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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生72巻3号

2008年03月発行

雑誌目次

特集 アレルギー対策―花粉症・食物アレルギー・アトピー等への対応

フリーアクセス

ページ範囲:P.175 - P.175

 3月といえば花粉症.スギ花粉の飛散がピークを迎え,マスク姿で外出する人が目立ちます.花粉症は今や,アレルギー疾患の代表的存在となりました.

 アレルギーのことを「先進国病」あるいは「文明病」と呼ぶことがあります.日本でも3人に1人は,花粉症やアトピー性皮膚炎,喘息,あるいは食物アレルギーなど,何らかのアレルギー疾患またはアレルギー症状で悩んでいると言われています.

わが国のアレルギー対策の現状と今後の展望―喘息死ゼロ作戦を中心に

著者: 日下英司

ページ範囲:P.176 - P.179

 現在,わが国におけるアレルギー患者は,国民の約1/3に当たり,国民病の1つとも言える.このアレルギー疾患に対し,今後の対策を総合的・体系的に実施するため,厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ・アレルギー対策委員会が開催され,平成17年10月に報告書がとりまとめられた.この報告書を受け,平成22年度までに重点的に実施するべきアレルギー対策の基本的方向性が示され,現在,この方向性に沿って施策が実施されているところである.

 本稿では,アレルギー疾患の現状,その問題点と対策,および今後の対策の方向性について示し,現在行われている「喘息死ゼロ作戦」について触れたい.

アレルギーの克服に向けた最近の研究成果と今後の展望

著者: 秋山一男

ページ範囲:P.180 - P.183

 アレルギー疾患は今や国民病とも言うべき疾患で,わが国人口の3割を超える人が,何らかのアレルギー疾患に罹患していると言われている.その根拠となる研究報告は,平成4~6年度の厚生省アレルギー総合研究事業疫学班(三河春樹班長)によるわが国のアレルギー疾患疫学調査である.すなわち,その調査結果によると,わが国総人口の内,何らかのアレルギー疾患(喘鳴,気管支喘息,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜炎)を有する者は,乳児(1歳未満)で28.9%,幼児(2~5歳)で39.1%,小児(6~15歳)で35.2%,成人(16歳以上)で29.1%ということであった.

 一方,近年のめざましいアレルギー疾患の病態機序の基礎研究の進歩により,Th1/Th2免疫系バランスのTh2免疫系への偏移によるアレルギー疾患発症説が広く支持され,多くの基礎データが蓄積されつつある.

アレルギー疾患の発症関連要因

著者: 田中景子 ,   三宅吉博

ページ範囲:P.184 - P.189

 近年,日本を含め先進国では,アレルギー疾患が急激に増加している.一方で先進国と発展途上国との間には有症率に差が認められ,また,同一国内においても有症率の地域差が観察される.これらの所見を,単に遺伝的要因のみで説明することは難しい.生活環境や食習慣をはじめとした生活習慣の変化や地域差が,アレルギー疾患発症に関与している可能性が高い.1989年にStrachan1)により,衛生環境の改善による小児期の感染機会の減少がアレルギー疾患発症と関連しているのかもしれないという衛生仮説が提唱された.この衛生仮説が提示されて以降,アレルギー疾患の原因を解明し,予防方法を確立するために,多くの疫学研究が実施されてきた.しかしながらその結果は一致しておらず,今日においても未だ確たる結論が得られていない.

 以前,われわれは2000年1月以降2006年8月までに公表された環境要因とアレルギー疾患との関連に関する疫学研究を対象に,系統的なレビューを実施した2).本稿では以前のレビューの結果に加えて,レビュー執筆以降に公表された最新の疫学研究結果を追加し,アレルギー疾患(喘鳴,喘息,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎)との関連における環境要因の科学的根拠についてまとめる.

