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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生70巻7号

2006年07月発行

雑誌目次

特集 市町村合併後の保健師活動

市町村合併後の業務分担制と地区分担制の問題点

著者: 井伊久美子

ページ範囲:P.527 - P.530

合併を経験した保健師の問題意識より

 筆者の周囲でも多くの市町村合併が行われたが,これまでのところ,保健師からは合併を歓迎した発言はあまり聞かれない.通常業務を行いつつ,合併に伴う膨大かつ煩雑な事務作業をこなすだけで精一杯という実情だろうと推察している.

 合併のプロセスを経験したある保健師の問題意識は次のようである.

市町村合併を経験して―問題とその対策

①合併4年目のあさぎり町の保健師活動

著者: 山下久美子

ページ範囲:P.516 - P.518

 あさぎり町は,熊本県の南端で宮崎県と鹿児島県の県境に位置し,平成15年4月に中山間地域における町村として対等合併をした.合併前には,管内で最少人口1,479人の村もあったが,平成18年4月1日現在で人口17,851人,世帯数5,727世帯,高齢化率29.18%,年間出生数は約150人,ほぼ横ばいの傾向にある.

②合併4年目,南アルプス市の保健師活動―原点に戻り再出発

著者: 長谷部裕子

ページ範囲:P.519 - P.521

 南アルプス市は2003年4月1日に山梨県西部の6町村が合併し,誕生した市である.合併4年目に入り,少し落ち着いてきた感もあるが,年々新たな課題も出てきている.手探りだが,少しずつ見えてきた保健師活動の現状と課題,自分たちで取り組み始めた解決の方向性について報告させていただきたいと思う.

③合併5年目,篠山市の保健師活動―動き,話し合う,現場のチームづくりを

著者: 森井まゆみ

ページ範囲:P.522 - P.524

篠山市の概要

 「篠山」といえば? 一番多い回答は漫画『美味しんぼ』やTV等で一躍有名な丹波黒大豆(黒大豆枝豆).他にも篠山ブランドとして全国に誇れる特産物(丹波栗・松茸・山の芋),そしてデカンショ祭り,ABC篠山マラソン,全国車いすマラソン,丹波焼(丹波立杭焼).そして篠山には,高い文化性を感じる歴史的町並みや自然豊かで心に残る風景が多くある.

 地理的には兵庫県の中東部に位置し(図),東は京都府に南は大阪府に隣接し,篠山盆地を中央にすえ,その周りを400~800mの山並みに取り囲まれている.全面積の3/4が森林である.高速道路の開通やJR複線化等で神戸や大阪,京都などの都市地域へのアクセスは1時間以内となった.

④クラスター方式を用いた田村市の保健師活動のこれから

著者: 石井裕実子

ページ範囲:P.525 - P.526

 福島県田村市は阿武隈山系の南部に位置する5つの町村が合併して,平成17年3月1日に県内11番目の「市」として誕生しました.

 田村市は,全国的にも稀な「クラスター方式に基づくまちづくり」を新市のまちづくりの基本的な考え方としております.

 クラスター方式というのは,一極集中型のまちづくりではなく,旧町村単位の行政局を地域行政の核とした地域づくりを進め,ひとつの「市」という大きな組織を形成する組織づくりをめざすものです.

 県内においては,平成16年11月を皮切りに合併が進み,新たな市,町が誕生し,90市町村が61にまで減少しています.

視点

危機管理の水先案内人

著者: 小谷尚克

ページ範囲:P.496 - P.497

 管内人口33,000人,東北の南の玄関である福島県の17%の面積に県人口の1.6%が暮らす南会津地域を管轄する保健所長となって,2年が過ぎた.管内面積の93%が山林という過疎・中山間地域,雪は多いが平穏な土地柄で,この2年間で簡易水道異臭事件を筆頭として,食品異物混入や表示違反,そして精神保健福祉法に基づく通報が散発したくらいで,雪による事故を除けば,危機感が薄いと怒られそうだが,やはり平穏な,そして災害に強い地域だと思っている.

トピックス

食育推進基本計画について

著者: 田中弘之

ページ範囲:P.532 - P.534

 平成18年3月31日に,食育推進会議において食育基本法に基づく食育推進基本計画が決定されました.これは平成18~22年度までの5年間を対象として,食育の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために必要な基本的事項を定めたものです.今後は,国民が健全な食生活を実践することができるよう,この計画により国民運動として食育を推進してまいりますので,その概要について報告します.

