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雑誌目次

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公衆衛生73巻7号

2009年07月発行

雑誌目次

特集 自治体中心の新たな健康政策―Health Impact Assessmentの導入

フリーアクセス

ページ範囲:P.477 - P.477

 わが国の健康政策の基本法とされてきたのは保健所法であります.保健所法は改正され,地域保健法へと脱皮しています.現在,法制度上は自治体が中心となった健康政策の時代に突入しています.しかし今,地域保健法が施行されてから10年を経ていますが,全国的には自治体が中心となった健康政策の状況が見えてきていない状況にあります.その原因は,わが国の政治行政制度改革が,地域保健制度の改革と連動して進められてこなかったことにあったのではないかと思われます.

 牛歩の歩みではありましたが,平成11年に地方分権一括法が成立したことが転機となり,近年ようやく国と地方との関係が動き始めています.平成18年には地方分権改革推進法が成立したことにより,今や地方分権型社会への流れは止めることのできないものとなっています.政令指定都市,中核市など保健所を設置する市の数は年々増えてきています.しかし,わが国の自治体が本当に健康政策を担える存在として発展していくのかどうかについては,安心できない状況にあるのではないでしょうか.

 本号では,健康政策の国際的な動向,ヘルシーシティーズ,ヘルスインパクトアセスメント,わが国の自治体の健康政策の現状など,自治体中心の新たな健康政策の発展につなげたいと考え,本特集を企画しました.

健康の社会的決定要因とそれに対する健康政策の国際的動向―健康都市プロジェクト

著者: 高野健人

ページ範囲:P.478 - P.482

 健康政策において自治体の役割は重要である.特に,包括的な地域保健プログラムは基礎自治体を単位として実施すると効果的である.このような包括的地域保健プログラムのひとつとして「健康都市(ヘルシーシティーズ:Healthy Cities)」プログラムがある.「健康都市プロジェクト」と呼ばれる場合も多い.

 「健康都市プロジェクト」は1980年代から世界保健機関(WHO)の欧州地域事務局が中心となって提唱し1),1990年代後半からは世界各国の多くの都市自治体において取り組まれ2),推進事例を蓄積し,経験を共有することで進化,発展してきた.日本を含む西太平洋地域でも2000年にガイドラインがWHOより刊行され3),有効な包括的地域保健プログラムとしてその発展が加速された.

 「健康都市プロジェクト」は,住民が直面する健康課題は数多く存在するが,ひとつひとつの健康課題の背景には共通する社会的要因が多く,また保健医療分野だけの取り組みでは効果に限界があるため,多くの部門や部局が関わり,市民や様々な団体とともに,健やかな地域を創造していこうという理念に基づくものである4)

 本稿では,健康都市プログラムを,個々の対策とともに健康の社会的決定要因の改善をはかるプログラムとして,また住民参加と部門間連携によって展開するしくみを持ったプログラムとして紹介し,自治体における保健活動の方向性の参考に供したい.

健康影響評価の概要とその応用の可能性―背景,概念,定義,基盤,手法など

著者: 藤野善久

ページ範囲:P.483 - P.487

 国や地方自治体が実施するさまざまな政策や事業,また時には企業による事業が,結果として予期せぬ健康影響を招くということを,多くの地域が経験してきた.Health Impact Assessment(HIA:健康影響評価)とは,影響評価(Impact Assessment)の手法の1つで,1990年代頃より諸外国において積極的に活用されてきたものであり,提案された政策・施策・事業に対して,健康影響を予測し,不利益を最小化し,便益を最大限にするように政策形成に貢献しようという試みである1,2).すでに欧州を中心に,ダム建設や空港建設などの大型事業や地域開発,雇用政策など,さまざまな分野で活用が始まっている3)

自治体における健康影響アセスメントの実践―その手順と方法

著者: 石竹達也 ,   星子美智子 ,   原邦夫

ページ範囲:P.488 - P.492

 健康影響アセスメント(Health Impact Assessment,以下HIAと略す)は健康を指標とした行政評価を目的とし,1990年初頭より欧州を中心にEU諸国で実施され始めた.HIAとは,提案された政策,施策,事業によって生じる可能性のある健康影響や健康事象に関連する要因(健康の社会的決定要因)の変化や,影響を受ける集団および集団の属性の違いによる影響の違いを事前に予測・評価することによって,健康影響に関する便益を促進し,かつ不便益を最小にするように提案された政策,事業を適正化していく一連の過程と方法論のことである1~3).今回,われわれはある地方自治体の「中核市」移行に伴う健康影響についてこの方法を適用したので,本稿にて紹介するとともに,自治体主導のHIAの導入意義や課題について論じる.

