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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生73巻6号

2009年06月発行

雑誌目次

特集 地域精神保健・医療の今日的課題

フリーアクセス

ページ範囲:P.399 - P.399

 平成16年9月に厚生労働省が策定した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」において,「入院医療中心から地域生活中心へ」という国の基本理念が示されました.国は,精神病床の機能分化,国民理解の深化や精神障害者の地域生活支援策の強化により,受入条件が整えば退院可能な精神障害者について,10年間で地域生活への移行をめざすとしました.

 平成17年10月には障害者自立支援法が成立し,平成18年10月1日に全面施行されたことにより,障害種別にかかわらずサービスを利用する仕組みが一元化され,精神障害者福祉の基盤整備を進める制度的枠組みが作られました.その後,社会保障審議会障害者部会での検討を経て,本年には3年目の見直しが予定されています.

地域精神医療福祉の現状と課題

著者: 長尾卓夫

ページ範囲:P.400 - P.403

 最近の精神医療福祉に関する動きを振り返ってみると,平成14年12月に社会保障審議会障害者部会精神障害分会の出した報告書において「条件が整えば退院可能な7万2千人」の精神科入院患者がいるとされた.この報告書が出た時は,心身喪失者等医療観察法の議論がされていたこともあり,触法精神障害者に対する医療観察法の問題と精神医療福祉の底上げという両輪が必要とされ,同じ平成14年12月に厚生労働大臣を本部長とする精神保健福祉対策本部が立ち上げられた.

 平成15年5月に精神保健福祉対策本部の中間報告が出され,これに基づいて,精神病床等・地域支援・普及啓発の3検討会が開かれた.この3検討会の報告を踏まえて,平成16年9月に精神保健医療福祉の改革ビジョンが出された.その内容としては,1)国民意識の変革,2)精神医療体系の再編として,①基準病床数の算定式の見直し,②精神病床の機能分化と地域医療体制の整備,③適切な処遇の確保と透明性の向上,3)地域生活支援体系の再編,4)精神保健医療福祉施策の基盤強化が挙げられ,「入院医療中心から地域生活中心へ」の施策を展開するとされた.これに続いて平成16年10月に障害保健福祉施策のグランドデザインが示され,翌17年10月に障害者自立支援法として制定された.精神保健医療福祉の改革ビジョンで示された中で,実行されたものは①基準病床数の算定式の見直しと,③に関して精神保健福祉法の一部改正が行われた.地域生活支援体系が障害者自立支援法として施行されたものの,精神医療福祉に対する財源措置は全く不十分であり,入院医療の機能充実も地域移行のための居住支援,地域でのサポート体制についてはほとんど整備されていないと言っても過言でない.

精神障害者の退院促進と地域支援事例―全国の取り組み

著者: 伊東秀幸

ページ範囲:P.404 - P.408

退院促進支援の経過

 平成17年に実施された患者調査によると,精神科にかかっている人は300万人を超えるものと推計されている.そのうち,35万人が入院患者である.わが国の精神科医療における問題のひとつは,精神科ベッドが人口に比して多いこと,そして,そのベッドが減少せずに推移していることである(図1).

 入院患者の中には社会的入院者が存在することが,これまでも言われてきたことである.そのような中で地域移行が事業として展開するようになったのは,平成15年度からはじまる「精神障害者退院促進支援事業」である.本事業はモデル事業として誕生し,平成15年度には16都道府県等が実施している.

地域における精神障害者への包括的支援事例に学ぶ

著者: 西尾雅明 ,   梁田英麿

ページ範囲:P.409 - P.412

 精神障害者の退院促進と地域定着を推進するためには,通院・服薬中断への十分な対応を備えた在宅支援プログラムの充実が必要である.そこでは,ただ単に病状や障害を見るのではなく,多職種による生活・就労支援を含めた包括的なアプローチが求められ,これによって関係作りや通院・服薬への動機付けが可能となる.諸外国ではそのためにACT(Assertive Community Treatment)が普及し,わが国でも試行的な取り組みが各地で行われている1,2)

 ACTの構造上の基準(フィデリティ尺度)では,様々な職種をスタッフに入れてプログラムのサイズを大きくし,スタッフ1人あたりの利用者数を10名以下に制限することが求められ,そのような濃密な体制によって包括性と休日・夜間の機動性が担保され,これが入院日数短縮効果につながっている1)

イギリスの精神保健福祉から学ぶもの

著者: 長谷川憲一

ページ範囲:P.413 - P.416

 イギリスの精神保健福祉施策の中で,注目されることは,早くから地域ケアに取り組み,着実に成果を挙げている点である.本稿では精神科地域ケアに焦点を当てて,その経緯と現状,課題を整理していきたい.

