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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生73巻11号

2009年11月発行

雑誌目次

特集 薬物乱用

フリーアクセス

ページ範囲:P.801 - P.801

 力士や学生が大麻の所持で,さらに芸能人が覚醒剤使用により逮捕され,世界的な大スターのマイケルジャクソンも鎮静剤により薬物死したなどのニュースが報道されました.HIV感染症の流行,結核の再興の背後にも薬物乱用問題があることが知られています.わが国はこれまで欧米諸国と比べて薬物問題は小さい国とされてきましたが,本当にそうなのでしょうか.今一度考えてみる必要があります.

 わが国では薬物乱用の問題に対しては,犯罪や治安の側面からの法規制に依存しています.現状は,ダルクなどの当事者の立場に立つ民間支援団体による,懸命な薬物乱用防止教育や薬物依存者に対する支援活動に負っています.健康問題としての取り組み,また薬物乱用者に対する社会復帰支援や再発予防対策,保健医療体制の整備は,十分とは言えないのではないでしょうか.薬物乱用者に対する社会政策の構築の上では,様々な法制度上の議論があります.現状のままで放置していると,社会的に排除される薬物乱用者が多くなっていき,問題が深刻化するものと思われます.

 本特集では,薬物乱用について保健行政,精神医学,法学・司法,患者支援の立場から,わが国の薬物乱用の現状と課題を紹介していただき,皆さんとともに多角的な視点から,薬物乱用の課題について考えたいと思います.

依存性薬物の健康への影響

著者: 尾崎茂

ページ範囲:P.802 - P.806

依存性薬物とは

 依存性薬物とは,中枢神経に作用して何らかの快感をもたらし,反復して使用することにより「依存」状態を引き起こす物質を言う.大麻やアヘンのような植物由来のものや,覚せい剤やMDMA,多くの違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)などのように化学的に合成されたものなど,多様な物質がある.また,有機溶剤のような日常的に使用される化学製品や,一部の医薬品も「依存」を形成する.依存性薬物の使用プロセスには,次に述べるように「乱用」「依存」「中毒」の段階がある.

わが国の一般人口における薬物乱用・依存の実態

著者: 和田清

ページ範囲:P.807 - P.812

はじめに

 わが国の薬物乱用・依存状況は,覚せい剤事犯者数を基に語られてきた歴史がある.今日までにその覚せい剤の乱用期は3期に分けられ,今日は1995年に始まった第3次覚せい剤乱用期1)にある(図1).しかし,その第3次覚せい剤乱用期もすでに10年以上が経過しており,2007年にはリタリン問題が,2008年秋には角界および大学生における大麻問題が,そして今年の8月には芸能人におけるMDMA,覚せい剤問題がマスメディアを賑わせたように,この10余年の中で,わが国の薬物乱用状況は大きく変化してきている.

 本稿では,わが国全体での薬物乱用・依存状況(本稿で扱う薬物とはアルコール,ニコチンを除く薬物についてである)を反映していると目される統計資料を基に,わが国の薬物乱用・依存の今日的状況を考察したい.

薬物乱用の取り締まりの法制度と現状と課題

著者: 安田尚之

ページ範囲:P.813 - P.817

 昨年より,相撲力士・大学生等の大麻乱用,芸能人による覚せい剤乱用等がマスコミを賑わしており,これら一連の問題については,多くの読者の方の記憶にも新しいと思われます.

 本稿では,わが国における,薬物乱用の取り締まり状況・特徴,要因,そして対策・課題等について紹介をします.

欧米の薬物乱用政策―日本との比較を中心に

著者: 妹尾栄一

ページ範囲:P.818 - P.820

 覚せい剤や大麻など,いわゆる規制薬物の乱用が乱用者の心身や社会生活,乱用者の家族の社会生活まで損なうことはよく知られており,それゆえ各国共に薬物乱用問題を重要な社会問題として位置づけ,重点的な取り組みを行っている.本稿では,まず薬物乱用対策での総括的取り組みの歴史が長いイギリスならびにオーストラリアでの取り組みを紹介し,最後に諸外国の取り組みと比較した場合の日本の薬物乱用対策の特徴について附言する.

