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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生72巻7号

2008年07月発行

雑誌目次

特集 たばこ研究

フリーアクセス

ページ範囲:P.521 - P.521

 2003年5月の健康増進法(第25条:受動喫煙対策)の施行から5年を経過しました.2005年2月には「たばこ規制枠組み条約(FCTC)」の発効などもあり,わが国の「たばこ対策」は着実に加速しました.これとともに,喫煙行動の実態,受動喫煙対策,喫煙防止教育および禁煙治療などに関する研究も盛んになり,その成果が数多く報告されています.

 しかしながら,ヘルスプロモーションの観点からたばこ規制政策を展開している国々と比べて,わが国のたばこ対策には課題が多いのも事実です.たとえば,価格政策が不十分なこと,アクセス政策が遅れていること(たばこ自販機が今でも全国に40万台以上設置),広告規制や警告表示が甘いことなどが指摘されています.このような環境の中で喫煙防止教育や禁煙治療が行われ,その効果の評価に関する研究を行っているのが,わが国の実情です.

たばこ対策研究の現状と今後の研究課題

著者: 尾﨑米厚

ページ範囲:P.522 - P.526

 たばこ対策に関する研究は,近年急速に発展しつつある.Medlineで検索した場合でも,喫煙関連キーワードを持つ論文は171,249にも上り,肺がん(132,375),脳卒中(120,640)などよりも多い(2008年4月7日).ヒトを対象とした様々な疾病の研究をする場合に,既知の危険因子として喫煙状況は必ず調べなくてはならず,そのため喫煙がキーワードとなっている物も多いが,最近では喫煙対策そのものが研究対象となっており,研究デザイン,研究方法も急速に進化しており,論文の質も高度になってきている.

 したがって,たばこ対策関連の論文を国際誌に掲載しようとすると多大な努力が必要であり,その上喫煙対策の遅れにより,日本からの国際的研究が極めて少ない分野でもある.喫煙対策の根拠には,喫煙の健康影響の評価が必須である.喫煙対策の3本柱に喫煙防止,受動喫煙防止,禁煙治療があり,総合的な評価のために喫煙状況モニタリングがある.

 また,社会問題との接点として訴訟問題,たばこ会社の内幕なども研究対象となってきている.日本公衆衛生学会による「21世紀の公衆衛生研究戦略を考える」というフォーラムの報告書における,今後必要となってくる分野別の研究についての記載においても,酒・たばこ・依存性薬物だけが分野名ではなく,具体的に名前が挙げられているほど重視されている1).今後,ますますわが国発のエビデンスの公表が望まれる.

わが国のたばこ対策の検証と期待される政策研究

著者: 大島明

ページ範囲:P.527 - P.533

 喫煙が予防しうる最大の疾病・早死の原因であることは多くの国内外の研究によってすでに確立している.2005年2月27日に発効したWHOたばこ規制枠組条約(FCTC)1)の締約国(2008年4月9日現在153国)の多くは,FCTCの条項に盛られた規定に沿って,たばこ規制の取り組みを進めつつある.わが国は2004年6月にFCTCを批准し,締約国のひとつになったにもかかわらず,残念ながらたばこ規制の取り組みは遅々として進んでいない(末尾の注参照).

 喫煙と肺がんの関連は1950年のWynderの症例対照研究によって初めて明らかにされた.その後Dollらの英国医師を対象とするコホート研究などによって,喫煙が肺がんをはじめとするがん,心筋梗塞,脳卒中などの循環器疾患や慢性閉塞性肺疾患など多くの疾患の原因であることが明らかにされるとともに,欧米先進諸国でたばこ対策が取り組まれるようになった.そして,受動喫煙が肺がんの原因となることを世界で初めて明らかにした1981年の平山コホート研究によって,喫煙の害は単に喫煙者本人だけでなく,周囲の非喫煙者にも及ぶことが認識されるようになり,たばこ対策は質的に変化した.

 わが国の平山コホート研究,そしてこれに続く厚生労働省大規模コホート研究や文部科学省コホート研究,NIPPON dataなどの疫学研究は,欧米の研究に比し質的にも量的にも劣るものではない.日本では,1987年に厚生省編集の喫煙と健康問題に関する報告書「喫煙と健康」が出版され,その後,1993年に第2版,2002年に新版「喫煙と健康」が出版されたが,これらの報告書において,喫煙が日本人の健康障害の重要な原因となっていることが確認されている.

