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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生71巻10号

2007年10月発行

文献概要

特集 感染症の危機管理―関連法規改正後の新たな展開

改正感染症法に基づく結核対策の課題と展望

著者: 森亨1

所属機関: 1国立感染症研究所ハンセン病研究センター

ページ範囲:P.831 - P.835

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 1999年の「結核緊急事態宣言」以来の見直しを経て,2005年には結核予防法大幅改正が行われた.そしてその施行段階で浮上した問題から,急遽結核予防法の感染症法への統合が提起され,2007年から施行の運びになった.結核予防法改正は,いわば低蔓延状況への技術的対応を縦糸に,人権や地方自治,EBM等の理念を横糸にするものであったが,それの重要性は感染症への統合においても変わらない.むしろ,改正感染症法には,急性感染症を主たる対象としてきた感染症法の中に,これと対応のかなり異なる(登録や患者管理,定期検診などといったユニークな事業を含んだ)旧結核予防法の規定がかなりの部分そのまま取り込まれており,その意味ではこれまでと比べて大きな変化はないとも言える.しかし,結核予防法廃止前後からのいくつかの問題を契機として,法の運用に関する新規の規定や未確定の問題が種々顕在化しており,それらへの現場の対応如何によっては,結核対策の大きな障害となる可能性もある.

 今後の結核対策の重い視点を2つ挙げるならば,①感染症としての結核への対応の強化,②健康格差対策,であろう.①は当然と思われるかもしれないが,これまでの日本の結核対策では,伝統的に健康問題としてあまりにも大き過ぎるという観念から見失われがちな点であった.今回の感染症法との統合では,それが形式的にも明確になったことは(強制力などの次元でではなく),統合のメリットと言える.その具体的な事業の柱は,(ⅰ)日本版DOTSによる確実・良質な医療の確保(これによる患者QOLの改善,感染機会の低減,多剤耐性結核の予防)であり,(ⅱ)接触者健診と化学予防の強化,である.

 本稿では(ⅱ)は次章に譲り,(ⅰ)を中心に紙幅の限度内で議論したい.

参考文献

1) Nakatani H, Fujii N, Mori T, Hoshino H:Epidemiological transition of tuberculosis and future agenda of control in Japan;Results of the Ad-Hoc National Survey of Tuberculosis 2000. International J Tuberc Lung Dis 6(3):198-207, 2002
2) 星野斉之,菅原勇,大森正子・他:病理剖検輯報を用いた近年(1999-2004)の結核死亡例の診断制度の検討.結核82(3):165-171,2007
3) 日本結核病学会予防委員会・有限責任中間法人日本リウマチ学会:さらに積極的な化学予防の実施について(平成17年2月1日).結核79(12):747-748,2004
4) 日本結核病学会治療・予防・社会保険合同委員会:結核の入院と退院の基準に関する見解(平成17年1月).結核80(4):389-390,2005
5) 独立行政法人国立病院機構:結核患者の退院基準と見解(平成17年2月)
6) 日本結核病学会治療・予防・社会保険合同委員会:厚生労働省結核感染症課通知「結核予防法第29条第1項の規定に基づく入所命令等に関する取扱基準について」に関する意見.平成17年6月.結核80(5):433-434,2005
7) 厚生労働省健康局結核感染症課:平成12年度結核緊急実態調査報告書,2001
8) International Standards for Tuberculosis Care(ISTC). The Hague, Tuberculosis Coalition for Technical Assistance, 2006
9) 厚生省保健医療局結核感染症課長通知:結核対策の推進強化について.健感発第0220001号,平成15年2月21日
10) 日本結核病学会保健・看護委員会:院内DOTS2002ガイドライン.結核79:689-692,2004
11) 厚生省保健医療局長:結核患者収容モデル事業実施要領の一部改正について.健医発第1565号,平成11年11月16日
12) American Thoracic Society/Centers for Disease Control and Prevention:Infectious Diseases Society of America;Treatment of Tuberculosis. Am J Respir Critical Care Med 167:603-662, 2003
13) 御手洗聡:結核菌検査とくに薬剤感受性検査の信頼性に関する研究.厚生科学研究費補助金新興・再興感染症研究事業「小児結核及び多剤耐性結核の予防,診断,治療における技術開発に関する研究」(主任研究者/森亨)平成15年度研究報告書(日本結核病学会菌検査法委員会との共同研究).pp164-190,2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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