地域におけるアトピー・アレルギー対策―保健所での母子保健・学童期の取り組みから

著者: 阿部敦子

ページ範囲:P.190 - P.194

 住環境や食生活の変化など様々な影響を受けて,アレルギー性疾患を抱える住民の数は増加傾向にある.東京都が平成16年度に実施した「アレルギー性疾患に関する3歳児全都調査」では,回答者全体の51.5%が「これまでに何らかのアレルギー性疾患の症状があった」,36.7%が「何らかのアレルギー性疾患であると医師に診断されたことがある」となっており,平成11年の前回調査に比していずれの割合も増加している1)

 このような流れを反映して,地域保健の現場でもアトピー・アレルギー性疾患に関する相談等が増加しており,疾病予防から療養の支援までの段階に対してきめ細やかな対応が求められるようになってきた.とりわけ母子保健事業の中での健診や相談事業を活用した食や環境についての保健指導,学童期を中心としたアレルギー性疾患を持つ児童生徒に対する疾病等の理解促進のための事業については,住民に身近な保健所・保健センターが積極的に推進することで,より効率的・効果的な結果が得られるものと期待される.アトピー・アレルギー対策の一事例として板橋区の事業を紹介する.

学校におけるアレルギー対策の課題と今後の対策

著者: 岡田就将

ページ範囲:P.195 - P.197

 わが国の学校保健は,昭和33年に制定された学校保健法により,現在の枠組みが構築されている.当時は,寄生虫・トラコーマ・結核などの伝染病やう歯などが,児童生徒の主要な健康問題として認識されていた.一方,近年の社会環境や生活環境の急激な変化により,アレルギー疾患のほか,生活習慣病の兆候,メンタルへルスに関する問題などの新たな健康問題が顕在化してきた.

 平成16年10月,文部科学省は,有識者で構成する「アレルギー疾患に関する調査研究委員会」を設置し,全国の児童生徒のアレルギーの実態調査の実施や,結果の分析・評価,今後の方策の検討を行い,平成19年4月に報告書を発表した(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/04/07041301.htm).

 報告書では「児童生徒においては,アレルギー疾患はまれな疾患ではなく,学校やクラスに各種のアレルギー疾患をもつ児童生徒がいることを前提とした学校保健の取組が求められる状況にある」との認識が示された.文部科学省はこの報告を受け,これまで学校において散発的に実施されてきたアレルギー疾患対策が,全国で組織的に実施されるよう取組を進めているところである.

 本稿では,学校現場での実態などを踏まえながら,今後の学校保健において重要な位置を占めるであろうアレルギー疾患対策について述べたい.

花粉症の研究と対策の最前線

1.花粉症発生源対策の現状と今後の展望―林野庁の取り組みから

著者: 渋谷晃太郎

ページ範囲:P.198 - P.203

わが国の森林・林業について

 花粉症発生源対策を考える上で,わが国の林業の状況を知っておくことが必要である.以下では,若干の基礎知識としてのわが国の林業の実態について述べることとする.

2.花粉アレルゲンの高感度測定法の意義と応用

著者: 高橋裕一 ,   阿彦忠之

ページ範囲:P.204 - P.207

花粉情報の提供方法等の変遷

 花粉症の原因となる植物には,春はスギ,ヒノキ科などの樹木と,それに続くイネ科植物,秋はヨモギ,ブタクサ,カナムグラなどの雑草がある.これらに加え,地域特有の原因植物がある.東海花粉症研究所の宇佐神によれば,2001年12月現在,日本では59種の花粉症原因植物が報告されているという.これらの原因植物の中で,スギ,ヒノキ科の樹木による花粉症は1980年代から増加し始め,国民病あるいは文明病と言われるようになった.

 そのような状況の中で,東京都,京都市,仙台市などが1987年からスギ花粉情報の住民サービスを開始した.この時代の情報はテレビや新聞で報道された.2000年代に入ってインターネットが普及すると,ホームページ(HP)での提供が盛んになった.最近では携帯電話での双方向サービスも行われている.

