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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生74巻10号

2010年10月発行

雑誌目次

特集 母子保健をめぐる今日的課題

フリーアクセス

ページ範囲:P.823 - P.823

 戦後,公衆衛生や医療水準の向上によりわが国の乳児死亡率は劇的に改善し,日本の母子保健は世界一の水準に達したと言われています.かつて都道府県の保健所を中心に実施されてきた母子保健事業は,平成9年に,より身近な市町村へと移管されました.

 各市町村が設置した保健センターは,地域医療との連携の下,妊娠届が市町村に出された時点から就学前まで,切れ目のないサービスが提供できるようになりました.

妊婦健診の現状と課題

著者: 松田義雄

ページ範囲:P.824 - P.828

はじめに

 終戦後から約半世紀をかけて,わが国の母子保健は世界のトップクラスに駆け上ってきた.しかしながら,ここに来て,産科医療を取り巻く環境の劣悪化により,地域によってはこれまでのような産科医療提供体制の確保が難しくなってきており,大きな社会問題となっている.体制の再構築は急務の課題であるが,一朝一夕で解決できるものではない.そのため,少なくとも今の母子保健レベルを低下させないために,何をすべきなのか?

 妊婦健診の現状と課題を,産科医師の立場から,改めて考えてみたい.

多胎出産の現状と子育て支援

著者: 横山美江

ページ範囲:P.829 - P.833

 少子化が進む一方で,多胎児の出産率は不妊治療の影響により逆に上昇傾向が見られ1)(図1),地域の保健福祉施設において無視できない数へと増加している.多胎妊娠は単胎妊娠に比べ母体への影響も大きく2),出産後も双子の約70%,三つ子の約96%が低出生体重児として生まれている3).さらに,障がい児の発生率も単胎児に比べ高いなど4~6),多胎児家庭にはさまざまな問題が生じやすい7~9)

 本稿では,不妊治療と多胎出産の現状について解説し,多胎児家庭の育児問題を単胎児家庭の育児問題との比較から概説する.さらに多胎児家庭への支援の取り組みと課題についても紹介する.

より良いお産のために

著者: 遠藤俊子 ,   大塚弘子

ページ範囲:P.834 - P.839

はじめに

 わが国のお産は,第二次世界大戦直後までは,そのほとんどが自宅分娩であった.そして,戦後の復興の歴史と共にお産の場所は施設へと移行し,現在は99.8%が施設分娩である.その分娩施設が,この10年「お産難民」とまで表現されたように,とりわけ病院の集約化がされたことは周知の事実である(図1).集約化に至る背景としては,臨床研修医制度の開始と同時期であったが,産科医師の24時間365日休みなしの過激な勤務体制,医療訴訟の多さ等,産科医師への魅力の軽減があった.それらの問題解決のためには,医師養成力の強化と共に,働き方の見直しが求められた.施設数を少なくし,機能別強化を図り,産科医の1人配置を複数配置にする流れになっていった.

 平成20年には,厚生労働省が『安心と希望の医療確保ビジョン』(表1)を示し,限りある医療資源の有効活用を国として方向付けたことが大きい.とりわけ助産師については,明治時代からの産婆規則にはじまり,保健師助産師看護師法においても,助産に関わる業務と権限が認められていることから見えやすいこともあり,積極的な議論が開始された.

 筆者らが日本看護協会助産師職能を中心として,助産師を積極的に活用する院内助産システムを提言してから数年が経過した.この間,大きく前進したのは,主任研究者/東北大学岡村州博教授の平成18~20年厚生労働科学研究「分娩拠点病院の創設と産科2次医療圏の設定による産科医師集中化モデル事業」1)に助産師活用班として参加し,産科医師・助産師間のチーム医療のあり方を検討する機会を得たことである.前述の『安心と希望の医療確保ビジョン』が,20・21年度に「院内助産所・助産師外来整備」ならびに「開設のための医療機関管理者および助産師研修事業」として厚生労働省医政局に予算化されたことが,本システムの周知ならびに開設増加に拍車をかけたと思われる.

 しかしながら,産科医師数の不足が,本システムを後押ししたように受け取られるのは不本意である.

