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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生71巻1号

2007年01月発行

雑誌目次

特集 がん対策・1

フリーアクセス

ページ範囲:P.5 - P.5

 がんは1981年以降,日本人の死因の第1位を占めています.2005年の死亡者数は32万5千人を超え,過去最多を更新しましたが,より有効な対策がとられない限り,がん死亡は今後も増加を続けると推定されています.

 そこで,厚生労働省と文部科学省との合意に基づく「第3次対がん10か年総合戦略」(2005~2014年)が示され,がんの基礎研究,予防および医療の総合的な推進に全力で取り組んでいくことが確認されました.さらに2006年の通常国会(第164回)では,与党と民主党の議員からそれぞれ提出された「がん対策基本法案」が一本化され,がん対策に取り組む国の責務等を定めた「基本法」が,同年6月に成立しました.

新たな公衆衛生の地平としてのがん対策

著者: 上田博三

ページ範囲:P.6 - P.10

はじめに

 がん対策については,がん医療などに対する国民の関心の高まりを受け,厚生労働省に平成17年5月にがん対策推進本部が設置され,さらに昨年6月には議員立法によりがん対策基本法が制定されるなど,最近のがん対策の進展には目を見張るものがある.

 本稿では,最近のがんを取り巻く状況を整理するとともに,これからのがん対策が新しい公衆衛生の地平を示すものとして展望する.

がん診療連携拠点病院制度について

著者: 厚生労働省健康局総務課がん対策推進室

ページ範囲:P.11 - P.15

経緯

 わが国において,がんによる死亡は昭和56年以降死因の第1位を占めており,国民にとっても重要な健康課題となっている.このため平成13年度より豊かで活力ある長寿社会を目指して開始されたメディカル・フロンティア戦略の中で,質の高いがん医療の全国的な均てんのため,臨床研究等を推進するとともに,地域におけるがん診療連携を推進するための拠点病院を設ける等の施策を実施すべきとされた.特にこの拠点病院の在り方については,検討会を経て,平成13年より「地域がん診療拠点病院」として指定されることになった.

 その後,平成15年7月25日に文部科学大臣,厚生労働大臣の合意により,がんの罹患率と死亡率の激減を目指した平成16年度から平成25年度までの国の大規模プロジェクトとして,「第3次対がん10か年総合戦略」が策定され,「がん研究の推進」,「がん予防の推進」,「がん医療の向上とそれを支える社会環境の整備」を柱として推進することとされた.特に,がん医療水準の「均てん化」(全国どこでもがんの標準的な専門医療を受けられるよう,医療技術等の格差の是正を図ること)などにより,がんの罹患率と死亡率の激減を目指すこととされ,こうしたがん医療水準の均てん化に向けた取り組みを推進することは,政府のみならず,医療関係者や研究者,教育機関等が一丸となって取り組むべき重要な課題として掲げられた.

がん予防の推進

1.生活習慣改善によるがん予防の可能性

著者: 津金昌一郎

ページ範囲:P.16 - P.21

がん予防の可能性

 がんの発生予防がどの程度可能であるかを知るには,歴史的な経緯や移民における変化が参考になる.日本の胃がんの年齢調整罹患率と死亡率を男女各々についてプロットしてみると,データが利用可能な1975年以降,罹患率は一貫して減少傾向にあり,その結果として,死亡率も平行して減少傾向にあることがわかる(図1左).このような胃がん罹患率と死亡率の減少傾向は,日本のみならず米国においても同様であり(図1右),かつては胃がんは頻度の多いがんの1つであったものが,現在では,稀ながんになりつつある.

 この傾向は,さらにEU諸国においても同様で,1950年代に最も頻度の多かった胃がん死亡率は減少の一途をたどっており,年齢調整死亡率は現在では男女共に1/3以下になっている.米国やEU諸国では,胃がん検診は実施されておらず,また,胃がんの5年生存率も低いままである.また,ヘリコバクター・ピロリ菌の医療としての除菌が実施されてきた訳でもない.

