公衆衛生73巻2号

2009年02月発行

連載 ドラマティックな公衆衛生―先達たちの物語・2

社会改革なくして健康なし―ルドルフ・ルートヴィヒ・カール・ウィルヒョー

著者： 神馬征峰¹

所属機関： ¹東京大学大学院医学系研究科・国際地域保健学教室

ページ範囲：P.137 - P.139

…医学は社会科学である．そして政治とは医学の規模を大きくしたものにすぎない¹⁾

　

社会科学としての医学

　ルドルフ・ルートヴィヒ・カール・ウィルヒョー(Rudolf Ludwig Karl Virchow, 1821年10月13日～1902年9月5日)は，ドイツ人医師，病理学者，先史学者，人類学者，生物学者，政治家であり，白血病の発見者，病理学の父としてよく知られている．

　冒頭の言葉は1846年のエッセイの一部である．ただし，ここでいう「医学は社会科学である」という表現は現代のとらえ方とは若干異なる．当時，この言葉が意味したのは，「人類の洞察力の最高の形」とされていた医学の一分野として社会科学があるということであった．この考え方は1820年代フランスの衛生学者の間にすでに広がっており，「生理学的な人間に関する知識は，自動的に心理社会学的な人間に関する知識と理解をもたらす」という仮定の上に成り立っていた(文献²⁾のp53)．

参考文献

1) Rudolf Virchow:Collected Essays on Public Health and Epidemiology Volume 1. Science History Publications, p33, Canton, 1985

2) E.H. アッカークネヒト(著)，舘野々男，村上陽一郎，河本英夫，溝口元共(訳)：ウィルヒョウの生涯．サイエンス社，1984

3) Glenn Laverack:Health Promotion Practice;Power and Empowerment. pp1-2, Sage Publications, London, 2004

4) Taylor R, Rieger A:Medicine as a social science;Rudolf Virchow on the typhus epidemic in Upper Silesia. Int J Health Serv 15:547-559, 1985