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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生71巻2号

2007年02月発行

雑誌目次

特集 がん対策・2

フリーアクセス

ページ範囲:P.93 - P.93

 「がん対策基本法」が2006年6月に成立し,2007年4月に施行されますが,新時代の対がん総合戦略の本格化を前に,前号と本号の2回にわたって,多角的な視点から「がん対策」を取り上げてみました.

 わが国では,世界的に最も多くの種類のがん検診が,公共政策の一環として実施されています.しかし,自治体の財政難の影響で,その費用対効果を含めた評価の視点が重要となっています.そこで本号では,最近のがんの罹患状況や疫学的特徴,および各種がん検診の有効性の評価に関する最新の研究成果を踏まえながら,より効果的・効率的ながん検診の実施に向けた見直しの方向性を学びたいと考えました.また,PET(Positron Emission Tomography)などの新しい検査法を応用したがん検診の問題点や,将来性,がん検診を含めたがん対策の経済学的評価についての概説もお願いしました.

がん検診の現状と課題―有効性・受診率・がん対策基本法

著者: 坪野吉孝

ページ範囲:P.94 - P.96

 公的施策として実施するがん検診の目的は,個人に対するがんの早期発見と早期治療により予後を改善することを通して,対象集団全体の当該がん死亡率を低下させることにある.この目的を実現するためには,次の3点を確保することが必要になる.

 ①死亡率減少効果が確認された検診を行い,効果がないか未確認の検診は行わない(有効性のアセスメントの問題).

がん検診の新手法に関する展望

1.新しい診断機器のがん検診への応用とその将来性

著者: 寺内隆司

ページ範囲:P.97 - P.99

 近年,診断機器の発達は目を見張るものがあり,それらの診断機器は臨床応用され,診療において多くの成果を上げている.現在,わが国においては,それらの最新の診断機器をがん検診に応用する施設が増加している.

 例えば,高分解能CTを用いた肺がん検診,FDG(18Fフルオロキシデオキシグルコース)-PET(Positron emission tomography:陽電子放射断層撮影)を用いた全身のがん検診,MRIの拡散強調画像を用いた全身のがん検診などがあるが,なかでもFDG-PETを用いたがん検診施設は増加が著しく,社会現象とも言えるような状況になっている.

2.バイオテクノロジーのがん検診への応用とその将来性

著者: 尾野雅哉 ,   本田一文 ,   山田哲司

ページ範囲:P.100 - P.102

 効率のよいがん検診は,がんを早期に発見することにより,がんを治癒せしめ,がんの死亡率を激減させることができるという議論のもとに,世界的に積極的な取り組みがなされている.日本では,国立がんセンターが中心となって,科学的根拠に基づいたがん検診のガイドライン1,2)を作成している(http://canscreen.ncc.go.jp/).またアメリカではNIHが中心となって,2015年を目標に早期の段階でがんを発見する方法を確立するためのプログラムを推進している(http://edrn.nci.nih.gov/).

 効率のよいがん検診を行うには,多くの人が定期的に検診を受けることが重要で,検査は受けやすく,網羅性のあるものでなければならない.大腸がんでは,便潜血という非侵襲的な検査でスクリーニングを行い,陽性群に大腸内視鏡検査を行うことでがん検診の有用性を確立している1)が,このように,侵襲の少ない方法で危険群を絞り込み精密検査に至る方法をすべてのがんに応用するためには,網羅的なスクリーニング法の開発が必要である.

がん対策と経済学

1.米国における保険者のがん検診サービスの枠組みに関する調査―経営的視点に焦点を当てて

著者: 大重賢治 ,   岡本直幸 ,   水嶋春朔

ページ範囲:P.103 - P.107

 わが国においては,早期発見・早期治療を行う目的で,公的な保健事業として各種のがん検診が実施されてきた.公的な事業として行われる以上,その支出に見合うだけの効果が得られているかを評価することは重要なことである.