健康影響アセスメントがなぜ登場してきたのか―環境アセスメントの立場から

著者: 原科幸彦

ページ範囲:P.493 - P.496

意思決定過程の透明化

 日本の環境アセスメント(以下,「アセス」)は,経済先進国の中では残念ながら遅れている.環境影響評価法は1997年に制定されたが,これは当時のOECD加盟国,29か国中で29番目の法制化であった.経済大国の日本だが,環境政策は遅れていると世界は見ている.しかしその後,21世紀に入り,国際協力の分野では,国際協力銀行(JBIC)や国際協力機構(JICA)などが,かなり水準の高い環境社会配慮システムを導入したため,わが国のアセスに対する見方は次第に変わってきたようである.

 例えば2007年に,筆者はアセス分野の中心的な国際学会であるIAIAにおいて,日本人としては初めての会長に選出された.IAIAの30年近くの歴史でようやくのことである.IAIAとは,International Association for Impact Assessmentの略で,国際影響評価学会と訳しているが,国際アセスメント学会としたほうがわかりやすいかもしれない.これは,環境アセスメントだけでなく,影響評価(IA)全般に関する幅広い学会で,1980年にアメリカで設立され,今では120以上の国と地域からの会員がおり,国連でも特別に認定された学術団体である.健康影響アセスメント(HIA)も重要なテーマの1つとなっている.

自治体が中心の健康政策への期待と意義―公衆衛生の原点から

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.497 - P.501

 英国社会が生み出した公衆衛生体制の基本要素は,地域社会の中に,人々に対するガバナンス組織としての「自治体」(Local authority)を位置づけ,人が抱えている健康問題に対処するために,その自治体の中に「公衆衛生専門職」(Medical officer of Health)を位置づけたことではないかと思われる.

 わが国では,公衆衛生の基本要素はどのように位置づけられてきたのであろうか.明治初頭に岩倉遣欧使節団に加わった長与専齋の構想の足跡から辿ってみる1,2,6,13)

自治体における健康政策の課題と展望―地方自治体の立場から

著者: 藤内修二

ページ範囲:P.502 - P.507

自治体の健康政策立案能力は高まったか?

1.バブル崩壊と保健福祉計画

 1990年代前半のバブル崩壊まで,自治体の予算は概ね右肩上がりで,保健事業の予算も膨らみ続けた.この時代の政策立案は,今から考えれば,現場の裁量も認められ,国庫補助金がつかなくても,必要な保健事業の予算を獲得することが比較的容易だった.保健師が首長に直談判して,新規事業の予算を獲得したという話もよく聞いた.

 しかし,バブル崩壊以来,長く続く税収の落ち込みは地方財政を圧迫してきた.もはや右肩上がりどころか,前年度の予算水準を維持することも困難になり,マイナスシーリングとなることが常態化している.かつてのように必要な保健事業に予算がつく時代は終わり,いかに計画的かつ効率的に保健事業を実施するかが求められるようになった.

地方分権時代の自治体職員の役割と能力

著者: 浦野秀一

ページ範囲:P.508 - P.511

 筆者は,まちづくりのプランナーとして全国各地の地域振興のアドバイザー,自治体職員の政策能力向上のための研修講師をしている者である.本稿では,地方分権時代とはどのような時代なのかを再確認し,そのような時代において「自治体中心の新たな健康政策」を効果的に推進していくには,自治体職員にどのような役割と能力が求められ,そのためにはこれからの自治体の経営・組織・職員の意識においてどのような改革がなされなければならないかを考えてみたい.