 「健やか親子21」2)に見られるように,わが国の母子保健は世界最高水準にあるにもかかわらず,親子の心の問題,救急医療のあり方など,新たな課題が生じていた.お産という人生の大きなイベントをもっと人間らしく体験し,子どもを持つことの意味やすばらしさ,その後に続く育児を有意義なものにするために,お産を位置づけることを利用者である妊産婦や家族が求めていたことなどが,本システムが,新しい産科医療体制に組み込まれた理由であり,その結果,助産師の活用が望まれたと考えている.

母乳育児と離乳食支援

著者: 堤ちはる

ページ範囲:P.840 - P.845

はじめに

 乳幼児期の食生活は,健全な発育・発達に影響するのみならず,将来の肥満,2型糖尿病,高血圧や循環器疾患などと関連があることが近年報告されている1,2).また,この時期には味覚や食嗜好の基礎も培われ,それらはその後の食習慣にも影響を与える.そこで,乳幼児期の食生活や栄養については,生涯にわたる健康の維持・増進という長期的な視点に立脚した栄養管理と食育が必要であり,子どもたちには適切な食事を好ましい環境のもとで提供することが極めて重要である.

 従来,離乳指導に多く用いられてきた『改定 離乳の基本』3)(旧厚生省,平成7年)に代わり,厚生労働省から平成19年に授乳支援も含んだ『授乳・離乳の支援ガイド』4)が公表された.『授乳・離乳の支援ガイド』4)では,子どもの成長や発達状況,日々の様子を見ながら進めることと,生活リズムを身に付け,食べる楽しさを体験していくことができるよう,“一人ひとりの子どもの食べる力”を育む支援の推進がそのねらいとされている.

 本稿では,『授乳・離乳の支援ガイド』4)の内容に触れながら,最近の親子の食の状況を踏まえた母乳育児と離乳食支援について述べていく.

子どもの歯科保健最前線

著者: 井上美津子

ページ範囲:P.846 - P.849

はじめに

 最近30年間で,子どもの歯科保健事情は大きく変化してきた.昭和40年代には3歳を過ぎると90%を超えていたう蝕有病者率も,1歳6か月児歯科健康診査が実施された昭和52年頃から徐々に減少を示し,平成年度になると顕著な減少が見られるようになった.東京都内では3歳児のう蝕有病者率が20%以下を示す地域も多くなってきており,それに伴い重症う蝕を有する子どもも明らかに減少してきた.このような現状のなかでは,多数歯にわたる重症う蝕を有する子どもは,育児困難や虐待(ネグレクト)までが疑われる状況である.

 一方,少子化のなかで子どもの歯・口に対する保護者の関心は高く,「歯の生え方」「歯ならび・噛み合わせ」「う蝕予防・歯磨き」などが関心事項となってきている.また,乳幼児期には子どもの「食べ方」に関する悩みも多く見られ,厚生労働省の平成17年度乳幼児栄養調査1)でも「食事で困っていること」を訴える保護者は以前の調査に比べて増加していた.1歳を超えた子どもの食べ方では,遊び食い(45.4%),偏食する(34.0%),むら食い(29.2%),食べるのに時間がかかる(24.5%),よく噛まない(20.3%)などの訴えが多く,困っていることはないと答えた保護者は13.1%と少数であった.

 平成17年には食育基本法が制定され,当初は食の安全や地産地消など「何を食べるか」に主体が置かれていたが,食育が推進されるなかで「どう食べるか」が注目されてきて,歯科との関わりも強くなってきた.平成19年には歯科関連4団体(日本歯科医師会,日本歯科医学会,日本学校歯科医会,日本歯科衛生士会)から「食育推進宣言」が出され,「食べ方」を中心とした歯科からの食育支援の方向性が示された.

 また,近年の研究から,以前は子どもの成長とともに自然に獲得されると考えられていた「食べる」機能や行動が,出生後に学習され獲得されるものであることがわかってきた.子どもの成長過程で学習・獲得される食べる機能・行動は,また子どもの生活環境との関連も高く,少子化や核家族化の進んできた最近の社会状況のなかでは,うまく獲得できなかったり,獲得されても日常生活でうまく発揮できない子どもも見られる.

 本稿では,乳幼児期の歯・口の発育と食べる機能・行動の発達を見ていくとともに,歯科からの食育支援のポイントについても述べたい.

発達障害の早期発見と乳幼児健診の現状

著者: 加藤則子

ページ範囲:P.850 - P.853

 発達障害が大きな社会的関心を引くようになってから,その早期発見支援の観点から地域母子保健に求められるものが大きくなってきている.乳幼児健診の果たしうる役割について考えてみたい.