 保健事業の経済的評価の手法としては,費用効果分析,費用便益分析などがあり1~4),多くの研究にて活用されている.がん検診の場合,「効果」の指標は,がん検診を行うことによって獲得された余命年数(life-year saved)や質調整生存年数(quality-adjusted life years)であり5~7),「便益」の指標は,がん検診に対して住民が支払っても良いと考える(willingness-to-pay)金額の総和となる8~10).すなわち,がん検診を経済学的に評価するためには,がん検診の「効果」や「便益」を数・値・で表すことが基本条件となる.しかしながら,これらを定量的に示すことが難しいこともあって,わが国においては,がん検診の経済的評価はまだ十分になされていないのが現状である.

2.がん医療の経済的評価

著者: 濃沼信夫

ページ範囲:P.108 - P.112

医療の経済分析

 医療の経済的評価は,ミクロの臨床判断とマクロの政策決定とにおいて,今や欠かせない視点である.前者は,異なる治療法の優劣を,費用効果分析,費用便益分析,費用効用分析,費用最小化分析などの分析手法で比較するもので,臨床的評価と併せて,治療方針の決定に用いられる.

 また後者は,資源投入の妥当性,医療費の節減効果,資源確保に向けた社会的合意などを検討するもので,政策の立案や総括に用いられる.根拠をもった政策(EBP)の展開が求められる昨今,その必要性が広く認識されるようになっている.

発がんリスクの評価と今後の対策

1.微生物感染による発がんのリスクと対策

著者: 神田忠仁 ,   森清一郎

ページ範囲:P.113 - P.116

 子宮頸がん,肝臓がん,胃がん,成人T細胞白血病等は,ウイルスや細菌の持続感染が原因となる.感染発がんは,原因となる微生物感染の予防や感染した微生物の排除で,発がんリスクを低減できる.感染予防ワクチンの開発や感染経路の遮断が試みられている.

2.環境化学物質の曝露による発がんのリスクと対策

著者: 内山巌雄

ページ範囲:P.117 - P.121

 私たちの身の周りには,化学製品があふれており,その主な原料となっている化学物質は約5万種にも及ぶ.これらの多種多様な化学物質のうち,数百種類が環境中に測定できる濃度になっており,影響にいき値がないと考えられる発がん性物質も含まれていることから,環境中の汚染物質による発がんのリスク評価と,被害の未然防止の対策が求められている.発がん物質の評価には,安全か危険かの二分法ではなく,「リスク」の概念に基づいたリスク評価が行われる.リスク評価は,わが国では基準や指針値等の策定に利用され,その役割はますます重要になっている.また最近問題が再燃したアスベストのリスク評価も課題となっている.このような環境中,特に大気中の有害化学物質のリスクとその対策について考えてみたい.

がん患者の緩和ケア・QOL

1.がん緩和医療の現状と将来展望

著者: 江口研二

ページ範囲:P.122 - P.127

 2006年,国会において,がん対策推進法が成立し,がんの緩和医療の質の向上とその普及が国策として展開される社会情勢になってきた.本稿では,本邦でのがん緩和医療の課題と今後の方向について,学会の動向などにも言及しながら総論的に解説する.

2.がん緩和ケアに関する地域ネットワークモデルの構築

著者: 鈴木志津枝 ,   弘末美佐

ページ範囲:P.128 - P.132

 近年,終末期がん患者のQuality of Life(QOL)の観点から,終末期がん患者の在宅ケアは重視され,その実現に向けて努力が続けられている.しかし,「介護してくれる家族への負担」や「急変したときの対応が不安」などの理由1)から,終末期がん患者の在宅療養への移行や継続が困難となることが多い.終末期がん患者が住みなれた自宅でその人らしく生き,残された時間を有意義に過ごしていくためには,在宅ケアに移行後も継ぎ目なく緩和ケアを提供する必要がある.それでは,どのような条件を整え,どのように人材育成を進めていけば,継ぎ目のない在宅緩和ケアを提供できるのだろうか.

