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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生72巻4号

2008年04月発行

雑誌目次

特集 自閉症・アスペルガー症候群・LD・ADHD―母子保健事業の課題と期待

フリーアクセス

ページ範囲:P.259 - P.259

 近年,自閉症,アスペルガー症候群,LD,ADHDなどの発達障害を持つ人に対する社会的な支援活動が進みつつあります.長年にわたる当事者の皆さんの努力の積み重ねが実を結んで,ここまで至ったと思われます.これらの人々に対する社会的支援活動を発展させていくために,発達障害者支援法が平成16年に成立しました.法的な基盤が確立されたことにより,全国的に支援活動が進められるようになりましたが,まだまだ様々な課題が残されているのも現実です.

 厚生労働省が進める母子保健事業,文部科学省が所管する学校教育活動,地域の自治体や人々の対象を中心にすえた支援活動への努力がなければ,さらなる発展につながらないと思われます.具体的には3歳児健診の後,就学前までに健診を行うことが求められています.さらに母子保健事業と学校の特別支援教育と連動させていくことも課題となっています.国レベルにおける厚生労働省,文部科学省の関連部局の間の施策の調和と連携,地域レベルにおける保健,医療,教育,福祉,労働の関係者,関係機関が連携した支援活動が大切です.発達障害者支援法は,施行後3年を経過して進捗状況を見直すことになっています.本年度はその節目の年にあります.

軽度発達障害の理解と疫学

著者: 中根晃

ページ範囲:P.260 - P.264

特別支援教育と軽度発達障害

 軽度発達障害は特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議1)で,対象を学習障害(LD)の他に多動性障害(ADHD)※注および高機能自閉症等と決めた際,これらを一括として「軽度発達障害」という名称を与えたもので,正式には医学的用語ではなく,これに相当する英文名は存在しない.また,LD,ADHDおよび高機能自閉症等が軽度な発達障害かと言うとそうではない.発達障害の定義はICD-10のように,特異的発達障害および広範性発達障害の項目に記載された病態に限り,精神遅滞を除外するように限定的なものから,幼児・学童の発達に関わる病態すべてを発達障害に含めてしまう考えもあるなど,研究者によって様々で,この概念の基本に不明確な点を多く残している.

 本稿は軽度発達障害としてLD,注意欠如ADHD,高機能自閉症およびアスペルガー症候群に限ることにする.

軽度発達障害者の支援体制の課題

著者: 宮本信也

ページ範囲:P.265 - P.270

発達障害者支援体制の概要

 これまで,発達障害の問題については,知的障害を中心として福祉支援や教育支援が行われてきていたが,知的障害以外の発達障害の問題〔自閉性障害,注意欠陥/多動性障害(ADHD),学習障害(LD)など〕が関心を集めるようになり,平成17年4月,知的障害以外のそのような発達障害に対する支援を行うために発達障害者支援法が施行された.そのねらいとするところは,図のようにまとめられている.

 この法律施行を受け,厚生労働省は,平成17年度より,発達障害者支援体制整備事業を展開することとなった.この事業は,『発達障害者の乳幼児期から成人期までの各ライフステージに対応する一貫した支援を行うため,都道府県・指定都市に発達障害の検討委員会を設置するとともに,圏域において個別支援計画の作成等,支援の体制整備をモデル的に実施する.事業の実施にあたっては,文部科学省の実施する「特別支援教育体制推進事業」と協働して実施する』というものである1)

軽度発達障害者に対する特別支援教育の現状と課題

著者: 西牧謙吾

ページ範囲:P.271 - P.276

特殊教育から特別支援教育へ

1.特別支援教育とは

 特別支援教育元年は,平成19年4月1日文部科学省初等中等教育局長通知により始まった.ここで,元年と言われる所以は,学校教育法を改正して,幼稚園,小中学校,高等学校でも,特別支援教育が本格的に始まったからだ.

 特別支援教育とは,基本的に理念である.特別支援教育コーディネーター,個別の教育支援計画など,新しいシステム論は展開されたが,学校組織そのものが変わったわけではない.上記通知のはじめには,「特別支援教育は,障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち,幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し,その持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善又は克服するため,適切な指導及び必要な支援を行うものである.また,特別支援教育は,これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく,知的な遅れのない発達障害も含めて,特別な支援を必要とする幼児児童生徒が在籍する全ての学校において実施されるものである.さらに,特別支援教育は,障害のある幼児児童生徒への教育にとどまらず,障害の有無やその他の個々の違いを認識しつつ様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の形成の基礎となるものであり,我が国の現在及び将来の社会にとって重要な意味を持っている」と書かれている.憲法と同じように,これを拠り所にして,教育を変革していくことが重要と考える.