2.がん予防研究に関する最新情報とその活用

著者: 山口直人

ページ範囲:P.22 - P.26

がん予防研究の過去・現在・未来

 わが国における部位別がん死亡率は時代とともに変化を続け,かつては男女とも死因の1位を占めていた胃がんは,男では肺がん,女では大腸がんに1位の座を譲った.

 さて,がん予防研究はどのような役割を果たし得たか,まずは胃がん死亡率の減少に1次予防が果たした役割を考察したい.そこから,これからのがん予防研究のあり方についての示唆が得られればとの願いからである.

がん登録の意義と課題

1.がん登録の意義とその有効活用例

著者: 祖父江友孝

ページ範囲:P.27 - P.30

はじめに

 「がん対策基本法」の成立により,わが国においても国および都道府県レベルで,がん対策に取り組む方向性が明文化された.諸外国を見ても,国が主体となってがん対策に取り組むことにより,すでにがん死亡率の減少などの大きな成果を上げつつある国がある.

 WHOも国家的がん対策プログラム(National Cancer Control Programme)の推進を提唱している.その目的とするところは,第一に,がんの罹患率と死亡率を減少させることであり,第二に,がん患者とその家族のQOL(quality of life)を向上させることである.予防・早期発見・診断・治療・緩和ケアからなる一連のがん対策において,証拠に基づいた戦略を系統的にかつ公平に実行し,限られた資源を効率よく最大限に活用することにより,上記2つの目的を達成させることが,その内容である.

 こうした考えの背景には,がんという疾患が不治の病ではなく,ある程度コントロール可能になったという認識がある.現在の知識を駆使すれば,がんの1/3は予防可能,さらに1/3は早期発見により救命可能,残り1/3は,適切な治療とケアによりQOL向上可能である.具体的には,たばこ対策,がん検診,医療の質の均てん化が対策の柱となり,これらを系統的かつ公平に実行し,限られた資源をいかに効率よく活用できるかがポイントになる.しかるに現況では,組織・機器・情報が多様化する一方で,相互の連携が希薄化しており,類似した組織・計画・施設の重複,類似分野で異なる規準など,資源を有効かつ効率的に利用できているとは言い難い.国・地域・組織の様々なレベルで,関係機関・関係者が統合された意思のもとに活動を進める必要があり,そのための枠組みが,国を単位としたがん対策プログラムである.

 このがん対策を正しく方向付けるには,がんの実態を正確に把握する必要がある.がん登録はがんの実態を把握するための中心的な役割を果たし,がん対策を実施する上で必須の仕組みである.逆に,がん対策を実施しないのであれば,がん登録を強力に整備する必要はない.

2.地域がん登録の制度化に向けた諸課題

著者: 丸山英二

ページ範囲:P.31 - P.35

地域がん登録

 地域がん登録は「特定の人口集団におけるがん患者のすべてを把握し,罹患から治癒もしくは死亡に至る全経過の情報を集め,保管,整理,解析すること」をその内容とする.がんの死亡数は,厚生労働省が行う人口動態調査からも判明するが,がんの罹患数,罹患率,生存率などは地域がん登録があってはじめて把握できる.したがって,がん登録は,がんの罹患の減少,治療成績の向上のためになされる対がん活動の評価に不可欠なものである.他方,がん登録における情報入手は,①医療機関においてがんと診断された患者について医療機関から届けられる届出票,②死亡届に添付される死亡診断書等に基づく死亡(小)票・死亡情報の保健所等からの入手,③がん患者の生死の把握のために市区町村役場で行われる住民票照会,などによっている.これらは,がんの病名告知が完全には実現されていないこともあって,患者の認識なく行われており,法的・生命倫理的観点からいうと,個人情報保護の点で問題をはらんでいる.

がん告知後の患者への支援―がん検診機関の保健師によるコミュニケーションスキルを用いた支援プログラムとその効果の検討

著者: 福井小紀子

ページ範囲:P.36 - P.39

 がん対策基本法が制定された今,がん告知後の患者への支援体制を全国的に整備していくことは,今後ますます重要となる.しかし現状は,がん告知後の患者への支援は,わが国に限らず欧米においても十分に行われていないことが指摘されている1).なかでもがん検診機関においては,がんの診断・告知後に,次の段階となる治療への継続的な支援を行い,がんの2次予防につなげていくことは,1次予防と同様に重要な課題となる.