人々の健康問題と自治体の果たす役割

著者: 三浦大助

ページ範囲:P.512 - P.515

ピン・ピン・コロリのまちを目指して

「健康長寿都市宣言」

 人生は,健康で長生きができればこんな幸せなことはない.最近,私のまち長野県佐久市が,全国でもトップクラスの健康長寿のまちとして注目されるようになった.このことは,平均寿命が全国のトップクラスであるということだけではない.85歳以上の高齢者の人口に占める割合が,全国の2.56%であるのに対し,佐久市では3.95%と高いし,現在100歳以上の人が72人ほどいるが,これは人口10万人当たりの高齢者の人数では,全国平均の3倍にあたる.また,寝たきり者の出現率は,全国平均の半分以下であり,高齢者の認知症の出現率も,全国平均の7.63%に対し,6.82%と低い.特に,問題となっている高齢者の医療費は,1人当たり全国平均が83万2千円であるのに対し,佐久市は65万8千円と少ない.参考までに,ワーストの福岡県の高齢者の医療費は103万円である.

 こういう数字を見れば(表),佐久市は単なる長寿のまちではなく,健康で長寿のまちであることが一目瞭然である.

健康都市に向けた自治体の現状と課題―2008年10月23~26日「健康都市連合国際大会」開催から

著者: 千葉光行

ページ範囲:P.516 - P.519

 WHOの健康都市(以下,WHO健康都市)は非常に広い政策的概念を含んだ取り組みです.保健・医療の分野だけでなく,福祉,環境,教育,文化,まちづくりなど幅広い分野の活動により,都市に住む誰に対しても,その人の持てる力を十分に発揮できるような都市環境を提供する都市のことであり,いわば公共政策の中心に健康の視点を据えている都市と言えます.

 WHOの健康都市を推進するには,公衆衛生の関係者はもちろんのこと,まちづくりや社会文化などの幅広い関係者の連携が重要となります.千葉県市川市は2004(平成16)年にWHO憲章の精神を尊重した「健康都市市川宣言」を行い,企画部内に健康都市推進課を設置して組織横断的な体制でWHO健康都市を推進してきました.またWHOより3回表彰された実績等が評価され,本市が第3回健康都市連合国際大会の大会開催地に選ばれました.

 健康都市連合設立2003(平成15)年から5周年を迎えた節目の年に,健康都市に取り組む世界の仲間たちが市川に集まり,「健康都市市川宣言」を世界に発信できたことは,主催市として輝かしい名誉であり誇りに思います.

 本稿では,国際大会の開催経験を踏まえ,自治体の立場から,健康都市の取り組みについて現状と課題を述べたいと思います.

視点

東京都における建築物環境衛生行政の歩み

著者: 長良健次

ページ範囲:P.474 - P.475

 筆者は,昭和52年に東京都衛生局(現在の福祉保健局)に環境衛生監視員として入都して,最初にビル衛生検査班に配属となった.それ以降も,断続的ではあるが東京都の建築物の環境衛生の仕事にかかわってきた.

 建築物の環境衛生は,多数の人が利用する建築物と個人の住居とに分けて考える必要があるが,前者に関しては,昭和45年に施行された「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(以下,「ビル衛生管理法」)があり,この法律によりビルの環境衛生は大きく向上した.東京都では,昭和46年に全国に先駆けて,ビル衛生検査の専門組織が結成され,大きな推進力となってきた.法律が制定された当初は,延べ床面積が8,000m2以上の事務所,店舗等が対象(特定建築物)であったが,その後5,000m2,次いで3,000m2へと段階的に引き下げられ,また平成15年には特定用途外の面積が10%を超えた場合の法適用外規定もなくなり,対象施設数は飛躍的に増加した.ちなみに東京都内の特定建築物の数は,昭和46年度は710施設であったが,36年後の平成19年度には約7,200施設と,10倍も増加している.

連載 働く人と健康・7―経営者の立場から

作り手が健康でなければおいしいお菓子は作れない

著者: 小田豊

ページ範囲:P.521 - P.523

 おいしいお菓子を作ろう

 楽しいお買い物の店を作ろう

 みんなの豊かな生活を作ろう

 そして成長しよう

 

 私どもの会社「六花亭」には売上目標がありません.もちろん利益目標というものも立てたことはありません.利益が出なければ,それは商品に魅力がないのです.利益が出たら,それはお客様が喜んで下さった満足料だと思っています.では,何を目標にしているかと言うと,昭和30年代に父・故小田豊四郎が揮毫した「基本方針」です.ただおいしいお菓子を作って,地域の方々に喜んでいただける,それが目標です.それを実践するのは社員の一人ひとり.つまり,最後は「人」なのです.

