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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生72巻8号

2008年08月発行

雑誌目次

特集 地域における医師職のあり方

フリーアクセス

ページ範囲:P.609 - P.609

 病院の医師不足,診療科閉鎖,廃院・統廃合,地域偏在化,妊産婦のたらいまわし等々の問題が連日報道されています.しかし昭和40年頃にも同じような,インターン制度廃止,無医地区・僻地医療・救急医療体制の不備による患者のたらい回しなどの問題が報道されていました.その問題解決のために,自治医科大学(以下,自治医大)の創設,一県一医大の推進など,医師養成数を増加させる対策が講じられることになりました.

 その後,わが国の医療状況を見ると,医師養成数を増加させることだけでは医療問題が解決できないことが示されているように思います.自治医大は既存の医科大学とは異なる使命を有して開校しました.卒業生が社会に出て30年の年月が経っています.

自治医大卒業生の軌跡―地域医療と医師職の現状と課題

著者: 塚原太郎 ,   梶井英治 ,   高久史麿

ページ範囲:P.610 - P.613

 自治医科大学(以下,自治医大)は,都市と地方との医療格差が社会問題となっていた1972年,離島・へき地で地域医療を担う医師の養成を目指して栃木県河内郡南河内町(現下野市)に開学した.その後36年が経過したが,離島・へき地における医師不足は解消されていない.わが国における医師数は毎年約4,000人増加しているが,地域間・診療科間の医師偏在はむしろ深刻化していると言ってよい.

 このような状況の中で,2008年入試から10県に所在する医学部と自治医大において暫定的な定員増が認められるとともに,2009年からは各都道府県において地元医学部との連携による新たな修学資金貸与制度(以下,「新貸与制度」)の導入が検討されている.本稿では,自治医大卒業生の勤務状況を紹介するとともに,その軌跡から見えてくるわが国の地域医療,医師職を取り巻く諸課題について,医学教育のあり方も含めて述べることとする.

地域医療と医師職の展望

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.614 - P.617

 ここ最近,後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の導入に伴い,「かかりつけ医」と「高齢者の医療へのアクセス」という問題について活発な議論がなされているが,これら個別の問題は,実は日本の医療の本質に関わる問題でもある.

 本稿では,これらの問題を,本特集のテーマである“地域医療”という視点から考えてみたい.

北海道における勤務医師の現状と課題

著者: 後藤良一

ページ範囲:P.618 - P.621

 北海道においては地域の医師不足が深刻である.市町村立病院や公的病院では,医師不足は小規模な病院にとどまらず,中核的な病院においても同様である.このような事態に対して北海道では,各関係者と協働し検討をして,医師の確保に向け短期的・長期的な対策を講じてきている.

 本稿では全道の医師と医療機関を概観し,地域医療の現状に触れ,医師確保対策を述べ,および勤務医師の置かれている現状,課題,医師確保対策を報告する.

地域医療における公衆衛生医師職の役割

著者: 田上豊資

ページ範囲:P.622 - P.625

 医師不足による地方病院の診療科の閉鎖,過酷な労働に疲弊する勤務医,妊産婦のたらい回しや小児救急の問題,医療事故と訴訟の増加,医療制度改革による混乱など,わが国の医療が直面している課題を挙げればきりがない.高知県は,人口当たりの病床数,特に療養病床数が全国一多い県であると同時に,そうしたわが国が直面する医療問題を最も顕著に,最も先行して抱えている県のひとつである.

 筆者は,高知県において本庁と保健所で長年,公衆衛生行政に従事してきた.また,全国保健所長会の地域保健の充実強化に関する委員会に参加し,医療制度改革に対する緊急アピールや,平成19年度の委員会提言などに関わってきた.こうした経験から,今後の地域医療における公衆衛生医師の果たすべき役割について,筆者の取り組み事例と全国の保健所長による先進事例を紹介しながら述べることとする.

総合医

著者: 水野肇

ページ範囲:P.626 - P.629

「医師」という職業

 医師という職業はギリシャ時代よりずっと以前から地球上に存在していたと思う.多少の想像を混じえて言えば,シャーマンのような,一種の神がかりとみられる人たちが,今でいう医師の代役をしていたとも考えられる.つまり,神との連絡がとれると称する人間が,今でいう「医師」の代役を勤めていたとも言える.そして時代を経て,ずっと医師は一人で全患者を受け持つというスタイルは,世界中,どこの国でも普通に行われてきた.そして,医療の中核はこのような形のGPとか家庭医といわれる者で,ずっと現代まで続いている.