 筆者らは,2002~2005年度までの4年間,がん検診機関にて,がん告知後の患者への支援体制の強化を図るために,がん検診に携わる職域の保健師を対象としたコミュニケーションスキルトレーニングプログラムの作成と,その教育効果の検討,およびEvidence-Based Public Healthの視点から,この教育を受けた保健師による,患者のQOLにおける支援の効果について,無作為化比較試験にて検討する研究活動を展開してきた.

 本稿ではこれらの活動内容について報告する.

市民活動によるがん対策の推進―市民グループ「イデアフォー」の活動

著者: 中澤幾子

ページ範囲:P.40 - P.42

市民グループ「イデアフォー」とは

 1989年の日本では,乳がんは乳房を全部切る手術がほとんどでした.乳房の一部だけを切除する「乳房温存療法」の実施率は5%ほどでしかなく,その情報も本当に少なかったのです.そんな状況の中,情報を集め,納得した上で,自分で温存療法を選択した患者が中心となって発足したのが「イデアフォー」です.

 その頃すでに欧米では標準治療として確立されていた「乳房温存療法」が,日本では患者に知らされることがほとんどありませんでした.乳房を残しても生存率が切除の場合と変わらないという情報があれば,より小さく切って後遺症も少ない方法を選ぶ患者はもっともっと多かったのではないでしょうか.複数の治療法を示すことなく,一方的に医師が治療法を決めるのは当たり前と,患者側も思わされていたのです.

視点

「健康投資」予防と地域医療の連携に向けて

著者: 武見敬三

ページ範囲:P.2 - P.3

 21世紀は予防医学の世紀と言われている.しかし,日本人の生活習慣は反対に悪くなっている.厚生労働省では,国民の健康増進を図るため「健康日本21」計画を作成し,各種健康増進施策を進めているが,肥満者の増加,朝食を欠食する児童の増加,1日に歩く歩数の減少等の生活習慣の悪化が指摘されている.平成9年と平成14年に実施された糖尿病実態調査の結果でも,5年間で有病者・予備群が1,370万人から1,620万人へと,250万人も大きく増加している.

特別記事

[新春対談]「若月俊一先生」を語る

著者: 大谷藤郎 ,   松島松翠

ページ範囲:P.43 - P.48

 2006年8月22日,佐久総合病院名誉総長の若月俊一先生が逝去された.「農村医学の父」と呼ばれた若月先生は,私たちにいったい何を残してくれたのか.長年親交の深かった大谷藤郎先生と松島松翠先生が,若月先生の生き様を語ります.

 

出会い

大谷 今日は,松島先生と私が今まで見てきた若月俊一先生の生き様を通じて,後世,つまり若い人たちに若月先生はどういうメッセージを残したかったのか,それを浮かび上がらせるような対談にしたいと思います.

 まず,松島先生が佐久病院へ行くことになった動機とは何ですか.

松島 私は大学を卒業して1年して,昭和28年6月に東大分院外科に入局しました.その時はまだ若月先生のことも,若月先生が同じ医局のメンバーだということも,佐久病院も知らなかったのです.たまたま当直中に医局に『健康な村』(岩波書店,昭和28年)という本があるのを見つけました.著者に若月俊一とあり,目次を見ると,農村の「農繁期のむり」「はえやしらみをなくそう」「村の伝染病」「家庭薬とおまじない」「はらの虫退治」などいろいろ載っているわけです.面白そうだなと思ってページをめくったら,なかなかわかりやすく,やさしく書いてある.その当時,大学で1年ぐらいしますと外の病院に2年ぐらい行くことになるのですが,私はこのことが頭にあったものですから,佐久病院を希望しました.そこで初めて,昭和29年の4月,佐久病院で若月先生と出会ったのです.