発達障害者支援に係わる施策の現状について

著者: 日詰正文 ,   福島靖正

ページ範囲:P.277 - P.280

 発達障害者支援法は,平成16年12月に議員立法により成立し,平成17年4月から施行された.

 発達障害者支援法施行前における,発達障害者に対する厚生労働省としての支援施策は,知的障害児の施設体系の1つとしての「自閉症児施設」,自閉症・発達障害支援センターの設置,知的障害児施設である国立秩父学園で行う自閉症支援の研修など,知的障害者支援メニューの中の特別な支援を必要とする1つのタイプとして位置付けられ,実施されてきた.

「軽度」発達障がい者に対する小児医療現場の現状について

著者: 東條惠

ページ範囲:P.281 - P.284

 筆者は,小児科を2年研修後,小児神経科で5年研修をした.その後20年前に現在の職場に来てから,日々の診療で児童精神科領域のケースが漸増し,現在は質量とも圧倒的になった経緯を持っている.多くの小児神経科医は同様のコースだろう.広義の発達障がい児対象の療育センターの小児(神経)科医は,とりわけそうだろう.

 理由は以下である.当方のような施設には,すべての発達障がい児が受診する.発生頻度上,脳性まひは0.2%,てんかんは児世代で0.3~0.5%と言われ,一方自閉症スペクトラム(以下,自ス)を1%強としても,てんかんや脳性まひに比し数倍なりの発生頻度と,数的に圧倒的違いがある.自スの半数0.5%強が,知的障がいのないアスペルガー症候群や高機能自閉症,ないし特定不能といわれる典型的でない淡いタイプの人などとされる.これに3~5%とされる注意欠陥/多動性障害(ADHD)が加わる.発生頻度からは,小児神経領域というより,児童精神領域の診断名で語られる子どもたちが多い中で,そして保育や学校現場なりで気づかれる中で,これらの児の受診が増加した.広汎性発達障がい=自ス・知的障がい・境界知能・学習障がい・発達性協調運動障がい,などである.中でも,数や質的に問題になるのは,自スである.次にADHDで,その次に知的障がいや境界知能,そして学習障がいである.ADHDは発生頻度が多いとされる中でも,病院等にたどり着かない例が多いと思われ,受診者は自スに比し少ない.

 今回,精神科ベースで育っていない筆者が,この間の経験を書き留める機会をいただいた.論点や言葉遣いを含め,ご批判いただければ幸いである.

市町村における発達障害児(者)の早期発見,早期支援体制

著者: 平岩幹男

ページ範囲:P.285 - P.288

 発達障害は医学の世界だけではなく,最近では教育の分野や一般社会でも大きな話題となっている.発達障害者支援法も施行されたが,その内容が正確に理解されているとは限らず,しばしば知的障害や運動発達遅滞などの発達遅滞や発育の障害と混同されている.筆者は発達障害とは「発達の過程で明らかになる行動,コミュニケーションや社会適応の問題を主とする障害」であると考えている.

 発達障害には注意欠陥・多動性障害(ADHD)や高機能自閉症(Asperger症候群,高機能とは知的に障害がない自閉症;HFASD),学習障害などが含まれる.多くの場合,ADHDと高機能自閉症は別の疾患として扱われているが,実際には両方の側面を持つ人たちは少なくないので,この両者には連続性がある.以前に教師を対象として行った文部科学省の調査の推定では,小学生の4~6%を占めるのではないかと報告されたが,これは医学的な診断によるものではない.子どもたちから成人まで,発達障害を抱える人は多いが,わが国では社会資源の不足から,残念ながら診断すら受けていない場合も少なくない.また診断がついても適切な対応ということになるとまだまだ不十分で,どこに相談すればよいかわからないという事態もしばしば見受けられる.

 発達障害者支援法では,市町村の役割として「乳幼児健康診断,学校健診で早期発見に努める.発見した場合には適切な支援を行う」とされているが,乳幼児健診は多くの市町村では3歳児健診で終わりであり,学校健診は胸部理学的所見や咽頭所見のチェックが主であり,発達障害の対応に十分な役割を果たしているとは言いがたい.