 中世になって十字軍が結成されて,アラビアまで遠征されるようになった.その際,多数の将兵は途中やイエルサレムに近い処で死んだ.これを救うためにつくられた「ホスピス」が発展して「病院」になった.病院には病理解剖医が居て,複数の医師が勤務するようになり,それまでの自宅による開業医が,一定の場所(病院)で複数で医院を運営するようになり,やがて医科大学が出現し,それが何百年かを経て,現在のような臓器別医学の全盛時代を迎えるようになった.しかし,臓器別医学がメインになり,患者がいきなり,大病院や大学病院に行くのが通例になっているという国は,先進国の中では日本以外にはない.多くの先進国では,国民はまず,GPや家庭医に診てもらい,そこで治る場合(約90%あると言われている)はそこで治療を受け,もし,高度の技術や機器を必要とする厄介な病気の際には,大病院や大学病院に紹介してもらって,そちらで診断,治療を受けるようになっている国が多く,これは制度として押しつけられたものではなく,自然にそのようになり,国民の中で,それに疑問を持つ人は少ない.

メディカル・スクール導入をめぐって―医師養成のあり方

著者: 福井次矢 ,   日野原重明

ページ範囲:P.630 - P.633

 最近,メディカル・スクール論議がかまびすしい.もうずいぶん前になってしまったが,平成3(1991)年の文部省令改正による大学設置基準の大綱化とそれに伴う大学院重点化の際,メディカル・スクールの導入の可能性をめぐって様々なところで議論が交わされたことがある.当時の文部省高等教育局医学教育課長が,わが国の大学医学部をメディカル・スクールに変えることに積極的な発言をしたこともあり,いくつかの大学では医学部教授会でかなり真剣に議論された.その結果,メディカル・スクールに改変することを教授会で決定した国立大学も現れたが,当の医学教育課長が交替したために,メディカル・スクール構想は実現せず,議論もいつの間にか立ち消えになった.

 今回は,勤務医不足や地域医療の危機という医師の養成や配置をめぐる社会的問題を背景に,法曹界におけるロースクールの設置という前例もあり,メディカル・スクールの導入がにわかに現実味を持って議論されているように見える.実際,昨(2007)年には,東京都庁にメディカル・スクール有識者検討会が,四病協(日本医療法人協会,日本精神科病院協会,日本病院会,全日本病院協会で構成される病院団体の集まり)にメディカル・スクール検討会が設置され,メディカル・スクールの設置の可能性について議論が続けられている.

 私たちは,勤務医不足や地域医療の危機が叫ばれる前から,聖路加国際病院にメディカル・スクールを附設したいとの意向を示していて,筆者・福井は上記2つの検討会の委員を仰せつかっていることもあり,本テーマには強い関心を抱いている.

社会と医療―社会的共通資本としての医療

著者: 宇沢弘文

ページ範囲:P.634 - P.637

ゆたかな社会と社会的共通資本

 ゆたかな社会とは,すべての人々が,その先天的,後天的資質と能力とを十分に生かし,それぞれの持っている夢とアプピレーションが最大限に実現できるような仕事に携わり,その私的,社会的貢献に相応しい所得を得て,幸福で,安定的な家庭を営み,できるだけ多様な社会的接触を持ち,文化的水準の高い一生を送ることができるような社会である.このような社会は,次の基本的諸条件を満たしていなければならない.

 ①美しい,ゆたかな自然環境が安定的,持続的に維持されている.

視点

公衆衛生としての循環器疾患予防

著者: 磯博康

ページ範囲:P.604 - P.605

公衆衛生活動の原点

 公衆衛生が法律の中のどこでどのように述べられているかを問われると,すぐに思い浮かぶ人は専門家の間でもそう多くはない.実は,医師法,歯科医師法,薬剤師法,保健師看護師助産師法のそれぞれ第1条で述べられている.

 医師法は「医師は,医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保するものとする」,同様に,歯科医師法は「歯科医師は,歯科医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保するものとする」,薬剤師法は「薬剤師は,調剤,医薬品の供給その他薬事衛生を掌ることによって,公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保するものとする」そして,保健師看護師助産師法の「この法律は,保健師,助産師及び看護師の資質を向上し,もって公衆衛生の普及向上を図ることを目的とする」とある.実にこれらの業種の業務が公衆衛生として集約されているではないか.栄養士法では公衆衛生の用語は用いられていないが,「個人の身体の状況,栄養状態等に応じた高度の専門的知識及び技術を要する健康の保持増進のための栄養の指導」は,公衆衛生を指すものである.