 そこで本稿において,①在宅ケアに移行後も継ぎ目なく緩和ケアを提供するための条件,②緩和ケア・在宅緩和ケアを普及するための地域在宅緩和ケア教育ネットワークの構築,の2つの視点から述べていきたい.

視点

東京都の公衆衛生医師確保の現状と課題

著者: 住友眞佐美

ページ範囲:P.88 - P.89

 保健所等に勤務する公衆衛生医師の確保は,多くの自治体では困難な状況である.インターネットで検索してみると,様々な自治体から「公衆衛生医師募集」のメッセージが掲載されている.東京都でも常に公衆衛生医師に欠員が生じている状況である.

 本稿では,東京都内の保健所・保健相談所等の保健機関に勤務する公衆衛生医師の充足状況の推移等を踏まえて,今後の公衆衛生医師の確保・定着に向けた育成のあり方について考えてみたい.

特別記事

[鼎談]死にゆく人の地域在宅ケアを考える

著者: 林謙治 ,   岡部健 ,   蛭田みどり

ページ範囲:P.134 - P.139

林(司会) 本日は,終末期医療を中心とされているお立場で,仙台市でクリニックを運営されている岡部先生と,東京都小平市で訪問看護の仕事をされている蛭田さんにお越しいただきました.死にゆく人の地域在宅ケアについて考えていきたいと思います.

 

延命医療中止事件が起きた背景

林 マスコミでも終末期医療の話が誌面を賑わしていますが,最近の出来事としては,厚生労働省から終末期の医療ガイドラインが発表されました.それに続き,日本集中治療学会からもガイドラインの更新,おそらく近いうちに日本救急医療学会からも出てくるかと思います.一方では,富山県射水市民病院からも終末期の方針が発表され,富山県の県立病院としてのガイドラインが発表される予定です.そのような一連の動きを踏まえ,まず延命医療中止事件の背景からお話しいただけますでしょうか.

岡部 まず,死の多様化が前提にあります.昭和20年代,在宅死率が90%だったのですが,延命技術が進歩し,医療技術をどこまで行うか,選択の必要性が生まれてきました.延命技術の選択肢が増えた現代では,方法論で言えば事前死決定しかありません.しかし,人間の死というのは縄文時代の5000年前,いや,それ以前からずっと続いてきたことで,死の多様性が生まれてきたのは,わずか戦後60年の話です.すると,この問題を医療的な判断だけに終わらせて本当にいいのでしょうか.緩和医療,ホスピスケアというのは,本来自然死「Natural dying process」に従うという前提があるわけです.

特別寄稿

日本版パブリックヘルスを求めて(上)―“世間一般”の側から「公衆衛生」を考える

著者: 荘田智彦

ページ範囲:P.140 - P.143

はじめに

 平成18年11月4日,私たちは福岡県久留米市で〈子や孫に安心,安全を〉「11.4市民フォーラムin久留米」という集会を開きました.久留米市は,たまたま平成17年2月の町村合併で30万市民の中核市となって,市が自前の「保健所設置」の必要が出てきたこと,それまで20年以上にわたって23万の人口を擁した旧久留米市が行政保健師はただの2人だけ(「日本一保健師の少ない町」),後の保健事業は医師会が後ろ盾となった任意団体(健推協)に業務委託してきたという特殊事情のあった町で,旧4町が採ってきた通常の保健方式と,合併して久留米市がどんな業務形態をとるのか注目されたのです.私が関わらせていただいた月刊『地域保健』(第37巻第9号,2006年)の江藤市長インタビューで,市の当局が平成19年4月を期して新たに健康公社(「健康づくり財団」)を立ち上げ,その団体に保健業務の全委託する方向で考えているとわかり,新保健所の設置問題と共に市民の生命や健康を守る行政の公的責任,また市民がやるべきことは何か,広く専門家や市民の意見を聞く場を作ろうということで計画されたものです(詳報は次号).保健行政や公衆衛生の専門家の唱導によってではなく,市民の手で企画し,市民のために開かれた「11.4フォーラム」の案内には,こんな呼びかけがありました.