食物アレルギーの研究と対策の最前線

1.食物アレルギーの疫学と発症・重症化予防に関する研究

著者: 今井孝成

ページ範囲:P.208 - P.211

食物アレルギーの疫学

1.食物アレルギーの有病率1,2)

 わが国における食物アレルギーに関する大規模な調査は少なく,最近になってやっといくつか報告が行われるようになってきた.神奈川県相模原市(人口約70万人)で行われた約5,000人を対象とした乳児コホート調査において,乳児期の食物アレルギーの有病率は5~10%であった.また昨年度に報告された文部科学省の悉皆調査では,小中学生で2.6%程度,(社)全国学校栄養士協議会が行った大規模全国調査では1.3~1.5%と推定される3).乳幼児早期に大部分が発症してくる食物アレルギーは,経年的に耐性化を獲得する(食べられるようになる)ことが知られている.このため幼児期の有病率は乳児期と学童期の間でおよそ3~5%程度と考えられ,実際当院周辺地域の約3万人規模の幼児の調査では,その有病率は3%程度であった.またわが国の学童期以降,成人の有病率調査はない.しかし学童期以降の食物アレルギーの発症は乳幼児期ほど多くなく,また耐性化の獲得もほとんど進まないことが知られており,このことから学童期以降の食物アレルギーの有病率は,学童期とさほど変わらないと考えられる.つまり,乳児の5~10万人,幼児期の30万人,学童以降の100万人の合計約150万人が,わが国における食物アレルギー人口であると考えられる.

2.食物アレルギー表示に関する課題と展望

著者: 丸井英二

ページ範囲:P.212 - P.215

食物アレルギー表示の背景

 食物アレルギーそのものについてはすでに紹介されているので,本稿では,食物アレルギー表示の社会的な意義や今後の課題について考えていきたい.しかし何をどのように表示するか,どの範囲で表示するかというような,食物アレルギー表示の技術的な側面については特に論議しない.

 まず食品表示そのものと食物アレルギーの表示について知っておきたい.われわれが目にする食品には「食べものにかかわる2つの表示」がある.1つは熱量,たんぱく質,脂質,炭水化物などを表示する「栄養成分表示」である.他方,「食品表示」はモノとしての食品の品質を明らかにして伝えることを目的とする.このように,市場から摂食までの選択のための食品表示と,食べたあとで体内でどのような機能を果たすかの栄養成分表示という,2つの側面で行われる表示は重要である.その他には,価格なども重要な情報としての表示の一種である.表示そのものはあらゆる食品について行われるが,特に加工食品においては生鮮食品以上に,表示は大きく複雑な問題をはらんでいる.

視点

アレルギーは何故増えたか?

著者: 石坂公成

ページ範囲:P.170 - P.171

 花粉を吸い込んで鼻炎を起こす人がいることは欧米では80年前から知られていたが,その当時は,花粉を吸い込んだ人の中で病気になる人は極めて僅かだったから,花粉症は特異体質によって起こる病気だと考えられていた.一方,今から50年前には花粉症は日本には存在しないと考えられていたが,1970年代になるとスギ花粉やハウスダスト(主要なアレルゲンはダニ)による花粉症がだんだん増え,80年代にはこの病気は極めてpopularな病気になってしまった.現在では日本の全人口の20%は花粉症を持っているし,これに気管支喘息やアトピー性皮膚炎を加えると,日本人の約1/3はアレルギー性疾患に罹ったことがあると言われている.

 なぜ日本では急激にアレルギーが増えたのだろうか?少なくともスギ花粉症に関する限りは,患者の数とスギのアレルゲンに対するIgE抗体を持っている人の数(陽性率)の間には強い相関がある.スギ花粉症の患者は例外なくスギ花粉に対するIgE抗体を持っているし,肥満細胞に結合したIgE抗体にアレルゲンが反応すると,肥満細胞はヒスタミンやロイコトリエンのような誘発物質を遊離するだけでなく,アレルギー炎症に関与するTNFαやIL-5を産生する.IgE抗体の産生において主役を演ずるTh2細胞も,アレルゲンの刺激によって多くのIL-5を産生する.したがって日本で花粉症が増えたのは日本人の免疫系がアレルゲンに対してTh2 typeの応答をし,IgE抗体を作るようになったためではないかと思われる.