特別記事

[インタビュー]被爆者の心の被害を語る

著者: 中澤正夫 ,   三井ひろみ

ページ範囲:P.639 - P.645

三井 ご著書『ヒバクシャの心の傷を追って』(岩波書店,2007)を読ませていただきました.

 中澤正夫先生は,精神科医師として,被爆者に長年向き合ってこられ,日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)やそれを支援するサポートグループに入って活動をされておられます.医師として,同世代に生きる者として,被爆者と付き合ってこられたからこそ聞けた言葉,掲載を許される数の証言をもとに,原爆から61年経っても癒えない心の傷とは何かを示されました.今日は「被爆による心の傷とは何か」についてのお話をいただきたいと思います.宜しくお願いいたします.

トピックス

WHOの健康都市の取り組み―第3回健康都市連合国際大会 in いちかわ

著者: 高浜伸昭 ,   中村桂子

ページ範囲:P.646 - P.650

 WHOの健康都市(以下,WHO健康都市)は非常に広い政策的概念を含んだ取り組みである.保健・医療の分野だけでなく,福祉,環境,教育,文化,まちづくりなど幅広い分野の活動により,都市に住む誰に対しても,その人の持てる力を十分に発揮できるような都市環境を提供する都市のことであり,いわば公共政策の中心に健康の視点を据えている都市と言える1)

 WHO健康都市を推進するには,公衆衛生の関係者はもちろんのこと,まちづくりや社会文化などの幅広い関係者の連携が重要となる.市川市は2004年に「WHO憲章の精神を尊重した『健康都市いちかわ』宣言」を行い,企画部内にWHO健康都市担当を設置して組織横断的な体制でWHO健康都市を推進している2,3).またWHOより3回にわたり表彰されるなどの実績が評価され,第3回健康都市連合国際大会の大会開催地に選定された.

 大会は本年10月23日(木)~26日(日)までの4日間,「健康で安全な都市社会~それを実現する健康都市の取り組み~」というメインテーマのもと,健康都市連合(The Alliance for Healthy Cities),市川市,第3回健康都市連合国際大会実行委員会の主催,WHO西太平洋地域事務局の共催,WHO健康都市研究協力センターの技術支援により開催される.期間中,尾身茂WHO西太平洋地域事務局長による基調講演,高野健人東京医科歯科大学大学院教授を学術委員長とした分科会,参加市長による市長サミットなど,世界20か国,70数都市から,市長や行政職員,学術関係者,NPO・市民活動団体などの幅広い分野の専門家による意見・情報交換が予定されている.また大会は市民参加型の開かれた国際大会を目指しており,海外からの参加者と市民・一般聴講者の交流の機会も設けてゆく予定である.

 現在,より多くの方に会場に足を運んでいただけるよう,魅力ある大会の準備が進められている.本稿では,WHO健康都市の取り組みおよび国際大会の開催概要について紹介したい.

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・44

国際社会における日本・1

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.606 - P.607

 私のWHO西太平洋地域事務局長としての任期も残すところあと半年余りとなった.あと数回のこの連載においては,地域事務局長としての10年を含めたWHOにおける20年の生活を振り返ってみよう.

 今回は,国際社会における日本の位置づけがどのように変わってきたかについて述べよう.

予防活動のガイドライン・8

肝炎ウイルス

著者: 野村恭子

ページ範囲:P.652 - P.655

 わが国ではB型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染者がそれぞれ120~140万人,100~200万人いると推測されている.このうちB型では10~15%,C型では70%前後が慢性肝疾患を有していると考えられており,肝がんへ移行する危険性がある.ウイルス肝炎治療はこの数十年で飛躍的に進歩し,著しく予後が改善,医療保険適用が拡大した.こうした背景の中,平成14年度に老人保健における保健事業に肝炎ウイルス検診が導入され,政府管掌健康保険等もこれに準じた.

 本稿では肝炎スクリーニングに対する米国予防医療研究班の勧告を紹介しながら,わが国における肝炎対策について,EBMの観点から検討することを目的とする.

