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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生70巻8号

2006年08月発行

雑誌目次

特集 子どもを守る

「乳児死亡率ゼロ」から「子どもを守る」まで

著者: 加藤則子

ページ範囲:P.578 - P.583

 現在わが国で子どもが安全に産み育てられているかということは,その切り口により様々な議論があろう.乳児死亡率が世界最低であることは評価されることであるが,一方で小児医療の供給は多くの問題をはらみ,子どもの犯罪被害が多発する状況をかんがみると,子どもが十分に守られているとは言いがたい.本稿ではこれらの現状について概観し,子どもの健やかな成長のあり方を見直してゆきたい.

児童虐待

著者: 中板育美

ページ範囲:P.584 - P.587

 児童虐待は,人々の心のありようと関係性にまつわる個別の課題であると同時に,日本の文化や歴史,経済不況などの世相も影響する社会病理の側面もある.最悪の場合は死に至る.たとえ死は免れても,外傷や心の傷を癒し,世代間連鎖を断ち切るまでの道のりには,多くの関係者のエネルギーと知恵と技術を要す.さらに親族や関係者の心的ストレスを加味すれば,その社会的コストは膨大である.

 そこで公衆衛生の役割を考えると,個々への対応を重ねることから有効な戦略を見出し,それらをヒントに発生予防からケア・リハビリ,次世代の発生予防までを包括的に捉えたサービス提供システムを,地域らしく実行できる仕組みに整えていくことである.

少年事件と児童精神医学

著者: 山崎晃資

ページ範囲:P.588 - P.591

 平成9年,神戸市で中学3年生男子による小学生連続殺傷事件,いわゆる「酒鬼薔薇聖斗」事件が起きた.阪神淡路大震災の傷跡が癒えぬ神戸市でのあまりに猟奇的な犯行は,世間を震撼させた.その後も少年事件が相次いで起きており,さまざまな憶測が飛び交っている.

 例えば,「長崎男児誘拐殺人事件」(2003年7月,中学1年生の男児が4歳の男の子を立体駐車場のビルから突き落として殺害した),「河内長野市家族殺傷事件」(2003年11月,18歳の男子大学1年生が家族を包丁で刺し,母親は死亡し,父親と弟は重症を負った.家族を殺して交際中の女子高校1年生と一緒に暮らそうと考えたという),「東京都少女監禁事件」(24歳の男性がチャットで知り合った18歳の女性を3か月以上監禁し,2005年5月に逮捕された),「山口県高校爆破事件」(2005年6月,高校3年男子生徒が自作の爆弾を教室に投げ込み,58人が重軽傷を負った.いじめられたことを恨みに思ったという),「母親毒殺未遂事件」(2005年10月,高校1年女子生徒が母親に毒物を飲ませて殺害しようとした疑いで逮捕された),「秋田小1男児殺害事件」[2006年5月,小学校1年生の男児が町営団地で行方不明となり,翌日,6km離れた河沿いの草むらで遺体が発見された.4月に水死体で発見された女児(9歳)が「事故死」として扱われた近所の女性が容疑者として逮捕された]などが次々と起きている.

 これらの少年事件をみていると,子どもが加害者であることもあり,被害者であることもある.さらには加害者も被害者も子どもである場合がある.誰しもがすべての子どもの幸せを希求しているが,現代社会には子どもたちを犯罪に巻き込む環境的要因が氾濫している.

 最近,政府による「少年非行対策のための提案」,東京都による「子どもを犯罪に巻き込まないための方策」が相次いで緊急提言された.わが国の将来を担うべき子どもたちの健全な育成をいかに実効性をもって行うことができるかが,厳しく問われている.

 本稿では児童精神科医の立場から,少年事件に関連する諸問題を整理してみたい.