特別寄稿

アメリカとヨーロッパ,それぞれの豊かさ

著者: 橘木俊詔

ページ範囲:P.217 - P.220

 個人的なことで恐縮であるが,私は20代から30代の初期にかけて,アメリカに5年,ヨーロッパに5年(フランス,イギリス,ドイツ)に滞在した経験がある.日本は欧米先進国に特有の自由主義,民主主義,資本主義を共通基盤とする制度の良さを学び成功した.そしてそれを追い越せという目標の下に経済発展を遂げた.今や日本も先進国病に悩む時代に入ったが,今後の日本の行く末を考えれば,アメリカとヨーロッパの対比を考えるのは重要である.

 アメリカとヨーロッパを人間の生活,あるいは社会保障の観点から比較すれば,両者はかなり異なる.その差を考えてみよう.

特別記事 地域在宅ケアを考える・2[インタビュー]

看取りの文化,地域から再構築を―在宅医療の立場から

著者: 岡部健 ,   三井ひろみ

ページ範囲:P.221 - P.226

 本シリーズでは,実際に地域で終末期医療,在宅ケアに取り組まれている3人の医師(山崎章郎氏,岡部健氏,網野皓之氏)にお話を伺い,地域の中に看取りを支える体制を構築するには何が必要なのかを検証し,今後の展望について考えます.第2回は岡部健氏.東北地方の死の文化を踏まえながら往診医として,在宅での看取りを実践しています.今までの医療にどんな問題があるのか,それはどう変わるべきなのか,現在の取り組みを通してお話を伺います.

連載 いのちのプリズム・12【最終回】

いのち繋げるお産の家

著者: 宮崎雅子

ページ範囲:P.169 - P.169

 東京・高井戸の静かな住宅地をしばらく行くと,栗林を過ぎたあたりに樹木に囲まれたモダンな木造家屋が見えてくる.医師の大野明子さんが杉並のこの地に「明日香医院」を開院してほぼ10年.助産師数名と,自然なお産や母乳育児に熱心に取り組んでいる.ガラスの玄関を開けると木の優しい温もりと自然光あふれる空間が広がり,笑顔の助産師たちが迎えてくれる小さいながらも人気の産院だ.

 しかしながら,自然なお産の介助には昼も夜もなく,母子の安全を守りつつ安産に導くことは,そう容易いことではない.

Health for All―尾身茂WHOをゆく・39

“人”中心の保健医療・2

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.172 - P.173

 前回はWHOがとりまとめた“人”中心の保健医療に関するイニシアティブの背景について述べた.今回は,“人”中心の保健医療システム構築のためにどのような行動が必要なのかについて述べてみよう.

 “人”中心の保健医療のビジョンの最終的な目標は,個人,家族および地域社会がそれぞれのニーズに応え,信頼のおける医療サービスが受けられるシステムを実現することである.このためには,それぞれのレベルで何をしたらよいのであろうか.

予防活動のガイドライン・3

前立腺がん

著者: 濱島ちさと

ページ範囲:P.227 - P.229

Summary of Recommendation

 USPSTF(US Preventive Services Task Force)は,前立腺特異抗原(Prostate specific antigen,以下PSA)および直腸診を用いた前立腺がん検診を定期的に行うことについて,推奨あるいは反対する科学的根拠が不十分であると判断する(グレードI)1)

レセプト情報を活かす・12【最終回】

レセプトナショナルデータベースと研究利用の可能性

著者: 岡本悦司

ページ範囲:P.230 - P.235

 「医療サービスの質向上等のためのレセプト情報等の活用に関する検討会(座長/開原成允国際医療福祉大学大学院長,以下,検討会)」が終結し,レセプトナショナルデータベース(以下,RNDB)構想が動き出した.本稿では連載の締めくくりとして,RNDBと公衆衛生研究利用への可能性について述べる.

 2007年3月27日に公表された情報化グランドデザインは「2008年度末までに全国規模でのレセプトデータの収集分析のための体制を構築し,2009年度からレセプトデータの収集分析を段階的に実施し,2011年度から厚生労働省において全国規模でのレセプトデータを収集し,分析・公表を実施」とある.検討会は,このRNDBにおける①レセプト情報の収集方法,②分析の方法・用途,そして③国以外によるレセプト情報活用のあり方,を検討する目的で,厚生労働省保険局長の主催で設置された.重要なポイントは③であり,国が構築するデータベースを自治体や研究者が公益や研究目的に活用することを認める,その範囲やルールを検討しよう,という点.RNDBの研究利用が拡大すれば,公衆衛生や疫学研究に寄与でき,それがひいては医療の質向上につながることが期待される.