地域における自殺対策の新展開―自殺は予防できる・5

鹿児島県における自殺対策

著者: 宇田英典

ページ範囲:P.656 - P.660

鹿児島県の現状

 自殺率は近年,北東北地方が最も高く,次いで鹿児島県を含む南九州地方に高い状況が続いている.これらの地域特性は必ずしも従来から固定したものではなく,1960年代までは関西,北陸地方が高く,北東北,南九州両地域ともに全国平均より低くなっていた.最近の現状に推移してきたのは概ね1960年代後半からで,本県においても同時期から徐々に全国平均を上回るようになり,1970年代からは全国平均の1.2~1.3倍と高い状態が続いている.全国の自殺者数が31,755人と過去最高を記録した1998年,本県においても初めて503人(28.1/10万人)と500人を超えたが,それ以降は2005年まで年間453~495人(25.5~28.1/10万人)と500人以下で推移してきた(図1).

 しかしながら,ここ最近自殺者数の増加が著明となり,2006年には507人(29.2/10万人)となり,全国9位となった(図2).さらに2007年の人口動態統計概数で見ると,2年連続で500人を超す見込みとなっており,自殺者数の増加は年々深刻となっている.

PHNに会いたい・12

―広島県三次市・神石高原町―文学散歩・八月のヒロシマ~保健師と“ぶれない私探し”

著者: 荘田智彦 ,   新谷奈美枝 ,   堀江美智恵

ページ範囲:P.661 - P.667

 「広島県市町村保健活動協議会」が10周年を迎えました.昭和62(1987)年5月に結成された前「広島県市町村保健婦研究協議会」は平成10年5月,保健師だけでなく栄養士,理学療法士,事務職員など地域保健福祉活動に携わる保健技術職員等と「広島県市町村保健活動協議会」と改組され,多職種協働,連携の保健活動を推進してきたと聞いています.さて,この5月,その結成10周年の大会で記念講演をお引き受けしました.

 私に与えられた演題は「今,あらためて『私たちの保健活動』を考える~ぶれない私探し~」というものでした.題をいただいたとき,すぐ頭に浮かんだのは,「時流に流される」「風化のままに」ということでした.行政職の依って立つべき法律制度と機構組織がこれほどめまぐるしく変動しては,「ぶれないで」と言うほうが難しい10年だったとも言えます.これは広島だけでなく,全国の保健師の中にある共通の内的要求ではないかと思いました.

楽しく性を語ろう―性の健康学・12【最終回】

セクシュアル・ヘルスと私たち

著者: 中村美亜

ページ範囲:P.668 - P.669

 1年は早いもので,本連載も今回が最後となった.「性の健康」(セクシュアル・ヘルス)には,まず「性を楽しく語ることができる場作りから」という方針のもと,そもそもセックスとは何か,性器はどうなっているかということから始めて,なぜコミュニケーションが重要なのかを考えてきた.避妊や性感染症,性暴力についても,体験談を読んだり,映像を見ることで「他人事」ではなく,「自分の事」として感じることができるように進めてきた.また,インターセックス,性同一性障害,同性愛,両性愛に関しても,こういった人たちが「特別な人」だから「取扱厳重注意」にするのではなく,こうした多様性こそが,私たち人間の本来の在り方であり,誰もがそうした多様なグラデーションのどこかに位置していることを確認してきた.最終回では,改めて性(セクシュアリティ)とは何かを問い直し,セクシュアル・ヘルスについて総括してみたい.

 近頃「セクシュアリティ」という言葉を聞く機会が多くなった.同性愛のコンテクストでは,セクシュアリティと言うと,異性が好きか,同性が好きかという「性的指向」と同義に使われることも多いが,それはセクシュアリティが意味するものの一部にすぎない.WHO(世界保健機関)の定義では,「生涯を通じて人間の存在において中心的な事柄であり,セックス(性別/性交),ジェンダー・アイデンティティ,性別役割,性的指向,エロティシズム,快楽,親密さ,生殖を包含するものである」とされている.しかし,これでは何でもありのようで,ちょっとわかりにくい.セックスなど身体に関するものもあれば,親密さというように対人関係に関するものも入っている.どうしてこれらが同じ言葉で括られるのか,疑問に思われる方も多いだろう.

