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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生73巻10号

2009年10月発行

雑誌目次

特集 これからの予防接種

フリーアクセス

ページ範囲:P.713 - P.713

 第二次世界大戦後,1948年に予防接種法が制定され,それ以降わが国における感染症は激減しました.1970年以降に生まれた人は,麻しんや水痘といった昔なら子どものときに誰もがかかった感染症にかかることなく大人になった,いわゆる予防接種世代であります.

 予防接種世代が親世代になった近年,乳児健診等で水痘や麻しんにり患した赤ちゃんが散見されるようになってきました.少し前までは,乳児といえば母親からの移行免疫で6か月過ぎるまで大きな感染症にはり患しないというのがわが国の常識だったものです.また,子どものポリオ予防接種後に親が感染,麻痺を生じた事例も記憶に新しいところです.

わが国における予防接種行政の現状と課題

著者: 平山宗宏

ページ範囲:P.714 - P.717

 感染症が有史以前から人類最大の敵であったことは歴史が物語っているが,その感染症に対抗する手段を持てるようになったのはごく最近のことであった.18世紀末のジェンナーによる牛痘種痘法の開発は,経験に基づく試行の成功であったと言える.病原体の発見は19世紀も後半になってから,コッホによる炭疽菌が最初であり(1876年),次いでパスツールにより炭疽菌ワクチンが開発された.その後引き続いて多くの病原体が発見され,それによってワクチンも開発されてきている.予防接種が感染症予防の主役となったのは20世紀以降であるが,現在では重症感染症の多くがワクチンによって予防され,制圧されつつある.ワクチン開発の歴史については多くの成書があり,筆者も紹介したことがあるが1),本稿ではわが国における予防接種行政の最近の状況を解説させていただく.

予防接種に関する母親の意識の変化について

著者: 蒲生真実

ページ範囲:P.718 - P.721

 私は14年間に亘って,育児雑誌『ひよこクラブ』(0歳代の赤ちゃんを持つ母親向け月刊誌)編集部に所属し,2003年から6年間は編集長として,同誌の編集に携わってきました.『ひよこクラブ』は姉妹誌『たまごクラブ』(妊婦向け月刊誌)とともに,1993年10月に創刊されました.両誌共,読者に徹底的に寄り添うことを編集のモットーに,妊娠・育児期に抱える課題の解決法を提示することを中心にした雑誌作りをしています.取り上げる特集は,赤ちゃんの発育・発達に関すること,病気や健康について,離乳食や離乳の進め方,おむつ替えやお風呂の入れ方,赤ちゃんとの遊び方,お出かけのしかたなど,多岐に亘っています.また,毎号ごとに800~1,000人規模のアンケートを実施したり,読者投稿を募ったり,座談会を開いたりと読者の声を広く集め,誌面作りに反映させていることも大きな特徴です.

 『たまごクラブ』『ひよこクラブ』共に,創刊当時から妊娠・出産・育児分野の雑誌販売シェアトップになり,現在も60~70%のシェアを保ち続けています.また,両誌の創刊後,読者からの「ひよこクラブの次に読む雑誌が欲しい」との声に応え,1996年9月に『たまひよこっこクラブ』(1~3歳代の子どもを持つ母親向け月刊誌)が創刊されました.これらの背景を基に,本稿ではこの14年余りの予防接種に関する母親の意識の変化について,『ひよこクラブ』掲載の特集を引用しながら,まとめてみたいと思います.

欧米の予防接種制度の動向

著者: 神谷元

ページ範囲:P.722 - P.725

はじめに

 米国疾病予防センター(CDC)は,20世紀の公衆衛生分野における10大功績の1つに予防接種を挙げている1).また,21世紀においては,すべての子どもはワクチンにより予防可能な疾患(vaccine preventable diseases:VPD)に罹患することなく生きる権利がある,と世界保健機関(WHO)は謳っている2).この公衆衛生上最も有効で,多くの人を疾患から守る予防接種を有効にかつ最大限活用するために,世界各国は,自国の状況に応じて独自の予防接種制度や標準プログラムを制定,実施している.