青少年の薬物汚染の現状とその支援の課題

著者: 水谷修

ページ範囲:P.821 - P.824

はじめに

 現在,青少年の薬物汚染は大きな社会問題となり,私たち教育の現場においても避けて通ることのできないものとなっています.その一方で,社会のこの問題に対する意識は希薄であり,多くの人たちが,一部の地域の一部の若者たちの問題としてしか捉えていません.教育現場についても,同様のことが言えます.本来,生徒たち一人ひとりに,薬物を自ら拒む力を育てるべきであるにもかかわらず,ただ,声を大にして「薬物は怖い,絶対に近づいてはならない.人間をやめることになるぞ!」と叫んでいるだけではないでしょうか.

 今や,若者たちはテレビや雑誌,インターネットなどの様々なメディアから,薬物に関する多くのいい加減な情報を手に入れています.しかも,それらの情報のほとんどは,興味や関心を煽り,薬物を試してみたくさせるような内容です.そして,若者たちの周りには,様々なドラッグが,その魔の手を広げています.

 私は,現在まで約18年にわたり,薬物を乱用した5,000人以上の若者たちと関わってきました.しかし,そのうち41名の若者を事故や自殺で失い,約3割の若者を精神病院や刑務所の檻の中に失いました.今でも私とともに薬物を止め続けている若者は,3割に過ぎません.残りの若者は,現在もどこかで薬物の乱用を続けています.

薬物取り締まりと人権擁護について―法制度の研究者の立場から

著者: 金尚均

ページ範囲:P.825 - P.829

日本の薬物法制と対策

 日本において久しく薬物の乱用が社会問題になっている.一般的には「麻薬」と総称される大麻,覚せい剤,MDMA(エクスタシーとも呼ばれる),ヘロイン,コカインなどの違法薬物の乱用である.とりわけ覚せい剤乱用については,戦後初期の第1次乱用期から第3次乱用期を経験してきた.しかもこの問題は現在もなお引き続き深刻と言われている注1).薬物使用による薬物依存について聞かされてきた噂や情報,そして実際に薬物依存者を目の当たりにしたことで生じる社会崩壊に対する危機感が社会不安の基礎となって,薬物使用等を抑止するために,これらの行為を犯罪化してきた.

 このような薬物規制は,「覚せい剤取締法」,「大麻取締法」,「毒物及び劇物取締法」,「麻薬及び向精神薬取締法」などで,薬物使用行為やその前段階の輸入,輸出,製造,譲渡,譲受や所持行為などに対して行われている.これらの薬物規制立法は「国民の健康」を保護法益としているが,ここでは,薬物の使用とその前段階行為を禁止することで,単に個人の使用による薬物依存症と自己の個人的法益の侵害から保護するためにパターナリスティックに国家的介入をする.しかもそれだけでなく,「国民の健康」という超個人的法益の保護を名目として,社会的保健衛生基盤,健全な節度ある社会生活遂行の基盤を保護し,そのことで薬物の氾濫とそれに伴う規範意識の弛緩,勤労意欲の低下などによる社会経済的基盤の崩壊を防ぐことを目的としている.香城1)は,覚せい剤乱用による保健衛生上の危害は,二重の構造を有しているとし,「第一に,覚せい剤乱用は,使用者自身の精神や肉体をむしばみ,ひいては公衆全体の精神と健康に重大な悪影響を及ぼす危険性をはらんでいる」,しかも,「第二に,覚せい剤の乱用は,急性中毒時又は慢性中毒時における刺激性,幻覚,妄想に起因する発作的な破壊行動をひきおこし,社会全体に甚大な被害をもたらす」と指摘する.個々人による薬物使用自体はその社会的影響において軽微であるが,同種の行為の蓄積,つまり社会的に蔓延することで,社会的秩序の崩壊という意味での実害の危険が現実的で具体的になるとされている.ここでは,リスクを胚胎した薬物使用行為とその社会的蓄積2)が,未知でしかもその規模や内容も不確かな実害を発生させると考えられている.

薬物取り締まりと人権擁護について―弁護士の立場から

著者: 丸井英弘

ページ範囲:P.830 - P.832

はじめに

 薬物使用とその取り締まりの問題を検討するためには,薬物使用によってどのような害が生じるのか,また害が生じるとしても刑事罰をもって規制するのが適当であるか否かを明らかにしなければならない.