衛生行政キーワード・46

子どもの心の診療

著者: 小林秀幸

ページ範囲:P.671 - P.673

子どもの心の診療の充実の必要性

 近年,少子化,家族形態の変化,高度情報化等,子どもやその家族を取り巻く環境が急速に変化しつつあり,こうした中で,子どもたちの中には,遊ぶことができない,落ち着きがない,過敏である,こだわりが強い,どことなく対人関係がぎこちないといった,いわゆる気になる子どもが著しく増加していると指摘されている.また,児童虐待,学級崩壊,不登校,いじめなど,子どもの心に影響する多様な問題事象が増加しており,「子どもの心の問題」への医学的対応の充実が求められている.一般の小児科や精神科の日常診療においても,子どもの心の問題の診療が必要とされる一方で,近年は,子どもの心の問題に関する状況は複合的に深化しており,医学的診断・治療についてもより難易度の高い専門的な技術が必要となってきている.

 しかしながら,子どもの心の診療を専門的に行うことのできる医師や医療機関は限られており,医療機関で診察を受けるまでに数か月以上の待ち時間を要する例がある等,心の問題を持つ親子が早い段階で,身近な地域において専門的診療の機会を得て,必要な治療を受けられる状況とはなっていない.

研修医とともに学ぶ・5

この子ら「を」世の光に~近江学園での宿泊研修~

著者: 嶋村清志

ページ範囲:P.670 - P.670

 甲賀保健所管内(滋賀県湖南市)には,知的障害者の父とも言われる「糸賀一雄」先生(写真1)ゆかりの児童福祉施設「近江学園」があります(写真2).そもそも近江学園は戦後の混乱期,昭和21年に大津市の南郷に,糸賀先生らによって知的障害児や孤児の収容施設として創設されたものです.昭和23年,児童福祉法の施行に伴い県立の児童福祉施設となり,昭和46年に現在の湖南市に移転しました.

 私が,近江学園での研修を重要視している理由は,糸賀先生が生前に残されたラストメッセージ「この子ら“に”世の光でなく,この子ら“を”世の光に」という,糸賀思想を現在まで継承している施設のひとつであるということです.ただ単にサービスを受けるだけの受身的な“に”でなく,一人ひとりの存在そのものが光り輝く存在でなければならない,という「この子ら“を”世の光に」という思想です.甲賀は福祉の先進地と言われる所以がここにあります.そして,先人の思想を継承することはとても大切なことだということも知ってほしいのです.

報告

非対面減量プログラムを用いた保健指導者による12地域同時介入の試み

著者: 足達淑子 ,   田中みのり

ページ範囲:P.674 - P.679

 メタボリックシンドロームや2型糖尿病の予防には半年間で5%程度の減量が目標とされ,行動療法が推奨されている1).肥満の行動療法はすでに評価が確立し,近年,日本でもその成績が散見されるが,専門性や時間の制約から普及は十分とは言えない.一方,行動療法は治療構造が明快なため自己教材や通信による治療が可能で,コンピュータやインターネット(以下IT)の活用も積極的に検討されている2)

 足達らは,個別助言を自動化した減量支援プログラム(健康達人減量編,オムロンヘルスケア(株);以下KTP)3~5)や,簡便な生活習慣改善プログラム(以下SP)6)を開発し,目標行動設定と1か月間の自己監視で約1kgの減量が可能で3~6),観察のみで半年間は減量が促進すると報告した4).しかし,それらはKTP利用者や研究応募者,職域のSP参加者などに限られたものであった.もし,現行の地域の保健事業でこれらを適用できれば,保健師らによる行動変容指導を補完する有用なツールになりうると考えた.同時に保健指導者の行動変容技能の向上も重要課題となっており,1980年頃より種々の習慣について研究がなされている.日本では中村ら7)が禁煙教育について報告し,足達ら8)は減量教育技能の獲得には疑似体験や実践が必要と報告した.

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あとがき フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.682 - P.682

 わが国には明治期から明確な医療政策は存在しないという指摘があります.近年訪問機会の多い英国に滞在して感じさせられるのは,この国では医療問題は常に政治問題,国の政策の課題であり,国民にとっても,政治家にとっても,大切な問題とされているということであります.現場の一般医,保健師,地域看護師などの専門職の位置づけが明確になされており,その専門職は地域の人々のニーズに応じた活動をすることが求められています.

 本誌において尾身茂氏は「日本の医療政策は政策プロセスにおいて必ずしも広範な国民的合意形成過程を経てこなかった」と述べておられます.これが本当であるとすれば,ここにわが国の医療の行き詰まりの原因があるように思えました.また後藤良一氏に北海道の医師偏在の厳しい現実をご報告いただきました.田上豊資氏からは高知県の現知事が選挙戦の中に地域医療の厳しい現実を目にした経験から,地域に根ざした医療計画の策定を公約としているとのご報告をいただきました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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