 本稿では,アメリカと欧州諸国の予防接種制度制定のしくみについて簡単にご紹介する.

麻疹排除と麻疹風疹混合(MR)ワクチン追加接種の取り組み

著者: 多屋馨子

ページ範囲:P.726 - P.731

はじめに

 世界保健機関(WHO:World Health Organization)は,麻疹を天然痘,ポリオに次いで積極的に対策を取るべき感染症に位置づけ,日本を含めた西太平洋地域(WPRO:Western Pacific Regional Office)は,2012年を麻疹排除(elimination)の目標年と設定している.

 わが国では,2006年春に茨城県南部,千葉県から始まった麻疹の地域流行が2007年には全国流行となり,関東地方を中心に,多くの大学や高等学校が麻疹による休校となり,麻疹ワクチン接種希望者の急増,麻疹に対する抗体測定希望者の増加が,麻疹含有ワクチンの不足,麻疹抗体測定用の検査キットの不足といった社会問題にも発展したことは記憶に新しいところである.

 こういった混乱が発生した理由として,2007年の流行が,従来,わが国で認められていたような乳幼児を中心とする流行ではなく,10~20代の思春期から若年成人を中心とする流行となったことが,その要因の1つに挙げられている.

成人に対するDTPワクチンの必要性―百日咳,破傷風対策

著者: 岡田賢司

ページ範囲:P.732 - P.736

はじめに

 重篤な副反応で一時中止された百日咳菌体を用いた全菌体ワクチン(DTwP:wはwhole cell)は,わが国で改良され,感染防御抗原のみを精製したDTaP(Diphtheria toxoid, Tetanus toxoid and acellular Pertussis:沈降精製ジフテリア・破傷風・無細胞百日咳)ワクチンとして1981年から世界に先駆け接種された.乳幼児の百日咳患者数は激減し,その有効性と高い安全性が認められ,多くの国々で接種されている.相対的に成人百日咳が増加してきた.破傷風患者は高齢者に多い.その対策を検討した.

日本脳炎ワクチンの再開に向けて

著者: 加藤達夫

ページ範囲:P.737 - P.740

はじめに

 日本脳炎の定期予防接種は,従来のマウス脳日本脳炎ワクチンの接種後副反応に関する懸念から,2005年5月以降厚生労働省の「積極的勧奨の差し控え」の勧告により接種の際には慎重を期した実施が求められている1~3).本年2月の細胞培養日本脳炎ワクチン(以下,新型ワクチンと略)が製造販売承認を受け,厚労省は6月2日に日本脳炎の予防接種実施規則の一部改正を通知し,新型ワクチンは定期接種第1期に用いることが可能となった2,3)

 新型ワクチンはその製法上の特性からも従来のマウス脳ワクチンに比べ安全性がさらに向上していると考えられるが,現在進行中である市販後の大規模調査により,追加接種における有効性,安全性が確認されるとともに,ワクチンの供給体制が整えば現在の「積極的勧奨の差し控え」の措置は解除され,定期接種全対象者への接種が可能となるものと思われる.

 本稿では,今春認可された新型日本脳炎ワクチンについて解説するとともに,実施規則改正の背景,そして日本脳炎予防接種の今後の課題について述べる.

子育て支援政策としての法定外接種公費負担

著者: 竹中郁夫

ページ範囲:P.741 - P.744

法定予防接種と法定外予防接種

 「予防接種法」は,伝染のおそれがある疾病の発生およびまん延を予防するために,予防接種を行い,公衆衛生の向上および増進に寄与するとともに,予防接種による健康被害の迅速な救済を図ることを目的として制定された法律です(予防接種法第1条).

 2007年4月1日より,「結核予防法」が「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(いわゆる感染症法)に統合されたため,BCG接種に関しては予防接種法に追加されています.