入院中の子どもを守る

著者: 佐藤牧人

ページ範囲:P.592 - P.595

 本年1月,仙台市内の病院の産科病棟において新生児誘拐事件が発生した.幸い事件発生後50時間後に児は無事保護されたが,社会とりわけ医療関係者に強い衝撃を与えた.過去にも1993年の鳥取市や2001年の米子市など,医療機関からの乳児連れ去り事件は発生しており,防犯対策の重要性の認識とあり方が改めて問われている.

福山市の子どもの安全対策

著者: 浜田公一朗

ページ範囲:P.596 - P.598

 福山市は,広島県の東部に位置し,北は神石高原町,西は府中市,尾道市と接し,東は岡山県笠岡市,井原市と接する面積約518km2,人口約47万人の都市です.瀬戸内海の温暖な気候と瀬戸内海国立公園をはじめとする海・山・川の豊かな自然と恵みを受け,住みやすい環境にあります.

 また,万葉の昔から潮待ちの港として有名な鞆の浦や,福山城をはじめとする多様な歴史と文化,ばらのまちづくり,さらには,特色ある技術やノウハウを持つオンリーワン・ナンバーワン企業が数多く立地し,琴,履物,備後絣など伝統的な地場産業を有するなど,豊富な資源に恵まれているまちです.

子どもを犯罪被害から守るための活動とマニュアルについて

著者: 新治博

ページ範囲:P.599 - P.603

 子どもを取り巻く今日の環境は,本当に厳しいものがある.昨年・一昨年末,通学路等において小学校低学年等の幼い子どもが命を奪われるという痛ましい事件が相次いで発生,保護者はもちろん,地域の大人も大きな悲しみと衝撃を受けた.また,本年3月にも,川崎市のマンションで15階通路から小学生が投げ落とされ死亡するという,子どもを被害者とする犯罪が発生した.動機や背景が不可解な事件でもあり,保護者や近隣住民を不安や恐怖に陥れた.

 これまで日本は安全で治安の良い国と言われてきたが,13歳未満の子どもの犯罪被害件数は昨年1年間で3万4千件を超え,そのうち0~5歳の被害件数は504件と,平成8年の272件と比較して急増している注1).犯罪の検挙率の低下や凶悪犯罪の発生などが危ぶまれる中,全国的に通学路や児童公園などにも防犯カメラを設置,犯罪防止や犯人の検挙に役立てようという動きも見られる.実際,川崎市で発生した事件では,防犯カメラの映像や写真が,早期の犯人逮捕に役立ったと言われている.

 犯罪者は,住民の視線を嫌うと言われる.この意味で子どもを犯罪被害から守るためには,防犯・監視カメラ等の物的設備を活用した対策も必要だが,直接的な人間の目の見守りによる死角をなくす取り組みが欠かせない.地域環境や子どもたちの日常の生活実態を踏まえた,具体的・意図的な取り組みが求められている.

子どもを不慮の事故から守る

著者: 山中龍宏

ページ範囲:P.604 - P.609

事故による傷害(Injury)とは

 事故とは,「予期せざる外的要因が短時間作用し,人体に障害を与えたり,正常な生理機能の維持に悪影響を及ぼすものをいう」と定義されている.

 「事故」を意味する英語として,以前はaccidentという語が使用されていたが,最近ではinjuryという語が使用されるようになった.accidentには「避けることができない,運命的なもの」という意味が含まれている.現在,「事故」は科学的に分析し,対策を講じれば「予防することが可能である」という考え方が一般的となり,injuryという語を使用することがすすめられている.

子どもを守る―国際的課題

著者: 中村安秀

ページ範囲:P.610 - P.614

子どもの権利条約

 健康と人権の問題(Health and human right)は,先進国および途上国を問わず,最も重要かつ解決が困難な課題の1つである.子どもの人権に関して,1989年国際連合の総会で採択された「子どもの権利条約」(the Convention on the Rights of the Child)が,世界中で適応されている最も基本的な原則である1).2005年現在,アメリカ合衆国とソマリアを除く世界192か国で締結されている.この「子どもの権利条約」は54条から構成されているが,その趣旨はSurvival(生存),Development(発達),Protection(保護),Participation(参加)の4つに集約することができる.

