公衆衛生70巻11号

2006年11月発行

特別寄稿

タミフルの薬剤経済

著者： 五十嵐中¹ 津谷喜一郎¹

所属機関： ¹東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学講座

ページ範囲：P.873 - P.876

　2005～2006年の冬にかけて，インフルエンザ以上に日本全土に響きわたった「タミフル狂想曲」．新型インフルエンザの脅威とも相まって，備蓄の不備や生産増強が声高に叫ばれていた．

　2005年1年間でのタミフル(Tamiflu^(R)，一般名はリン酸オセルタミビル：oseltamivir phosphate)の国内売上高は，前年2004年の約4倍となる352億円に達した¹⁾．タミフル全体の7割が日本市場のみで使われているとも報じられたが²⁾，全世界的にタミフルの需要・売上げが急増したこともあり，2005年1年間の売上高では日本市場の占める割合は2割強にまで低下している³⁾．

　本稿のテーマは「タミフルの薬剤経済」だ．ややもするとこのようなおカネの動きの問題のみを気にしてしまいがちになる．

　しかし薬剤経済学の目的は，高価な薬や新しい薬を闇雲に否定することではない．薬の有効性・安全性と経済性の双方を評価することで，効率的な使用を図っていくのが本来の目的である．薬剤経済評価分野で最も広く使われているデータベースは，英国ヨーク大学が作成・管理しているNHS-EED(National Health Service-Economic Evaluation Database. URL: http://www.crd.york.ac.uk/crdweb/)であるが，ここでもコストとアウトカム双方のデータをコントロールと比較している文献だけが「完全な経済評価」(full economic evaluation: FEE)とみなされ，構造化抄録(structured abstract: SA)が付与されている．

参考文献

1) 中外製薬株式会社：2005年12月期連結決算概要, 2006

2) 中外, タミフルを国内製造. 子ども700万～1000万人分. 共同通信, 2006.7.19.

3) Roche: Roche 2005, Record sales and operating profit. Roche, 2006　URL: http://www.roche.com/inv-update-2006-02-01

4) タミフルカプセル75添付文書　URL: http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/6250021M1027　1　11/

5) タミフルカプセル75承認審査報告書

6) 関口正人：インフルエンザ対策の大まちがい. 薬害オンブズパーソン. Medwatcher Japan 24: 2, 2006

7) 厚生労働省医薬食品局安全対策課：「新型インフルエンザに関するQ&A」の一部改訂について. 厚生労働省, 2006　URL: http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/07/h0710-1.html

8) Jefferson T, Demicheli V, Rivetti D, et al: Antivirals for influenza in healthy adults; Systematic review. Lancet 367 (9507): 303-313, 2006

9) 渡辺彰, 小林慎：インフルエンザ治療におけるoseltamivirの医療経済的有用性の分析. 日本化学療法学会雑誌49(2): 95-102, 2001

10) 坂巻宏之, 池田俊也, 池上直己：インフルエンザ発症抑制におけるOseltamivirの薬剤経済学的分析. 薬学雑誌124(4): 207-216, 2004