法制定後の児童虐待対策の現状と課題

著者: 岩城正光

ページ範囲:P.854 - P.859

はじめに

 連日のように,子ども虐待死が報道されている1).痛ましい事件が起きるたびに児童相談所の対応が問われ,そのたびに児童虐待防止法の見直しが検討されてきた.2000年に児童虐待防止法が制定されてから,2004年,2007年と2度にわたる改正がなされてきた2).しかし,児童虐待防止法が制定されてから今日まで,子どもの虐待死が減少したという事実はない3).これは,今までの子ども虐待に対するわが国の法制度や施策が,無力であったということを意味するのだろうか.だとすれば,今後どのような展望を描くべきなのだろうか.

 筆者は,平成16年から現在に至るまで厚生労働省の虐待死亡検証の専門委員4)を務めていることから,虐待死亡が減少しないことや,連日の虐待報道に接するたびに,実に暗澹たる気持ちになる.今回,本稿のテーマである「児童虐待対策の現状と課題」をお引き受けしたものの,今まで私が公表してきた論文に対し,何か新しい視点や展望を追加できているのかおぼつかない.子ども虐待防止に対する法的施策についてわかりやすく説明しながら,私なりに抱いている今後の課題を,母子保健に携わる皆様方にご理解戴ければ何よりも幸甚である.

 なお,わが国では,明治時代から子どもの虐待は社会問題として取り上げられていた.すでに1933(昭和8)年に帝国議会は児童虐待防止法を制定していた5).もちろん当時の子ども虐待の実態は,今日の実態とは大きく異なる.本稿では,2000(平成12)年に制定された児童虐待防止法以降を中心に取り上げている.

現代における子どもの心の発達と問題

著者: 冨田和巳

ページ範囲:P.860 - P.863

はじめに(世相への個人的感想)

 筆者は医師になって7年ばかりして,心身医学に興味をもち始めた.これに伴って,不登校(当時は登校拒否)児が,身体症状を訴えて家庭医や病院の小児科を受診し始めているのに気づいた.彼らは身体疾患を探す医師の下で,適切な対応を受けられず,症状が消失しないので医師の梯子(doctor shopping)の末,大学病院までやってくるのが一つの典型であった(今もその傾向がある).残念ながら,大学でも同じ身体探索がさらに詳しく,時に入院までさせて行われ,最終的にゴミ箱診断で「心因性」と診断され,精神科に廻されていた.この現状を見て,もう少し初期に適切な対応をすれば,親子の苦しむ時間の短縮,医療費の節減が可能と考え,小児科医として不登校児に専門的関わりをもつようになった.

 同じ頃,保健業務に携わる仲間の小児科医が「被虐待児」に注目し始めていた.被虐待児は米国文化(父性社会)の中で出現し,不登校は日本文化(母性社会)で出現する1)と考えた筆者は,不登校は増加し続けるであろうが,被虐待児は日本でそれほど増加しないと考えた.

 それから35年余りが経った今,不登校は不幸にも筆者も予想通りに激増し,ある一定数がこの数年続いて,あまり関心がもたれなくなったが,総生徒数が年々減っていることを勘定に入れれば,減少しているとは言えず,世界的に見ても日本では異常な数である.これに比べると被虐待児は筆者の予想をある面で裏切り,ある面で正しさを立証するように,少しずつ日本でも話題になり,増加しているが,米国に比べると3桁ほど発症率は今も低い.わが国の米国の表面的後追いと,物質的に豊かになった社会は後述するように,安易で我慢できない親を創り,その親が子育てをするから,虐待も増加する一方で,米国と日本の文化差は歴然と存在するのである.日本の母性社会は,今も基本的に子どもを可愛がるので,米国に比べると,幸いにも虐待は極めて少数になる.

 しかし,異常な米国の現状に比べ,少ないからと安心できる社会でないのは当然である.責任・義務を伴わない個性・自由・権利が最上のものと戦後教育は教え続け,ここに物の豊かな社会が出現すると,安易な親を創り,離婚・家庭崩壊が増加し,常に不幸は子どもに加えられ,再生産さえされていく.しかし,多くの専門家や学者は,目の前の現象に批判は加えても,「single motherを助けるものが社会に欠けている」などと指摘して,なぜそのようになったかの根本原因を言わない.ちなみに筆者は「片親」を「一人親」とか,カタカナで言うのも真なるものを見ない困った風潮のなせるわざ,と考える.