 〈連日のように子どもや高齢者の痛ましい事故・事件が報道され,個人も社会も暮らしにくくなっている昨今です.子や孫や私たちの健康と命を守り,住みよい社会を残していくには,何が必要か,家族や地域で取り組めることはないか,行政の力が必要なことはどんなことなのか,このようなことを中核市を目前にした久留米で考えてみませんか.〉

 私はかねがね一ジャーナリストとして,この「公衆衛生」という分野について,広く世間一般の人が自分たちの問題として「people=public」の生命や健康をどう守るかを考え取り組めるようになることが大事だと思ってきました.毎日報道される教育現場のいじめや自殺,子どもの虐待,後を絶たない飲酒運転の事故,相次ぐ公的施設管理を民間委託して起きた事故,想定外の規模で住民の生命や暮らしを奪う天災(人災)の多発,核燃廃棄物から産廃,生活ゴミまで広がる環境汚染,食中毒,感染症への衛生的対応もあります.一方,エイズやハンセン病,難病・精神患者などへの社会的偏見・差別,格差・使い捨てを認めてしまう社会,人権よりも経済効率と管理社会,職場も学校も家庭も地域社会も,どこにも「安心安全」の拠り所が探せなくなっているというのが,すでに世間一般の感覚として広がっています.

 こうしたもろもろすべてが,私たちの「公衆衛生(パブリックヘルス)」の問題であり,それは日常的に相乗的に複合的に「私たち」を取り囲んでいます.その意味で,このように,市民が同じ市民と(行政主導でなく)自分たちの問題として市民の将来にわたる「安全安心」のあり方を考える呼びかけが始まっていることは,注目していいと思います.

連載 21世紀の主役たち・11

モンゴル草原の少女(モンゴル)

著者: 関野吉晴

ページ範囲:P.87 - P.87

 モンゴルで出会った少女プージェー一家との交流は,特に鮮烈に心に刻み込まれた.おばあちゃんスレンさんの心配りと優しさは心に沁みた.かつて豊かだった草原の遊牧生活への郷愁と,現在の遊牧民の苦しい状況と孫たちの将来について,熱く語ってくれた.苦境の中でも,母親エチデメグネグさんの外来者に対する海のような心の広さは変わらなかった.母親として何でも包み込むような暖かさと温もりがあった.

 家畜泥棒によって盗まれた大切な馬36頭を探すために,着の身着のままで捜索の旅に出かけた.草原の遊牧民には助け合いのネットワークがあるからこそ,そんなことができたのだ.ゲル(円形のテント型住居)があれば必ず泊めてもらえる.それでも人がいなければ寒空の中,コートを羽織っての野宿だった.「辛くなかったですか」と尋ねる私に,「しょうがないでしょう」とさらりと言ってのけた.困難さを避けるのではなく,うまくつきあっていく姿が印象的だった.

Health for All-尾身茂WHOをゆく・27

世界保健機関(WHO)事務局長選挙顚末記・1

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.90 - P.91

 今回から数回にわけて,2006年5月に任期半ばにして急逝されたDr. Lee前世界保健機関(WHO)事務局長の後任選出のために,昨年11月に行われた事務局長選挙についてお話したいと思います.すでに御承知の方々も多くいらっしゃると思いますが,この選挙には,私も日本政府のご推薦をいただき立候補いたしました.残念な結果に終わってしまいましたが,皆様方の中には国際機関の選挙について興味を持っておられる方も少なくないと思います.本誌70巻8号から71巻1号まで休載させていただきましたが,今号から連載を再開し,まず私の選挙戦の顚末を書かせていただくことにいたしました.