 しかし,わが国では喫煙と健康に関する疫学研究がたばこ規制の取り組みに繋がっていない.本稿では,わが国のたばこ対策を検証するとともに,たばこ対策を推進するために必要な政策研究や保健医療専門職の役割に関して検討する.

地域における喫煙対策の実践と研究

著者: 原田久

ページ範囲:P.534 - P.538

 わが国では,喫煙対策は公衆衛生施策として体系化されておらず,現在は,母子保健,学校保健,老人保健,地域保健などの各保健分野でバラバラな内容で取り組まれている.また,上記のような保健事業に直接関わることが少なくなった県型保健所では,喫煙対策が公衆衛生上の最重要課題であるにもかかわらず,取り組まれにくい状況にある.

 神奈川県では,平成17年3月に策定された「がんへの挑戦10か年戦略」(http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/kenkou/gan/gan10/index. html)の一環として,平成17年度から県単独事業として「地域禁煙サポート推進事業」を実施している.この事業の枠組みにより,すべての県保健所で喫煙対策に取り組んでおり,中には先進的な取り組みをしている保健所がある.また,県内の政令5市(横浜市,川崎市,横須賀市,相模原市,藤沢市)の保健所では,従来から老人保健事業における個別健康教育や母子保健事業などで,喫煙対策に取り組んでいる.

 筆者らは,平成19年度厚生労働科学研究費補助金(がん臨床研究事業)の分担研究として,「地域での禁煙活動における保健所の役割について」というテーマで取り組み,県保健所に限らず,県内の政令市保健所などからも広く事例収集したので,その内容とともに,現在,神奈川県で検討されている「神奈川県公共的施設における禁煙条例」の概要について紹介させていただきたい.

受動喫煙対策に関する研究成果と今後の課題

著者: 大和浩

ページ範囲:P.539 - P.542

 欧米をはじめ,アジアや中南米の諸外国では,職場や公共の場所,交通機関はもちろん,飲食店やバー,カジノなどのサービス産業を含むすべての建物内を禁煙とする全面禁煙法が施行されている1).それらの国々では,査察制度や罰則により違反のない全面禁煙が施行されている.一方,わが国の受動喫煙対策は2003年5月の健康増進法の施行によりある程度の進捗が見られているが,諸外国に比較して著しく遅れた状態となっている.

 筆者は,2005~2007年度の厚生労働省科学研究費補助金「受動喫煙対策にかかわる社会環境整備についての研究」に携わり,日常生活で受動喫煙を受ける機会が多い公共交通機関,遊戯施設,宿泊施設,また,敷地内禁煙という先進的な対策を取らねばならない医・歯学部について調査を行ったので,その内容を中心に紹介する.

禁煙治療・禁煙支援に関する研究成果と今後の課題

著者: 中村正和

ページ範囲:P.543 - P.548

医療の場での禁煙治療の制度化を目指した研究

 筆者らは2004年度より厚生労働省の第3次対がん総合戦略研究事業の中で,保健医療の場での禁煙支援・治療の制度化について政策提案を行うための研究(policy research)を実施している1,2).本研究班全体の目的は,肺がんをはじめとする喫煙関連がんの1次予防の推進を目指して,喫煙者に対する禁煙治療・支援の推進と喫煙者の禁煙の動機を高める環境整備の両視点から,禁煙者を増加させるための効果的な方策や方法論を開発するとともに,その普及方策を検討し,政策化の検討に役立つエビデンスに基づいた資料を提示することにある.