トピックス 禁煙治療最前線④

諸外国における禁煙治療サービスの実際―イギリスと香港の場合

著者: 守田貴子 ,   中村正和 ,   大島明

ページ範囲:P.49 - P.52

はじめに

 2004年度から厚生労働科学研究費補助金第3次対がん総合戦略研究事業の「効果的な禁煙支援法の開発と普及のための制度化に関する研究」(主任研究者:大島明,大阪府立成人病センター調査部長)の分担研究課題として,わが国での「医療の場における効果的な禁煙治療法の普及のための制度化に関する研究」(分担研究者:中村正和,大阪府立健康科学センター健康生活推進部長)を実施している.本研究の一環として,禁煙治療の効果的かつ効率的な普及方策について検討するため,諸外国における禁煙治療サービスの制度化の内容やその効果について国際比較研究を行っているが,すでに禁煙治療に対し,保険給付等による費用補助が制度として実施されているイギリス,香港,台湾,韓国などを中心に,調査票による調査,関連文献のレビューやホームページ,海外研究者との情報交換により情報を収集中である.

 調査対象としている国々の中で,アジア諸国の中で最初に禁煙治療の公的サービスを2002年より開始した香港と,1999年に世界に先駆けて公的保険の下で禁煙治療サービスを開始したイギリスに関しては,実際に現地を訪れ,禁煙サービスを行っている代表的な施設見学の他,政府関係者やサービス実施にあたって中心的な役割を果たしてきた研究者や臨床家らと意見交換を行った.

 本稿では,これらの調査結果を踏まえ,イギリスと香港における禁煙治療の実際について,その概要を紹介する.

連載 愛を伝える人たち・1【新連載】

お母さんと初めて歌う歌は「ぶあぶあぶあ」

著者: 東野洋子

ページ範囲:P.73 - P.76

 それは,とても美しい光景でした.

 競技場のスタンドを埋めた2万5千人の観衆,彼らが見つめるグラウンドには,若いダンサーおよそ2,000人がひとつの大きな輪をつくっていました.輪の中には,のじぎくの花を手に,笑顔で応えている全国からやって来られた5,000人のアスリートたち.車イスに乗っている人,盲導犬・介助犬をともにしている人,ダウン症や自閉症の人たち,手や腕を失った人もおられる.

 2006年10月,秋晴れの神戸.「全国障がい者スポーツ大会・開会式」のフィナーレで,アスリートたちを歓迎して歌うダンサーたちの歌声に,スタンドの万人の歌声が重なっていきました.

 ♪ありがとう この気持ちを きみに 伝えよう ありがとう ありがとう 大切な人へ……♪

 大会テーマソング“きみに伝えたい”のリフレインワード「ありがとう」を会場の3万人が1つになって歌う一瞬.万人の人々の歌声に気持ちがふわっと重なって,心が重なっていくような感じがして,目の前の何もかもが自然に美しく感じられた……そんなひとときでした.スタンドの風は東から西へ吹いて,日差しはやわらかで,人はみな和んでいるのが伝わってきました.

21世紀の主役たち・10

シルクロードの踊り子 (新疆ウイグル自治区)

著者: 関野吉晴

ページ範囲:P.1 - P.1

 モンゴルから中国に入ると,そこはウイグル族の土地,新疆ウイグル自治区だ.シルクロードの中でも最もシルクロードらしいところでもある.ポプラ並木があちこちにあり,シルクロードの面影の残るハミの町はハミ瓜で有名なところだ.そこで友人のムハムトさんの自宅に招待された.ウイグル人が最も好む羊の料理をご馳走してもらえるという.「ウップケヘス」と呼ばれる羊の肺を使った珍しい料理を作ることになった.切り取った肺を丁寧に膨らませ,その中に水で溶いた小麦粉を入れて煮込んだものだ.食べてみると,まるで甘みを抜いたウイロウのような食感で,肺を食べているという感じがしなかった.

