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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生71巻3号

2007年03月発行

雑誌目次

特集 メタボリックシンドローム―現状とその課題

メタボリックシンドローム対策と禁煙支援

著者: 大島明

ページ範囲:P.222 - P.226

生活習慣病と生活習慣の現状

 生活習慣病という言葉は,1996年12月,公衆衛生審議会成人病難病対策部会でとりまとめられた意見具申「生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について」の中で,〔昭和30年代に,「主として,脳卒中,がん,心臓病などの40歳前後から死亡率が高くなり,しかも全死因の中でも上位を占め,40~60歳くらいの働き盛りに多い疾病」として行政的に提唱された.「成人病」の発症には,生活習慣が深く関与していることが明らかになっている.これを改善することにより,疾病の発症・進行が予防できるという認識を国民に醸成し,行動に結びつけていくためには,新たに,生活習慣に着目した疾病概念を導入し,特に1次予防対策を強力に推進していくことが肝要である〕として導入された.ここで取り上げられた生活習慣は,食習慣,運動習慣,喫煙,飲酒である.

 2004年の人口動態調査死亡統計から,生活習慣に関連する死因と死亡数(割合)をピックアップすると,がん:320,358人(31.1%),心疾患:159,635人(15.5%),脳血管疾患:129,055人(12.5%),肝疾患:15,885人(1.5%),慢性閉塞性肺疾患:13,444人(1.3%),糖尿病:12,637人(1.2%),高血圧性疾患:5,706人(0.6%)であった.これらの疾患で全死亡の60%超となる.

職域におけるメタボリックシンドローム対策の現状と課題

1.市職員の健康実態から始めたメタボリックシンドローム対策

著者: 小川朋子

ページ範囲:P.214 - P.217

 尼崎市では,職員の現職死亡・長期療養者の減少を目的に,平成12年度から循環器疾患予防対策を強化・実践しているところである.本稿でその経過および現状と,今後の課題について述べる.

2.職域におけるメタボリックシンドローム対策の現状と課題

著者: 五十嵐千代

ページ範囲:P.218 - P.221

 働く人を対象とする産業保健において,現在の課題は,過重労働・メンタルヘルスと並び,生活習慣病が挙げられている.これまでも生活習慣病対策として,その原因となり得る肥満をターゲットにした健康教育や,健康づくり対策,また高血圧・高脂血症・糖尿病などの疾患別の健康教育や健康づくり活動も盛んに行われてきた.

 そのような中,平成20年から義務化される特定健診・保健指導によるメタボリックシンドローム対策は,従来の生活習慣病対策をどのように方向転換していくか,現在,多くの企業が対応に追われている.本稿では,当社におけるメタボリックシンドロームへの対策を中心に,職域におけるメタボリックシンドローム対策の現状と課題について述べることとする.

視点

公衆衛生を楽しむ

著者: 藤井充

ページ範囲:P.184 - P.185

 縁あって厚生労働行政に携わって20年あまりが過ぎた.この歳になると,なかなか自分の思考・行動パターンを変えるのが難しく,日々反省を繰り返している.その中のいくつかについて,自分自身の反省も込めて次代を担う,または担っていこうとする公衆衛生関係者の皆さんの参考になれば幸せだと思い,筆をとってみた.

特別記事

[座談会]学び合う地域保健活動―イギリスと日本

著者: ,   ,   ,   波多野あき子 ,   水野桂子 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.227 - P.234

多田羅(司会) 本日は3名のイギリス・オックスフォードで地域保健に携わっている看護職の方をお招きし,日本からは保健師の波多野さん,衛生研究所技幹の水野さんに参加してもらって,イギリスの地域保健活動の現状をご紹介いただきながら,日本との違い,また日本の良い点,お互いに学ぶべき点などを考えていきたいと思います.まずは,イギリスのオックスフォード市プライマリケア・トラスト(Oxford City Primary Care Trust)から派遣されてお越しいただいたみなさんから,自己紹介とご自身の仕事,また仕事上の課題についてご紹介いただきたいと思います.

特別寄稿

日本版パブリックヘルスを求めて(下)―〈パブリックヘルス〉と明日の社会

著者: 荘田智彦

ページ範囲:P.235 - P.238

“公的責任”と行政の責任

 国政レベルで唱導された「変革の時代」の中身の1つが〈大きな政府から小さな政府へ〉でした.併せて,「地方の時代」と言い「住民主体」や「官民協働」の掛け声も地方政治を席巻していき,権限の委譲や業務委託は保健事業にも及んできました.しかし,かくもやすやすと保健事業の業務委託が民間事業者に配分されていくのも,出すほうも受けるほうも,ことが国民(住民)の安全安心を保障する仕事を公に代行するという自覚はなかったからだと思います.しかし行政がアウトソーシングしても,ことがあればその責任は出した側の首長の責任になります.