パートナーシップ時代の国際保健協力―これから国際保健協力を志す若者への10章・10 【最終回】

パートナーシップ時代の日本の役割とこれからの展望

著者: 鷲見学 ,   武井貞治 ,   中谷比呂樹 ,   武見敬三

ページ範囲:P.524 - P.529

 「パートナーシップ時代の国際保健協力」と題するこの10章も最後の章となった.読者の皆様には,10か月おつきあいいただいたことに感謝したい.締めくくりとなる本稿では,武見敬三先生をお招きし,中谷と対談する中で,激動の時代における日本の役割とこれからの展望について論じ,このシリーズのまとめとしたい.

ドラマティックな公衆衛生―先達たちの物語・7

みんなで生きるために―岩村 昇

著者: 神馬征峰

ページ範囲:P.530 - P.533

あなたの心の光をください(文献1))

 

 岩村昇(1927年5月26日~2005年11月27日)は,愛知県宇和島出身の公衆衛生医,日本キリスト教海外医療協力会からの派遣ワーカーとして,ネパールで約20年間公衆衛生活動を行った.「アジアのノーベル賞」と呼ばれるマグサイサイ賞を受賞している.

リレー連載・列島ランナー・4

公衆衛生従事医師の確保・育成に向けて―全国衛生行政研究会の調査結果から

著者: 嶋村清志 ,   毛利好孝 ,   三宅雅史 ,   中西好子

ページ範囲:P.534 - P.538

 大江浩先生よりバトンを受けました.本稿では全国衛生行政研究会のメンバーが執筆,「全国衛生行政研究会の調査結果」について書いていきたいと思う.

 近年,地域医療における医師不足が顕在化しており,公衆衛生行政分野においても医師確保が非常に困難な状況となっている1)

 こうした状況の下,全国の自治体等の公衆衛生従事医師からなる「全国衛生行政研究会」では,全国都道府県市区の衛生主管部局を対象に行政医師のキャリアパスについての調査を実施した.また,別途,公衆衛生従事医師に対する調査も実施し,医師確保に必要な要因の抽出を試みるとともに,公衆衛生行政に必要な人材の確保・育成に関する提言のための基礎資料としたい.

保健師さんに伝えたい24のエッセンス―親子保健を中心に・4

授乳・離乳の支援ガイドと母乳育児をめぐって

著者: 平岩幹男

ページ範囲:P.539 - P.542

 今までは1995年に当時の厚生省から発表された『改定 離乳の基本』を目安として離乳について指導していた市町村が多かったと思いますが,2007年に『授乳・離乳の支援ガイド』が発表され,これが基本となりました.この改訂にあたって中心となられた日本子ども家庭総合研究所の堤ちはる先生にお話を伺ったことがありますが,やはり時代とともに食生活が大きく変わってきたことが改訂の背景にあるようです.また画一的に指導をするのではなく,一人ひとりの子どもたちの体や発達の状態に合わせて一緒に考えようという姿勢も明らかになってきたようです.すなわち成人であれば,BMIや偏食,喫煙,飲酒などの生活習慣,糖尿病や高脂血症などの背景疾患を考えて,一人ひとりに合わせた栄養のお話をすると思います.いわゆる「order made」です.しかしながら乳児では,月齢にあわせていわば「ready made」の指導がされてきたように感じています.それは5か月になったら離乳を開始する,1歳になったら卒乳するというように月齢に沿った考え方でした.もちろん低出生体重児の場合や母親の病気,母乳の分泌低下,繰り返す感染症など乳児でもさまざまな要素がありますし,生活環境や経済状況など社会経済的因子も絡んできます.そう考えると,画一的には割り切れないことは当然です.また外食の利用,離乳食を含めた市販の食品の利用も盛んになってきました.シンガポールでは,外食が手近に利用できるため,包丁やまな板のない家庭が増えているという話を聞いたことがありますが,そこまでではないにせよ,女性の社会進出もあいまって,家庭で料理をする機会が減りつつあることも事実だと感じています.

