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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生70巻5号

2006年05月発行

雑誌目次

特集 「食育」の時代へ

食でつながる人と人―人と自然の豊かな関係性

著者: 結城登美雄

ページ範囲:P.373 - P.376

家族の始原

 「Family」という英語は,ラテン語の「Familia」から派生したもので,いまでは「家族」と訳しているこの言葉の語源をさかのぼっていけば,「一緒に耕す者たち」,すなわち「Farmer」という語につきあたるという.十数年前,初めてそのことを知ったときの静かな感動は,今も忘れがたい.ゆらぎ,漂い,果てしなく分解していくかに見える現代の家族.思えば家族も,ずいぶん遠くまで来てしまっている.そんな思いしきりの中で,「一緒に耕し,一緒に食べる者たち」.それが家族の始原であることを知った.

 スローフード,地産地消,食の安全・安心,食料自給率の低下….そして「食育基本法」の施行.食に対する様々な関心とその高まり.だが,それらのありようを考えるためには,もう一度,家族と食の始原を改めて問い返しておく必要があるのではないか.

食育時代の健康食品

①新しい保健機能食品制度

著者: 山田和彦

ページ範囲:P.358 - P.362

提言

 「医薬品―従来制度に基づく保健機能食品―いわゆる健康食品―一般食品」の体系のあり方について,「健康食品」の利用・製造・流通の実態は,国民の健康づくりに有効に機能しているか.「健康食品」の安全性・有用性の確保,消費者に対する適切な情報提供,利用者の期待に応えうる「健康食品」はどうあるべきか.これらをもとに,行政,関係業界,消費者の果たすべき役割,制度はどうあるべきか.以上のような点について広く意見募集を行い,平成17年6月9日には検討会による提言が厚生労働省から発表された(図1).

 「提言」においては,国民が健やかで心豊かな生活を送るためには,一人ひとりがバランスの取れた食生活を送ることが重要であるとともに,国民が日常の食生活で不足する栄養素を補給する食品や,特定の保健の効果を有する食品を,適切に利用することのできる環境整備を行うことが重要であるとされた.そのためには,国民が様々な食品の機能を十分に理解できるよう,正確で十分な情報提供が行われることが必要であり,「健康食品」において表示できる内容を充実させることがその主要な柱の1つとされている.そのなかで「健康食品」とは,広く,健康の保持増進に資する食品として販売・利用されるもの全般を指し,保健機能食品も含むものであり,「いわゆる健康食品」とは,「健康食品」から保健機能食品を除いたものであるとの立場から,制度の改善点を提言している.

②健康食品等の安全性情報ネットワーク

著者: 梅垣敬三 ,   杉澤彩子 ,   佐藤陽子 ,   卓興鋼

ページ範囲:P.363 - P.368

豊かな食生活ならびに高齢化という社会現象に伴い,日常の食事とは異なる効果を期待させる健康食品等が注目されている.健康食品という言葉はかなり昔から利用されているが,行政的には明確な定義がない.そのような中で,「健康食品」=保健機能食品(国が認めているもの)+いわゆる健康食品(国が認めていないもの)とし,「健康の維持・増進に役立つものとして販売・利用される食品」という考え方が示されている1)

 しかし市場には,名称,成分,形態の異なる多種多様な健康食品が存在し,人によって認識している食品も異なる.このような状況で,本来は健康に資するべき健康食品が,健康被害を起こす事例もある.最近のマスメディアから流されている有効性のみを強調した不確かな情報の氾濫は,消費者に対して健康食品に過大な期待をもたせている.

③健康食品等に関する相談事例等からみた今後の課題

著者: 板倉ゆか子

ページ範囲:P.369 - P.372

健康志向の高まりの中で,いわゆる「健康食品」はその販売額が大衆薬(一般用医薬品)をしのぐようになっているという.「医薬品」との法律的な違いは規制緩和により,医薬品にしか許されなかった錠剤やカプセルの剤形が食品にも認められるなど,形状に対する歯止めがなくなり,使える成分や薬効の表現(ヘルスクレーム)の緩和に対する国外,国内の圧力も一段と強くなっている.一方,消費者には,サプリメントという言葉も良いイメージが定着してきており,「健康食品」の問題点はあまり知られていない.