 市民生活において最も尊重されなければならない価値は,個人の生命・身体・財産であり,また思想・表現・趣味・嗜好の自由である.これらは基本的人権として,近代憲法の中心的内容となっている.ところで刑事犯罪とは,その違反者に対して,身体的自由を制約し,経済的不利益,社会的地位の剥脱を科するものであるので,それを科される者にとっては人権侵害そのものである.

 したがって薬物使用によって刑事罰を課するには,具体的な社会的被害が立証されている場合に限定されなければならない.そうでなければ,薬物使用という個人の趣味・嗜好に国家が介入することになり,個人の自由を否定する家父長的・権威主義的社会になり,管理社会化がより一層進行するであろう.特に,大麻のように,具体的被害が立証されていないものについて,懲役刑でもって規制し,毎年2,000人以上もの逮捕者を出している日本の現実は,国家権力が,個々人の趣味,嗜好に介入し,その行動を監視することを意味している.また,仮にある種の薬物を使用して,人に危害を加える行為,すなわち,傷害行為自体刑法でもって規制されているのであり,さらにたとえば酒気帯び運転や薬物の影響によって正常な運転ができないおそれのある運転は,道路交通法65条,66条等特別の罰則があるのであるから,具体的な被害が発生しない前段階でもって,薬物使用を規制することは,一種の予備罪もしくは予防拘禁と同様であり,人権保障を第一義とする社会にあっては極力避けなければならない.

 薬物の所持,使用に対する処罰は,カーター大統領が,連邦議会に対する薬物乱用に関する1977年の大統領教書でも言っているように,その薬物使用による害よりも大きな害を与えてはならない.もとより筆者は,薬物使用を野放しにせよと主張しているのではない.むしろ現在の薬事行政は大麻を厳しく処罰する一方で,過去キノホルム,クロロキン,チクロ等有害物質を含有する合法的な薬物による悲惨な薬害事故や,最近では合法的な抗うつ剤の副作用によって死傷事故を引き起こしているのであり,薬物に対する正確な情報の提供と適切な規制は極めて遅れていると言ってよい.現在必要なことは,まず第一にいろいろな薬物に対する正確な調査と情報提供であり,その上での有害な薬物に対する適切,有効な規制である.

北見保健所管内における野生大麻対策の現状と課題

著者: 杉澤孝久

ページ範囲:P.833 - P.837

はじめに

 北海道は,歴史的に大麻の栽培が行われていたことなどから,野生大麻が自生しており,平成20年の集計では全国の野生大麻除去本数中約87%を北海道が占めている1).この野生大麻を不法に採取しようとする者が後を絶たないため,野生大麻対策を強力に推進することが求められる状況となっている.

 北海道では,毎年6~9月までの4か月間を「野生大麻・不正けし撲滅運動月間」と定め,関係者の連携のもとに,大麻の種ができるよりも前の時期に抜き取りを行うという野生大麻除去対策を推進する一方,薬物乱用防止教育を中心とした地域に密着した啓発活動を行ってきた.

 特に,野生大麻が多く自生している地域の対策として,平成4年度に大麻を採取する事犯が多発した北見保健所および網走保健所管内,平成5年度に帯広保健所管内,平成21年度からは釧路保健所管内を重点地域に指定して,積極的な除去対策を推進している(図1).

 北海道全体の野生大麻抜き取り本数については,昭和50年代にピークを迎え,その後は減少傾向ではあるものの自生地自体はあまり減少せず,大麻事犯も続発するなど大麻との戦いが長く続いている.

 このようなことから,今年度重点地域の4保健所管内において野生大麻対策の強化として「野生大麻ゼロ作戦の日」の設定や,大量人員による徹底した除去活動の展開,「野生大麻監視重点地域」の立て看板の設置,「野生大麻監視員」の委嘱などの体制整備を行うこととしたところである.

 本稿では,北海道の大麻の歴史と,北見保健所管内における大麻対策の今後の課題について整理する.

大麻と日本人の生活―古代から現代まで

著者: 中山康直

ページ範囲:P.838 - P.842

生活の中の大麻

 日本において大麻は,古来から生活必需品をつくるための重要な素材であり,文化的,伝統的,民族的に言っても日本人の生活に密接に関係してきた,なくてはならない貴重な植物でした.