 多くの専門家は自分たちが「心優しく」「弱い立場の味方」でありたいという思いが強過ぎるようで,根本的なところにメスを入れず,現象を嘆いて表面的対策を提言する.筆者に言わせれば,それがさらに子どもの不幸を招き,心の発達を歪めていく.

 筆者はこのような世相に媚びず,物事の基本にあるものを重視する姿勢で,小児心身医療を実践してきた.これから述べるのは,このような視点をもつ小児科医が,臨床経験から得た心の発達の解説である.

視点

21世紀における応用老年学の必要性

著者: 柴田博

ページ範囲:P.820 - P.821

老年学とは何か

 老年学の語源であるジェロントロジー(gerontology)は,1903年パスツールの後継者であるロシアの学者メチニコフにより作られた造語である.ギリシャ語で“老人”を意味するgerontに“学”を意味するologyを合成したものであり,そういう意味では,老年学という日本語訳は正しいわけである.

 このように老年学は,まだ100年の歴史しかもたない新しい学問であり,その誕生には必然性がある.周知のとおり,ルネサンス以降近代科学は大きな開花を経験することになった.しかし,デカルトの心身二元論に象徴されるように,その基調にあったのは,要素還元主義とタテ割り主義であった.

連載 人を癒す自然との絆・15

施設の中にいても自然界との絆を

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.864 - P.865

 犬や猫などの動物とともに老人ホームや医療機関を訪問する動物介在活動(アニマル・アシスティッド・アクティビティ=AAA).日本でもすでに定着した感があるが,AAA先進国のアメリカでは,AAAをさらに発展させたさまざまなプログラムが行われている.その中で私が一番好きなプログラムのひとつは,マサチューセッツ州に拠点を置くネイチャー・コネクションというNPOの活動だ.

 彼らのプログラムのユニークな点は,動物たちだけではなく,その季節の自然の風物を持ち込むことによって,たとえ施設の中にいても自分が自然界の一部であることを感じてもらうという点にある.春なら野の花々,新緑をつけた木々.夏にはバケツに入れた海水,砂,貝殻.秋は色とりどりの落ち葉,まだ香りのする松葉や苔など.そして冬には,つららや雪まで持ち込んでしまう.

保健所のお仕事―健康危機管理事件簿・7

火山噴火への対応(平成12年度)その3

著者: 荒田吉彦

ページ範囲:P.866 - P.869

 減量に取り組んでいます.食べる量はほどほどに少なくなってきました.もう,バイキングで制限時間いっぱいフルに食べ続けたり,飲んだ後には必ずラーメンを食べたりはできなくなりました.これが年をとるということなのでしょうね.私の身長で現在の体重を維持するためには,それくらい努力して食べ続けなければならないということで,普通の食生活を送れば自然と体重は減るはずなのです.

 そして,運動.筋トレはあまり好きではないので,フィットネスクラブでエアロビ系のプログラムに出ています.長年の悪しき生活習慣のツケが回ってきたのだと観念して,怪しげなリズム感で踊っているところです.

地域保健従事者のための精神保健の基礎知識・10

精神保健の疫学研究の現状と課題

著者: 長沼洋一 ,   立森久照 ,   竹島正

ページ範囲:P.870 - P.873

精神保健の疫学研究

 精神障害者や精神保健上の課題を抱えながら生活している人が,どれくらいいるのであろうか.どのような人々が発症しやすいのだろうか,また精神障害に対してどのような治療を受け,どのような転帰に達しているのであろうか.それらを明らかにする研究上の手法が,疫学研究である.疫学研究とは,病気や障害等の発生頻度や性や年代等に関する分布を調査し,その病気や疾病の予防に役立つ要因を明らかにすることを目的とするものである.文部科学省と厚生労働省が出している疫学研究に関する倫理指針(平成20年度改訂版)1)では,疫学研究について「疾病のり患を始め健康に関する事象の頻度や分布を調査し,その要因を明らかにする科学研究である.疾病の成因を探り,疾病の予防法や治療法の有効性を検証し,又は環境や生活習慣と健康とのかかわりを明らかにするために,疫学研究は欠くことができず,医学の発展や国民の健康の保持増進に多大な役割を果たしている」と説明されている.

