視点
もっとポピュレーションアプローチを
著者:
伊木雅之1
所属機関:
1近畿大学医学部公衆衛生学
ページ範囲:P.428 - P.429
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予防医学の方法論にはハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチがある.前者は初期患者や大きなリスクをもつ者を早期に発見し,早期に対策を実施するもので,健康診断がその代表だ.後者は個人のリスクの大きさには関係なく,集団全体に働きかけ,多数の人々のリスクを少しずつ下げて,全体としては相当数の疾患発生を防ごうとするものである.日本では女性が妊娠届けを出したその時から死ぬまで,法定の健康診査,健康診断が提供される.妊婦健診,乳児健診,1歳6か月児健診,3歳児健診,就学前健診,学校健診,特定検診,そして,職場の特殊健診やがん健診や骨粗鬆症健診などだ.さらには人間ドックや脳ドックなどに補助金を出している企業や保険者もある.さても健診好きの民族かな,と外国人は驚く.健診のすべてが有効であるというエビデンスが必ずしもないことも問題だが,ハイリスクアプローチには原理的な限界がある.
ハイリスクアプローチではスクリーニング検査などの方法でハイリスク群を同定し,それに濃厚な対策を講じる一方,ローリスク群は捨て置かれる.ローリスク群からの対象疾患の発生リスクは低いが,群の人数が多いので,ハイリスク群からの発生を上回る患者が生じてしまう.ハイリスクアプローチではこれらの患者の発生を予防できないのだ.