 稲作が始まる以前,1万2,000年前の福井県の鳥浜遺跡からも大麻の繊維や種子が発見されており,縄文時代から栽培されてきた歴史上の作物として,衣服や縄,紐,糸などの生活素材に大麻は使われてきました.今でも大麻は,下駄の鼻緒,畳糸,凧糸,魚網,蚊帳,和紙,漆喰壁,茅葺屋根,麻炭,弓弦,お盆行事,神道行事,神社関連品,横綱の化粧回し,七味唐辛子など(図1),多岐にわたって使われ,日本の伝統文化を支えてきた素材でもあります.

視点

「地域包括支援センター」に期待される役割と行政

著者: 森山明

ページ範囲:P.798 - P.799

はじめに

 社会保障費2,200億円抑制についてさまざまな議論がある中,医療制度改革,介護保険法改正,報酬改正がほぼ同時期に行われました.現場にとっては大変な見直しであったと思います.内容を見ると,医療では“地域医療連携”,“地域連携パス”,介護では“地域密着型サービス”“地域包括支援センター”など,「地域」「連携」がキーワードになっているようです.

 さらに,地域包括ケア研究会では地域包括ケアシステムの構築が具体的に検討され1),地域包括支援センターの機能強化を図り,調整役としての役割が期待されています.

 しかし,一方ではマンパワー不足が報告され2),「果たしてこれらの方針に対応できるだろうか?」という疑問も残ります.

 そこで,今回提案されている事業等を踏まえて,地域包括支援センターと設置責任者である行政(市町村)について私見を述べてみたいと思います.

連載 人を癒す自然との絆・4

動物を介して,人との絆をつくる

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.844 - P.845

 今回も,引き続き,ワシントン州にある「アニマルズ・アズ・ナチュラル・セラピー」(ANT)のプログラムについて紹介したい.

 ANTは,主に馬を介在して,さまざまな問題を抱える子どもや青少年のためのプログラムを実践している非営利団体だ.

人づくりの足跡・2

[インタビュー] 炭やきを通して,人とまちと自然の快適な環境づくり―行政と市民が手をつなぎ,地域で緑のリサイクルを目指す

著者: 祐乗坊進 ,   三井ひろみ

ページ範囲:P.846 - P.850

 東京都多摩市南野2丁目にある一本杉公園.多摩丘陵の面影を残す雑木林に囲まれた公園の中に,独特の白い煙が流れていきます.どこか,懐しいような温かさと匂い.炭やき窯の前では,大勢の仲間が輪を囲んでいます.彼らは炭やきを通じて地域の交流を進め,剪定枝を木炭に再生する活動を展開している「一本杉炭やき倶楽部」.今回の「人づくりの足跡・2」では,倶楽部の代表者である祐乗坊進さんに,市民と行政が手をつないだ協働型コミュニティ事業のあり方についてお話を伺いたいと思います.

働く人と健康・11―産業医学センター所長の立場から④

働く人々の健康と喫煙

著者: 広瀬俊雄

ページ範囲:P.851 - P.856

はじめに

 私が医師になった40年近く前に比べれば,世の中も医療・福祉界でも,禁煙への取り組みは格段に進んでいる.当時は外来でたばこを吸いながら診療する医師すらいたし,バスや電車の中で,すぐそばでたばこを吸われることは日常茶飯事であった.今は,新幹線やタクシー内での禁煙が広がっていて,旅や移動も楽になってきてはいる.しかし,未だ道路で堂々と吸いながら歩き,後ろの人に煙を浴びせて平気という喫煙者も多い.つい先日もある配送会社の衛生管理者との話で,男女共に運転手の高い喫煙率が話題になった.いくら禁煙・分煙が叫ばれていても運転席は自分の世界,一向に禁煙が進まないと言うのである.しかも,職場の交流会となると夜半まで子ども同伴者が多いそうなのだが,皆平気で子どもに煙を吹きかけたまま宴席が盛り上がっていて心を痛めている,とのことであった.