 精神障害については,その実態およびリスク要因についてもまだまだ十分に明らかにされているとは言えず,幅広い視点で疫学研究を推進していくことは重要な課題である.

保健師さんに伝えたい24のエッセンス―親子保健を中心に・19

思春期相談と思春期対応の体制作り

著者: 平岩幹男

ページ範囲:P.874 - P.877

 思春期の子どもたちは,大人と子どもを足して割ったものではありません.体やこころの発達においても個人差が大きい時期ですし,大人として扱うには社会的自立という面から不十分である反面,子どもとして扱うには自我が十分に芽生えています.思春期の子どもたちへの対応をする上で,もっとも大切なことは,そのときに抱えている問題に対応することだけではなく,子どもの生活の質(Quality of Life:QOL)を守るために何をするかを考えることです.これは不登校・ひきこもりでも性の問題でも同じです.QOLを守るためには,保健や医療だけではなく,社会や,時には政策的な対応も必要になります.

リレー連載・列島ランナー・19

新型インフルエンザ発生!!

著者: 毛利好孝

ページ範囲:P.881 - P.885

 『ウェルかめ』でお馴染みの徳島県美波保健所の三宅雅史先生からバトンをいただきました.折角いただいた機会ですので,新型インフルエンザ対応について,書かせていただこうと思います.

お国自慢―地方衛生研究所シリーズ・7

「ユニークな地方衛生研究所」をめざして(上)

著者: 小澤邦壽

ページ範囲:P.887 - P.891

群馬県は目立たない

 群馬県は特徴のない県です.他県の方には,お隣の栃木県とよく間違われるようです.ただし,あちらには「日光」という押しも押されもせぬ世界文化遺産があるのにひきかえ,わが県には「尾瀬」と「草津」くらいしか全国区候補がありません.県人口は200万人で,規模から言えば47都道府県の平均値,キャラの立った名物知事がいるわけではなく,「目立たない」ということでは,全国有数の県とも言えます.一説によると,島根に次いで二番目に知名度の低い県と言われています(島根の皆様,お許しを).さらに,名物が「かかぁ天下」と「からっ風」と言うに至っては,上州人気質の少しばかり屈折したありようさえ感じさせるではありませんか.ただ,これは自慢と言えるのかどうかわかりませんが,4人の総理大臣(福田・中曽根・小渕・福田)を輩出したことは群馬県民のひそかな誇りとなっています.

 これでは,なんだか最初から「お国自慢」の趣旨にそぐわない前置きになって恐縮ですが,かように“目立たない”群馬県において「ユニークな衛生研究所」を目指すことがむしろ普通でない,というニュアンスをここに感じ取っていただければ結構です.とはいえ,この私自身は群馬県の出身ではありません.

衛生行政キーワード・69

歯科医師臨床研修制度の見直しについて

著者: 和田康志

ページ範囲:P.892 - P.893

歯科医師臨床研修制度必修化までの経緯

 臨床研修制度は,医師のいわゆるインターン制度が先行している.昭和21年国民医療法施行令改正により,医師国家試験を受験する者は,大学医学部卒業後1年以上の診療および公衆衛生に関する実地修練を行うこととなった.しかし,医師免許を持たない状態での修練活動は,研修医の身分,経済保証が不十分であった上,研修病院の指導体制等にも問題があり,昭和39年に「インターン闘争」を引き起こすこととなる.その後,昭和43年の医師法改正により制度が見直され,努力規定として国家試験合格後の2年以上の臨床研修が法制化された.

 一方,歯科医師においては,昭和61年,歯科医師の過剰が問題となりつつある中で,厚生省(当時)に設置された「将来の歯科医師需給に関する検討委員会」では,歯科医療の質を向上させる方策として,生涯研修の充実,特に卒業直後の臨床研修を早急に充実し,実施することを最終意見として取りまとめた.この提言を踏まえ,昭和62年に「一般歯科医養成研修事業」が国の補助事業として予算化され,歯科大学・歯学部附属病院で卒後1年間の臨床研修が実施されるようになった.しかし,開始後の歯科医師臨床研修では,研修歯科医の参加数は少なかった.これは臨床研修が歯科医師法に規定されないため参加が任意であったこともあるが,各大学病院での受け入れ体制や実施内容に統一性があるとは必ずしも言えず,臨床研修の理念が卒業直後の歯科医師に伝わりにくかったためであると考える.