 ウイグル人は長寿が多い.アハムトさんのお祖母さんも102歳だという.「1回笑うと,寿命が延びる」というウイグルのことわざを教えてもらった.そういうお祖母さん自身,長く生きてきて,今が一番幸せだとニコニコしている.周りにはいつも孫や曾孫たちが付きまとっている.

感染症実地疫学・13

アウトブレイク:院内感染(2) セラチア

著者: 田中毅

ページ範囲:P.53 - P.56

 Serratia marcescens(以下,セラチア)は,非病原性の細菌と考えられていたが,現在では院内感染の主要な原因とされている.セラチアは通常,気道,尿路に定着し,重症化すると敗血症に移行する1,2)

 本事例は,ある脳外科病院でのセラチアの集団発生で,元気な患者が突然,敗血症を発症する特異なものだった.

 本稿ではField Epidemiology Training Program(FETP:実地疫学専門家養成コース)的手法3)により,院内感染を調査して原因を除去し,将来の再発を防止するための提言を行うまでの過程を記述する.

エイズ対策を評価する・13

わが国におけるエイズ対策(下)

著者: 関山昌人 ,   稲垣智一 ,   川口竜助 ,   上野泰弘

ページ範囲:P.57 - P.60

コンドームは重要.

コミュニケーションが必要

関山 今回予防対策において,興味深い議論が出てきました.コンドームは重要.ただし,セックス自体,これはコミュニケーションの1つの形態であるとみなせるというわけです.青少年に対してコミュニケーション能力をきちんとつけていく.それは家庭でも学校教育の中でもやる.一義的には親がきちんとやらなくてはいけない,そういうことが今回のエイズ予防指針の中で議論されました.

稲垣(司会) そこのところがわからなくて.私,コンドーム一辺倒のエイズ教育って見たことないんです.コンドーム一辺倒のエイズ教育があるとして,それを批判しているような記述なのですが,そんなものどこにあったんだろうという….

石川中央保健所「健康しかけ人」レポート・5

「安心安全」な高齢者福祉施設をめざして―施設職員と一緒に作った高齢者連絡会

著者: 塚田久恵

ページ範囲:P.61 - P.66

高齢者福祉施設にもっと目を向けよう!

 人口の高齢化に伴い,当管内では,65歳以上の約5%の方が介護保険施設に入所しています.これら高齢者福祉施設では,利用者の安心安全を確保することが基本であり,事故防止対策を中心とした安全管理体制の確立が急務となっています.

 当保健所では,これまで高齢者福祉施設に対しては,主に感染症対策の立場から関わってきました.しかし,平成17年度から安全対策も含め,「高齢者福祉施設全体のレベルアップ」を地域の重要課題と考え,保健所業務として本格的に関わることにしました.本稿では,当所の高齢者福祉施設への関わりがどのように進展していったのか,紹介させていただきたいと思います.

統合化を模索する国際保健医療政策・6

結核に対する関心を惹きつける保健医療政策(DOTS)

著者: 湯浅資之 ,   加藤誠也 ,   中原俊隆

ページ範囲:P.67 - P.72

 重要であるにもかかわらず,結核対策ほど人々の関・心・に大きく影響された保健医療政策は他にないのではなかろうか.先進国では結核がすでに制圧された疾患であるとの誤解から,結核に対する関心が急速に薄れ,結核対策は置き去りにされてきた.途上国でも結核は公衆衛生上重要な問題にもかかわらず,人々の関心は低く,対策は放置され続けてきた.

 今日,世論に結核対策の重要性を喚起し,人々の関心を結核に向けさせようと奮闘している国際保健医療政策がある.DOTS(ドッツ)戦略がそれである.本稿では,過去から現在に至る結核対策を辿る中で,DOTS戦略が生み出されてきた来歴を概観し,現在世界の多くの国で展開されているDOTS戦略の現状を紹介したい.