感染症実地疫学・14

アウトブレイク:原因不明(1) 「平成16年秋に東北・北陸で発生した原因不明の急性脳症調査」について

著者: 山口亮

ページ範囲:P.144 - P.147

FETPについて

 FETPとはField Epidemiology Training Programのことで,突発的な健康障害が集団発生した場合に,現地で迅速に積極的疫学調査を行うための健康危機管理に対応できる人材の養成が必要とされることから,平成11年から国立感染症研究所に2年間のコースとして開講した研修コースである.私はその6期生として北海道庁から派遣され,平成18年3月に修了させていただいた.この研修には以下の6つの柱があり,これらを世界共通のプログラムにより習得することとなっている.

 (1) 公衆衛生の現場で必要とされる疫学・統計学および関連法規に関する基礎知識

 (2) 感染症危機管理事例発生時の実地疫学調査方法

 (3) 感染症サーベイランスデータの分析・評価方法

 (4) 感染症危機管理に関する情報の還元・発信

 (5) 疫学的・統計学的研究手法

 (6) 感染症危機管理についての教育経験

 (2)の実地疫学調査方法を習得する方法としては,実際の現場での対応による研修(On the Job Training)となっており,具体的には,各都道府県等の自治体からの調査依頼があった際に,国立感染症研究所感染症情報センターの主任研究官とともにFETPが現地に赴き,そこで依頼元の県庁等に協力して実地疫学調査を行うこととしている.

エイズ対策を評価する・14

感染者の生活

著者: 岩室紳也 ,   大石敏寛 ,   稲垣智一 ,   上野泰弘

ページ範囲:P.148 - P.153

岩室(司会) 「エイズ対策の評価」というと,行政や研究者の立場でされることが多いと思いますが,今回はHIVに感染されている立場で活動されてきた大石さんにお話を伺います.

大石 自分がHIVに感染しているとわかったのが,東京都のエイズデーのイベントでした.1990年に1回検査を受けて陰性で,2回目の1991年にもう1回検査を受けて陽性でした.その時代はまだ,患者・感染者というのは目に見えない存在で,メディアで取り上げられるというと,海外の患者・感染者の映像でした.エイズの活動はやっていたのですが,HIVに感染している立場での活動ではなかったので,自分が感染をしたのがわかって,「さて,これからどうしていこうかな」,「どういうふうにエイズの問題と自分の生活とを絡めていこうかな」,と考えていました.

性のヘルスプロモーション・12

性と宗教(上)

著者: 細井保路 ,   古川潤哉 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.154 - P.159

岩室 「体の健康」や「心の健康」については多くの人が当たり前のように取り組むのですが,残念ながら「体」にも「心」にも,そして日常生活にも深く根ざしている「性の健康」については,真剣に取り組む人が少ないという現状があります.そこで,この「性のヘルスプロモーション」というインタビュー連載を通して,少しでも「性の健康(Sexual Health)」を考える人が増えればと思い,2年かけて多くの人にお話を聞かせていただきました.今回は最後のテーマで,宗教家のお二人にお話を伺うわけですが,正直なところ連載が始まった頃に,このような最終回になるとは思ってもいませんでした.

 まず,私と細井神父との出会いですが,横浜で国際エイズ会議が開催された1994年にさかのぼります.その前年のベルリンで開かれた国際エイズ会議に,「エイズアクション」という団体の南定四郎さんが参加され,翌年に開かれる横浜国際エイズ会議と並行して,市民向けフォーラムができないのかと,いろいろなところにあたっていくうちに横浜YMCAにつながり,今年で13回目を迎えた「AIDS文化フォーラムin横浜」が開催される運びとなりました.その第1回目のフォーラムの組織委員会に細井さんがいらしたんですよね.