高次脳機能障害者の実態と自立支援

著者: 中島八十一

ページ範囲:P.417 - P.421

 高次脳機能という用語が持つ正統性と比較すると,高次脳機能障害という用語は高次脳機能が障害された状態であるとする医学的見地からの了解は得られるものの,その位置付けは確かさを欠く.この種の病態について欧米で普通に使われる用語は「認知障害」である.認知障害には感覚認知機能ばかりでなく,行動面での問題まで含むのが普通である.一方で,交通事故による脳損傷に基づく後遺症を持つ当事者や家族が医療・福祉サービスの充実を広く訴え始めた1990年代後半には,その後遺症を示すために「高次脳機能障害」という用語が用いられた.そこで当該後遺症について政策を考える際にもこれを用いた.

 本稿で使用する「高次脳機能障害」という用語は,その延長線上にある行政的診断基準に基づいている.

若年認知症患者の地域ケアにおける現状と課題

著者: 宮永和夫

ページ範囲:P.422 - P.428

認知症患者の人数の現状と今後1)

 Ferri CPら2)によると,発展途上国の認知症疫学調査と先進国の今までの報告,そして今後の世界の人口高齢化率の推計に基づいて概算した結果,60歳以上の認知症者は,2001年度には2,430万人だったが,2020年には約2倍の4,230万人に,2040年には3倍強の8,110万人になるという.特に,2040年には開発途上国の認知症者は全体の71.2%を占め,特に中国,インド,南アメリカの割合が著明であるという.

 一方,日本では,厚生労働省による認知症者の推計値が公表されている.1999年度の推計値と2002年の推計値では将来推計数が異なり,より近未来の2025年に1999年に推計された数値を超える(表1).これは,国の予測以上に認知症者の人数が増加していることを意味する.ただ,これらの推計値は介護保険に申請された要介護認定者(第1号被保険者)で自立度Ⅱ以上の高齢者の推計値(2002年発行)から計算されたものであり,介護保険未申請者や自立度Ⅰの認知症患者は含まれないため,実際はもっと認知症患者は多くなると言える.

発達障害支援の展望

著者: 市川宏伸

ページ範囲:P.429 - P.432

発達障害概念の変遷

 従来の発達障害の概念は,医療的に厳密な定義はないが,要約すると「永続的な心身の機能不全があり,発達期に生じ,一生持続する.日常生活に制限があり,常に治療やケアを受ける必要がある」というものであった.精神科的には精神遅滞(知的障害)が代表例であり,他科的には脳性麻痺,てんかん,盲(視覚障害),聾(聴覚障害)などがこれにあたる.これらの障害では,障害は永続的であり,援助を常時必要とする,固定的なイメージが強かったように思われる.

 一方,社会的にはこれまでの発達障害の概念だけでは,十分に説明できない人々が増加している.これらの人々は,医療・教育・福祉・労働・司法などさまざまな分野で話題になっている.これらの状況の中で,“発達障害”という概念は「知的障害はほとんどないか,あっても軽微である.発達期に明らかになるが,対応によっては支援が不必要になることもあるし,場合によっては思春期以降に,社会生活が困難になることもある」というものと解釈できる.従来の発達障害の概念に比べると柔軟なイメージがあり,時には思春期以降に表面的には目立たなくなることもある.この概念が導入されると,“障害は変化する場合もある”というニュアンスが含まれて,障害そのもののイメージも変化するように思われる.最近の発達障害概念では,その周縁は明確に分けられないもの(ボーダレス)で連続したもの(スペクトラム)と考えられている.