 国民生活センターには,PIO-NET(全国消費生活相談情報ネットワーク・システム)を通じて,全国各地の消費生活センターが受け付けた「健康食品」の相談事例が寄せられている.そこで,相談内容や商品テスト部などで実施したテスト結果,アンケート調査を通じて,「健康食品」について,どういう問題があり,食育として何を知らせるべきか,私見をまとめてみたい.

視点

新医師臨床研修「地域保健・医療」と保健所の役割

著者: 嶋村清志

ページ範囲:P.340 - P.341

医師法等の一部改正を受けて始まった新医師臨床研修制度では,1か月以上の「地域保健・医療」研修を必修科目としている.この制度では,実地訓練を中心に一貫した計画性のある成人教育によって,全人的に診療できる基本的能力を習得するねらいがある.地域保健では,保健所長だけでなく,獣医師や薬剤師,保健師など,コメディカルの指導のもと,精神対応や家庭訪問,感染症・食中毒など公衆衛生の第一線の現場を体験することが重要で,研修医の社会科学的な力量の成熟が求められる.

 当所では,関係機関と調整し,1か月単位のプログラムを1年分作成した上で,充実した指導体制がとれるように,毎月1名延べ7名の研修医を受け入れた.

 本稿では,当所独自の取り組みを紹介し,この研修のあり方について考えてみたい.

トピックス 水俣病認定申請者調査④・最終回

補償格差と不公平感

著者: 成元哲 ,   牛島佳代 ,   川北稔 ,   丸山定巳 ,   「不知火海研究プロジェクト」

ページ範囲:P.377 - P.380

家族集積性

 本稿では,2004年10月の関西訴訟最高裁判決以降の水俣病認定申請者が,家族や地域内での水俣病の補償状況をどのように捉えているのかを取り上げる.また,その受け止め方が大量の認定申請にどう結びついたのかについて検討する.

 発生当初から水俣病には,「家族集積性」があると指摘されてきた.家族集積性とは,同じ家に住み,同じ食生活を営んだ人が水俣病に罹患しやすい傾向を指す.

特別記事 [インタビュー]水俣病から50年・患者さんの声を聴く・2

近代を超え,命の物語を取り戻そう

著者: 緒方正人 ,   田口ランディ

ページ範囲:P.381 - P.387

田口 ちょうどこちらに来る前に,『ザ・コーポレーション』という映画の試写会に行ってきたんですよ.この映画はカナダで作られたドキュメンタリーで,「企業というのは法律によって人間と同じ権利を与えられた“法人”である.だから,いったいどういう人格なのかを精神分析してみよう」という映画なんです.

緒方 おもしろそうですね.

連載 21世紀の主役たち・2

マチゲンガの少年(ペルー・アマゾン)

著者: 関野吉晴

ページ範囲:P.339 - P.339

マチゲンガの少年ゴロゴロは10歳前後.小さい頃は兄や父親と一緒に森に入っていって狩りのまねごとをしていた.初めて1人で森に入っていく時につきあった.刺の多い草木が多いが裸足だ.森の中は危険がいっぱい潜んでいる.油断ならないのは赤いアリだ.小柄だが集団で列をなして進む.うっかりその列に足を踏み込むと,脛から這いあがってきて,皮膚を噛む.のけぞるほど痛い.ゴロゴロは自分の足に這いあがってきたアリを払いのけ,爪先だちでガニ股になりながらチンポコを震わせながら走り抜ける.

 森には茎に鋭い刺をもつ植物,葉に毒を含んだ毛を持つ植物も多い.これにやられてゴロゴロも身体じゅう常に生傷が絶えない.これらの傷や虫に刺された跡が化膿することも多い.しかし消毒薬も抗生物質もないのに,じきに治ってしまう.

感染症実地疫学・5

米国CDCのEISについて

著者: ポール・キツタニ

ページ範囲:P.388 - P.390

 最近の国内外での新興・再興感染症の状況を考えると,それらの引き起こす健康危機管理問題に国全体として,または国を超えた地域全体として,迅速,適切に取り組む準備が必要となっています.このような状況の中,公衆衛生現場で実地疫学専門家の存在が重要になってきており,日本を含めた多くの国々で,そのような期待に応えるため,実地疫学専門家養成プログラム(Field Epidemiology Training Program: FETP)が開始されつつあります.