在宅ケアの質を測る新しい評価法:HCQAI

著者: 荒井由美子 ,   熊本圭吾 ,   佐々木恵 ,   工藤啓

ページ範囲:P.535 - P.538

 厚生労働省の介護保険事業報告によれば,わが国における要介護高齢者は約400万人にのぼり1),このうち約8割が在宅において介護を受けている.在宅生活が継続されるか否かを規定する重要な要因として,要介護高齢者の心身の健康状態が挙げられるが,それらに強く影響を及ぼしているものとして,在宅ケアの質が考えられる.在宅ケアの主要部分は家族が担っており,これを居宅介護サービスが支援している.したがって,要介護高齢者の在宅生活継続を推進するためには,要介護高齢者の状態,および要介護高齢者が主に家族から受けている在宅ケアの状況を客観的に評価し,その評価に基づき,在宅ケア全体の改善を図っていくことが重要であると考えられる.

 以上の観点から,われわれは,新しい在宅ケアの質評価法(Home Care Quality Assessment Index:以下HCQAI)を開発したので報告する.

特別寄稿

現代の健康問題における安全・安心の設計

著者: 林謙治

ページ範囲:P.539 - P.542

 危険から身を守ることは生き物である以上当然の防衛反応である.太古の昔から人類がサバイバルして来られたのは,まさにこの防御機制のおかげである.防御機制の組織的対応は,現代では「防災」と言っている.文明の黎明期以前では,「危険」の圧倒的多数は天災や外敵であることは想像に難くない.文明の発達により集落・村落から都市へと人口が密集化するにつれ,天災は人災によって被害は増幅され,直接人命に脅威を与えるほか,生活環境の破壊を通してますます大きな健康被害をもたらす.もちろん天災は今でも脅威であり,台風の進路が変えられるわけでもなく,地震がやってくるのを防ぐこともできない.ただ,台風や津波の予報は襲来以前に可能であるので,事前の備えはある程度できるという違いがある.この違いは防災上きわめて重要であることは言うまでもない.

 「現代の健康問題における安全・安心の設計」を考えるときに,次元は異なるがもう1つ見落としてならないのは,社会システムの崩壊によりもたらされる健康被害である.現代社会は生活のあらゆる側面について効率的なシステムを構築してきた.このシステムをわれわれは近代化と呼んでおり,これにほぼ全面的に依存して生活するようになっている.それがゆえに,システムが崩壊したとき,生活への影響は計り知れないほど深刻な事態に陥る.ここではまず,自然災害と環境災害および両者のインターフェースの問題から議論をはじめたい.

連載 21世紀の主役たち・4

アンデスのブタ追い少女 (アンデス・ケロ村)

著者: 関野吉晴

ページ範囲:P.495 - P.495

 アンデスの山深いケロ村に住むファナチャはもうすぐ3歳になる.まだ母乳を飲んでいる.ここでは大きくなるまで母乳を飲んでいる子が多い.もちろん母乳だけで育っているわけではない.ファナチャもほとんど大人と同じ食事も取っている.母親は母乳を与えている間は排卵しないので,いい避妊法なのだ.他に避妊法がないので,こうしなければ毎年のように赤ちゃんが生まれてくる.

 乳飲み子のファナチャにもちゃんと仕事がある.暖かい日差しが射してきた春.草の緑が眩しい.その中で子ブタを追うのが彼女の役割だ.一人前に鞭を巧みに使い,子ブタを追いかける姿から,母親にしがみつきおっぱいを飲んでいる姿は想像がつかない.4,5歳になるとヒツジ,アルパカを追いかける.6,7歳にもなるとリャマ,馬をたくみに管理し,乗馬もできるようになる.

Health for All―尾身茂WHOをゆく・26

急逝

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.498 - P.499

 李鍾郁WHO本部事務局長が急逝した.世界保健総会開催の当日の朝だった.WHOは突然,指導力のある優れたリーダーを失った.

 今回は鳥インフルエンザについて書く予定だったが急遽変更し,この訃報について話そう.

感染症実地疫学・7

WHOでの活動から示唆されるもの

著者: 砂川富正

ページ範囲:P.543 - P.547

 1997年より,国立感染症研究所感染症情報センターからWHO(世界保健機関)の感染症流行および汎流行に対する警戒および対応部(EPR1): Epidemic and Pandemic Alert and Response注))への職員派遣が継続されている.4人目の派遣者として,また初の国立感染症研究所FETP(感染症実地疫学専門家養成プログラム:Field Epidemiology Training Program)修了者として,2005年6月に筆者はWHO本部に赴いた.EPR部門においては,ヨーロッパ全体の実地疫学専門家養成プログラムであるEPIET(European Programme for Intervention Epidemiology Training)を中心として,多くの実地疫学専門家育成プログラム出身者が活動しており(私信では2006年4月現在でEPR部内のEPIET出身者は10名前後),世界の感染症対策の中軸を担っている.またWHO本部のみならず,フィリピンのマニラにあるWHO西太平洋地域事務所(WPRO: Western Pacific Ocean Region Office)CSR部門に対しては,2003年より2006年3月末まで,現役の国立感染症研究所FETP研修員が約2か月単位の交代制で派遣され,同地域におけるSARS(重症呼吸器感染症症候群)や鳥インフルエンザを始めとする新興・再興感染症発生のモニタリングに当たってきた.