 世界最高水準の乳児死亡率を誇る日本は,子どもの生存と発達という課題に関しては十分な成果を収めてきた.しかし,児童虐待や無国籍児の存在など「子どもの保護」に関しては多くの課題が山積し,教育現場での意見表明権や健康や疾病に関する知る権利など「子どもの参加」に関しては,非常に不十分な状況にあると言わざるを得ない.

視点

「風」を読む

著者: 稲葉静代

ページ範囲:P.574 - P.575

 「公衆衛生」という分野に,もう少し多くの医師が関心を寄せてくれると嬉しいのですが,ドラマチックでもないしお金が儲かるわけでもないので,人手不足だけれど「誰にでもお勧めできるものでもないなぁ」というのが率直なところです.今までの自分を振り返って,公衆衛生医師について感じたことを述べさせていただきます.

特別記事

[鼎談]障害の子どもをもつお母さんからのメッセージ(上)―座間市「キャラバン隊」の活動から見えること

著者: 標美奈子 ,   幸田啓子 ,   敷島文

ページ範囲:P.616 - P.620

標(司会) 障害があっても,地域の中で安心して生活できる,それは誰もが願うことだと思います.しかしその実現には,まだ多くの課題が残されているのではないでしょうか.生まれながらにして障害をもった場合,診断を受けて必要な医療や療育に結びつけば問題が解決するわけでなく,生涯を通した継続的なサポートが必要になってきます.しかし現状では,障害をもつ子どもさんのケアの多くが,家族の手にゆだねられていると言っても過言ではありません.保健・医療・福祉に携わる専門職は,障害をもって生活している人や家族の生活の現実に向き合い,何が必要かを考えていくことが求められます.

 本日は,障害をもつ子どもさんの母親の立場から,障害についての理解を広めるユニークな活動を展開中の,座間市手をつなぐ育成会の「キャラバン隊」の幸田さん,敷島さんお2人においでいただきました.お2人には,今までの子育て経験とキャラバン隊の活動についてお話を聞いていきたいと思います.まずは自己紹介からお願いします.

連載 21世紀の主役たち・5

大人に媚びない子どもたち(ヒマラヤ・サルダン村)

著者: 関野吉晴

ページ範囲:P.573 - P.573

 チベット高原に近い,ヒマラヤ奥地に4か月滞在した.サルダンという村では村を一望できる高台に大きなテントを張った.テントを張った場所は隣村に行く者,ヤクやヤギ,ヒツジの放牧に行く者,燃料の薪やヤク糞を集めに行く者の通り道になっている.毎朝テントの横を通る10歳ほどの男の子がいた.歌を歌いながらニコニコして通り過ぎていく.彼はいつも仕事を持っている.家畜の放牧かヤク糞拾いが彼の仕事だ.自分の家の用事ではなく,近くの家でバイトを頼まれるのだ.

 バイトが終わるとご褒美に,ソバ粉で作った砂糖の入っていないパンケーキや,麦焦がしのような麦を炒って粉にしたツァンパをもらう.スポーツドリンクをあげると,本当に嬉しそうな表情をして,ちびりちびり飲んでいた.

感染症実地疫学・8

市中におけるSalmonella Enteritidis感染症集団発生―長い潜伏期が問題となった事例

著者: 松井珠乃

ページ範囲:P.621 - P.624

 日本においてサルモネラは食中毒を起こす主要な病原体であり,血清型としては,Salmonella Enteritidis(以下SE)が多く分離される傾向にある1).また,SEによる集団食中毒においては,原因食品に鶏卵が使用されている事例が多いが,乾燥に強い菌の性状から環境に残存したSEによる食品の二次汚染も,重要な発生要因の1つと考えられている1).サルモネラ症の潜伏期は6~48時間,通常12時間と言われている2)

 2001年に発生したSE感染症の集団発生事例について,以下に,われわれFETP(Field Epidemiology Training Program:実地疫学専門家養成コース)が通常行っている,集団発生調査の際の基本ステップに沿った形式で,事例調査の主要部分について解説してみたい.この事例については,最終的には症例のうち最も多くを占めた集団については原因が判明したが,潜伏期が3~16日(中央値8日)と極めて長いものであったことも調査が難しかった1つの理由であった.なお,事例の詳細,事後の対応については,参考文献3~6)に掲載されているのであわせてご参照いただきたい.

