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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生73巻5号

2009年05月発行

文献概要

連載 働く人と健康―精神科臨床医の立場から・5

診療現場から見た労働関連自殺(いわゆる「過労自殺」)

著者: 天笠崇12

所属機関: 1メンタルクリニックみさと 2京都大学医学部大学院社会健康医学系専攻健康情報学

ページ範囲:P.358 - P.361

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はじめに

 2000年3月25日,「電通過労自殺最高裁判決」1)を伝える記事が,各紙新聞1面トップを飾った.過労自殺された息子さんの父親(原告)と,急逝された藤本正弁護士2)の後を引き継いだ代理人川人博弁護士とが,判決に臨むため,裁判所の階段を上っていく写真3)が,筆者の脳裡に鮮明に焼き付いている.すでに「karoshi」はそのまま英語で通じるが,この労働裁判史上歴史的な判決をさかのぼること2年前に刊行された著作4)のタイトル,『過労自殺』の言葉が,また新たに世界に向け発信された瞬間だった.1997年に地方公務員課長職の労災申請用の意見書を皮切りに,今日まで筆者は,意見書および鑑定書を作成することで,労働関連自殺,いわゆる「過労自殺」事例に継続して関わってきた5).本連載読者の関心にいかほど沿うか正直心もとないが,本稿では,働く人の健康が最も阻害された態様である労働関連自殺について,筆者が最近考えていることを述べてみたい(裁判所へ提出する文書を鑑定書,労基署等へ提出する文書を意見書と通常呼ぶが,以下本稿では両者を単に「意見書」と記載する).

参考文献

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2) 藤本正:ドキュメント「自殺過労死」裁判―24歳夏 アドマンの訣別.ダイヤモンド社,1996
3) The Japan Times 2000年3月25日朝刊1面
4) 川人博:過労自殺.岩波書店,1998
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11) 平成18年度厚生労働科学研究こころの健康科学研究事業「自殺の実態に基づく予防対策の推進に関する研究」分担研究報告書;心理学的剖検のパイロットスタディに関する研究;症例・対照研究による自殺関連要因の分析.
12) 融道男,小見山実,大久保善朗,中根允文,岡崎祐士(訳):ICD-10精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン新訂版.医学書院,2005
13) 高橋三郎,大野裕,染矢俊幸(訳):DSM-IV-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版.医学書院,2004
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23) 過労死弁護団所属弁護士:私信
24) 厚生労働省労働基準局労災補償部補償課:職場における心理的負荷評価表の見直し等に関する検討会. http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/12/s1225-11.html
25) 徳永芳郎:働き過ぎと健康障害―勤労者の立場からみた分析と提言.経済分析133:2-94,1994 http://www.esri.go.jp/jp/archive/bun/bun140/bun133.html

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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