 堤先生に伺った策定のねらいは,表1に示しましたが,この中で印象に残ったのは,乳汁や離乳食などの「もの」にのみ目を向けるのではなくて,「一人一人の子どもの発達を尊重していきましょう」ということでした.ですから何を何g食べるということではなく,あくまで食品を目安で示しているというわけです.また栄養職だけ,保健師だけということではなく,子どもをとりまくすべての保健医療従事者が共通の認識を持つということもとても大切なことだと思います.

衛生行政キーワード・56

自殺未遂者ケア・自死遺族ケアについて

著者: 成重竜一郎

ページ範囲:P.544 - P.545

 自殺に至る要因は単一ではなく,心理的要因,文化的要因,社会的要因,経済的要因など様々な要因が複合的に作用していると考えられており,自殺対策は医学領域にとどまるものではないが,その基本的な対策を立てる上では予防医学における一次予防,二次予防,三次予防の概念が応用されている.自殺における一次予防に当たるのは,心の健康づくりや普及啓発活動の推進等,自殺の危険性を低くするための対策であり,二次予防に当たるのは,相談体制や精神医療体制の充実等,自殺の危険性が高まっている状況に対する早期発見・早期対応のための対策である.そして,自殺における三次予防に当たるのが,自殺企図後の更なる自殺を防ぐための対策であり,その中心となるのが,自殺未遂者ケアおよび自死遺族ケアである.

研修医とともに学ぶ・13・【最終回】

人々から学ぶことの大切さを知る~生命・生活・生きる権利を衛る医療保健福祉の拠点,保健所研修は不要か?~

著者: 嶋村清志

ページ範囲:P.551 - P.553

 厚生労働省および文部科学省の「臨床研修制度のあり方等に関する検討会(高久史麿座長)」の議事録によると,「保健所や療養施設みたいな所は地域医療に入れないことをはっきりさせたい」という発言がなされています.医師としての人格の涵養を基本的な考え方にあげながら,今回の改正で,これまで必修科目であった地域保健・医療研修から“保健”だけを除外し,病院や診療所に限定した地域医療研修へと変更されるようです.本当に,保健所や施設での地域“保健”研修をなくしてしまっても良いのでしょうか.

 新型インフルエンザの対応の拠点となって指揮をとったのは,まさに全国の保健所や自治体の衛生部局でした.私は保健所が人々の生命・生活・生きる権利を衛っている健康危機管理の拠点として,命がけで住民の健康を衛っていることを研修医にも学んでほしいと思っています.

資料

糖尿病有病率と社会経済的地位(SES)との関係

著者: 筒井秀代 ,   田中剛 ,   近藤克則

ページ範囲:P.546 - P.550

 全世界の糖尿病患者数は2.4億人を超えており,2型糖尿病患者は急激に増加している1).日本においても,平成18年の糖尿病患者数は約820万人,予備群を含めると約1,870万人に達し2),糖尿病患者数は増加の一途を辿っている.2008年4月からの医療計画においては,がん,脳卒中,急性心筋梗塞と並んで,地域における医療体制を構築すべき4疾患の1つとして位置付けられた.

 これらの糖尿病患者の増加が,経済的発展や摂取カロリーの増大,モータリゼーションによる歩行量減少等に伴って現れたことと,数千人規模の健診データに基づく空腹時血糖平均値の年次推移と景気動向指数の推移のカーブが同じ傾向を示したこと3)などから,糖尿病は「贅沢病」などと呼ばれている.しかし,先進国における研究に目を向けると,職業階層・所得・学歴等で見た社会経済的地位(Socioeconomic Status:以下,SESと記す)がむしろ低い人々に,2型糖尿病有病率が高いとの報告が多い4~12)

 そこで本稿では「2型糖尿病有病率とSES」との関連についての知見を紹介し,そこから現在の糖尿病対策の妥当性について考えてみたい.

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あとがき フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.558 - P.558

 現代社会は,高齢社会,格差社会,成熟社会,個性化社会など,様々な呼称がつけられています.自治体に期待される健康政策は,金太郎飴的なものから,市民の実態に合ったものを創造していくことが求められてきています.いま,自治体に魅力的な仕事ができる時代が到来していると見ることもできます.

 本特集内でも,三浦大助氏のピンピンコロリのまちづくり,千葉光行氏による健康都市をめざした取り組みは,その状況をうまく利用し,具現化されている事例と思われます.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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