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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生72巻2号

2008年02月発行

雑誌目次

特集 統合医療への期待―21世紀の予防医学と健康づくり

健康食品を用いた統合医療と評価制度の現状

著者: 松村康弘

ページ範囲:P.120 - P.123

 統合医療において,民間療法を含んだ健康食品への関心が古くから寄せられているが,何をもって健康食品と言うかについての共通理解がないまま,市場には様々な健康食品が流通している.

 そのような状況の中で,過度に健康食品に期待し摂取を偏重するケースや,痩身志向によるダイエット用食品の過剰摂取などの問題があり,事故に至るケースもある.

 本稿では,人々の健康食品の利用状況や健康食品の種類,法令上で規定された保健機能食品制度の現状と課題について考えてみたい.

世界的にみる相補・代替療法の現状と課題―がんを中心に

著者: 坪野吉孝

ページ範囲:P.124 - P.128

 がんの患者や体験者が,各種の相補・代替療法(以下,代替療法と略す)を使用している.代替療法の有効性と安全性に関する関心も高まっている.本稿では,がんの代替療法に関する研究状況を概観する.第一に,2002年ハーバード大学のグループが公表したシステマティック・レビューの結果を示す.第二に,がんの食事療法に関する2006年のメタ分析を紹介する.最後に,2007年11月世界がん研究基金が公表した食物・栄養・運動とがん予防に関する報告書の判定を示す.

相補・代替医療の実際

1.伝統医学アーユルヴェーダの理論と治療の実際

著者: 幡井勉

ページ範囲:P.106 - P.109

 アーユルヴェーダとは,アーユス(生命)とヴェーダ(知識,知恵)の複合語で,生命の科学という意味がある.およそ3000年の歴史があり,4ヴェーダのうち最後に成立したアタルヴァ・ヴァーダに起源をもつと言われている.しかし,アタルヴァ・ヴァーダは魔術・宗教的な色彩が強く,経験・合理的な医学になるまでにはその後数百年の年月を要した.主にサーンキヤ哲学を背景に体系化されたアーユルヴェーダができあがったのは,紀元前7世紀と考えられている.

 日本におけるアーユルヴェーダ研究は1970年丸山博1)によって開始された.当初のアーユルヴェーダ研究会が現在日本アーユルヴェーダ学会となり,研究,教育,普及活動が展開されている.

2.ヨーガの呼吸法による心身への影響と予防医学的効用

著者: 上馬塲和夫

ページ範囲:P.110 - P.115

 ヨーガは,呼吸法の科学とも呼ばれており,種々の呼吸法があります.一般的に知られているアクロバティックなポーズをする時にも,呼吸に合わせて行います.呼吸法だけでなく,アクロバティックなポーズや瞑想,さらには食事や行動規範など生活習慣全般に関する指示を含む,心身に総合的にアプローチするプログラムがヨーガです.ヨーガのポーズは,筋骨格系の歪みを是正し筋力も増強させる効果が得られます.ヨーガの呼吸法は,正しい実践法を守ることで,腹部・胸部・頸肩部の呼吸筋を鍛えたり,筋肉や脳循環を促す効果が期待されます.また呼吸は,心と体の架け橋として心理状態を調節するとヨーガでは言われており,瞑想の準備段階として呼吸法を行うことで,精神的安寧効果を高めてくれます.瞑想は,定期的に継続することで,血圧や血中脂質を低下させ,生理的年齢や医療利用率を減少させる効果が知られています.これら呼吸法とポーズや瞑想,食事など総合的なヨーガのシステムを長期間継続することで,腰痛症の軽減,冠動脈硬化症の改善,前立腺がんの予防効果が得られることなどが報告されていることから,生活習慣病に対する効果的なプログラムとして,ヨーガの可能性は大きいと思われます.

3.温泉療法の科学と有効性

著者: 久保田一雄

ページ範囲:P.116 - P.119

 日本人は一般に温泉好きで漠然と健康によいと信じている.疲れた時の一番人気は何といっても温泉である.また,難治の病にかかると,最後の救いを温泉に求める場合もある.まさに温泉は万病を癒す神秘の泉,魔法の泉である.

