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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生71巻12号

2007年12月発行

文献概要

視点

公衆衛生への視座

著者: 谷畑健生1

所属機関: 1厚生労働省国立保健医療科学院疫学部

ページ範囲:P.966 - P.967

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共同幻想と国

 吉本隆明(作家吉本ばななの父,詩人,思想家)によれば,「共同幻想というのは,個体としての人間の心的な世界と心的な世界が作り出した以外のすべての観念世界を意味している.いいかえれば,人間が個体としてではなく,何らかの共同性としてこの世界と関係する観念のあり方のことを指している」としている.さらに共同幻想を構成するものに「対幻想」がある.対幻想というのは,1つの激しく対立する1つのペアを担った幻想である.例えば男と女がそれである.男と女は単に解剖学的に違っており,男は子どもを生めない等全く異なるだけのことが,「男は力」とか「魅惑の女」とか形容詞がつくことによって,哺乳類の男と女は現実から遊離し,「男はこんなものよ」「女はこうあるべきだ」というような対立する幻想:対幻想を含む共同幻想が出現する.わかりやすく言うと「男女の恋愛」は対幻想であり,時々血みどろの現実が生まれたりする.

 日本人は,霞ヶ関という地域一帯を,「国」という実体があるものとして捉えてきた.霞ヶ関に林立するビルで,夜夜中,明け方まで働いている人々(国家公務員が多くを占める)が居る一帯だけなのに,「国」という共同幻想が,あたかも霞ヶ関にあるかのように捉え続けてきた.日本人がここ:霞ヶ関に「国」があるとしてきたので,「国」という「共同幻想」がそこ:霞ヶ関で成長してきた.

参考文献

1) 吉本隆明:共同幻想論.河出書房新社,1968
2) 吉本隆明:言語にとって美とは何かⅠ.角川文庫,2001
3) 吉本龍明:ハイ・イメージ論.ちくま学芸文庫,2003

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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