任意接種ワクチンの現状

著者: 薗部友良

ページ範囲:P.745 - P.749

 日本の予防接種制度においては,予防接種法に基づいたものが定期接種ワクチンであり,基づかないものが任意接種である.しかし定期接種ワクチンであっても,定められた期間や規定回数等を超えて外れたものは任意接種になる.

 本稿では,任意接種ワクチンの種類やそのワクチンで防げる疾患だけでなく,任意接種ワクチンの根本問題などにも触れてみる.

子どもにおけるインフルエンザワクチンの個人予防効果を検証する

著者: 西川宏一 ,   廣田良夫

ページ範囲:P.750 - P.753

はじめに

 わが国ではかつて,学校など集団生活でのインフルエンザ蔓延が地域社会への感染拡大につながるという考え方から,1962年から勧奨接種として,1976年からは予防接種法のもとに学童中心に集団接種が行われていた.ところが,その有効性,流行抑制効果および安全性が明確でないという議論がなされるようになり,1994年の予防接種法改正によってインフルエンザワクチン接種が定期接種から任意接種に変更されたこともあり,予防接種に対する社会の関心は著しく遠のいた時期があった.しかし,高齢者やハイリスクグループに対するワクチン接種の有効性については世界的に数多くの報告がなされており,その後,わが国において高齢者のインフルエンザ関連死が急増したこともあって,2001年の予防接種法改正で高齢者などを対象に,インフルエンザワクチン接種が行われることとなった.これにより,わが国のインフルエンザ対策は,やっと世界レベルに追いつきつつある.

 近年,わが国でも予防接種への関心が高まり,過度に有効性を示す報告が増加している.しかし,この間に研究デザインや解析方法に大きな進歩があったとは必ずしも認めることができず,明らかにpublication biasの存在が窺われる.

 このような観点から,本稿では,インフルエンザワクチンの予防効果を「有効性」と「適応」に焦点を当てて概説する.

視点

歯科医師が行政で働くという選択肢

著者: 井後純子

ページ範囲:P.710 - P.711

 歯科医師が行政で働くという選択肢がある.私の場合,歯学部卒業前に,愛知県行政が歯科医師の募集をしていることを知った.だが,このときの私は全く違うところに興味があった.多くの歯学部学生が当たり前のように進む臨床医の道を,私もご多分に漏れず目指すこととした.このとき,若気の至りか,多くの夢を描きながら,自らの進む道に無限大の可能性を感じていた.

 様々な出会いが,生きる過程において,その人の人生を左右するという.私が行政に身を置くことになったのも,ある友人の結婚式での出会いがきっかけであった.私自身の記憶にはないが,恩師もこの結婚式に出席していたようで,臨床ではなく行政に向いていると思わせる何かを当時の私は持っていたらしい.後日聞いた話であるが,この恩師のインスピレーションが働き,「行政に向いている人物を発見した!」と思わせたのだそうだ.

特別記事

[対談]「犬と猫と人間と」+「あしがらさん」その後

著者: 飯田基晴 ,   桜山豊夫

ページ範囲:P.756 - P.761

捨てられた犬・猫のいのちはどこに行くのか~映画「犬と猫と人間と」より

桜山 飯田監督の最新作,映画「犬と猫と人間と」を拝見しました.犬と猫を取り巻く全国の現状を淡々と撮られていて,悲惨な面を強調するわけでもなく,現実をしっかり映し出しておられます.映像の中で使われたフィルムに昭和時代の犬を捕まえるシーンがありましたね.最近は野犬も減っていますから,あのような光景を目にすることは少ないと思いますが,いま,犬や猫が飼えなくなり,行政施設に持ち込まれた「捨てられたいのち」がどういう終末を迎えるのか,あまり皆さんご存知ないですね.

飯田 いまは保健所ではなく,動物愛護センター,動物愛護管理センターといった施設が各自治体にあり,捨て犬・捨て猫の管理をしています.全国の行政施設を回ったのですが,映像に映ることを拒む職員の方も多くいました.「犬猫を殺す仕事をしている」と子どもが学校でいじめられるかもしれないといった理由からです.