 実際,首長インタビューの仕事の期間中も,傍らで,もっとも基本的な住民の生存権に触れる公衆衛生分野でも,公の管理責任を問われる事件や事故が相次いで起こっていました.耐震偽装の建築確認の問題や,港区公営アパートで起きた安全管理の問題,埼玉県ふじみ野市で起きた市営プールの排水口事故など,各地で,インタビュイーと同じ立場の首長さんがテレビカメラの前で,深々と謝罪の首を垂れています.

連載 保健予防事業のアウトソーシング最前線・1【新連載】

連載を始めるにあたって

著者: 山田敦弘

ページ範囲:P.240 - P.241

 平成18年6月の国会にて「健康保険法等の一部を改正する法律」(平成20年4月1日施行)が成立した.これにより,健康保険組合や国民健康保険(市区町村)などの医療保険者の保健サービス実施の義務化が決定した.今回の「健康保険法等の一部を改正する法律」は,医療保険者が40歳以上の被扶養者を含む加入者に対して,糖尿病等に着目した健康診査および保健指導の実施を義務付けたものである.

 この主なねらいの1つは,医療費の増加抑制のための医療費適正化方策と位置づけられている.具体的な数字で説明すると,平成15年度の国民医療31.5億円のうち,約1/3にあたる10.2兆円は,糖尿病(糖尿病合併症を含む),脳血管疾患,虚血性心疾患,悪性新生物,および高血圧性疾患のいわゆる生活習慣病から構成されており,この部分に対する予防を強化することで,医療費の適正化につなげようとするものである(図).

21世紀の主役たち・12【最終回】

ヒマラヤ奥地の少女,ニマ・サンモ(中国国境・ドルポ地方)

著者: 関野吉晴

ページ範囲:P.183 - P.183

 ヒマラヤ奥地,中国国境のドルポ地方に住むニマ・サンモ(8)はよく働く女の子だった.妹のペマ・アンモはサルダンの小学校に行っているし,兄のペマ・ワンジェン(10)はド・タラップの学校に通っている.彼女は家の手伝いをしている.学校側で各家庭1人しか通学を許していないのだ.ニマ・サンモはよく働くがいたずらもひどく,いつも母親に怒鳴られ,尻を叩かれている.私たちのトイレットペーパーを転がしてロールからすべて引きずり出したり,化粧石鹸を石で叩いて変形させてしまったりしていた.

 ヤギ,羊の世話,麦の収穫の手伝い,燃料,肥やしのためのヤク糞集めが主な仕事だ.小学校に行っているペマ・アンモも土曜,日曜には休みなので一緒に働く.一度一緒にヤク糞を集めに行った.小さな身体に比べて大きな籠を背負って落ちているヤク糞を籠に放り込んでいく.先に進めば進むほど籠は重くなり休みが多くなる.荷物を置いて2人で遊び始めたりもする.なかなか前に進まない.重いものを背負っているのでお腹も空く.たびたび2人でしゃがみこみ,袋に詰めたツァンパ(主食の麦こがし)を口に放りこむ.帰りには2人とも籠の中8分目ぐらいまで糞がたまった.とうとうペマ・アンモはしゃがみこみ動けないという.姉のニマ・サンモは妹の糞を自分の籠に移し始めた.2人とも1歩1歩が牛よりのろい.そして5,6mごとにペタンと座り込む.またツァンパを口に放りこむ.まっすぐに往復すれば20分くらいですむところを,3時間もかけてひと仕事終えた.

Health for All-尾身茂WHOをゆく・28

世界保健機関(WHO)事務局長選挙顚末記・2

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.186 - P.187

 前回に引き続き今回も,2006年11月に行われた世界保健機関(WHO)事務局長選挙についてお話ししたいと思います.前回は,私が事務局長選挙立候補に至った経緯から選挙前日までの様子をお伝えいたしました.今回は,3日間にわたって行われた選挙当日の様子についてお話しします.

予備選挙(2006年11月6日)

 まず11人の立候補者を5人に絞る予備選挙のプロセスであるが,各執行理事は5人の候補者に投票でき,5人の候補者に絞られるまで何度も投票が繰り返される.つまり毎回最低得票数の候補者が1人ずつ候補者リストから除外されるのである.候補者の私は選挙会場に入ることは許されないので,ホテルにて携帯電話を介して通報される投票結果を待った.予備選挙における第1回の投票では,11人の候補者の中で,中国1位,2位日本,3位メキシコ,4位スペイン,5位クウェートの順であった.予備選最後の投票では,1位中国31票,2位日本30票であった.この予備選において私は,一度も1位の座を獲得できなかった.われわれにとって意外だったのは,中国に当選して欲しくない国の数が,日本に当選して欲しくない国の数より少なかったことであった.しかし,この時点では,もちろん日本代表団は勝利を確信していた.

感染症実地疫学・15

アウトブレイク:原因不明(2) 大型哺乳動物の死産によって動物園職員で発生した原因不明感染症の集団発生調査

著者: 中島一敏 ,   藤井逸人 ,   多田有希 ,   大山貞明

ページ範囲:P.242 - P.245

 近年,動物由来感染症への公衆衛生学的な関心が高まっている.平成11年に施行された感染症法では,その後の一部改正の際も含めて,動物由来感染症対策が強化されている.動物由来感染症は,感染リスクがよく知られているものも多いが,その一方で,感染リスクがほとんど認識されていないものも少なくない.新興感染症の多くは動物由来感染症であり,感染症危機管理の観点からも重要な分野である.

 平成13年6月,川崎市のA動物園職員にて,不明熱の集団発生が起こった.患者を診察した医療機関では病原体診断がついていなかったものの,短期間のうちに発生したことから,同一の原因による動物由来感染症の可能性が考えられた.

エイズ対策を評価する・15

学校におけるエイズ教育(上)

著者: 岩室紳也 ,   安藤晴敏 ,   阿部真理子 ,   稲垣智一 ,   上野泰弘

ページ範囲:P.246 - P.252

岩室(司会) HIV/AIDS対策では常に「教育に勝るワクチンはない」と言われ続けています.今回は保健体育と養護教諭の高校の先生にお越しいただき,学校現場でのエイズ教育が,どう行われどう変わってきたのか,今,何ができていて何ができていないのか,お話を伺いたいと思っています.

 最初に保健体育の教員としての安藤さんとエイズのかかわりについてお話しいただけますか.

性のヘルスプロモーション・13【最終回】

[インタビュー]性と宗教(下)

著者: 細井保路 ,   古川潤哉 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.253 - P.257

神父という選択

岩室 細井さんはいつから神父になろうと思ったのですか.

細井 洗礼は赤ん坊の時に受けました.教会には外国人の宣教師がいらしたので,自分もそういう仕事をするとは全く考えず,外国からそういう人が来てくれるんだと思っていました.6年生の時に堅信式というものがありました.

愛を伝える人たち・3

やさしさは親譲り

著者: 東野洋子

ページ範囲:P.258 - P.260

あっ,おばあちゃんに聞こえた!

 マリンバ奏者のカズオさんはエンターティナー.オリジナル曲を弾きながら「Come on Baby…」とささやいて,観客を魅了してしまいます.

 25年前,「楽団あぶあぶあ」を始めたばかりの頃,私はカズオさんの家に毎夜のようにマリンバの個人練習のために通っていました.カズオさんはダウン症,当時高校生だった彼は,両親と80歳を超えていたおじいさん夫婦,大学生のお姉さんとの6人暮らし.

衛生行政キーワード・29

ES細胞

著者: 海老名英治

ページ範囲:P.261 - P.262

 ES細胞(本稿では,特にヒト由来のES細胞を中心に記載する)は,脊髄損傷やパーキンソン病等の難病の新たな治療法に道を示すと言われている細胞である.ES細胞は,胚性幹細胞(Embryo Stem cell)の通称であり,「胚」の言葉が示すように生命の萌芽である受精胚を滅失して作成される細胞であるため,医療の新たな展開が期待される一方,その取り扱いに関し,倫理的な配慮が求められている.

 まず,科学的な側面であるが,比較的ヒトES細胞の歴史は浅く,平成10年11月に米国のウィスコンシン州立大学において樹立された(試験管内で長期にわたって性質を安定的維持して培養することが可能な状態で取り出すこと)という論文発表が最初の報告である.また,動物ES細胞では,昭和56年にマウスにおいて細胞株として樹立が報告されたのが最初の報告である.

フォーラム

ヘルスプロモーションの階層化した諸概念―ヘルスプロモーションに関する国際(世界)会議を総括して

著者: 湯浅資之 ,   島内憲夫 ,   中原俊隆

ページ範囲:P.263 - P.268

 プライマリヘルスケアにも似て,ヘルスプロモーション(以下HP)は奥行きの深い概念を有した健康戦略である.その概念を深慮すればするほどに,HPは狭義の公衆衛生戦略という範疇にとどまらず,将来が不確定な21世紀を走り出したわれわれに生き方の指針を示唆しているかのようでさえある.そんなHPの概念形成のイニシアティブをこれまで担ってきたのは,世界保健機関(WHO)のHPに関する国際(世界)会議であった1).HPは斬新な発想と公衆衛生における豊富な挑戦や失敗から学び取った経験則から成り,これらの集積を世界規模で行った国際会議での討議内容は,自ずと先人らの試行錯誤の結晶と言える.

 そこで,本稿はまずオタワ憲章2)に至る経緯と,オタワ憲章からバンコク憲章3)に至る20年間に6回開催されてきたHPに関する国際(世界)会議における討議内容を鳥瞰し,HPの概念が誕生,深化されてきた過程を辿る.後半ではその歴史的足跡を踏まえ,階層化によってHP概念の体系的整理を試みたい.

資料

市町村での普及を目指した「インターネットを活用した健康づくりシステム」の開発

著者: 久保田晃生

ページ範囲:P.269 - P.273

緒言

 日本のインターネット利用者は,7,948万人(2005年3月末現在)で,人口普及率に換算すると62.3%となる1).インターネットの普及に伴い,健康づくりの分野においても,インターネットを活用した取り組みが報告されている2,3).また,静岡県では,健康づくりの行動計画4)の中で,インターネットを活用した健康づくりの展開を記すとともに,静岡県総合健康センター(以下,当センター)に委託し,その推進を図っている5,6)

 しかし,実際にインターネットを活用した健康づくりに取り組む者は,一部の限られた者であり,広く普及されているとは言いがたい.その理由として,インターネットを活用した健康づくりは,非対面式のため相手の実施状況が捉えにくいこと,文字による情報提供には限界があること,個別性に基づく助言が必要であること5,7~9)などが指摘されている.これらを解決する1つの方法として,完全な非対面式ではなく,ある程度対面する機会がある中で,インターネットを活用した健康づくりを進めていくことが必要ではないかと考えられた.

「公衆衛生」書評

地域診断のすすめ方―根拠に基づく生活習慣病対策と評価,第2版 フリーアクセス

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.257 - P.257

 国立保健医療科学院の水嶋春朔先生が,眼からうろこが落ちるような,意欲的な本を出版された.「地域診断のすすめ方―根拠に基づく生活習慣病対策と評価」である.

 「健康日本21」という国民運動が推進されている.平成14年に制定された健康増進法では,その第2条で「国民の責務」ということが言われた.自らの健康状態について自覚し,健康づくりに努めることは,国民の責務とされた.そして,昨年から厚生労働省は,人々の腹囲を主な指標としたメタボリック・シンドローム対策の旗を立ち上げている.まさに国民を主役とする,健康づくりがすすめられている.これらの運動の中で最も強調されているのが,「根拠のある健康づくり」ということであろう.人々は,自分の健康状態や日ごろの生活習慣に即した固有の「根拠」をもとに,自らの健康づくりの目標を定め,設計し,実行しなければならない.だとすれば,このような人々の健康づくりをどのように支え,相談に乗っていくか.どのように根拠を明らかにし,健康づくりに取り組めばいいのか.水嶋先生がこの本によって,その課題に取り組むために必要な基礎的な知識と方法を,詳細に判りやすく示してくれた.

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あとがき フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.274 - P.274

 今月の特集テーマは「メタボリックシンドローム―現状とその課題」でした.公衆衛生の立場から磯博康,岡山明の両先生に,臨床医学の立場から内臓脂肪細胞の生理活性物質研究の第一人者である松澤佑次先生にご解説をいただきました.

 メタボリックシンドロームは,わが国の医療と保険制度に大きな波紋を投げかけています.国民病と言われたかつての結核対策は,研究者,医療者,保険者,保健行政,国民,企業,民間団体など社会をあげたものでありました.メタボリックシンドローム対策を目標とする疾病予防対策は,それに匹敵する社会をあげた対策の様相を呈してきています.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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