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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生73巻10号

2009年10月発行

文献概要

特別寄稿

助産所とはどういうところか?―公衆衛生の役割,という視点から

著者: 竹原健二1 岡本(北村)菜穂子2 三砂ちづる3

所属機関: 1国立成育医療センター研究所成育政策科学研究部 2日本赤十字看護大学看護学部 3津田塾大学国際関係学科

ページ範囲:P.762 - P.767

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はじめに

 「夜はちゃんと寝て.お願いだから.遅くても10時には寝てね.9時ならもっといいし,8時ならもっといい」,「身体を冷やさないように,タイツをはいて,スパッツをはいて,それからズボンをはくの.おなかは10枚,足元は3枚」,「毎日少なくとも2時間,歩いてね」.

 これらの言葉はある助産所において,妊婦健診に来た女性が助産師からかけられていた言葉である.これは一世代前のことなどではなく,現在も当たり前のように行われている.助産所でこのような生活に関するコメントがたくさんかけられているのだ.

 初めて助産所を訪れた女性は,時間をかけて身体をみてもらったという嬉しさはあるのだが,助産師から今となっては時代錯誤と思われるようなこうした生活に関するアドバイスをされることに対して,「これだけ忙しい中でどうやって2時間も歩くの?」とか,「夜10時に寝るなんて無理でしょ…」と驚くことが少なくない.しかし,半信半疑ながらアドバイスに従って少し取り組んでみると,次の健診時に「少しお腹があったかくなっているわ」と褒められる.助産師が自分の体の変化をわかってくれるということは,きっと私の身体の何かが変わってきているのだろう,と妊婦はアドバイスに沿ってまた,生活改善を継続してみる動機が生まれる.

 現代的な生活とはまるで次元の違うような生活改善に向けてのやりとりを女性たちが受け入れていることは,大きな驚きであるとともに,「行動変容」について常に考え続けている公衆衛生研究者の私たちにも,強く惹かれる何かがあった.助産所,というところではいったい何が行われているのだろうか.私たちは助産所のケアに関する調査を行ってきた.いくつかの調査を通じて,助産所は地域における「公衆衛生的な役割」を担っていることも窺われた.本稿では,助産所で行われているケアのうち,特に公衆衛生の役割についてポイントを当て,まとめてみたい.

参考文献

1) 財団法人母子衛生研究会:母子保健の主なる統計.pp47-48,母子保健事業団,2009
2) 日本助産師会:助産師業務ガイドライン.2004
3) 竹原健二,岡本(北村)菜穂子,吉朝加奈,三砂ちづる,小山内泰代,岡本公一,箕浦茂樹:助産所で妊婦に対して実施されているケアに関する質的研究~助産所のケアの本質とはどういうものか.母性衛生50(1):190-198,2009
4) 国際医療研究委託事業:開発途上国で実施可能な母子保健の「継続ケアシステム」の構築に関する研究(研究代表者:箕浦茂樹).平成19年研究報告書,pp295-296,2008
5) 厚生労働科学研究費補助金事業:妊娠・出産と母子の長期的経過についての縦断研究(研究代表者:三砂ちづる).平成15~17年総合研究報告書,2006
6) 日本産婦人科学会:産婦人科研修の必修知識2007.pp162-163,2007
7) 昆野裕香,柳原真知子,神林玲子,西脇美春:退院後1週間以内の褥婦の不安.母性衛生43(2):348-356,2002
8) Department of Health:Changing Childbirth. The Stationery Office, London(UK), 1993
9) 厚生労働科学研究社会保障国際協力推進研究事業:戦後日本の健康水準の改善経験を途上国保健医療システム強化に活用する方策に関する研究(研究代表者:中村安秀).平成16年度総括報告書,2005
10) 北岡英子:保健婦活動の原点・家庭訪問―歴史的変遷からみえてきたこと.保健師ジャーナル60(2):186-192,2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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