 どのような活動が行われているのか,活動における実地疫学の役割とは何か,そして,そこから国内の感染症対策について示唆される点は何か.本稿においては,WHO本部におけるEPR部門を中心として,FETP修了者として見た場合のWHOにおける活動について述べてみたい.

精神医療ユーザーが語る・7 自分史①

自分の半生を振り返り(上)

著者: 中城アトム

ページ範囲:P.548 - P.550

本文献は都合により閲覧が許可されていません

エイズ対策を評価する・7

エイズをめぐる非営利組織の活動と課題(上)

著者: 岩室紳也 ,   池上千寿子 ,   伊藤聡子 ,   稲垣智一 ,   上野泰弘

ページ範囲:P.551 - P.556

岩室(司会) 私はこの連載を通して,様々な問題ごとに改めて「エイズ」について学ばせていただいています.今回はNPO・NGOをテーマに,NPO法人ぷれいす東京の代表である池上さんと,NPOに様々な角度から関わってこられた日本国際交流センターの伊藤さんに,日本におけるNPOの現状と今後の展望についてお話を伺えればと思います.

 まず池上さんとHIV/AIDSの関わりを教えていただけますか.

衛生行政キーワード・21

自殺対策

著者: 黒木識敬

ページ範囲:P.558 - P.561

 わが国における自殺による死亡数は,警察庁によれば,平成9年まで2万5千人前後で推移していたが,平成10年には3万人を超え,その後も横ばいの状態である.わが国の人口10万人当たりの自殺死亡率は25.3人(平成16年)であり,欧米の先進諸国と比較すると高率である(人口10万人当たりフランス17.5人,アメリカ合衆国10.4人,イタリア7.1人).また,自殺未遂は既遂の10倍以上あると言われており,また自殺や自殺未遂により,遺族や友人など周囲の少なくとも数人が深刻な心理的影響を受けるとされていることから,全国で毎年,百数十万人の人々が自殺問題に苦しんでいることになる.

 このように,自殺は,身近に存在し得る問題で,社会的にも大きな損失である.このため,効果的な自殺予防対策を実施することは緊急の課題となっている.

赤いコートの女―女性ホームレス物語・23

ゆっくりと振り返るとき

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.562 - P.564

平沢さんの仕事が見つかった!

 波さんを側面から支援し続けている平沢さんの就職活動は続いていた.失業状態が続き,簡易宿所に宿泊し,生活保護費を受給していた.頸椎症に苦しんではいたが,軽い労働なら体のためにも良いと医師の診断を得ていた.そこで平沢さんは,シルバーセンターに就職の相談に行き,事情を担当の人に話したところ,清掃の仕事を紹介してもらったのだ.

 「朝6時から3時間の清掃の仕事が見つかったよ.明日から働きに行くんだ」

資料

住民主体の健康増進活動の形成―長野県「八千穂村」における実践から

著者: 三浦利子 ,   菊池みずほ ,   杉田淳平 ,   中山大輔 ,   小林栄子 ,   西垣良夫 ,   杉山章子

ページ範囲:P.565 - P.569

 長野県東部に位置する人口5,000人弱の八千穂村(2005年3月に佐久町と合併して佐久穂町となったが,本稿では,旧八千穂村を八千穂村と記す)は,全国でも先駆的な取り組みとして,1959(昭和34)年に「全村健康管理」を開始した.健康管理は,地域の諸機関と連携しながら(図1),健康診断と健康教育を組み合わせて実施され,がまんしたり気づかなかったりして村民の中に潜在していた疾病を発見して早期治療に結びつけるとともに,疾病の予防に必要な知識や生活改善方法を示して,住民の健康意欲の向上を目指した.

 行政と専門機関によって開始された事業は,40年以上経過した現在,住民による自主的な活動を生み出しながら定着している.

 本稿では,健康管理事業の展開の中で誕生したさまざまな住民による活動のうち,栄養改善に取り組んだグループに着目し,その形成・発展過程の調査・分析を通して,住民主体の活動を可能にする要件について考察した.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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