特別寄稿

助産所とはどういうところか?―公衆衛生の役割,という視点から

著者: 竹原健二 ,   岡本(北村)菜穂子 ,   三砂ちづる

ページ範囲:P.762 - P.767

はじめに

 「夜はちゃんと寝て.お願いだから.遅くても10時には寝てね.9時ならもっといいし,8時ならもっといい」,「身体を冷やさないように,タイツをはいて,スパッツをはいて,それからズボンをはくの.おなかは10枚,足元は3枚」,「毎日少なくとも2時間,歩いてね」.

 これらの言葉はある助産所において,妊婦健診に来た女性が助産師からかけられていた言葉である.これは一世代前のことなどではなく,現在も当たり前のように行われている.助産所でこのような生活に関するコメントがたくさんかけられているのだ.

 初めて助産所を訪れた女性は,時間をかけて身体をみてもらったという嬉しさはあるのだが,助産師から今となっては時代錯誤と思われるようなこうした生活に関するアドバイスをされることに対して,「これだけ忙しい中でどうやって2時間も歩くの?」とか,「夜10時に寝るなんて無理でしょ…」と驚くことが少なくない.しかし,半信半疑ながらアドバイスに従って少し取り組んでみると,次の健診時に「少しお腹があったかくなっているわ」と褒められる.助産師が自分の体の変化をわかってくれるということは,きっと私の身体の何かが変わってきているのだろう,と妊婦はアドバイスに沿ってまた,生活改善を継続してみる動機が生まれる.

 現代的な生活とはまるで次元の違うような生活改善に向けてのやりとりを女性たちが受け入れていることは,大きな驚きであるとともに,「行動変容」について常に考え続けている公衆衛生研究者の私たちにも,強く惹かれる何かがあった.助産所,というところではいったい何が行われているのだろうか.私たちは助産所のケアに関する調査を行ってきた.いくつかの調査を通じて,助産所は地域における「公衆衛生的な役割」を担っていることも窺われた.本稿では,助産所で行われているケアのうち,特に公衆衛生の役割についてポイントを当て,まとめてみたい.

連載 人を癒す自然との絆・3

馬とのかかわりをとおして関係構築を学ぶ

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.754 - P.755

 アメリカには動物を介して心のケアに取り組むプログラムが数多くあるが,ここ数年特に私が注目しているのは,馬を介しての関係構築プログラムだ.

 草食動物(狩られる者)である馬は,肉食動物(捕食者)である私たち人間とは違う行動パターンやコミュニケーションの方法を持っている.馬が安全と感じる距離は私たち人間よりずっと遠い.受け入れてもらうためには,馬の安全領域を尊重しながら,ゆっくり少しずつ近づかなければならない.

働く人と健康・10―産業医学センター所長の立場から③

過労死

著者: 広瀬俊雄

ページ範囲:P.768 - P.772

はじめに

 1987年6月,われわれは父の日の前日に全国5か所(札幌,仙台,東京,大阪,福岡)で初めて過労死110番を開設した.それに先立って4月,大阪社会医学研究所の田尻俊一郎所長からお電話をいただいた.「働く人への臨時相談電話」を開いたら,過労死事例の相談が殺到したというのだ.

 その背景として,当時は休まず,寝ずの有名人の突然の死亡が大きくマスコミで報道されており,田尻先生,上畑鉄之丞先生,細川汀先生による『過労死』という書籍が刊行された頃であった1,2).現在,この取り組みの中心は弁護士であるので,マスコミも「過労死弁護団主催」という報道をするが,この異常な働き方に起因する労働者の死亡・障害を世に告発し相談・支援に着手したのは,医師であった.これは重要なことであると思う.