発達障害者の社会的支援活動の現状と課題―発達障害者支援センターの立場から

著者: 新澤伸子

ページ範囲:P.289 - P.291

 筆者自身の臨床活動は,児童相談所からスタートし,公立の就学前通園施設,民間の自閉症支援センターを経て,現職の発達障害者支援センターというように,公立機関,民間の任意団体,国事業の民間受託という,運営形態の異なる臨床の場で,合わせて約20年間,発達障害者の支援活動に携わってきた1).その中で,公的機関,民間機関の持つそれぞれのメリット,デメリットを感じてきた.これまでの障害者福祉の発展の歴史を見ても,まず,当事者としての障害者本人・家族のニーズが,現状を変えようとする強いエネルギーを生み出し,行政を動かし,支援施策や制度が整えられてきたと言える.そういう意味では,これまで行政的な支援制度の谷間にあった発達障害のある人たちへの支援が,関係団体の長年の代弁活動の末,平成16年12月の発達障害者支援法の成立に至り,都道府県,市町村の役割が法的に規定され,まさにこれからが実効性のある支援活動を具体的に事業化していく正念場であると感じている.

 本稿では,事業者・支援者の立場として,相談支援活動を通して見えてきた当事者・家族のニーズと現状,今後の課題についてまとめてみたい.

視点

健康危機管理におけるボランティアの意義と課題

著者: 尾島俊之

ページ範囲:P.254 - P.255

 阪神・淡路大震災以来,震災や水害等の大規模災害が発生した際には,大勢の一般ボランティアが被災地に駆けつけ,ボランティア活動を展開する姿が見られるようになった.また,自主防災隊等の地区組織も重要な役割を担ってきた.公衆衛生の視点から,ボランティアの意義と課題について考えてみたい.

特別記事 地域在宅ケアを考える・3[インタビュー]

最期まで暮らせる地域のあり方

著者: 網野皓之 ,   三井ひろみ

ページ範囲:P.292 - P.296

 本シリーズでは,地域で終末期医療,在宅ケアに取り組まれている医師の実践を紹介することで,「地域医療」ということ,「公衆衛生」ということの大切さを考えてきました.第3回目は網野皓之氏.在宅福祉の村・長野県泰阜村での取り組みを辿りながら,医療・福祉が充実した地域社会をどう創るかのお話を伺います.

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・40

健康と文明・1

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.256 - P.257

 近年,地球温暖化とこれに伴う問題は,議論が活発になってきており,今年7月に日本が主催する北海道洞爺湖サミットにおいても,地球環境問題が主要な議題の1つとして取り上げられる.

 地球温暖化に伴う健康影響についても,WHO西太平洋地域加盟国からの強い懸念と要請を受け,今年9月の地域委員会で,議題として取り上げることを決定している.

公衆衛生のオルタナティブ・1 【新連載】

【鼎談】がんと循環器疾患の予防対策(上)

著者: 大島明 ,   磯博康 ,   坪野吉孝

ページ範囲:P.297 - P.301

 今月から新シリーズ「公衆衛生のオルタナティブ」がスタートします.公衆衛生分野の様々なトピックを軸に,坪野吉孝氏ご司会のもと,毎回ゲストをお招きし,トピック自体の話に加え,時にゲストのライフヒストリーも交えお話をいただきます.本シリーズを通して「公衆衛生」の根本的なところまで立ち返り,読者の皆さんと共に,公衆衛生の「もう1つの道」を探っていきたいと思います. (編集部)

予防活動のガイドライン・4

子宮頸がん

著者: 松永直久

ページ範囲:P.302 - P.305

Summary of Recommendations

 この項では米国予防医療研究班(USPSTF)勧告の子宮頸がんについてのSummary of RecommendationsならびにClinical Considerationsについて述べる.その後,HPV(Human papillomavirus:ヒトパピローマウイルス)感染と子宮頸がんの自然史,日本における子宮頸がん検診の現状,子宮頸がん検診の今後の方向性について述べ,最後に日本における子宮頸がん検診の勧告について,筆者の私見をまとめた.