 私は呼吸器を中心とした一般診療と塵肺・石綿を含む産業医学診療を併せて進めてきていて,禁煙外来も設けているが,最近禁煙外来受診者に混じって「受動喫煙診断書」を求めてきたり,「会社を訴えたい」という希望で来られる方も増えてきている.話を聞くと職場での禁煙推進の現状は「まだまだ」というのが実感である.医療関係者と教育関係者が禁煙に熱心でないと,国の禁煙は進まないという話を聞いたことがある.

 この間喫煙の害や禁煙の必要性についての書籍も多く発刊されてきている1~9).今以上に禁煙を進めるには,医療・福祉関係者の禁煙活動のさらなる推進と共に,「職場での禁煙推進」が重要ではないかと痛感する.2004年に筆者はある雑誌の特集号で職場での禁煙指導について執筆したが10),本稿ではその後の取り組みも追加しながら,現状と課題を整理する.

ドラマティックな公衆衛生―先達たちの物語・11

闇を描き出し,灯となる勇気―イヴァン・イリイチ

著者: 神馬征峰

ページ範囲:P.858 - P.861

…自分が小さなろうそくの灯になることを恐れてはいけない…他の人びとにとってかれらの人生を照らす灯となることを恐れてはいけない(文献1),p224)

 

学校・医療・交通の神話

 イヴァン・イリイチ(Ivan Illich,1926年9月4日~2002年12月2日)は,オーストリア,ウィーン生まれの哲学者,社会評論家,文明批評家であり,私たちの暮らしの基本である学校・医療・交通について,根源的に取り組んだ.

 「わたしたちは自ら歩き,学び,病気や損傷を癒す固有の力を有している.それは,わたしたち一人一人の自律的能力であり,伝統的な文化の体系に支えられ,隣人との相互交換から守られているものである.ところが,産業的な技術科学文明はこうした自立的能力を麻痺させてしまっている.学校で教えられ,専門的医者に治療され,…乗り物で運ばれる私たちの日常世界では,無限の「成長」が幸福な生活を保証すると考えられている….

リレー連載・列島ランナー・8

「食品の誇大表示を予防する」消費者庁誕生!

著者: 川尻由美子

ページ範囲:P.862 - P.864

港区みなと保健所は,東京都特別区保健所です

 六本木・赤坂・台場・新橋などの繁華街を抱え,東京の中心部に位置する「港区みなと保健所 保健サービスセンター」は,赤ちゃんから大人の健診・相談・健康教育,予防接種・感染症対策,給食施設指導・栄養講習会,食品の表示指導を担う私の職場です.

 「あれ,健診も?」と思われる方も多いはず.「保健所」と名乗っていますが,区民20万人(昼間人口90万人)を対象に,保健所業務と市町村業務の両方を担う幅広い健康サービスを行うとともに,港区の健康施策の司令塔でもあります.

保健師さんに伝えたい24のエッセンス―親子保健を中心に・8

身体発育:幼児期をめぐって

著者: 平岩幹男

ページ範囲:P.865 - P.868

はじめに

 乳児期では体重増加不良を中心とした対応でしたが,幼児期の身体発育では,肥満ややせ,低身長も重要な問題となります.幼児期には体重・身長とも乳児期の急速な伸びから,ほぼ直線的な伸びの傾向を示します.体重については絶対値よりも,身長とのバランス(Kaup指数)での判定が中心になりますが,増加不良あるいは減少の仕組みは乳児期と同じです.肥満の問題が出てきます.身長については,伸びが悪い低身長が時に発見されます.学童期以降に見られる疾患による高身長は乳児期にははっきりしません.頭囲は乳児期と同じように急速な増加に注意する必要があり,身体的バランスに比べて頭囲が大きい場合には,家族性の大頭症が最も多く,その他に軟骨異栄養症などがあります.頭囲の増大に発達の遅れが合併するときには,Alexander病などの変性疾患も視野に入れる必要があります.胸囲は気管支喘息による肺気腫や縦隔腫瘍などによる増加が稀に見られます.体脂肪率については以前に調査したことがありますが,成人では女性のほうが多いのですが,幼児期には男児のほうが女児よりも2%程度多くなっていました.