心神喪失者等医療観察法施行後の課題

著者: 山本輝之

ページ範囲:P.433 - P.437

はじめに

 2003年に,「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察に関する法律」(以下「医療観察法」,「法律」または「法」ということもある)が制定・公布され,2005年7月から施行された.これは,殺人,放火,強盗,強姦,強制わいせつ,傷害という重大な他害行為を行ったが,不起訴処分となった心神喪失者,心神耗弱者または責任無能力を理由として無罪の確定判決を受けた者あるいは限定責任能力を理由として自由刑の執行を免れた者(以下,これらの者を「対象者」ということもある)に対し,適切な処遇を決定するための手続き等を定めることにより,継続的かつ適切な医療ならびにその確保のために必要な観察および指導を行うことによって,その病状の改善およびこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り,その社会復帰を促進することを目的として制定されたものである(1条).

 この法律は,重大な他害行為を行った精神障害者の処遇を,裁判所が決定するという新たな司法処分の制度を創設したものである.この法律が施行されるまで,このような精神障害者に対する強制入院の決定,処遇の変更,退院の決定などは,事実上精神保健指定医による診断を基礎として,精神医療側が決定し,厚生労働省の責任において行われてきた.医療観察法は,この従来のあり方を大きく転換したのである.

 この法律の施行後,その運用についてさまざまな問題点や課題が指摘されているが,その1つが,地域精神保健・医療にかかわる課題,とりわけ「入院によらない医療」の整備や地域精神医療における対象者の処遇の問題である.そこで本稿では,その現状と問題について,若干の考察を行うものである.

成年後見制度の現状と課題

著者: 遠藤英俊 ,   洪英在 ,   佐竹昭介 ,   三浦久幸 ,   来島修志

ページ範囲:P.438 - P.441

 成年後見制度は民法を基本としており,認知症,知的障害,精神障害などの理由で判断能力が不十分な人が,財産を管理するのが難しい場合や,いろいろな契約を結ぶ際に悪徳商法などの被害に遭わないために,保護・支援する制度である.判断能力が不十分であるために法律行為における意思決定が困難な人の判断能力を補い,本人に代わって法的に権限が与えられた代理人(成年後見人など)が,その人の生命,身体,事由,財産などの権利を擁護することを目指している.

 本稿ではその現状と課題についてまとめる.

視点

わが国の食品産業と公衆衛生の役割

著者: 川久通隆

ページ範囲:P.396 - P.397

 2001年にわが国で初めてBSE牛が確認され,引き続いて高病原性鳥インフルエンザが国内各地で発生し,また,輸入食材の有害物質汚染や表示の偽装,改ざんなどが次々に明るみとなり,消費者に食品の安全性や信頼性に疑問を感じさせることとなった.

 もともと,日本人には清潔さを大切にする国民性があり,「安心を生産者や供給者側にゆだねるいわば性善説に立った購買行動上の感性」がある.そうであるがゆえに,一度裏切られるとなかなかその商品は購入しないなど,食の安全についても当然のこととして強い関心を持つ国民の間に,食品産業に対する不信感が一挙に募り,食の安全に対する信頼は大きく揺らぐこととなった.

連載 人づくりの足跡・1【新連載】

生きる基礎力の育て方―木更津社会館保育園を訪ねて

著者: 三井ひろみ

ページ範囲:P.442 - P.447

未来を担う子どもたちに会いに行く

 宮崎栄樹さん(写真1)と初めてお会いしたのは,ドキュメンタリー映画「里山っ子たち」と「Little Challengers~小さな挑戦者たち」(原村正樹監督,桜映画社制作)の完成披露試写会の席でのことです.

 この映画は,市街地に残る里山で保育を実践している千葉県木更津市の木更津社会館保育園の取り組みを描いたドキュメンタリー.「里山っ子たち」では自然の中で,子どもたちが動植物と触れあい,田んぼで泥だらけになって,思いきり遊ぶ姿を1年半にわたって記録,けがをして,大声で泣くこともあれば,けんかも頻繁.そんな中で子どもたちは,たくましく育っていきます.「Little Challengers~小さな挑戦者たち」は,目の前の困難から逃げないで乗り越えていく,子どもたちのチャレンジ精神を追いかけます.同園では,子どもたちの年齢に応じて様々な課題を設定.うんてい,鉄棒,自転車乗り,竹馬(写真2).初めはできないけれど,忍耐強く続けていればできるようになる子どもたち.宮崎園長は上映後の挨拶で,「人生に必要なものは,初めて何かをしようとする時の『身構え』や『意欲の持ち方』.挫折の悔しさも含む成功体験です」と話します.

