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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生73巻1号

2009年01月発行

文献概要

連載 地域における自殺対策の新展開―自殺は予防できる・10

韓国の自殺対策

著者: 本橋豊1 佐々木久長1 米山奈奈子1 小泉恵1 金子善博1

所属機関: 1秋田大学医学部社会環境医学講座健康増進医学分野

ページ範囲:P.71 - P.74

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韓国の最近の自殺の現状

 韓国の自殺率は過去26年間の推移で見ると急速に増加している.1982年の自殺率は6.8(人口10万対)だったが,2005年には24.7となった.2007年のOECD health dataによると,OECD諸国の中で韓国の自殺率は第1位であった(第2位はハンガリー,第3位は日本).図1は1983年から2003年までの韓国の自殺率の推移を示した.年代別の自殺率(2003年)を見ると,1/3以上は60歳以上の高齢者であり,高齢者の自殺が最大の問題である.高麗大学医学部の李敏秀教授によると,韓国の自殺急増の原因は社会経済的要因が大きいという1).具体的には,経済的不況,失業率の増大,経済的な格差の増大である.その他に,インターネットによる自殺サイト,有名人の自殺による群発自殺なども付加的要因として挙げられるという.Ben Parkらは韓国における社会的統合と自殺に関する研究を行い,経済のグローバル化により,韓国の伝統的な共同体のモラルが失われやすくなり,代わって西洋的な個人主義的・物質主義的な社会へと変容していることが,自殺率の増加と関連していると推測している2).そして,デュルケームの指摘した社会的統合が弱くなること3)が,高齢者の自殺率を上昇させている可能性があると示唆している.

 韓国の自殺の記述疫学的特徴は次のとおりである1).男性の自殺率は女性の約2倍であり,自殺率は年齢とともに増加し高齢者の自殺率が高い.都市部と郡部を比べると,農村部の自殺率のほうが高い(大都市部の自殺率15.4に対して,農村部の自殺率は22.5,2002年).農村部で自殺率が高い理由としては,高齢化率が高いこと,輸入農産物の増加による農村部の経済的逼迫,農薬を入手しやすいことなどが推測されている.自殺手段としては縊死が最も多く(41%),次いで農薬(29%),他の毒物(19%)となっており(1990~2000年,韓国国家統計局),日本と比べて農薬の占める比率が高い.婚姻状態別の自殺率を見ると,離婚者・死別者(自殺率39.2,人口10万対,2005年)の自殺率が高い.また,職業別に見ると,農業従事者・漁業従事者(39.4,人口10万対,2005年),失業者(220.9)が高い.

参考文献

1) Lee MS:韓国の自殺の現状.高麗大学・秋田大学 日韓自殺予防シンポジウム講演資料,高麗大学(ソウル),2008年3月
2) Ben Park PC, et al:Social integration and suicide in South Korea. Crisis 27(1):48-50, 2006
3) デュルケーム,宮島喬(訳):自殺論.中公文庫,中央公論社,1985
4) 赤間弘・他:韓国の金融改革について―改革の概要と日本との比較.International Department Working Paper Series 02-J-3,日本銀行国際局,2002年10月.
5) Kang SG:韓国の自殺予防対策の現状と将来の方向性.高麗大学・秋田大学 日韓自殺予防シンポジウム講演資料,高麗大学(ソウル),2008年3月

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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