 古来,日本人は湯治と称して温泉に病を癒す穏やかな効能を求めてきた.ところが現代人はそのような湯治には満足せず,生活習慣病である高血圧症や糖尿病,さらにはがんにまでその効果を期待している.科学的検証はほとんど行われていないのに,効能が一人歩きしている.

視点

子と親に公衆衛生ができること

著者: 山縣然太朗

ページ範囲:P.82 - P.85

子どもが生まれたい場所

 「天国の特別な子ども(Edna Massimilla作,大江祐子訳)」という次のような詩がある.ダウン症児の母親である作家が書いたものである.

会議が開かれました.地球からはるか遠くで.

「また次の赤ちゃんの誕生の時間ですよ」

天においでになる神さまに向かって天使たちは言いました.

「この子は特別の赤ちゃんで たくさんの愛情が必要でしょう.(中略)

ですからわたしたちは,この子がどこに生まれるか

注意深く選ばなければならないのです.

この子の生涯が幸せなものとなるように,どうぞ神さま,この子のために素晴らしい両親を捜して上げてください.

(中略)

やがて二人は,自分たちに与えられた特別の

神の思し召しを悟るようになるでしょう.

神からおくられたこの子を育てることによって.

柔和で穏やかなこのとおとい授かりものこそ,

天から授かった特別な子どもなのです」

 この詩の「両親」を「社会」に置き換えると,今の日本は子どもが生まれたくない社会なのだと指摘されているようである.母子保健にかかわる者の1人として,自責の念に駆られるが,子どもが健やかに育つ社会の実現のために,子どもと親に公衆衛生ができることを考えてみたい.

トピックス

大阪大学に公衆衛生大学院社会人コース誕生

著者: 高鳥毛敏雄 ,   磯博康

ページ範囲:P.130 - P.131

 わが国は超高齢社会に突入し,健康,医療に関する社会の期待は大きくなってきている.健康,医療に関わる問題は,国民の生活実態,経済状況等が深く関連している.その問題解決に当たる人材には,医科学のみならず,政治,経済,行政,保健医療制度など,人文社会学的な素養と基盤を持つことも必要となってきている.そのためには大学と社会が役割と機能を担い,協働して人材を育成する新しい教育プログラムを育み,発展させていくことが何よりも肝要となってきている.

特別記事 地域在宅ケアを考える・1[インタビュー]

ホスピスケアを地域で,誰にでも―東京・ケアタウン小平の現場から

著者: 山崎章郎 ,   三井ひろみ

ページ範囲:P.132 - P.137

 すべての人にとって,絶対に避けられないのは死.理想的な死の迎え方は,住み慣れた場で親しい人に見守られて,穏やかな最期を過ごすことだと思えます.家で死にたいと希望する人は56%,しかしいま,日本では病院での死が80%を超え,自宅で最期を迎えられる人は13%に過ぎないと言います.希望と現実がこんなにも離れている社会は本当に豊かなのでしょうか?

 今回から数回にわたって,実際に地域で終末期医療,在宅ケアに取り組まれている医療者3人(山崎章郎氏,岡部健氏,網野皓之氏)にお話を伺い,地域の中に看取りを支える体制を構築するには何が必要なのかを検証し,今後の展望について考えます.第1回は山崎章郎氏.ホスピスケアからコミュニティケアへの実践についてお話を伺います.

連載 いのちのプリズム・11

釧路湿原に響く弓の音

著者: 宮崎雅子

ページ範囲:P.81 - P.81

 「北海道に初めて来て,いきなりここを訪れるのってすごいことですよ」,ガイドの安藤さんにそう言われ,私は武者震いした.

 3月初旬の釧路湿原はまだ雪に覆われ,静かに春を待つ.早朝,暗い雪道を向かった先はキラコタン岬と呼ばれる湿原の秘境地.

 氷点下13℃.防寒衣に包まれ機材と三脚を担ぎ,私はクルーの列に遅れないように必死で歩いた.

 1万年ほど前は海だったというこの岬は,天然記念物区域であり,普段は人が立ち入ることはできない.