地域における自殺対策の新展開―自殺は予防できる・1【新連載】

秋田県の自殺対策

著者: 本橋豊

ページ範囲:P.306 - P.309

秋田県の自殺の現状―平成19年6月の自殺統計の衝撃

 平成18年の秋田県の自殺者数は前年度と比べて35人増の482人であり,人口10万人あたり42.7であった.働き盛りの50歳代の自殺が多く,75歳以上の高齢者が多いのが秋田県の特徴である.秋田県の自殺率は都道府県別に見ると最も高く,平成7年以来12年連続ワーストワンの記録を更新している.平成18年の自殺者数が隣県の青森県では大きく減少したこともあり,秋田県の自殺対策は効果がなかったのではないかという新聞報道もなされた.官民挙げて取り組んできたにもかかわらず,減少が見られないという事実に対する苛立ちが,新聞報道には感じられた.しかし,実際に自殺対策の現場にいる関係者のすべてが,このような悲観的な考えにとらわれていた訳ではない.

 自殺対策の効果が本当にあるのかどうかは,自殺率の長期的変動を観察する必要がある.1年ごとの自殺率の数字は様々な要因により変動しており,1年ごとの数字の増減より長期的なトレンドを見る必要があるのである.秋田県の自殺率の長期的トレンドを見ると,本格的な県の自殺予防対策が開始された平成13年から,長期的には緩やかな減少傾向を示していると判断される.したがって,秋田県の自殺対策は効果がなかったという主張は正しくない.短期的な数字の変動に動揺することなく,地域において地道な対策を継続していくことこそ,自殺対策の本道であると言うべきである.

保健予防事業のアウトソーシング最前線・14

アウトソーサーとしての健診機関

著者: 辻荘俊 ,   岩田清治

ページ範囲:P.310 - P.313

 2008年度からは,いよいよ特定健康診査(以下,特定健診)・特定保健指導が各医療保険者(以下,保険者)に義務付けられる.

 本誌2007年6月号で,日本総研の山田敦弘氏が卓越したアウトソーシング概論で,「医療保険者は企業戦略上,最も重要な役割を果たす1部門と位置づけられることができるだろう」と述べているように,特定健診・特定保健指導の保険者に対する義務付けで,魅力あるマーケットと捉えられている.この結論に異論を唱える者は誰もいないはずである.

PHNに会いたい・8

―和歌山県難病・子ども保健相談支援センター―「保健相談と支援」をつなぐパブリックヘルス

著者: 荘田智彦 ,   内田史 ,   中江静子 ,   石井美保 ,   前島知子 ,   小畑和香

ページ範囲:P.314 - P.320

 私にとって「子ども難病」という言葉の響きは特別の思いがあります.実は私自身,長男が小学4年生時に小児てんかんという病を発症し,27歳の若さで昨年他界するまで,厳しい難治性てんかんとの闘病を経験してきた父親の1人だったからです.今回の取材のきっかけもこの個人的な事情が和歌山県の難病子ども保健相談支援センターの内田史保健師(43)とのご縁を結んでくれました.

 昨年12月1日,私は有志と共に東京大学安田講堂で第1回「てんかん治療の明日を考えるシンポジウム」を開催しました.不治の領域と思われてきた難治性てんかんに,脳神経外科の手術が近年有効な治療法となっていることを広く伝えるための催しです.このシンポジウムは,全国から800人にも上る患者・家族,医療,保健,教育関係者が集まり盛況でした.

楽しく性を語ろう―性の健康学・8

インターセックス

著者: 中村美亜

ページ範囲:P.322 - P.323

 今回から「性の多様性」へと話が移る.いわゆる「セクシュアル・マイノリティ」(性的少数者)と呼ばれる人たちに焦点を当てるのだが,今までの話と関連がないわけではない.これまでも,妊娠時にどう男女が分化するか,あるいは同性愛についても触れ,「男」と「女」という枠組みを様々な角度から見直す準備をしてきた.今回からは,性の多様性への認識を深めるとともに,それを通じて,学生の多くが思い込んでいる「男」や「女」の性的欲求のあり方や,性行動における性別役割についても再考を促すのを目的とする.

 いつものように,まずは動機付けから始める.「みなさん,男,女って言うけど,どうやってこの2つは区別されますか? 考えられるものを,どんどん挙げてみてください」,こう学生に問いかけると,実に様々な答えが出てくる.髪型から始まり,化粧,服装,歩き方,表情,身長,筋力,話し方,体の形,声,職種,喫煙率,寿命などなど.「もっと決定的な違いは?」と尋ねると,性器や染色体が出てくる.