衛生行政キーワード・27

医療観察法と現在の施行状況について

著者: 佐藤拓

ページ範囲:P.77 - P.79

 「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下,医療観察法という)は,心神喪失等の状態で殺人,放火等の重大な他害行為を行った者に対し,継続的かつ適切な医療ならびにその確保のための必要な観察および指導を行うこと.またそれによって,病状の改善および病状の悪化による同様な行為の再発防止を図り,その社会復帰を促進するよう対象者の処遇を決定するための手続き等を定めたものである.平成17年7月に法は施行され,すでに1年以上が経過した.

 本稿ではこの法律の成立への流れ,これまでの精神保健福祉法下での問題点,医療観察法の要点とポイント,医療観察法の施行状況,精神保健医療福祉施策の中での医療観察法の役割について述べさせていただく.

資料

車椅子利用者にとって望ましい病院環境を整備するための基礎的研究

著者: 木戸雅人 ,   一杉正仁 ,   横山朋子 ,   本澤養樹 ,   由布哲夫 ,   丹羽宗弘 ,   徳留省悟

ページ範囲:P.80 - P.83

緒言

 わが国では年々高齢化が進み,2003年には65歳以上の人口が約2,431万人と,国民の20%を占める1).また,2005年度版の「障害者白書」によると,2001年の「身体障害児・者実態調査」による在宅者数および,2000年の「社会福祉施設等調査」による施設入所者数をあわせた身体障害者数は351万6千人と,国民の約5%を占め,その数は増加傾向にある2).高齢者や身体障害者の中には,移動を目的とした補装具として車椅子を利用する人がおり,車椅子利用者は年々増加していると言えよう.

 近年わが国では,公共施設を中心にバリアフリー化が進められている.1994年には,「高齢者・身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律:ハートビル法」が,2000年には,「高齢者・身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律:交通バリアフリー法」が制定された.このような社会の変貌とともに,車椅子利用者は,より快適に公共施設や交通機関を利用ができるようになった.

「公衆衛生」書評

無名の語り―保健師が「家族」に出会う12の物語 フリーアクセス

著者: 上木隆人

ページ範囲:P.52 - P.52

地域保健活動の醍醐味を伝える一冊

 本書は,事例を通して語られる保健師活動の“ドキュメンタリー,記録”である.

 きっと本書ほど多くの人にインパクトを与える本は,他の分野を見てもそうはないだろう.第1話を読んだだけでも,保健師という職種の特徴がわかりやすいし,「保健師って,こんな仕事の仕方をするんだ」と感嘆してしまうことだろう.保健師の活動は行政の中でも意外と理解されず,「地域の中にのめり込んでいて見えない」とよく言われていた.また一般にも知られず,看護師と同じように思われている.これは大変残念なことであるが,本書では,保健師が行う住民への療養支援活動や地域組織活動が,事例を通して大変わかりやすく語られている.

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あとがき フリーアクセス

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.86 - P.86

 2007年の『公衆衛生』誌は,「がん対策」で幕開けです.幅広い対策を含み,新たな法制度のもとで大きな進展が期待される分野ですので,来月号を含めて2回にわたる特集となります.今回は,本年4月から施行の「がん対策基本法」の趣旨と関連施策,基本法で重視している患者の視点からの活動の一端,およびがんの1次予防に関する最新の情報などについて,国内の第一人者の方々から解説と提言をいただきました.地方行政で仕事をする者にとっては,今後の実務の参考になる論文ばかりです.

 特集論文の中でも繰り返し紹介されていますが,かつての日本で最も多いがんは「胃がん」でした.しかし,この半世紀のうちに胃がんは大きく減少しました.胃がん死亡率の減少要因と各要因の貢献度について,大学の講義で医学・看護学生に毎年質問しておりますが,ほぼ例外なく,(1)胃検診の普及による早期発見の効果,(2)手術等の治療技術の進歩,(3)食生活の変化(減塩など)の3つが回答され,貢献度は(1)>(2)>(3)と答える学生が多いのが実情です.実際は1次予防(→罹患率の減少)の貢献度が最も大きく,それを促進する環境面(冷蔵庫の普及等)の貢献も大きいことを伝えていますが,これを証明するには「地域がん登録」による罹患率の分析が不可欠です.がん登録に関する早期の法制化が望まれるところです.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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