)といわれているが,わが国における児童虐待の把握数は,機関が支援している虐待の発生に関する調査・研究の結果であり3),実際の虐待リスクのある家庭としての把握はほとんどされていない.

 そこで,従来の母子保健事業である乳幼児健診の中で虐待発生予防に取り組む観点から,本研究は3か月児健診および1歳6か月児健診を縦断して調査を行い,「虐待しているのでは」と思っている母親の特徴を記述し,3か月児健診時の状況から1歳6か月児健診時に「虐待しているのでは」と思っている母親を予測できる因子を明らかにすることを目的とし,研究を行った.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら