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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生71巻4号

2007年04月発行

雑誌目次

特集 過労死・過労自死

フリーアクセス

ページ範囲:P.281 - P.281

 仕事は私たちの人生を幸福にするものでなくてはならないはずです.少なくとも私たちが幸せな人生を送っていくための糧を得るためのもののはずです.しかし,昔から,仕事に伴う健康被害が存在し,これを防ぐことが,労働衛生,産業保健として,公衆衛生の重要なテーマの1つでした.いわゆる労働衛生では,従来,職業病,職場の物理的・化学的環境,現業での事故や中毒といった災害などが対象とされてきました.しかし,これらとは性格の異なる長時間労働や不規則勤務などによる過労が原因となる疾病,死亡の問題が存在しています.

 そして,近年,この労働によって引き起こされる過労の問題が大きくなってきているように思えます.すなわち,バブル崩壊後の不況が続いた中,企業の労働環境は激変し,成果主義の導入による過剰なストレスや,裁量労働制の導入と人員削減によって生じた長時間労働が,労働者の健康に大きな影響を与え,過労死,うつ病や過労自死などの増大を招いていることが指摘されています.

 これは,ごく普通に会社でホワイトカラーとして働いている人が,仕事が原因となって病み,死ぬ可能性のある時代が来ていることを意味していると思えます.さらに現在議論されているホワイトカラー・エグゼンプションが導入されると,今後,この傾向はますます強まると思われます.

 このような状況を検証するとともに,都道府県,市町村の公衆衛生従事者が,産業医,産業保健師と連携して,過重労働による健康被害に対して何ができるかを改めて考えるために本特集を企画しました.

過労死・自殺の予防対策の最近の動向

著者: 上畑鉄之丞

ページ範囲:P.282 - P.287

過労死防止を目的に開設した筆者らのホームページ(http://karoushi.jp/)の相談コーナーには,最近しばしば深刻な現状報告が寄せられる.

 

事例

 1) 29歳男性.9月に転職.現在大手メーカーの工場で経理の仕事をしています.午前9時に出勤.仕事量が多過ぎて処理できないため,帰る時間はほとんど午前1~2時で,毎日の勤務は15時間以上です.平日だけでは仕事が処理できないため,土・日も連続して休日出勤を行っています.11月の文化の日以降は休みなしで働き続けています.1年前に入社した先輩も,1人で処理できない仕事量を与えられ,私同様に残業をし続けています.

雇用と労働の現場で何が起きているか

著者: 森岡孝二

ページ範囲:P.288 - P.292

 本年1月16日,安倍首相はホワイトカラー・エグゼンプション関連法案の通常国会への提出を見送る考えを表明した.ちょうどその頃発売された『読売ウイークリー』1月21日号は,「サラリーマン受難の07年」「“社員いじめ”撃退法」という見出しで,次のように書き出している.

 2007年は会社員たちにとって激変の年になりそうだ.「労働ビッグバン」の名の下に,国や経営側が画策するのは「ホワイトカラー・エグゼンプション」と「解雇の金銭解決」の導入.平たく言えば,「残業ただ働き制度」と「お金で簡単クビ制度」.つまりは経営者に優しい改変の目白押しなのだ.雇われの身とはいえ,こんな理不尽な制度改変を黙って受け入れていいものか.

今,職場で何が起きているか

著者: 川人博 ,   山下敏雅

ページ範囲:P.293 - P.298

過労自殺の実例から

1.中間管理職の遺書

人事部長殿

 だらしない部下をもって本当に申し訳なく思っております.

 期待にこたえるべくガンバリましたが,力及ばずの結果となってしまいました.

 この上は命にかえておわび申し上げますと共に,社長はじめ,人事部,会社の方,組合の方々,関係先の皆さんに深く深くおわび申し上げます.大変な時期にこんな事になり真に申し訳ございません.


 上の遺書は,会社の方針であるリストラ政策を推し進める立場に立たされ,思うように退職者や転勤者を確保できずに悩み追いつめられ,自死したAさんの遺書である1)

 会社経営者が推し進めるリストラ・人員削減政策は,現場で働く人々との間で必然的に摩擦を生む.その結果,人員整理・解雇の対象となった人々はもとより,上記のように,経営者と現場労働者との間に入った多くの中間管理職が,板挟みとなって苦しんでいる.

過重労働による慢性的な疲労・ストレス状態と循環器疾患

著者: 前原直樹

ページ範囲:P.299 - P.301

 長時間残業を続け,休日になっても日々の疲労が回復されず,そのまま翌週の勤務に就く労働者を少なからず見かけるのが今日の労働実態である.一方では,増加し続けている過労死に対する防止策として,慢性的に続く疲労やストレス状態の様相をいかに早く捉えるかということも大きな問題となっている.

 本稿では,職域において慢性的な疲労・ストレス状態と循環器疾患の発症がどのように関連し,推移するのかを,急性冠症候群の事例を通して見てみる.なお,出血型脳血管障害の事例に関しては誌面の都合上,文献1,2)を参考に願いたい.

過重労働による睡眠障害と健康障害

著者: 高橋正也

ページ範囲:P.302 - P.306

 健康に眠れることは私たちの生活のあらゆる面に利益をもたらす.労働者の場合,心身の健康は高まり,生産性が向上する.また,ミスや誤りが少なくなり,安全に働けるようになる.1日の半分以上を仕事に関係して過ごすと考えると,労働の質が良くなれば,生活の質も高まるに違いない1)

 過重労働はいくつもの犠牲の上に成り立っている.その代表が睡眠ではなかろうか.本稿では,過重労働と睡眠との関連を次の2つの視点からとらえる.1つは,労働時間の延長の結果として生じる睡眠不足である.長い労働時間は長い覚醒時間にほぼ等しいので,これは起きている時間の量的変化に関するものである.もう1つは,仕事内容の過密化や職場の心理社会的環境の悪化など,仕事の高負荷による睡眠不全である.これは,いわば起きている時間の質的変化に関係する.以下,それぞれについて,睡眠研究の最新の成果とともに解説する.

過重労働とうつ病,過労自死

著者: 島悟 ,   高野知樹

ページ範囲:P.307 - P.311

 今回の特集のテーマである「過労死,過労自死」は,周知のように最近の話題ではない.今回の特集の執筆者である上畑先生が過労死を提唱したのは,1970年代後半,川人先生が過労自死を提唱したのは1990年代後半のことであり,過労死という用語が提唱されてからすでに数十年という年月が経っているのである.それにもかかわらず,今回こうした特集が組まれること自体非常に残念なことである.この間に多くの人命が失われて,ご遺族が悲しみに明け暮れたわけである.

 いわゆるバブル経済崩壊後は,国家や企業の存亡の危機的状況と喧伝されて,強引なリストラが広範に行われて,一時はリストラを行わない企業や日本的雇用慣習とされてきた年功序列制や終身雇用制を維持する企業は時代遅れとされ,成果主義があたかも時代に合った人事評価制度であるかのように言われて,労働者の健康を守ることなど二の次とされた時代となった.最近では日本版ホワイトカラー・エグゼンプションまで導入されようとしており,過労死・過労自死が一層増えることが懸念される状況にすらある.

過重労働によるうつ病と過労自死の実態―臨床の現場から

著者: 天笠崇

ページ範囲:P.312 - P.315

 街中の精神科クリニックに勤めて5年になる.この間,新患の6割がうつ病を中心にした気分[感情]障害,3割が不安障害,残りがその他の精神および行動の障害であった.患者の過半数は有職者で,多かれ少なかれ過重労働の結果うつ病に罹患したり,うつ病を再発させたりしている.また,1~2か月に1事案のペースで,過重労働による精神疾患・過労自死の労災申請や裁判事例に関わってきた1).以上の臨床経験を基に,本稿テーマの要請に応えていきたい.

職場でのストレスの評価とその対策

著者: 下光輝一

ページ範囲:P.316 - P.320

 厚生労働省が5年ごとに実施している労働者健康状況調査が示すように,働く人々のストレスは,労働者の心や体の健康問題に密接に関係しており,うつ病をはじめとする精神神経疾患による休業や過重労働による過労死,過労自死にもつながることから,職場におけるメンタルへルスの推進やストレス対策が,重要な課題となっている.

 このような状況に対して,労働省(現厚生労働省)は平成12年に「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を打ち出した.この指針は,各事業場において,事業主が,まず最初に心の健康づくり対策を積極的に実施していく方針を表明した後で,心の健康づくり計画を策定し,可能なところから計画を継続的に実施していくよう勧めている.また,心の健康づくり計画を実施するための具体的な方法として,4つのケアを推奨している.すなわち,①セルフケア,②ラインによるケア,③産業保健スタッフ等によるケア,④事業場外資源によるケアである.総合的で効果的なメンタルヘルスの推進やストレス対策を行うためには,これら4つのケアがそれぞれ単独で行われるのではなく,相互に密接に連携しながら実施されていくことが重要であり,また,これらのケアを円滑に進めていくためには,職場におけるストレスの測定・評価がしっかりなされていることが必須である.

地域保健と産業保健との連携によるうつ病対策「自殺防止プロジェクト」

著者: 中島修 ,   早川和男

ページ範囲:P.321 - P.322

 自殺予防には医学的な対策のみならず,雇用対策,保健福祉施策の検討など,多岐にわたる取り組みが必要である.西多摩保健所では,自殺予防対策の一端として平成15年から「自殺防止プロジェクト」を立ち上げ,企業および企業労働者を対象として,地域保健と産業保健との連携によるうつ病対策に取り組んでいる1).本稿ではこのプロジェクトの概要をお示しするとともに,最前線で心の健康の確保を目指す市町村,保健所などの地域保健関係者が,産業保健と連携した自殺予防対策をどのように進めたらよいか考えてみた.

職場のストレスに対する環境改善の実践

著者: 長見まき子

ページ範囲:P.323 - P.325

 職場におけるストレス対策というと,基礎的な知識の付与やストレス対処方法のスキルの習得など,個人へのアプローチを検討することが多い.実際,職場におけるストレス対策はこれまで個人レベルでのアプローチが大部分で,職場レベルでの改善対策は少ない1)

 しかし,就業環境が急激に変貌する中,職場には個人のストレス対処だけではいかんともしがたいストレスがあり,職場環境の改善を通じたストレス対策の重要性が認識されてきている.さらに,ILO(国際労働機関)による職場のストレス対策の成功事例を収集したレポートでは,個人向けのアプローチの効果が一時的,限定的であるのに対し,職場環境等の改善を通じたアプローチの効果のほうが永続的で有効とされている2)

視点

医療制度改革に伴う都道府県の役割と課題

著者: 野原勝

ページ範囲:P.276 - P.277

 今回の医療制度改革は,医療保険制度の見直しの他,健康づくりから医療提供体制,在宅療養といった保健医療福祉にまたがる大改革となっている.

 本稿では改革における都道府県の新たな役割と課題について考察したい.

トピックス

包括的な性感染症対策としてのHIV感染症予防の取り組み―トロント市の公衆衛生局・保健師による地道なパートナー検診プログラム

著者: 堀成美

ページ範囲:P.326 - P.329

 感染症予防政策は個人のプライバシー等への配慮を含め,予算・有効な介入手段・優先順位に基づき検討される.対策のフレームとしては1次予防・2次予防・3次予防があり,それぞれ介入対象やゴールが異なる.

 2006年10月に,米国感染症学会(IDSA)にあわせて開催地であるカナダのトロント市の公衆衛生局性感染症部門を訪問し,その取り組みについて学ぶことができたので,本稿では今後日本でも検討可能な2次予防政策を中心に述べる.

越境する公衆衛生 共に生きるコミュニティの構築をめざして・1

[インタビュー]ボスニアのコミュニティ・ガーデンから学ぶ

著者: 大塚敦子 ,   三井ひろみ

ページ範囲:P.330 - P.336

 誰も戦争などしたくなかったのに,気づいたら始まっていたというボスニア・ヘルツェゴビナ.戦後10年,敵同士だった民族が緑の農園コミュニティ・ガーデンで,再び心を通わせ合うようになりました.ボスニア・ヘルツェゴビナを訪ね,農園で共に働き,『平和の種をまく―ボスニアの少女エミナ』(岩崎書店,2006)をまとめられた大塚敦子さんにお話を伺います.

 

三井 『平和の種をまく―ボスニアの少女エミナ』を読ませていただきました.表紙のお写真,ふたりの少女が畑で育てた花を持って微笑み合う姿がとてもいいですね.喜びが溢れていて,とても温かな気持ちになります.

 今日は,ボスニアのコミュニティ・ガーデンの試みについてお話を聴かせていただきたいのですが,最初に,大塚さんのこれまでの活動と取材に至る経緯についてご紹介いただけますか.

連載 いのちのプリズム・1【新連載】

太古の森へ

著者: 宮崎雅子

ページ範囲:P.275 - P.275

森にあこがれを抱くようになったのはいつの頃からだろうか.

自然というものに対して格別思い入れなどない私だったが,仕事でオーストラリアに行った時,世界遺産の自然を少しでも垣間見たいと思い,ケアンズの街からKURANDA行きの高原列車に乗った.

レセプト情報を活かす・1【新連載】

レセプト情報とは?

著者: 小林廉毅

ページ範囲:P.340 - P.344

 最近,レセプト(診療報酬請求明細書)を用いた調査分析が関心を集めている.レセプトは医療機関や保険調剤薬局が医療保険から支払を受けるために作成する詳細な請求書であり,もともとは調査分析を意図したものではない.しかし,レセプトに記載された情報の特徴を正しく理解して利活用すれば,その資料的価値はきわめて高い.

 国民皆保険制度をとるわが国では,ほとんどすべての診療情報がこのレセプトに集約されるため,レセプト情報を用いた調査分析が広範に進展すれば,様々な公衆衛生に関わる課題について解決の糸口が開かれ,科学的根拠に基づく行政施策や保険運営,保健事業への活用が期待できる.

Health for All-尾身茂WHOをゆく・29

世界保健機関(WHO)事務局長選挙顚末記・3

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.278 - P.279

 前々回,前回の2回にわたり,2006年11月に行われた世界保健機関(WHO)事務局長選挙について,私が立候補に至った経緯から,3日間にわたって行われた選挙当日の様子をお伝えしてきました.今回は,選挙活動全体を振り返り,選挙結果の私なりの分析をお話しして,この選挙顚末記の最終回としたいと思います.

保健予防事業のアウトソーシング最前線・2

保健予防アウトソーシング概論

著者: 山田敦弘

ページ範囲:P.337 - P.339

 平成20年4月の特定健診等の義務化が開始されるまで,残すところおおよそ1年となった.現在厚生労働省は「標準的な健診・保健指導プログラム」を準備中であり,手法についてはそこに示される.となると次の問題は,現場で誰がどのようにこれを実施するのかである.前号でも触れたが,特定健診等の義務化では,これまで対象であった被保険者に加え,被扶養者も健診・保健指導の対象となるため,対象者は単純に見積もっても5割増ぐらいにはなることが見込まれる.このような中で,医療保険者等の保健事業の実施主体が頼らざるを得ないのが,アウトソーシングである.本稿では「保健予防アウトソーシング概論」と題して,アウトソーシングの定義や形態について説明する.

感染症実地疫学・16

アウトブレイク:海外① カンボジアにおけるポリオ予防接種キャンペーン

著者: 上野久美

ページ範囲:P.345 - P.349

ポリオをめぐるわが国の現状

 ポリオ(急性灰白髄炎)は,ポリオウイルスによる急性弛緩性麻痺(acute flaccid paralysis:AFP)に特徴付けられる疾患で,ウイルスには1型,2型,3型の3つの血清型がある.わが国におけるポリオの症例数は,1960年の大流行の翌年にカナダおよび旧ソ連から緊急輸入した生ポリオワクチンによる1,300万人の小児に対する緊急接種後,1964年に国産生ワクチンを使用した定期接種が開始されてから激減し(図1),1980年の症例を最後に報告はなく,国内における流行は確実に抑えられている.

エイズ対策を評価する・16

学校におけるエイズ教育(下)

著者: 岩室紳也 ,   安藤晴敏 ,   稲垣智一 ,   阿部真理子 ,   上野泰弘

ページ範囲:P.350 - P.353

(前号からのつづき)

若者のHIV感染の実情は

岩室(司会) 上野先生が若者のHIV感染の実情をまとめてくださっています.

上野 東京都のHIV感染者の報告を年代別で見ると,20代と30代で全体の約7割を占めています(図1).近年では10代の報告も多くなり,平成17年は6件,平成18年(速報値)は10件.

 エイズや性感染症について知りたいこととして,20代を見てみると,「治療法」「予防の具体的な内容」「感染したあとの生活」といった項目が,全体として高い傾向でした(図2).

 日本でHIV感染者やエイズ患者が増加している理由として,「性行動が開放的になってきたから」「HIV感染の予防知識が乏しい」と回答した人が約6割で,続いて「予防対策等の教育が十分でないから」でした(図3).また,性行為時にコンドームを利用する理由として,「HIV感染予防のため」と回答した人は約3割でした(図4).

愛を伝える人たち・4

人を愛して障がいを乗り越える

著者: 東野洋子

ページ範囲:P.354 - P.356

みんなと一緒に笑いたい

 自閉症という障がいは本当に損だな…と思うことがよくあります.感情をうまく人に伝えられないからです.嬉しいときに「嬉しい」と伝えられず,悲しみを分かち合うための表情も出てこない.

 「楽団あぶあぶあ」の仲間の1人,ピアニストのトシユキさんは5歳になるまで言葉が出ませんでした.今もコミュニケーション能力に大きな障がいを残しています.

衛生行政キーワード・30

精神保健医療福祉行政の動向

著者: 鷲見学

ページ範囲:P.357 - P.358

 精神保健医療福祉分野においては,ここ数年,障害者自立支援法の施行,精神保健福祉法の改正,心身喪失者等医療観察法の施行,自殺対策基本法の成立など大きな動きがあったが,今回はこれらの動きのうち,障害者自立支援法を中心に紹介させていただきたい.

 精神保健医療福祉施策に関しては,これまでいくつかの課題が指摘されてきており,主なものとしては下記のようなものが挙げられる.

 ●諸外国と比較して精神病床数(現在35万床)が多い反面,地域で精神障害者を支えるための社会資源や支援体制が不十分.

 ●「受け入れ条件が整えば退院可能な患者」が約7万人も存在.

 ●全国共通の福祉サービス利用のルールがないことや市町村の財政力格差等により,地域における福祉サービス提供体制に大きな格差がある(介護保険制度における地域格差と比較すると大).

 ●本人および家族は働く意欲があるのに,必ずしも就労に結びついていない状況がある.

 ●精神障害への理解が不足しており,依然として多くの人にとって他人事であり,根強い偏見がある.

 ●福祉サービスの利用者増加に対応する財源が不足する一方で,精神通院医療も利用者,医療費が急増し,現状のままでは制度の維持が困難になる.

資料

問診票による学校結核健診に関する調査報告―福岡県における導入後3年間の結果総括

著者: 財津裕一 ,   徳永泰子

ページ範囲:P.359 - P.364

 平成15年度から,問診票で対象者を絞り込み,重点的検査を行う学校結核健診が導入された.福岡県における初年度の結果については,すでに報告した1)が,その概要は,以下のとおりである.

 (1)全体の要検討率は小学校:2.14%,中学校:2.00%,要精密率は小学校:0.40%,中学校:0.31%であった.

 (2)各地区の結果にはかなり大きなばらつきがあった.

 (3)ばらつきの主な要因は,①結核既往歴,接触歴等(質問1~3)に関する保健所情報活用の有無,②本人の自覚症状(質問5)を内科診察時に判断するか,結核対策委員会に送るかの違い,③BCG接種の有無(質問6)で,ツ反陽性だけでなく,未受診による未接種者も対象に含めるかどうかの違いであった.

 (4)保健所情報を活用していない地区では要精密率が高かった.

 (5)ある保健所管内の調査では,本人の結核,家族や親しい人などの結核は,28例のすべてが登録されていた.また,予防内服の半数以上(8/14)は定期健診のツ反によるもので,患者との接触歴はなく,予防内服不要と思われるケースであった.

女子看護大学生の喫煙行動の実態と喫煙防止対策

著者: 時松紀子 ,   中村喜美子 ,   大村由紀美 ,   秦桂子

ページ範囲:P.365 - P.369

 全国たばこ喫煙者率調査1)によれば,1980年頃から若い女性の喫煙率が上昇し,2004年には,20~30代の喫煙率は20%前後であった.また,女性看護師の喫煙率は従来から高いと言われており2),日本看護協会の調査(2001年)3)でも,20代女性看護師の喫煙率は27.8%と高い.そこで本研究では,看護系と一般の女子大学生について喫煙実態と初回喫煙時の状況を明らかにし,今後の女子看護大学生への喫煙防止対策を検討した.

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あとがき フリーアクセス

著者: 西田茂樹

ページ範囲:P.370 - P.370

 過労死の問題が上畑鉄之丞先生によって初めて指摘されてから,30年以上の年月が経過しています.それにもかかわらず,労働者派遣の業種拡大,成果主義や裁量労働制の導入といった近年の労働環境の変化は,さらなる過労死,過労自死を引き起こす方向へ向かっているのではないかと危惧されます.最近話題になったホワイトカラーエグゼンプションの導入も,周知のとおり,表向き自律的労働と言いながら,際限のない時間外労働を招く危険が内在しています.これらの経緯を踏まえ,今月,主にいわゆるホワイトカラーに焦点を当てて,長時間労働を中心とした労働衛生上の問題について特集を企画しました.

 労働と健康の関係は公衆衛生上きわめて重要な問題です.ほとんどの人は,生きていく上で仕事(家事を含む)を避けることはできません.その仕事が健康を害する危険をなくすために,われわれ公衆衛生従事者は,あらゆる場面で積極的に取り組んでいかなければならないと考えています.本特集では,先生方にそれぞれ読み応えのある内容をご執筆いただきました.保健所や市町村等での,過労死,過労自死,またそれにつながる労働による身体と心の疾病をなくしていく取り組みの参考にしていただければと思います.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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