Health for All―尾身茂WHOをゆく・38

“人”中心の保健医療・1

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.86 - P.87

 WHO西太平洋地域事務局は,昨年“人”中心の保健医療に関するイニシアティブをとりまとめ,11月には「PEOPLE AT THE CENTER OF THE HEALTH CARE―Harmonizing mind and body, people and systems」を発刊するとともに,医療の質・安全学会との共催で,厚生労働省・外務省などの後援をいただき,「国際シンポジウム“PEOPLE AT THE CENTER”;21世紀の医療と医療システムをめざして」を開催した.

 今号と次号では,このイニシアティブの内容について紹介してみよう.

予防活動のガイドライン・2

肥満と腹囲

著者: 堀江正知

ページ範囲:P.138 - P.142

 アメリカ合衆国予防医学専門委員会(US Preventive Service Task Force:USPSTF)は,文献の体系的レビューから,臨床家が診療の場で実施すべきスクリーニングや予防に関するガイドラインを1996年に公表した.「成人の肥満のスクリーニングと予防」は2003年12月に改訂している1).本稿は,その概要と最近の文献的知見を記す.

 体内の脂肪量の測定法には,全身の比重を測る方法,上腕二頭筋に近赤外線を照射して測る方法,生体電気インピーダンスで測る方法,二重エネルギーX線の吸収で測る方法,CTで測る方法などがある.しかし,肥満のスクリーニング法に広く用いられてきた指標は,BMI(body mass index)である.ここで,BMI(kg/m2)が25以上30未満,30以上35未満,35以上40未満,40以上の場合,日本肥満学会は,それぞれ「肥満(1度)」,「肥満(2度)」,「肥満(3度)」,「肥満(4度)」と分類しているが,欧米では「過体重」,「クラスⅠ」,「クラスⅡ」,「クラスⅢ」と分類しており,本稿ではこの呼称で記した.

レセプト情報を活かす・11

レセプト情報のデータベース化に向けて

著者: 小林廉毅

ページ範囲:P.143 - P.146

はじめに

 連載も残すところあと1回となり,筆者の寄稿もこれが最後となる.そこで今回はレセプト情報をデータベース化する意義と,その際の課題について論じてみたい.

 これまでの繰り返しになるが,レセプト(診療報酬請求明細書)とは,医療機関や保険調剤薬局が公的医療保険から支払を受けるために作成・提出する詳細な請求書であり,そこには患者の基本情報(氏名,生年月日,加入する医療保険の情報,診療を受ける医療機関の情報など)や傷病名,診療行為の種類・回数,診療報酬請求額などが原則1医療施設ごと,1か月単位で記載されている.国民皆保険のわが国では,ほとんどすべての診療情報がこのレセプトに集約されるため,レセプト情報を用いた調査分析が広範に進展すれば,様々な公衆衛生や医療経済に関わる課題について解決の糸口が得られ,科学的根拠に基づく医療政策や保険運営への活用が期待できる.一方,データベース化の最大の障壁は,現状ではレセプトのほとんどが紙媒体であり,そのままでは調査分析に使えないことと,記載傷病名の多さや記載法が標準化されていない点などである.

 しかし,そのような障壁を乗り越えて,レセプト・データベース化を進めるべきと筆者は考える.

保健予防事業のアウトソーシング最前線・12

栄養士の資質の向上と量的確保にかかる取り組みについて

著者: 二見大介

ページ範囲:P.147 - P.153

 特定健診・特定保健指導は,生活習慣病の発症や悪化を予防するため,その結果の評価はもとより,これらの業務にあたる専門家を量的にどのように確保していくかが非常に重要であると言われている.これは,保健指導の担い手とされている管理栄養士においても例外ではない.

 会員57,104名(2007年3月末日現在)を有する社団法人日本栄養士会の基本的な組織の基盤は,それぞれ法人格を持った都道府県栄養士会にある.この都道府県栄養士会を組織の縦糸とすると,横糸の役割を果たしているのが従事する職域分野ごとに専門分化された7つの職域協議会である.これらの仕組みを十分に機能させ,会員の資質の向上と会員増等の組織強化対策を講じている.各専門領域に所属する会員数は表1のとおりであり,特に,今回の保健指導の全国展開にあたって期待されている職域は,その活動の自由度や数的構成から「地域活動」である.しかし,管理栄養士を中心に考えた場合,この「地域活動」に従事する者だけで必要な量的確保は困難であり,それぞれの職域ごとに果たすことが可能となる責務から関連する領域を含め,全体として約1万名の実践指導者の育成が求められている.