働く人と健康―精神科臨床医の立場から・6

職場におけるメンタルヘルス対策

著者: 天笠崇

ページ範囲:P.448 - P.452

はじめに

 筆者は医学生時代,罹患率を減らす取り組みを一次予防,有病率を減らす取り組みを二次予防,再発率や後遺障害を減らす取り組みを三次予防と言う,と習った.疾病や障害をターゲットにするのでなく,健康を増進する取り組みを「ゼロ次予防」と呼ぶことがある.予防レベルの視点から,本連載を整理すれば次のようになろうか.賃金制度を見直すことで労働ストレス要因を改善しうつ状態やうつ病を予防し得ることが示唆されたこと1),ワーキングプアの解消によってうつ病を予防し得ることが示唆されたことについて2)述べたが,これらは一部ゼロ次を横目で睨みながら主に一次予防対策の視点,労働ストレス要因の1つであるハラスメントとうつ病や自殺3),労働関連自殺の予防と遺家族の救済4)について述べた回は一次予防対策の視点,リワークの成功要因について述べた回5)は三次予防対策の視点から述べた,とでもまとめられる.職域におけるメンタルヘルス対策を展開する際,これらゼロから三次予防を視野に入れた包括的な取り組みが求められる.

 本稿では,職場におけるメンタルヘルス対策の現状ならびに焦眉の課題である一次予防対策を中心に述べる.同時に,本連載で取り上げることの少なかった二次予防対策の手がかりについても少しだけ触れる.

パートナーシップ時代の国際保健協力―これから国際保健協力を志す若者への10章・9

新しいWHOの役割

著者: 鷲見学 ,   武井貞治 ,   中谷比呂樹

ページ範囲:P.454 - P.458

 パートナーシップ時代の国際保健協力として,このシリーズを書き進めてきたが,いよいよあと残すところ2章となった.最近の地殻変動とも言える国際保健の枠組みの変化について読者の皆様が理解するのに,役立っただろうか.また,その中で,国際保健協力を志す若い方々の意欲や希望が高まっただろうか.

 本稿では,ここまで書き進めてきた第1~8章をもう一度振り返り,国際保健のランドスケープの変化を感じていただくとともに,国連改革,そして世界同時不況の影響についてお伝えしたいと思う.そして,これらの枠組みの変化の中で,設立後60年間国際保健の分野で先頭を走ってきたWHOの役割がどうあるべきなのか,考えてみたい.

リレー連載・列島ランナー・3

雑感―地域保健のこれから

著者: 大江浩

ページ範囲:P.459 - P.461

 岸本益実先生(広島県の北部保健所)からリレー連載のバトンを渡されました.

 

まえがき

 筆者は平成20年4月,県関連団体の検診機関に派遣となった.平成元年4月に,臨床医から保健所勤務医になって以来,地域保健業務に携わってきた.途中5年あまり県庁勤務があるが,保健所業務から完全に離れるのは久しぶりである.保健所時代と何が最も変わったか,といえば,緊急の電話がなくなったことである.精神,感染症,食中毒など,保健所は24時間・365日のオンコール体制であるが,そのことが懐かしく感じられる今日この頃である.保健所を離れてみて,改めて地域保健のこれからについて,想いを述べてみたい(少々無責任かもしれないが…).

保健師さんに伝えたい24のエッセンス―親子保健を中心に・3

うつ状態,うつ病―妊娠中から出産後を中心に

著者: 平岩幹男

ページ範囲:P.462 - P.465

 うつ病は生涯有病率が5%を超えるとも,うつ状態まで含めると20%を超えるとさえ言われており,現代社会にとっての大きな問題です.すなわち「どこにでもある」疾患です.うつ病と抑うつ状態はどこが違うか,しばしば混乱を招いています.うつ病は,診断基準に基づいて,そしてうつ病エピソードがあることによって診断されます.抑うつ状態は,うつ病への危険因子ではありますが,単なる気分の落ち込みから,うつ病エピソードはないものの,気分に変化の起きている状態です.