 本研究の一環として,2006年度の診療報酬の改定に合わせて,医療の場での禁煙治療に対する保険適用の実現を図るべく,政策提言のためのエビデンスを収集・整理するとともに,医学会や日本医師会等の団体・組織と協働して厚生労働省に対して政策提言を行った.保険適用の政策提言にあたっての基本方針として,予防給付がなされていないわが国の現状を踏まえ,喫煙をニコチン依存症という病気として捉え,その治療に対しての保険給付を提案することとした.2006年度の診療報酬の改定から保険適用にあたり,その申請書にあたる「医療技術評価希望書」の作成が必要となった.そこで,関連学会や日本医師会と協働して,同希望書の作成を行うこととし,作成に必要となったニコチンの依存性や禁煙治療の有効性に関する科学的根拠のレビュー,保険適用の対象となる禁煙治療プログラムの検討,禁煙治療を保険適用した場合の医療費への影響の推定,諸外国での禁煙治療の実態の把握などを研究班が中心となって実施した1).そして2005年6月に日本循環器学会が厚生労働省保険局医療課に対して医療技術評価希望書を提出した他,日本気管食道科学会が日本循環器学会が提出した同じ内容の医療技術評価希望書を資料として,日本医師会長宛に禁煙治療に対する保険適用の要望書を提出した.さらに,日本循環器学会や日本呼吸器学会などの禁煙に取り組む9学会が,厚生労働省保険局医療課長に対して禁煙治療の保険適用の要望書を提出した.

歯科・口腔領域の研究成果と対策および無煙たばこ対策

著者: 埴岡隆

ページ範囲:P.549 - P.554

 歯科・口腔領域では,喫煙に関連する疫学研究が遅れたことや,歯科職種がどのようにたばこ対策に関わるかといった指針が十分に示されていないことから,喫煙と歯周病の関係についての国民の知識は依然として低い(図1).今,口の中で用いられる無煙たばこが世界的な論争となっている.議論の中に日本も巻き込まれつつあるが,公衆衛生分野の専門家の無煙たばこの知識は乏しく,情報が行きわたっていない.たばこ規制条約により,燃焼たばこの規制が世界的に厳しくなっている中で,大手の国際たばこ会社が,燃焼たばこの害を低減する可能性を持つスウェーデン産の無煙たばこに自社ブランド名をつけ,世界各国で販売を展開し始めた.日本では,ガムの中にたばこの葉を混ぜた噛み用のたばこ製品が世界で初めて首都圏で試験発売された.2003年秋のことである.

価格誘導政策のターゲットは誰か―価格弾力性をめぐる研究成果と今後の政策展望

著者: 細野助博

ページ範囲:P.555 - P.559

社会的規制への舵切り

 「たばこの消費などが健康に及ぼす悪影響から,現在と将来の世代を保護するための国際協力」を目的とした世界保健機関(WHO)の「たばこ規制枠組み条約(FCTC)」は,2005年2月に発効された.この条約の締結国は,①公共の場での分煙,②たばこ製品の包装,注意文言などの措置,③たばこ製品の広告や販促活動の包括的禁止,④未成年者の喫煙禁止措置などの主要義務が課されることになった.

 規制緩和の潮流にあったわが国が,2001年「たばこ」に関する社会的規制の強化に大きく舵を切ったのは,WHOを中心とした国際的な動きと同時に,マクロ経済的な意味合いの変化があったからだ.かつて日本は,世界の中ではたばこ規制に対して消極的な姿勢を堅持することで有名だった.政策的に大きな転換が行われることになった背景には,国際的な圧力と同時に,たばこ販売からの税収入や産業関連の収益約3兆円と,国民医療費に占めるたばこ関連の超過負担や人的経済的損失7.3兆円という概数が示すように,マクロ的な費用便益上の逆転が明確になったことから,行政当局も政策転換を行ったことが挙げられよう(「米国における同様の動きに関して」8)フリッチュラー,1995).

たばこ対策の推進に向けた保健医療専門学会の取り組み

著者: 飯田真美 ,   藤原久義

ページ範囲:P.560 - P.564

 米国ではすでに1961年に米国がん協会,米国心臓協会,全米結核協会,米国公衆衛生協会の会長が共同でKennedy大統領に喫煙の健康被害に対する対策に関し要望書を提出し,医療の専門家集団としての情報提供を行っていた.わが国においては個別の研究や取り組みはあるものの,学会として喫煙の問題に取り組み始めたのは1990年代後半になってからである.わが国で初めて保健医療専門学会として,喫煙による健康被害について社会に警鐘を鳴らし取り組む姿勢を宣言したのは,「喫煙による健康被害および疾病の悪化に関する十分な知見が蓄積されたことを踏まえ,日本呼吸器学会は医療従事者および患者はもとより,広く国民全員に禁煙を強く勧告する」という喫煙に関する勧告を1997年に発表した日本呼吸器学会であった.以後,日本小児科学会(1999年),日本肺癌学会(2000年),日本公衆衛生学会(2000年),日本学校保健学会(2001年),日本循環器学会(2002年),日本口腔衛生学会(2002年)と相次いでたばこ対策の強化を表明し,会員自らの禁煙の推進や医療機関の禁煙化,および禁煙教育の推進などに取り組み始めた.