保健予防事業のアウトソーシング最前線・13

外部EAP活動と今後の展望―ジャパンEAPシステムズ

著者: 小西定之 ,   松本桂樹

ページ範囲:P.236 - P.239

 1997~1998年にかけ,日本における自殺者数が約2万4千人から約3万3千人へと急増した.1998年は,まさに日本の経済成長率が戦後最悪を記録した年である.ここを境にして,日本における勤労者のメンタルヘルス対策が一気に動き出したとも言える.

 バブル崩壊後の不況に伴うリストラの促進,将来の不安も含めた勤労者のストレスの増大,過重労働による過労死・過労自殺およびその労災申請数・認定数の増加,労災認定ともリンクする事業者を相手取った民事訴訟の増加など,様々な問題がその後の対策推進を後押しする形になった.とりわけ過重労働負荷による過労自殺に関する民事訴訟において,遺族が企業側を安全配慮義務違反で訴追し,企業側が1億円以上の賠償額を負担する結果となった判例の影響は大きい.2008年には労働契約法の制定に伴い,安全配慮義務が明文化される予定であるが,メンタルヘルス対策は主に企業のリスク・マネジメントとして導入が進んでいる.

PHNに会いたい・7

―産業保健―企業のCSR(社会的責任)とPHNの役割

著者: 荘田智彦 ,   五十嵐千代 ,   原田江利 ,   宮沢恵美子

ページ範囲:P.240 - P.246

 私が企業に働く保健師の活動に関心を持ったのは,平成14年9月14日,第40回健康管理研究協議会(主題「健康管理の盲点を探る」に外部講師の1人として参加させてもらった時に始まります.この会が産業保健職の医師や看護職の方が中心にやってこられた歴史のある研究会だということもその時知りました.職域内の専門職で続けられてきた研究会が40回を記念して,外部から健康管理の問題点を指摘してもらい,今後の反省点につなごうという意図で呼んでいただいたのが,私ともうお1人,富士電機冷機相談役・前社長の小峯達男氏でした.私は健康管理を受ける国民の立場から,産業が国民の生命や健康に負っている社会的責任という観点から『パブリックヘルスと健康管理』というお話を,小峯氏は『経営者が考える社員の健康』という話をされました.

 小峯氏の講演は優れた経営者の社員の健康観ということで,戦後復興期からの日本の経済の推移と労働者に求められてきた健康管理の歴史的視点の推移を概観された上で,広い意味の「健康」という問題は,企業の非常に重要な競争理念になっていくのではないかという,とても示唆に満ちた内容のあるお話でした(『健康管理』2003.6,小峯・荘田).

楽しく性を語ろう―性の健康学・7

セーファー・セックス

著者: 中村美亜

ページ範囲:P.248 - P.249

 今回は前半のまとめとして,セーファー・セックス(safer sex)について考える.1980年代に世界中を震撼させたエイズの脅威は,セックスの安全性を問い直す契機となった.そして感染症予防として,コンドームの使用を広めることが最重要課題として挙げられた.しかし,コンドームを使用しても,思いがけず破れてしまったり,使い方が適切でないために感染予防に失敗することも起こり得る.また「いつでも,どこでも,誰とでも,どんな場合もコンドームを使うように」という主張は,理屈には叶っていても,現実的に100%それを実践するのは非常に困難なことが,次第に認知されるようになってきた.

 以前にはセーフ・セックス(safe sex)と言っていたこともあるが,実際にはセーフが保証されるセックスはあり得ないため,現在は比較級のセーファー・セックスという言い方が主流になっている.加えて近年では,コンドームを使うか否かだけの問題から,セックスそのもののあり方を問い直し,より安全・安心な状況を作るために,いかに性的欲望や生活のスタイルについても修正を促していくかという視点が導入されるようになった.