路上の人々・10

崩れる心

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.895 - P.895

 「私ねぇ,ちゃんとした暮らしをしたいと思っているのよ.ほんとよ.でもさぁ,この体じゃ,それに,70歳を越しては,どうしょうもないのよ.どうしたらいいの?」

 彼女は,多少上目使いに私に視線を合わせ,おちょぼ口から哀願調で言う.公園の垣根の隙間にダンボールを敷き,崩れるようにしゃがみこんでいる.失禁しているのか,下半身の一部が濡れてダンボールも変色し,その横に焼酎のワンカップの空瓶が転がっている.

沈思黙考

地方自治体の行政計画

著者: 林謙治

ページ範囲:P.828 - P.828

 10年前あたりから地方自治体の行政評価が始まった.背景として財政の逼迫があるため,行政評価といえば予算カットが前面に出ており,今日の「事業仕分け」の作業から受ける印象につながっている.そもそも行政の目的は地域での安心・安全な生活,文化的・経済的に豊かな生活を可能にするために税金を投入する作業である.したがって,無駄や非効率な事業を見直すことは重要であるが,同時にどのような事業に着手し,あるいは改善するか,優先順位を決めて提示する責務がある.その際着手した事業のゴールを示す指標が「ベンチマーク」である.

 ミネソタ・マイルストーンでは,「人」「コミュニティーと民主主義」「経済」「環境」の4分野70項目をベンチマークとして掲げ,毎年実測のデータを郡別にインターネットを通じて住民に提示している.しかしながらそれぞれの指標は市民生活にとって重要であっても,行政の業務努力を指標の到達度で測定するのは必ずしも容易でない.例えば,ミネソタ・マイルストーンでは「人」指標のなかに「予防接種率の増加」がある一方,「10代の妊娠や自殺率の減少」がある.予防接種率の増加は衛生部門の努力により短期間内に達成できる見込みがあっても,10代の妊娠や自殺率の減少は衛生部門の努力のみで達成できるほど内容は簡単でないことは容易に想像がつく.

映画の時間

祈るように待ちつづけた 冬の小鳥

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.853 - P.853

 児童虐待の痛ましい事件が続きます.保護が必要な子どもを預かる施設として児童擁護施設がありますが,今月は韓国の児童擁護施設を舞台にした「冬の小鳥」をご紹介します.

 1970年代の韓国,9歳の少女ジニ(キム・セロン)が父親と一緒に旅行に出かける場面から映画は始まります.新調されたよそ行きの服,お土産のケーキ,どこへ行くのだろうと思っていると,到着したのはカトリック系の孤児院(児童擁護施設)のようです.主人公のジニを残して父親は去っていきます.状況が把握できない主人公のジニ.その感覚を観客も共有していくことになる見事な導入シーンです.

予防と臨床のはざまで

さんぽ会(産業保健研究会)夏季セミナー2010

著者: 福田洋

ページ範囲:P.886 - P.886

 多職種産業保健スタッフの会「さんぽ会」(http://sanpokai.iza-yoi.net/)の夏季セミナーは,普段の月例会では時間の足りないテーマについて,じっくりと1日かけて議論・研修するのが目的です.今年のテーマは「産業保健・予防医療スタッフのためのプレゼンテーション講座」.講義とワークで,なかなか機会のない保健医療専門職に特化したプレゼンテーションについて,明日から役立つコア・スキルという位置づけで学ぼうという主旨です.9月5日,会場の東京都中央区晴海区民館には68名の専門職が集まり,夏季セミナーの参加者数としては2005年と同数で過去最高でした.

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あとがき フリーアクセス

著者: 品川靖子

ページ範囲:P.896 - P.896

 子どもの頃,親に連れて行ってもらった怪獣映画「モスラ」も印象的でしたが,10代の頃に友達同士で初めて観に行った松本清張の「鬼畜」の冒頭シーンは当時の私にはあまりにも衝撃的で,今でも脳裏に焼き付いています.

 愛人が置き去りにしていった赤ん坊を妻が死に至らしめたであろう(今にして思えばネグレクトであったのか?)シーンでしたが,子ども心に妻役の岩下志麻さんの鬼気迫る演技と劇場の重い空気に身動きもできなかったのを覚えています.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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