 このような中,2005年の9学会合同禁煙ガイドライン1)策定は,横の繋がりの悪い医学会においても,全く異なる領域の9学会が合同で喫煙の問題に取り組むきっかけとなった.本稿では,この禁煙ガイドライン作成・公開に引き続き,学会合同でたばこ対策を推進している立場から,禁煙ガイドラインと,その後の学会合同でのたばこ対策の推進に向けた禁煙推進学術ネットワーク(http://www.tobacco-control-research-net.jp/)の活動について紹介したい.

視点

わが国の予防医学の戦略をどう構築すべきか?

著者: 坂田清美

ページ範囲:P.516 - P.517

 平成20年4月より,新しい医療制度がスタートしている.各保険者には40歳以上75歳未満の被保険者とその被扶養者に対し,特定健診・特定保健指導が義務づけられた.この制度は健康日本21の中間評価において,肥満者が増加し,糖尿病患者および予備軍が増加し,野菜の摂取不足は改善されず,歩数はむしろ減少していたというショッキングな事実を踏まえ,より確実な予防効果を上げるための方策として導入されたものである.メタボリックシンドロームに特化した形で予防効果を上げることをねらった政策である.

 一方,介護保険制度では,平成12年度の導入以後,要介護者の急増により,平成17年度より「介護予防」なる政策を導入している.介護の重症化防止に主眼をおいた政策となっている.また,保健分野では,市町村を中心として従来から脳血管疾患や心疾患の予防のため高血圧管理,血糖管理,脂質異常の管理を実施している.「寝たきり」の約3割は脳血管疾患が原因であり,低下した筋力を維持向上させるプログラムはあってしかるべきとしても,本質的に目的が異なる訳ではない.

特別記事

近隣の社会環境が住民の健康へ及ぼす影響―ソーシャル・キャピタル研究を探る

著者:

ページ範囲:P.565 - P.572

 近隣環境が健康へ及ぼす影響は,疾病発生に寄与する影響(pathogenic influences)と健康増進に寄与する影響(salutogenic influences)として概念化することができます.まずpathogenic influencesの1例として,社会秩序の崩壊による悪影響について説明し,次にsalutogenic influencesとして,住民全体の社会化(collective socialization)とソーシャル・キャピタルについてお話したいと思います.

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・43

健康と文明・3

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.518 - P.519

 前回は,21世紀を特徴づける「病気」として鳥インフルエンザ(H5N1)を中心に述べた.今回は健康被害がどの程度,われわれの文明によってもたらされたかを考えることによって,これからの人類の生き方について考えてみよう.

 21世紀を特徴づける「病気」については,鳥インフルエンザと共に,SARSも取り上げられた.グローバリゼーションに伴う未曾有の人と物の大量の動きがSARSの拡大につながった.仮にこの病気が19世紀に発生していたら,おそらく限局した地域の風土病に留まっていたに違いない.

予防活動のガイドライン・7

乳がん

著者: 苅田香苗

ページ範囲:P.573 - P.576

Summary of Recommendations

 1.遺伝子診断

●乳がん発症に関与するとされるBRCA遺伝子について,血縁者にBRCA1またはBRCA2の変異が疑われる乳がん患者がいない場合,遺伝子検査や遺伝相談を推奨しない:勧告レベルD

●BRCA1またはBRCA2変異による乳がん発症が疑われる血縁者がいる場合は,遺伝子診断と遺伝相談を勧める:勧告レベルB

地域における自殺対策の新展開―自殺は予防できる・4

宮崎県の自殺の現状と対策

著者: 岩本直安

ページ範囲:P.577 - P.579

太陽と緑の国 みやざき

 平成19年1月,東国原知事の誕生とその後3件続けて発生した高病原性鳥インフルエンザにより大きな話題となった宮崎県だが,日照時間の多さや県木「フェニックス」に代表されるように「太陽と緑の国」として,自然豊かで住みやすい南国地域というイメージが強い.またその後の知事のPRもあり,地鶏や完熟マンゴーなど,農業生産・観光県として全国にその知名度をあげつつある.しかしながら,自殺死亡率からみると,ここ10年は常に全国の上位県に位置している.宮崎県では,平成18年度から県の新規重点事業として自殺対策事業が実施されている.