 米国では,50年以上も前からEIS(Epidemic Intelligence Service)という名の養成プログラムが存在しており,公衆衛生現場で活躍する実地疫学専門家を数多く生み出してきました.本稿では,そのEISの始まりから成果について述べます.

精神医療ユーザーが語る・5 精神障害者が精神障害者に日本で初めて行ったアンケート結果から⑤

精神障害者が人間らしい生活を取り戻すには,何が必要なのだろうか?(下)

著者: 山梨宗治

ページ範囲:P.391 - P.394

本文献は都合により閲覧が許可されていません

エイズ対策を評価する・5

MSMにおける感染予防(上)

著者: 岩室紳也 ,   稲垣智一 ,   長谷川博史 ,   市川誠一 ,   上野泰弘

ページ範囲:P.396 - P.401

岩室(司会) HIV/AIDSの統計で「同性間性的接触」での感染が増え続けています.しかし,その方々への普及啓発をどう進めるべきかについては,まだ暗中模索の状況だと思います.本日は,実際当事者としてカミングアウトされている長谷川さんと,様々なコミュニティと協働しながらMSM(Men who have Sex with Men)対策に当たっておられる市川先生に,今,同性間性的接触での感染を抑制するにはどうしたらいいのかについて,ご教示いただければと思います.

言葉の定義から

岩室 最初に,言葉を整理したいのですが,MSM,ホモセクシュアル,ゲイ,同性間性的接触と,いろいろな言葉がありますが…….

衛生行政キーワード・19

平成18年度の厚生労働省の科学技術予算

著者: 前田光哉

ページ範囲:P.402 - P.404

科学技術予算の決定プロセス

 現在,平成18年度予算案が国会で議論されているところだが,研究費の予算要求は,前年の4月頃から始まる.まず,研究費の重点を何にするか,評価委員会の委員との連絡・調整,課内・局内での検討,厚生科学課でのヒアリングなどを通じて固めていく.その際,研究発表会,研究費の評価委員会等で指摘された事項,マスコミでよく取り上げられ社会問題化している事項,制度改正のための資料収集が必要な事項など,いろいろな材料を基に検討していく.

 その後,厚生科学審議会科学技術部会での検討を経て,大臣官房会計課への要求,財務省への概算要求と段階を踏むが,平成14年から加わった新たなプロセスが,「SABC評価」である.このプロセスは,従来の財務省に対する予算要求とはスタイルが違い,「一発勝負」的な要素が強いのが特徴である.

赤いコートの女―女性ホームレス物語・21

知的障害の母親の様々な子育て支援の問題

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.405 - P.406

帰宅すると,ぶ厚い封書が届いていた.差出名を見ると,明治学院大学山崎研究室の伊藤恵子さんからであった.紹介者は過去に私と一緒の職場で働いたことのある小川一幸氏であった.小川氏は児童相談所の主査で,様々な子どもの問題に関わっている.波さんのこれからのことを念頭に置いて,「何か参考資料があったら教えて欲しい」とお願いしていたのである.

 週に1日であっても,休むことなく授産所に通っている波さん.少しずつ,主体的に生活の輪を広げていく過程で,困難さをサポートしてくれるインフォーマルな社会福祉資源,フォーマルな社会福祉資源の利用を有効に活用している実践の資料はないものかと探した.しかし,なかなか見つからなかった.

活動レポート

日本の難民の医療状況―医療相談をとおして

著者: 山村淳平

ページ範囲:P.407 - P.411

世界の地域紛争や政治的・民族的迫害によって多くの難民が発生している.そのほとんどは近隣諸国に逃れているが,その一部は先進諸国に保護を求め流入している.

 日本は1981年に難民条約を批准し,難民の受け入れを表明している.しかし,その実態をみると,日本政府は難民(および申請者)を保護しているとはけっしていえない.1996年以降,年間300~500名が難民申請しているが,2003年に認定されたのはわずか10名(認定率3%)にすぎず1),アメリカ2万7千名(同48%),イギリス2万2千名(同26%),フランス1万千名(同35%),ドイツ7千名(同9%)の認定者数とは比べものにならないほどの少なさである2).しかも住居・職業・医療・教育などの基本的な生活支援はほとんどなされておらず,就労が許されていないこともある.欧米では,難民申請中であっても,生活支援制度があり,医療は保障され,就労も許可されているのとは大きな違いである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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