 現在,過労死は,過労自殺と共にある意味日本の特徴の1つとして内外で語られている.しかし,当時は行政もかたくなにこの社会現象を注視するのを避け,かなり時間が経ってから「過労死」というカッコ付き用語で取り上げることになった.医療団体幹部等からは,「『過労死』とかいう医学的でない言葉で労働者の肩を一方的に持ち上げる運動で煽り,社会に騒ぎを起こすのか」と言われるなど,冷ややかな対応ばかり目立っていた.学会関係でも,例えば上畑先生が責任者であった委員会(筆者も委員)で取りまとめた「日本産業衛生学会循環器疾患の作業関連要因検討委員会 職場の循環器疾患とその対策①②」もかなり強い拒否反応や大抵抗にあい,1997年日本産業衛生学会パネルディスカッション「産業労働者における循環器疾患の予防管理(筆者はパネリスト)」では,演者である2人の専属産業医から「専属産業医の全国調査では交替制勤務に一定の法的制限が必要とする割合は22%に過ぎない」とか,「企業の海外進出による国際化対応・夜型社会への移行という時代の流れからは経済問題も関与するので一律の規制は一考を要する」という考え方(同学会の1978年意見書とはかなり立場を異にする考え)が出される状況であった.多くの犠牲が払われ,一向に改善しない現実を前に,近年になってようやく,行政も会社もこの課題を重視するようになった.日本産業衛生学会をはじめ,多くの学会も,過重労働や労務管理(例えば成果主義)が働き盛りの労働者の深刻な健康障害や死亡の背景になっていることを,ようやく認めるようになってきた.

 しかしもっと前からの認識と取り組みがあったならば,との思いがこみ上げてくる.筆者は仙台において第1回過労死110番から,先日6月20日の第43回相談会すべてに参加してきた者として,本稿では過労死について「知り得たこと」と「予防為の課題」に触れてみたい.

ドラマティックな公衆衛生―先達たちの物語・10

ネパールは世界のために―小さき者の国際貢献―伊藤 邦幸

著者: 神馬征峰

ページ範囲:P.774 - P.777

 …これらのいと小さき者にしたのは,すなわち私にしたのである(新約聖書 マタイ伝25章40節)

 

 伊藤邦幸(1931年6月28日~1993年8月8日)は,広島県出身の外科医,公衆衛生医.日本キリスト教海外医療協力会からの派遣ワーカーとして,ネパールのヒマラヤ山脈の麓にあるオカルドゥンガ診療所長として長年勤務,その後公衆衛生の専門家としてネパールで活動した.

リレー連載・列島ランナー・7

離島における公衆衛生―公衆衛生の原点における活動

著者: 鷹箸右子

ページ範囲:P.778 - P.782

はじめに

 神戸市の白井千夏先生より列島ランナーのリレーのバトンを渡されました.

 白井先生とは,横浜で世界エイズ学会があった頃(1994年),厚生省(当時)のエイズ対策研究班を通じて知り合い,それ以来,神戸と東京という距離はあっても親しくさせて頂いています.

 この4月から,筆者が伊豆大島へ赴任することを知った白井先生から,「離島勤務は公衆衛生の原点!」とお声かけ頂きました.

 これまで東京都で20年以上にわたり公衆衛生活動にかかわり,感染症,母子保健,成人保健,精神保健等,一通りの公衆衛生的な対応について学んできたつもりの自分でしたが,離島では,そのすべてを基本に立ち戻って対応する必要性,難しさを実感し,改めて日本の広さ,東京の広さを認識しています.

 まだ赴任して間もなく,離島の全体像を理解するには程遠い現状ではありますが,ここ数か月で認識した離島勤務についてお伝えします.

保健師さんに伝えたい24のエッセンス―親子保健を中心に・7

身体発育:乳児を中心に

著者: 平岩幹男

ページ範囲:P.783 - P.786

はじめに

 身体発育は計測によって把握することができ,統計上の数値との比較もできますから,子どもの発育の評価としては最も一般的です.一般的には身体発育の評価は,体重,身長,頭囲,胸囲および体重と身長からの計算値[Kaup指数,BMI:Body Mass Index(体重kg/身長m2)]によって行われています.乳幼児の場合には,厚生労働省による平成12年度の乳幼児の身体発育のデータを用いて評価することが一般的です.