PHNに会いたい・11

―徳島県那賀町―高度地域包括医療への挑戦と新たな本題

著者: 荘田智彦 ,   殿谷加代子 ,   濱田邦美 ,   蔭岡美恵

ページ範囲:P.580 - P.587

 お陰様で,本連載も無事後半へと折り返すことができました.全国のPHNを案内人に〈われわれ(public)〉の,姿,顔を探して,飛び回っていますが,日本中で同じような状況,たとえば高齢社会の社会資源が充実すればするほど,後ろに続く「家族」がいない,後継社会が育っていないこと(空っぽ)に気付かされ,ゾッとしています.前回,高齢社会の社会的支援体制の先進例として富山市の「富山方式」を紹介しましたが,その富山市の介護の現場で「資源が入ると,地域が離れる」という住民の声を聞きました.ここでいう「資源」「地域」という言葉の使い方も時代を映していますが,「地域」の前に(あるいは同時に)「家族」も離れてしまっていることが,もっと問題ではないかと思います.

 さて,私は今回,先行して生活習慣病(メタボ)対策に取り組む徳島県で,最近注目されている「メタボ対策」以前から,町の診療所医師,保健師たちの多彩な取り組みで高い健康度を保っている町があると聞き,徳島県那賀郡那賀町を訪ねることにしました.案内人は旧相生町(平成17年3月1日合併で那賀町)の殿谷加代子保健師にお願いしました(写真1).那賀町でも冒頭に書いた思いと同じことを感じました.「本当に“私たち”はこのままでいいのか」,私たちは何か大事なものを忘れているのではないか,私はその答えを,今回の那賀町の取材から学ばせてもらった気がします.誰もが目の前の激しい変化に対応しようとするあまり,人としての手離してはならない「生きる習慣」を,どこかに置いてきてしまったのです.

楽しく性を語ろう―性の健康学・11

性暴力

著者: 中村美亜

ページ範囲:P.588 - P.589

 私が若者に向かって,「愛し合っている人どうしならセックスをするとか,セックスをすれば愛が深まるとか信じ込んでいる人,それは間違いですよ!」と話すと,必ず「そんなはずはない」と反論される.「セックスは愛している者がするものであり,愛の結晶がセックスである」と,メディアや教育や芸術によって,さんざん刷り込まれているのだから,そう考えるのも無理もない.

 しかし,「愛と暴力は紙一重」という話をすると,私の言わんとしていることが意外にスルッと理解されるようだ.まずは「あなたの人間関係チェック」をしてもらう.「自分の親しい友人やつき合っている人,あるいは家族などから誰か1人を選び,その人との関係について,次の質問に自分があてはまるかどうか考えてください」と指示を出す.以下はDV(ドメスティック・バイオレンス)があるかどうかをチェックするために沼崎一郎さんが作成した項目(『なぜ男は暴力を選ぶのか』かもがわ出版,2002)の一部だが,少し文言を変えて,すぐに“DV”とはわからないようにしておく.

衛生行政キーワード・45

救急搬送と医療機関との連携について

著者: 溝口達弘

ページ範囲:P.591 - P.593

 消防庁救急・救助の現況によると,救急出場件数は,平成18年は約524万件で前年より微減したものの,平成8年からの10年間で55.3%増加している.総務省国勢調査によると,人口は平成7~17年の10年間で1.8%の増加であり,救急出場件数の増加は,人口増加を大幅に上回る増加となっている.

 一方,需要に対する供給に目を向けると,平成19年4月現在の救急隊数は4,846隊であり,平成9年からの10年間で約8.1%の増加にとどまっている.また,厚生労働省医療施設調査によると,病床数については,一概に総病床数で見ることが必ずしも適当ではないが,平成8年からの10年間で約6.5%減少している.