石川中央保健所「健康しかけ人」レポート・6【最終回】

市町村支援も時代とともに―企画調整課は連携のしかけ人

著者: 川島ひろ子 ,   四方雅代 ,   田中由美

ページ範囲:P.160 - P.164

 「こんなに一生懸命やっているのに,実績を数字で表すことが難しい!」とは,当保健所のM企画調整課長の口ぐせです.企画調整課の役割は,地域のコーディネーターや,しかけ人の役が多いので,地域回りをしたり,電話での調整等,非常に忙しく働いているのですが,母子保健のように「家庭訪問○件」と表すわけにはいきません.おまけに「保健師なのに,デスクにばかりいて訪問に行かないのはおかしい」という妙な発言がどこからか聞こえてくることもあり,「企画調整課の仕事は評価してもらえない」と,ついついグチになるのだと思います.

 しかし,M課長さん,あなたは石川中央保健所の2代目企画調整課長として,初代Y課長から引き継いだものを見事花咲かせたではありませんか.そして数字で表せなくても,いえ,それどころか,形にしたものがたくさんあるではありませんか.特にあなたがやってきた市町村支援で,たくさんの成果が出ていますよ.ほら,一緒に思い出してみましょうよ.

統合化を模索する国際保健医療政策・7【最終回】

公共システムに市場原理を導入した保健医療セクター改革(HSR)

著者: 湯浅資之 ,   中原俊隆

ページ範囲:P.165 - P.168

 「新しいぶどう酒は新しい革袋に入れよ」,これはイエス・キリストの言葉として有名であるが,社会のあり方全般に対しても適用できる名言ではなかろうか.どんな社会制度も時間とともに疲弊する.時代が変わり,新しい社会が生まれれば,古き制度を変革して新しい仕組みを創り出す必要がある.

 人口構成,疾病構造あるいは経済状況における昨今の急速な変化に呼応して,保健医療システムもまた衣替えをしなければならない.時代のこうした要請に応答する戦略が保健医療セクター改革(Health Sector Reform,以下HSR)である.HSRは今日,先進国のみならず多くの途上国でも優先課題として取り上げられ,実施に移されている.

 本連載の最終回となる本稿は,現代という時代の趨勢をよく反映したHSRの基本概念を解説する.そして,本連載のキーワードとしてきた「統合化」の視点からHSRの実践を概観して,まとめとしたい.

愛を伝える人たち・2

「歓喜の歌」を歌いたい

著者: 東野洋子

ページ範囲:P.169 - P.172

自分のことを喜んでくれる仲間に出会って

 結成して25年になる「楽団あぶあぶあ」.私の音楽仲間たちには知的能力やコミュニケーション能力に重いハンディがあります.演奏したい曲を決めると,まず何日も,ときには何か月も,その曲を聴き続けます.踊る人,ジーっと座って聴き入る人,隣の部屋に移って遠くから聴いている人もいます.ダウン症や自閉症のせいでハンディをもつプレーヤーたちは,体でメロディを受け止めていきます.

 結成当初,いよいよ楽器に向かっての練習は,私がそれぞれの家を回っての個人練習から始まりました.「ドはどこ? レはどこ?…」.25年経った今も,新しい曲を始めるときは,一音一音拾っていきます.うまく拾えなくて,1フレーズ4小節に1か月,2か月とかかることもあります.障がいをもつ仲間は5人,その中でも早く上達する人もあれば,なかなか音がつかめない人もいます.早く上達するピアノのトシユキさんが,「カズオくんはどうや(上手になってきたか)?」「うん,ものすごくがんばってるよ」と私.そしてカズオさんに「トシくんが心配してくれてたよ」と彼の意を伝えると,カズオさんは「よーし!」,いよいよ張り切ってマリンバに向かいます.

衛生行政キーワード・28

慢性砒素中毒症

著者: 高岡志帆

ページ範囲:P.173 - P.175

公害健康被害

 公害健康被害とは,公害健康被害の補償等に関する法律(昭和48年10月法律第111号,以下「公健法」という)において,「事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる著しい大気の汚染又は水質の汚濁(水底の底質が悪化することを含む)の影響による健康被害」とされている.