衛生行政キーワード・42

小児環境保健に対する取組―環境リスクから子どもを守るために

著者: 長谷川学

ページ範囲:P.324 - P.326

 近年,小児に対する環境リスクが増大しているのではないかとの懸念があり,環境中の有害物に対する小児の脆弱性について大きな関心が払われている.1997年に開催された先進8カ国の環境大臣会議(開催地:米国マイアミ)において,世界中の子どもたちが環境中の有害物の脅威に直面していることが認識され,小児の環境保健に対して優先的に取り組む必要があることが宣言された.これを機会に,世界各国で小児の環境保健に関する科学的知見の収集が行われ,新たな対策が取られつつある(図1).

研修医とともに学ぶ・1

「研修医は学生ではない!」地域保健・医療研修の理念

著者: 嶋村清志

ページ範囲:P.321 - P.321

 新医師臨床研修制度では,1 か月以上の地域保健・医療研修が必修になっています.その間,研修医は公衆衛生の第一線の現場を体験することが極めて重要で,実地訓練を中心に一貫した成人教育によって,人格の涵養と社会科学的成熟が求められています.

 当所では,地域の学習資源等を最大限に活用しながら,次のような理念に基づきプログラム(表)を策定しました.①そもそも研修医は学生ではなく,医師免許や保険医登録のある医師であること.②給料が支給されている社会人であり,職員と同様,組織の一員として行動してもらうこと.③担当職員がいちいち世話を焼くのではなく,外部研修先に対しても研修医が自ら電話等でアポをとり,挨拶や自己紹介,TPO に合わせた服装の選択も研修の一環としたこと.これは外部関係機関との基礎的な調整能力を獲得するプロセスであり,社会人としての成熟を目指す方略であること.④できるだけ公共交通機関を利用して,研修医ひとりで現場に出向き,地域住民の生の声や生活の様子を自分の眼で観察できる機会としたこと.⑤地域医療研修では,自身が目指すべき開業医の熱意に応えられるよう,研修医の専攻科目を事前に聴取し,先輩医師会員にもアンケートをしてミスマッチを防いだこと.これは,将来的に地域の医師確保にもつながる方略であり,琵琶湖の鮎のように,一廻りも二廻りも大きくなって滋賀県に定着してくれることを期待しているものです.

投稿 フォーラム

患者主体の医療支援体制への提案

著者: 細貝孝子

ページ範囲:P.328 - P.332

 わが国においても,従来のパターナリスティックな医師-患者関係を改め,医師と患者は水平な関係に立ち,情報を共有しながら共に治療法を決定するなど,患者参加型の医療への転換が求められている.納得できる医療を受けるためには,医療提供者だけでなく,患者も受療意識を見直す時期に来ている.患者満足度調査において,病院や医師が実施した調査はこれまでにも多数報告されているが,これらは受診している病院や医師の依頼による調査ということから,どの調査も満足度が高くなる傾向が見られる1).しかし,患者の本音が聞けるということから,最近,患者会の報告が注目されている2)

 筆者らは,患者の受療意識を明らかにすることを目的に,患者会およびボランティアグループ等の協力を得て,「納得できる医療を受けるための外来受診に関する意識調査」(以下,「われわれの調査」と呼ぶ.その概要については本稿末尾の「参考資料」を参照)を実施した.この調査結果および関連する先行研究等を参考にしながら,患者主体の医療支援体制のあり方に関する私見を述べたい.

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あとがき フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.334 - P.334

 母子保健事業は市町村に移管され,地域の子どもの問題は市町村,保健所,医療機関に分断されて見えにくくなっています.小児臨床,教育の場にいる人からは,軽度発達障害者の対応で忙しいという声を聞く機会が多くなってきています.しかし,その概念やその支援体制の現状と課題については,公衆衛生行政の中にいる人間には実感されているとは言えないように思われます.

 本特集のご執筆者の一人,西牧謙吾氏とは堺のO157事件で一緒に仕事をしたことがあります.教員免許を持ち,小児科医師,保健所医師であります.昨年,東京で地下鉄の乗り換え時に偶然にバッタリ会うことができました.日本サッカー協会の子どもの支援活動の話題から,母子,学校保健に関わる話をしました.その時から私は,「公衆衛生」誌において母子保健を取り上げ切れていないことが気がかりとなっていました.今回公衆衛生,臨床,教育の世界に通じている西牧氏のお力添えを得て,本特集を企画することができました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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