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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生73巻10号

2009年10月発行

文献概要

連載 働く人と健康・10―産業医学センター所長の立場から③

過労死

著者: 広瀬俊雄1

所属機関: 1(財)宮城厚生協会仙台錦町診療所・産業医学センター

ページ範囲:P.768 - P.772

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はじめに

 1987年6月,われわれは父の日の前日に全国5か所(札幌,仙台,東京,大阪,福岡)で初めて過労死110番を開設した.それに先立って4月,大阪社会医学研究所の田尻俊一郎所長からお電話をいただいた.「働く人への臨時相談電話」を開いたら,過労死事例の相談が殺到したというのだ.

 その背景として,当時は休まず,寝ずの有名人の突然の死亡が大きくマスコミで報道されており,田尻先生,上畑鉄之丞先生,細川汀先生による『過労死』という書籍が刊行された頃であった1,2).現在,この取り組みの中心は弁護士であるので,マスコミも「過労死弁護団主催」という報道をするが,この異常な働き方に起因する労働者の死亡・障害を世に告発し相談・支援に着手したのは,医師であった.これは重要なことであると思う.

 現在,過労死は,過労自殺と共にある意味日本の特徴の1つとして内外で語られている.しかし,当時は行政もかたくなにこの社会現象を注視するのを避け,かなり時間が経ってから「過労死」というカッコ付き用語で取り上げることになった.医療団体幹部等からは,「『過労死』とかいう医学的でない言葉で労働者の肩を一方的に持ち上げる運動で煽り,社会に騒ぎを起こすのか」と言われるなど,冷ややかな対応ばかり目立っていた.学会関係でも,例えば上畑先生が責任者であった委員会(筆者も委員)で取りまとめた「日本産業衛生学会循環器疾患の作業関連要因検討委員会 職場の循環器疾患とその対策①②」もかなり強い拒否反応や大抵抗にあい,1997年日本産業衛生学会パネルディスカッション「産業労働者における循環器疾患の予防管理(筆者はパネリスト)」では,演者である2人の専属産業医から「専属産業医の全国調査では交替制勤務に一定の法的制限が必要とする割合は22%に過ぎない」とか,「企業の海外進出による国際化対応・夜型社会への移行という時代の流れからは経済問題も関与するので一律の規制は一考を要する」という考え方(同学会の1978年意見書とはかなり立場を異にする考え)が出される状況であった.多くの犠牲が払われ,一向に改善しない現実を前に,近年になってようやく,行政も会社もこの課題を重視するようになった.日本産業衛生学会をはじめ,多くの学会も,過重労働や労務管理(例えば成果主義)が働き盛りの労働者の深刻な健康障害や死亡の背景になっていることを,ようやく認めるようになってきた.

 しかしもっと前からの認識と取り組みがあったならば,との思いがこみ上げてくる.筆者は仙台において第1回過労死110番から,先日6月20日の第43回相談会すべてに参加してきた者として,本稿では過労死について「知り得たこと」と「予防為の課題」に触れてみたい.

参考文献

1) 細川汀,上畑鉄之丞,田尻俊一郎(編著):過労死―脳・心臓系疾病の業務上認定と予防.労働経済社,1982
2) 広瀬俊雄・他(編),田尻俊一郎(著):職場の病.現代の病シリーズ4.第8章過労死,pp193-213,医学書院,1992
3) 広瀬俊雄(編著):あなたと家族のための過労死しない,させない本.健康双書,1992
4) 広瀬俊雄:シリーズ働くことと疲労 第1回,数字に現れにくい「過労死」の実情.労働安全衛生広報,pp28-29,1994年5月15日
5) 同 第2回,「過労死」の予防には持病管理の充実を.pp30-31,1994年6月15日
6) 同 第3回,問われる日頃の「健康管理」倒れる前に14時間労働!?.pp30-31,1994年7月15日
7) 同 第4回,仕事を理由に入院拒否診療するほうがハラハラ!.pp28-29,1994年8月15日
8) 同 第5回,女性深夜~早朝労働では血圧変化に要注意!!.pp30-31,1994年9月15日
9) 同 第6回,早朝出勤で残業あり過労防ぐ業務管理を.pp30-31,1994年10月15日
10) 同 第7回,運転者に募るストレス休日日数の確保を.pp30-31,1994年11月15日
11) 同 第8回,休日に「休養」できるか!? ゆとりある余暇を過ごそう.pp30-31,1994年12月15日
12) 同 第9回,合宿研修のカリキュラムには個人差に配慮した健康管理を.pp30-31,1995年1月15日
13) 同 最終回,夜勤廃止に向けた情報公開の充実を.pp30-31,1995年3月15日
14) 広瀬俊雄・他:10万人を対象とした「営業とくらし,健康調査」にみる零細事業者・自営業者の労働・生活・健康状態の特徴.産衛誌40:222-226, 1998

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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