 従来から産後にはmaternity bluesが知られていましたが,最近では産後うつ病という概念でまとめられるようになり,特に乳児を抱える母親の精神面での評価や対応が重視されるようになってきました.しかし現在はあまり注目されてはいませんが,うつ病は妊娠中にも存在します.本稿を執筆している現在,うつ病を抱えた妊娠8か月の方を拝見していますが,うつ病と診断された妊娠4か月以降,本人および家族の強い妊娠継続の希望があるために,SSRI(Serotonin selective re-uptake inhibitor:選択性セロトニン再吸収阻害剤:最近のうつ病治療には第一選択となることが多い.商品名ではパキシル®,デプロメール®,ルボックス®,ジェイゾロフト®)などを使うことができず,胎児に影響の少ない睡眠導入剤など最小限の薬剤治療とカウンセリングで診療を続けていますが,カウンセリングにも長い時間を要し,とても苦労をしています.多くの向精神薬は妊娠中や授乳中には胎児への影響や母乳への移行があるために使うことができません.また昨年,母乳で育てている生後4か月の子どもを抱えた母親がうつ病と診断され,相談に来られました.うつ病についてSSRIなどを使うとすれば母乳を中断する必要のあることをお話しし,納得されたのでSSRIを処方しましたが,家に帰って子どもが泣くと,特にパートナーが働きに出ている昼間にはつい母乳をあげてしまうことが続きました.結局知り合いの保育園にお願いして数週間,昼間だけ子どもを預かってもらうことにしてSSRIの服用を開始しましたが,当初の計画よりも4週間遅れました.産後うつ病については後述のEPDS(エジンバラ式産後うつ病自己調査票:Edinburgh Postnatal Depression Scale)などを含めて,早期発見・早期対応が叫ばれていますが,実際にうつ病の妊婦さんや産婦さんと対応することは,決して簡単なことではありません.

ドラマティックな公衆衛生―先達たちの物語・6

「生命への畏敬」の実践:理想に生き抜くこと―アルベルト・シュバイツァー

著者: 神馬征峰

ページ範囲:P.466 - P.469

 …知はやむことあり.されど愛はやむことなし(パウロ)(文献1),p227)

 

遅ればせながら

 アルベルト・シュバイツァー(1875年1月14日~1965年9月4日)は,ドイツ出身のアルザス人.牧師の子として裕福な家に育った.神学者,哲学者,医師,音楽学者,オルガニスト.アフリカの医療や公衆衛生の改善に尽くした.1952年にはノーベル平和賞を受賞している.

 シュバイツァーといえば,かつては児童向けの偉人伝に必ずとりあげられていた人である.しかし今はむしろ,遅ればせながら30歳位になって医学部に入学した人とか,遅ればせながら国際保健をめざした人にとってのよき先達となりうるかもしれない.シュバイツァーもまた,30歳で医学を学び始め,38歳になってアフリカのガボンに旅立った医師であったから.

「公衆衛生」書評

日本の医療と疫学の役割―歴史的俯瞰 フリーアクセス

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.452 - P.452

 日本の医療は,人々の結核とのたたかい,脳卒中の制圧に輝かしい成果をあげてきた.そして昭和61年には日本人の平均寿命は,男女ともに世界一の輝かしい記録を達成した.そのような日本の医療は,地道で目立たない,多くの優れた疫学研究によって支えられ,推進されてきた.森岡聖次先生と重松逸造先生が,この2月に上梓された『日本の医療と疫学の役割―歴史的俯瞰』は,そのことを余すところなく教えてくれる.

 本書は,第1章「疫学事始」,第2章「日本の疫学誕生期」,第3章「成長期の疫学」,第4章「発展期の疫学(その1)」,第5章「発展期の疫学(その2)」,第6章「拡大期の疫学(その1)」,第7章「拡大期の疫学(その2)」,第8章「疫学のこれから」の8つの章から成っている.

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あとがき フリーアクセス

著者: 品川靖子

ページ範囲:P.472 - P.472

 わが国において明治,大正時代に制定された精神障害者に関する法律は,いずれも私宅監置を容認したもので,医療・保護の面では極めて不十分なものであったと言われています.

 昭和25年の精神衛生法制定により私宅監置制度が廃止され,昭和40年の精神衛生法一部改正により都道府県に現在の精神保健福祉センターが設けられることになりました.そして,保健所は地域における精神保健行政の第一線機関となり,在宅精神障害者への訪問・相談や通院医療費公費負担,社会復帰促進(デイケア)などの各種施策を展開してきました.昭和62年には精神障害者の人権擁護と適正な精神科医療の確保という観点から,精神衛生法は精神保健法に改正されました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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