 乳児期では,体重の増加が最も重要な指標であり,これは体重増加不良が大きな問題となるためですが,乳児期の体重は出生体重に影響されるため,通常の成長曲線だけではなく,出生体重別の成長曲線を用いて評価することが大切です.もちろん体重の絶対値だけではなく,個人個人の増加率も重要です.

 なお最近,外国籍の住民が増加していますので,乳幼児健診や育児相談でも外国人への対応が必要とされることがあります.乳児期には身体発育値自体は民族による差は大きくないのですが,育児に対する考え方などは大きく異なることがあります.一方的に指導すると思わぬトラブルを招くことがあります.特に体重増加不良に対しては,わが国では過剰に判断する傾向があり,特に対応には注意が必要です.

衛生行政キーワード・58

新生児マス・スクリーニング

著者: 小林秀幸

ページ範囲:P.787 - P.789

新生児マス・スクリーニングとは

 新生児マス・スクリーニングとは,知らずに放置しておくと種々の症状を発症し,生命にかかわるような障害の発生する可能性のある先天性の疾患を,未発症の新生児のうちに発見し,障害発生の予防を目的として実施する検査である.

 わが国では現在,フェニルケトン尿症,ホモシスチン尿症,メープルシロップ尿症,クレチン症,先天性副腎過形成症,ガラクトース血症の6疾患を対象として,各都道府県・政令市を実施主体として新生児マス・スクリーニング事業が実施されているが,集団を意味する「マス(mass)」の語を冠しているとおり,当該地域に居住する一部の新生児ではなく全ての新生児が検査を受けられるようにすることが,地域における疾病予防対策として重要である.このためマス・スクリーニングの検査費用は,原則として自己負担はなく公費で実施されてきた.

フォーラム

専門病院におけるがん患者の就労意欲に関する調査

著者: 川上ちひろ ,   奥野滋子 ,   中島淳 ,   市川靖史

ページ範囲:P.790 - P.792

 平成17年度人口動態調査によると,がんは40歳以降の死亡原因第1位であり,30歳代においても自殺に次ぐ順位である1).また,国立がんセンターの調査では64歳までにがんに罹患する確率は男女とも11%であり,生涯でがんに罹患する確率は男性49%(2人に1人),女性37%(3人に1人)であると報告している2).高齢化社会では,高齢者本人のがん罹患も重要な課題であるが,社会を支える働き盛りである30~60歳代におけるがん罹患は,本人や家族のみでなく,日本の経済に対しても大きな影響を与える課題と言える.米国の調査によると,がん患者の92%は仕事に復帰しているが,81%は勤務時間が減少していたと報告している3).もちろんがん種や進行度によりその後の経過も異なるため,すべてのがん患者が仕事に復帰できるわけではないが4),仕事を継続することを希望するがん患者に対するサポートを検討する必要がある.

 本研究は,就労を希望するがん患者の希望する就労体系や条件と,企業側の制約をどのように調整していくかを研究するための基礎調査として,告知時に就労していたがん患者に対し,告知後の就労意欲について調査,分析したものである.

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あとがき フリーアクセス

著者: 品川靖子

ページ範囲:P.796 - P.796

 我が家では,毎年秋になると家族が順番にインフルエンザの予防接種を受け,年内に完了します.年が明けると犬たちの番です.うちには2匹の犬がいますが,2月~3月にかけて五種混合ワクチン,春からは狂犬病ワクチンの接種と続きます.人と犬と合わせて5人(匹)家族全員の予防接種費用は,我が家の家計にとって結構な負担となっています.

 近年,少子化に伴う子育て支援策の強化として,法定外の任意接種にかかる費用を公費負担する自治体が増えてきています.家計の負担が軽くなるのは誰にとっても喜ばしいことなので,このような自治体独自の施策は一般には高く評価されます.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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