PHNに会いたい・6

新潟県 2つの大震災と合併の余震が続く中で(下)―震災と合併,地域共同体を守ることはできるか

著者: 荘田智彦 ,   山田春美 ,   宮川由紀子 ,   高野真弓 ,   加藤梢

ページ範囲:P.154 - P.160

 中越地震(2004.10.23),中越沖地震(2007.7.16),3年足らずの間に2回も大きな地震災害を蒙った新潟県中越地帯でした.この未曾有の経験から私たちが公衆衛生で学ぶことは何か,前号では同じ自然災害でも2つの地震には明確に質の違う問題が横たわっていたことを原発被災という観点から考えました.これについては本稿の最後でもう一度触れるつもりですが,もう1つの大きな問題が大震災と重なって地域住民の生活を根幹から覆そうとしていました.それは,過疎化と超高齢化の進む農山村にあって,住民同士の生き残るための支え合い,共同体的紐帯が,ここに来てどこもここも大型合併の津波に飲み込まれ,根こそぎ持って行ってしまわれそうになっていることです.

 私たちは前回の中越地震で教えられた,地域住民同士の自助共助公助,地域共同体のつながりの強さがいかに大切か,保健師の地域住民に密着した平時の活動が災害時にいかに役立ったかを繰り返し報告してきましたが,この3年の間に,住民同士にも住民と保健師の間にも微妙に変化している涼風,温度差のようなもの,それが留めようのない空気として広がっているように思えてならないのです.

楽しく性を語ろう―性の健康学・6

性感染症

著者: 中村美亜

ページ範囲:P.161 - P.163

 今回の授業の大部分は,これまで私が様々な場所で行った「HIV/エイズとともに生きる」という講演内容と重複している.HIV/エイズについての基礎知識を伝えることはもちろんだが,それと同時に,HIVウイルスがこの世に存在しているという状況の中で,そしてHIVにすでに感染している人がいる中で,人々がどのように支え合いながら生きていけばいいのかを考え,実践に移していくことを目的にする.今回も導入にクイズを行った後,HIV感染に関する基本を講義し,HIV陽性者の手記朗読を行った.そして,HIV以外の性感染症も写真を見せながら紹介し,授業を終えた.

 まずは○×クイズから.非常に基本的なものばかりである.例えば,「ラブラブな二人は,セックスをしてもHIVに感染しない」,「1人の特定な相手とのセックスなら,HIVに感染しない」,「HIVに感染すると,通常の仕事や生活ができない」,「HIVに感染したかどうかは,自分ですぐにわからない」などである.クイズをするのは,正確な知識を持っているか(あるいは持っていないか)を自覚してもらうとともに,質問内容への問題意識を喚起するためである.

衛生行政キーワード・40

医薬品の迅速な提供に向けて

著者: 森岡久尚

ページ範囲:P.164 - P.166

 医薬品は,新規物質の合成・発見から,動物における安全性等の研究,治験と呼ばれているヒトを対象とした有効性および安全性のテスト,厚生労働省へ承認申請された後は,独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「機構」という)における審査を経て承認され,薬価に収載されて初めて上市される(図1).医薬品のモトとなる新規物質の合成・発見から上市まで10年以上の時間がかかり,医薬品開発にかかる費用は1,200~1,900億円と言われており,医薬品開発には関係者の多大な労力とコストがかかっている.

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あとがき フリーアクセス

著者: 品川靖子

ページ範囲:P.168 - P.168

 私が近代西洋医学を学んだ1980年代までは,患者が民間療法等を利用していると知った医師の多くは,それを非科学的な行為としてやんわりと否定するか,自分の行う治療とは切り離して扱っていたように思います.

 近年米国を中心に西洋医学の限界が指摘されるようになり,相補・代替医療のエビデンス研究の進歩等を背景に,わが国の医学界においても統合医療が注目されてきているのには,時代の移り変わりを感じます.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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