精神医療ユーザーが語る・8 自分史①

自分の半生を振り返り(下)

著者: 中城アトム

ページ範囲:P.625 - P.628

本文献は都合により閲覧が許可されていません

エイズ対策を評価する・8

NPOと営利企業の非営利活動(下)

著者: 岩室紳也 ,   池上千寿子 ,   稲垣智一 ,   伊藤聡子 ,   上野泰弘

ページ範囲:P.629 - P.634

当事者のニーズに応える活動

岩室 当事者参加でどのような変化が生まれましたか.

池上 私たちが最初に当事者参加で行った研究が陽性告知です.それまでは,告知をする側が「こういう告知をしています」,という研究だけだった.「告知を受けた側は一体告知をどう受け取ったのだろう」という研究はなかったんです.HIV陽性の人に研究班に入ってもらって,質問紙を作成しました.「どういう言葉で書いてあったら答えやすく正直に回答できるか」,「何で年収,学歴が必要なんだろうね」,などといろいろ語りながら.調査に参加してくれた陽性の方々が言っていたのは,「学会間近になると主治医の先生から,質問紙に『答えてくれ』と頼まれる.でもその結果,この調査結果が自分にどう返ってくるのか全くわかりません.先生は学会に行っちゃって休診なんですよ(笑).ああいうのはもうたくさん」と.

統合化を模索する国際保健医療政策・1【新連載】

統合化を進める国際保健医療の政策

著者: 湯浅資之 ,   中原俊隆

ページ範囲:P.635 - P.638

 地球上では,世界人口の6%に満たない人々が世界の60%の富を所有し,20%の貧しい人々が僅か2%の富を分かち合っているという1).こうした著しい貧富の格差を背景に,少なくとも世界人口の6~7割に相当する40億もの人々は,貧困であるが故に近代医療の恩恵に浴することができず,その多くの者は人類がすでに勝ち得た知恵や技術によって十分に治療あるいは予防可能な疾患で命を落としている.既知の知恵や技術をいかに経済的に貧しい人々へ効果的に提供できるかを考えることは,人類に課せられた責務であろう.

性のヘルスプロモーション・9

[インタビュー]射精障害

著者: 岡田弘 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.639 - P.644

近年,射精障害が増えている!

岩室 今回のゲストは私と同じ泌尿器科医でもある岡田弘先生です.連載タイトル「性のヘルスプロモーション」にぴったりのお話を伺えると確信しております.岡田先生のご専門は男性不妊症で,男性不妊とは,私が医師になった頃は,精子の数が少ない,運動率が悪いといったことが注目されていたのですが,近年は射精障害,そもそもセックスができない,腟内射精ができないという患者が増えているとお聞きしました.どこかおかしいのではないか,育ってきた環境に問題があるのではないかと思ったわけです.

岡田 今おっしゃったように,私が男性不妊を専門にし始めた25年くらい前は,精子の数が少ない,運動性が悪い,精路が詰まって精液の中に精子がいないという人がほとんどでした.たまに射精障害の患者がいると,精液が外尿道口から排出されず,膀胱へと逆行する逆行性射精で,射精障害を主訴にして来る患者さんはほとんどいませんでした.現在も,男性側に因子があろうが,女性側に因子があろうが,不妊症はほとんどが婦人科,しかも体外受精をするクリニックでなければ患者さんは集まらない.私のような男性不妊を真面目に時間かけてやっている医師は,全国で20人程です.男側の受け皿が世の中にほとんどありませんが,この10年で射精障害の患者さんが明らかに増えてきました.患者が来るようになったのかもしれないし,実際に患者数が増えたのかもしれない.これはわかりません.