 公健法は,公害健康被害に係る被害者等の迅速かつ公正な保護および健康の確保を図ることを目的として,昭和49年9月から施行され,この制度により,健康被害者に対する補償給付を行っている.制度の対象となる疾病は,気管支ぜん息等のような原因物質と疾病の間に特異的な関係のない疾病と,水俣病,イタイイタイ病,慢性砒素中毒症のような原因物質と疾病の間に特異的関係がある疾病の2種類がある.それぞれ,大気汚染が著しく,その影響による気管支ぜん息等の疾病が多発している地域を第一種地域として指定し,環境汚染が著しく,その影響による特異的疾患が多発している地域を第二種地域として指定している.

資料

産業メンタルヘルスに対する精神科医療機関の取り組みの現状と今後の課題

著者: 臼井卓士 ,   﨑山忍

ページ範囲:P.177 - P.181

 近年,労働者の心の問題の一層の増加が懸念され,心の問題の専門機関としての精神科医療機関の役割が期待されている.

 平成12年に労働省が公表した「職場における労働者の心の健康づくりのための指針」(メンタルヘルス指針)1)によると,事業場のメンタルヘルスケアは,①労働者自身のセルフケア,②ライン(管理監督者)によるケア,③産業医等の事業場内産業保健スタッフによるケア,および④事業場外資源(専門機関)によるケアの4つからなる.特に④においては,専門的な助言や指導を必要とする場合には,事業場外の精神科医療機関によるサービスを活用していくことが期待されていると言えよう.しかし,産業メンタルヘルスに対する精神科医療機関の取り組みや,事業場との連携の実情についての具体的な検討は少ない.

 そこで,事業場と精神科医療機関の連携を進めていく上での課題を明らかにする目的で,三重県内の精神科医療機関を対象に,事業場との連携も含めた産業メンタルヘルスに対する取り組みの現状を調査したので,若干の考察を加えて報告する.

「公衆衛生」書評

社会格差と健康―社会疫学からのアプローチ フリーアクセス

著者: 鏡森定信

ページ範囲:P.133 - P.133

健康な社会への疫学的アプローチの方法の解説と事例の体系的紹介

 本書は,健康に影響する社会的要因を追究することを旗幟鮮明にして集まった「社会疫学」の気鋭の研究者たちが,今後の保健・医療・福祉に係る政策に貢献するとの共通認識のもとに,著者間の連携を密にして分担執筆された,この分野での稀有の成書的労作である.

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あとがき フリーアクセス

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.182 - P.182

 特集「がん対策」の第2弾は,2次予防としての「がん検診」を多角的視点から学べる内容となりました.また,がんの一部は,難治性の慢性感染症としての側面を併せもつこと,がんの1次予防には環境化学物質のリスク評価等の研究成果に基づく新たな環境対策が重要となること,およびがん患者のQOL向上に関する取り組みにもヘルスプロモーションの視点が重要であることなどを学ぶことができました.

 ところで,年頭からの2回にわたる特集は,本年4月1日施行の「がん対策基本法」を意識した企画ですが,同法の条文を読む限り「がん検診の実施に関する責務がどこにあるのか(国か,地方公共団体か,保険者かなど)は明記されていない」という坪野先生のご指摘には,思わず「が・ーん・!」ときました.がん検診は,平成10年度から老人保健法による健康診査の項目から削除され,確かに実施主体が曖昧になっていました.診療報酬引き上げの財源確保のために,がん検診が削除(国庫補助金が一般財源化)されたという当時の噂を思い出しつつ,がん検診の受診率が全国的に伸び悩んでいる(市町村によっては低下している)現状を重ね合わせて考えると,本特集の「がん対策の経済学」を含めた玉稿を,当時の官僚や医療関係者がご覧になっていたら…と悔やまれるところです.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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