衛生行政キーワード・41

新生児集中治療管理室(NICU)に長期入院している児童に対する取り組み

著者: 阿部奈緒子

ページ範囲:P.250 - P.251

 地域における周産期医療体制の充実を図るため,各都道府県において,周産期医療の中核となる総合周産期母子医療センターの整備や,地域の医療施設と高次の医療施設の連携体制の確保などを目的とした「周産期医療対策事業」を実施しているところであるが,当該事業に関し,多くの地域の新生児集中治療管理室(NICU)および回復期治療室(GCU)と呼ばれるNICUに併設された新生児病室において,一定程度の数の児童が長期にわたり入院を続けている状況にあることが指摘されている.また,先般実施した「周産期医療に係る実態調査」で,多くの地域でNICUの病床利用率が高く,NICUが満床のため,妊婦または新生児の搬送受け入れができなかった事例も存在することが明らかとなった.

 NICUおよびGCU(以下「NICU等」という)に長期入院している児童は,すでに状態が安定しNICU等が適切な療養・療育環境でない場合も多いため,児童にとって適切な療養・療育環境を確保するとともに,周産期医療体制を確保する観点からも,各地域において必要とされるNICU等や,NICU等を退院した児童を支援するための小児科病床,重症心身障害児施設等の福祉施設(以下「重心等」という)および在宅での生活を支援する医療・福祉施設等(以下「在宅支援施設等」という)といった後方支援体制を整備することが喫緊の課題となっている.

 本稿においては,NICU等に入院している児童に対する最近の取り組みについて概説する.

「公衆衛生」書評

「国際保健政策からみた中国―政策実施の現場から」 フリーアクセス

著者: 相田潤

ページ範囲:P.215 - P.215

 経済発展の目覚ましい隣国,中国における保健医療の現状と,そこで活動を続けるWHO西太平洋地域事務局を中心とした保健機関の活動が,筆者の幅広い国際機関での活動経験を通して語られる.本書の良いところは,貴重な保健医療関連のデータや,臨場感あふれる国際機関の現場の描写だけではなく,公衆衛生を学ばせてくれるところにもあろう.

 中国では,都市部と農村部の経済格差は拡大を続けている.都市で子どもの肥満や栄養過剰が見られる一方で,農村では慢性栄養不良と低体重が問題となる.格差の拡大は,農村から仕事を求めて都市へ移動する国内移民労働者を生み出す.この2億人にも上る流動人口は,農村で生まれたために「都市籍」を持たず,医療や教育を含むあらゆる社会保障を受けることができない.さらに,グローバル化による社会の変化が追い討ちをかけている.今や中国の死亡原因は心疾患・がんをはじめとした慢性疾患によるものが大部分を占めるという.貧困と結びつく結核,流動人口の移動とともに伝播するエイズ,都市部を中心に増加する生活習慣病と,こうした現状は公衆衛生の歴史を再現しているように映る.

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あとがき フリーアクセス

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.252 - P.252

 2月初め,雪の山形を離れ,東京の多摩地域に出張しました.快晴の青空と富士の遠景に誘われて目的地まで30分間歩いたのですが,翌朝起きると鼻の奥に違和感!山形では例年2月中旬か下旬に始まる花粉症の初期症状に間違いありません.高校時代までアレルギーには無縁と思っていた私ですが,大学生になった頃から花粉症に悩まされております.原因となる花粉の種類も年齢とともに増え,今ではイネ科植物やスギのほか,桜桃の受粉作業をしていても症状が悪化します.

 このように自分自身も悩んでいるため,花粉症を始めとするアレルギー性疾患についてはインターネットなどを介して新しい情報の入手に努めてきたつもりです.しかし,病態機序などの免疫学的な研究成果については,サイトカインなどの専門用語にアレルギー症状を呈してしまい,読み飛ばしておりましたので,今回の特集論文は大変勉強になりました.巻頭の「視点」欄において,IgEの発見者であり免疫・アレルギー学の世界的権威である石坂公成先生の丁寧な解説を最初に拝読したことで興味がわき,専門用語に対するアレルギーも少し緩和したようです.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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