衛生行政キーワード・22

厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針について

著者: 吉川展代

ページ範囲:P.646 - P.647

基本指針策定の背景および経緯

 実験動物に関して,「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和48年法律第105号,以下「動物愛護管理法」という)および「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」(平成18年環境省告示第88号)において,動物愛護および管理の観点に基づく実験動物の取り扱い等が規定されている.一方,動物実験を適正に行うという観点から,日本学術会議が「動物実験ガイドラインの策定について」(昭和55年)を勧告し,文部省(当時)が所管の機関に対して「大学等における動物実験について」(昭和62年文部省学術国際局長通知)を通知している.これらの法令等を踏まえ,動物実験を実施する機関等(以下「実施機関」という)は,各実施機関において規程や動物実験委員会等の整備を行うなど,自主管理に基づく適正な動物実験の実施を図ってきた.自主管理方式は自由闊達な科学研究を促進する一方で,外部から動物実験の実態が見えにくく,動物実験が適切に行われていないのではないかとの疑念を抱かれることもあった.

 このようなわが国の動物実験の状況等を踏まえ,日本学術会議において,平成16年に「動物実験に対する社会的理解を促進するために(提言)」が報告され,この中で,①国内で統一された動物実験ガイドラインの制定,②自主管理の客観性と透明性の確保のための第三者的立場による評価の必要性が提言されている.

赤いコートの女―女性ホームレス物語・24・最終回

明日へ

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.648 - P.651

 「子どもを殺してしまった」と波さんはよく言うようになった.平沢さんにも,「自分は子どもを殺してしまった」と言っている.それが本当のことなのか幻覚によるものなのか,真実はわからない.

 男親は自分の子どもに,親としての責任をしっかり取らなければならないという思いを彼女は強く持っている.それ故に今回の女児の出産については,父親のわからない子どもを産んでしまったというやりきれない思いがあり,その現実から逃れたいという気持ちを波さんは隠さない.子育てのできない自分の姿を客観的に見ている.「私には子育てはできない」と言う波さんの真意は,複雑で目を覆いたくなるような現実なのだろう.波さんの理性は常に絶やさない笑顔の下で,揺れ動いていた.

フォーラム

過大視されるリスクと過小視されるリスク

著者: 西澤真理子

ページ範囲:P.652 - P.657

広がる不安と予防原則

 「失敗に対する事前の保証がないのであれば危険を冒さない(“no trial without prior guarantees against error”)1)」.これは予防原則の核となる考え方のひとつである.予防原則(precautionary principle)とは,未知のリスクを未然に防ぐ,もしくは軽減するための,いわば法的なバリアである.潜在的リスクを科学的な根拠から推測し,法的な方向から抑制をかけることで,われわれの社会,環境,健康を守るわけである.現在,科学・技術関連の多くのリスクマネジメント分野で注目を浴びている.

 戦後,科学が急速に発展し,その技術の応用で社会が発達,その利便性を享受してきたのが現代社会である.その一方,科学・技術の発展の副産物としての環境問題,健康問題が世間の注目を浴び,科学・技術そのものに現代社会は疑いの目を向けるようになった.それが予防原則の登場してきた大きな背景である2).ダイオキシン,環境ホルモン,遺伝子組み換え作物,いわゆる狂牛病(BSE: bovine spongiform encephalopathy)や電磁波の健康被害が世間で騒がれると,メディアは「危ない」情報を発信し,市民社会は政府や業界に対し,予防原則など,「後悔するより安全(better safe than sorry)」の概念に基づいた,倫理的に担保される方策を求めてきた.日本で予防原則という言葉が頻繁に聞かれるようになったのは1998年前後であるが,いわゆるダイオキシン騒動の頃と重なる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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