衛生行政キーワード・59

地域包括ケア研究会報告書

著者: 小林秀幸

ページ範囲:P.869 - P.871

はじめに

 地域包括ケア研究会(座長:田中滋・慶應義塾大学大学院教授)は,「安心と希望の介護ビジョン」や「社会保障国民会議」における議論等を受け,平成24年度から始まる第5期介護保険事業計画の計画期間以降を展望し,地域包括ケア(地域における医療・介護・福祉の一体的提供)の実現に向けた検討に当たっての論点を整理するため,平成20年度老人保健健康増進等事業として,有識者をメンバー(表)とする研究会として開催されたものである.

 平成21年5月に公表された研究会報告書は,研究会委員の議論に基づいてまとめられたものであり,本稿では,報告書の基本的認識について紹介する.

活動レポート

減量プログラムへの参加人数の違いによる減量効果の比較

著者: 久保田晃生 ,   永田順子 ,   杉山真澄 ,   石塚貴美枝

ページ範囲:P.872 - P.876

緒言

 肥満は高血圧症,2型糖尿病などの多様な慢性疾患を誘発,合併しやすいことが知られている.そのため,肥満予防,改善は重要であり,体重減少(以下,減量)のための運動や食事指導が含まれたプログラムが,地域1),職域2)で実践され成果を得ている.ところで,減量プログラムは,集団参加による運動や食事指導の場合もあるが,基本的には1人で参加するものが多い.これは,減量が個人の努力で運動や食事の改善を図り行うためと考えられる.

 しかし筆者ら3)は,通常個人で参加する形式を,3人1グループで参加する形式とした減量プログラムを試みた.この減量プログラムは12週間で現体重から5%の減量を目指した.そして,3人で共通した減量に繋がる運動,食事目標の達成状況,1日の平均歩数状況を評価した.38グループ中32グループが継続し,継続者の92.7%に平均3.7kgの減量が認められた.この成果から,3人1グループで参加する形式は,効果的な減量の取り組みになる可能性が示唆された.

「公衆衛生」書評

「質的データの取り扱い」 フリーアクセス

著者: 神馬征峰

ページ範囲:P.856 - P.856

 質的研究が近年ハヤリになってきている.参考書も爆発的に増えている.しかしこの手法を用いて,卒論を書く,修士論文を書く,博士論文を書くとなると容易なことではない.本が増えるほどには教官の数は増えていない.教授の数も増えていない.図書館とて,厳しい選択の際,好んで多くの質的研究の参考書を買ってくれるわけではない.まだ状況は険しいのだ.

 そういう中で質的研究を進めようとする際,頼りになるのは限られた数のよき参考書とよき友人である.本書はこれまでの質的研究の参考書とどこが異なるか? これまでは量的手法との違い,パラダイムの違いなどが強調されてきた.質的研究の存在意義を主張するものが多かった.しかし,十分にその価値が認められるようになった英語圏の国において,「質的研究にとって大事なのは“はじめに手法ありき”ということではない,“はじめにデータありき”ということだ」,と本書は主張する.

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あとがき フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.880 - P.880

 9月中~下旬にニューヨーク市の保健担当部を9年ぶりに訪れたところ,部の名称が「Department of Health」から「Department of Health and Mental Hygiene」に変わっていました.従来の保健課題とともに,たばこ・アルコール,薬物依存,暴力や虐待が大きな公衆衛生課題と位置づけられているようでありました.

 さて,本特集では衛生行政,精神医学の立場,さらに法学,当事者支援の立場から,予想を超える玉稿をいただき感謝しています.薬物汚染の渦中にいる青少年と長年関わり続けておられる水谷修氏の「薬物乱用は伝染病である」「薬物依存者は愛の力や罰で直すことができない」とのお言葉からは,問題解決の厳しい現実が伝わってきました.妹尾栄一氏からは薬物乱用対策に苦労している欧米の状況を紹介していただきました.中山康直氏は,大麻は日本人の生活との深い関係があり,戦前までの日本人には大麻を乱用した経緯は見受けられないと述べられています.大麻が日本社会に根づいていることが,杉澤孝久氏が紹介して下さっている北海道の野生大麻との戦いに窺い知ることができます.大麻取締法の弁護活動を34年間してこられた経験に基づく丸井英弘氏の「事件の被害者は皮肉なことに逮捕された本人とその家族である」とのお言葉は,衝撃的なものでありました.

 薬物乱用は難しい課題でありますが,本特集を薬物乱用防止,薬物依存者に対する支援の参考にしていただければと思います.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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