 こうした受給ギャップの背景を受け,救急医療の一端を担う救急搬送において,現場到着所要時間の遅延傾向と受入医療機関選定困難事例の発生が大きな課題となっている.本稿においては,消防庁が公表した「救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査」の概要を中心に,救急搬送と医療機関との連携について解説する.

研修医とともに学ぶ・4

甲賀流忍者と配置薬の歴史を知る~薬の製造過程から品質管理を学ぶ~

著者: 嶋村清志

ページ範囲:P.590 - P.590

 甲賀市甲南町竜法師には今も現存する「忍者屋敷」があり,私も研修医と訪れることがあります.忍術の極意書「万川集海(ばんせんしゅうかい)」には忍者が薬草を育て,加工し,様々な生薬を創っていたと記されています.地元の山伏や修験者,のちに忍びと言われる者は,町人や商人になって常備薬や護身薬を創り,旅先での生計にあてていました.また,忍薬として飢渇丸,水渇丸,敵を眠らせる薬,眠気をさます薬などの他,様々な救急薬も創られていました.

 その後,県内各地で「和中散」,「赤玉神教丸」,「万病感応丸」などの薬も創られ,大勢の近江商人たちが道中薬として持ち歩き,その効能が話題を呼び,全国に広まりました.現在も滋賀の家庭薬工業は富山,奈良,佐賀と並んで4大配置用家庭薬生産県として有名です.昭和になって薬業界や配置薬業の発展と製薬技術の発展を目的に,滋賀県薬事指導所(現:薬業技術振興センター)が甲賀市に設置されました.甲賀保健所の研修医には,こういった薬業の歴史を知ってほしいし,薬の安全性を監視している薬業技術振興センターの役割を学ぶというねらいから,薬事研修を積極的にメニューに取り入れています.そしてこの研修の一環として,当保健所管内の製薬会社工場を訪問し,その製造過程を見学することにより,徹底した品質管理の現状を学んでもらっています.臨床の現場で何気なく処方している薬の一錠一錠が,厳格な検査を経て製造されていることを知ってほしいのです.

フォーラム

訪問看護ステーションにおける衛生材料・医療機器・医薬品の管理

著者: 石川陽子 ,   金子仁子 ,   上野まり ,   吉岡洋治 ,   中村順子 ,   宮本郁子 ,   柏木聖代 ,   佐藤寧子 ,   野末聖香

ページ範囲:P.594 - P.599

 平成18年度診療報酬・介護報酬同時改定では,在宅医療の推進が,焦点のひとつであった.特に終末期医療については,最期の時を住み慣れた地域で家族と共に迎えたい,という人々のニーズに応える制度づくりへの一歩を踏み出したと言える.そのひとつが,在宅療養支援診療所の創設であり,開業医の在宅医療参入へのインセンティブとなる報酬体系がつくられた.

 一方,訪問看護ステーションについては,連携先の訪問看護指示書交付医が在宅療養支援診療所の医師である場合には,医療保険においてやや高い報酬が設定されたものの,訪問看護ステーションの経営は厳しく,さらに訪問看護の推進力となる制度設計は今後の課題と言える.

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あとがき フリーアクセス

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.602 - P.602

 本誌では折に触れて,喫煙対策に関連した論文を掲載してまいりましたが,特集を組むのは2004年(第68巻12号)以来4年ぶりとなります.前回の特集テーマは「喫煙対策はどこまで進んだか?」でしたが,今回は「たばこ」の3文字を前面に出してみました.たばこ規制枠組み条約(FCTC)が発効した2005年以降,「たばこ対策」という用語が一般化したこと,および燃焼たばこの「喫煙」だけが対策の対象ではなく,わが国も「無煙たばこ」(ガムたばこ)に無縁でなくなったことなどを意識した特集タイトルです.

 冒頭で尾﨑先生から,たばこ対策に関連した研究の現状と課題を鳥瞰していただきました.たばこ対策を推進するためには,幅広い視野からの研究に基づくエビデンスの創出とその活用が重要であることを痛感したところですが,今回の特集では特に,FCTC発効後に進展の大きかった分野,あるいは新たな課題が露呈してきた分野の研究に関する玉稿が揃いました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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