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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生74巻10号

2010年10月発行

特集 母子保健をめぐる今日的課題

現代における子どもの心の発達と問題

著者: 冨田和巳12

所属機関: 1こども心身医療研究所 2大阪総合保育大学

ページ範囲:P.860 - P.863

文献概要

はじめに(世相への個人的感想)

 筆者は医師になって7年ばかりして,心身医学に興味をもち始めた.これに伴って,不登校(当時は登校拒否)児が,身体症状を訴えて家庭医や病院の小児科を受診し始めているのに気づいた.彼らは身体疾患を探す医師の下で,適切な対応を受けられず,症状が消失しないので医師の梯子(doctor shopping)の末,大学病院までやってくるのが一つの典型であった(今もその傾向がある).残念ながら,大学でも同じ身体探索がさらに詳しく,時に入院までさせて行われ,最終的にゴミ箱診断で「心因性」と診断され,精神科に廻されていた.この現状を見て,もう少し初期に適切な対応をすれば,親子の苦しむ時間の短縮,医療費の節減が可能と考え,小児科医として不登校児に専門的関わりをもつようになった.

 同じ頃,保健業務に携わる仲間の小児科医が「被虐待児」に注目し始めていた.被虐待児は米国文化(父性社会)の中で出現し,不登校は日本文化(母性社会)で出現する1)と考えた筆者は,不登校は増加し続けるであろうが,被虐待児は日本でそれほど増加しないと考えた.

 それから35年余りが経った今,不登校は不幸にも筆者も予想通りに激増し,ある一定数がこの数年続いて,あまり関心がもたれなくなったが,総生徒数が年々減っていることを勘定に入れれば,減少しているとは言えず,世界的に見ても日本では異常な数である.これに比べると被虐待児は筆者の予想をある面で裏切り,ある面で正しさを立証するように,少しずつ日本でも話題になり,増加しているが,米国に比べると3桁ほど発症率は今も低い.わが国の米国の表面的後追いと,物質的に豊かになった社会は後述するように,安易で我慢できない親を創り,その親が子育てをするから,虐待も増加する一方で,米国と日本の文化差は歴然と存在するのである.日本の母性社会は,今も基本的に子どもを可愛がるので,米国に比べると,幸いにも虐待は極めて少数になる.

 しかし,異常な米国の現状に比べ,少ないからと安心できる社会でないのは当然である.責任・義務を伴わない個性・自由・権利が最上のものと戦後教育は教え続け,ここに物の豊かな社会が出現すると,安易な親を創り,離婚・家庭崩壊が増加し,常に不幸は子どもに加えられ,再生産さえされていく.しかし,多くの専門家や学者は,目の前の現象に批判は加えても,「single motherを助けるものが社会に欠けている」などと指摘して,なぜそのようになったかの根本原因を言わない.ちなみに筆者は「片親」を「一人親」とか,カタカナで言うのも真なるものを見ない困った風潮のなせるわざ,と考える.

 多くの専門家は自分たちが「心優しく」「弱い立場の味方」でありたいという思いが強過ぎるようで,根本的なところにメスを入れず,現象を嘆いて表面的対策を提言する.筆者に言わせれば,それがさらに子どもの不幸を招き,心の発達を歪めていく.

 筆者はこのような世相に媚びず,物事の基本にあるものを重視する姿勢で,小児心身医療を実践してきた.これから述べるのは,このような視点をもつ小児科医が,臨床経験から得た心の発達の解説である.

参考文献

1) 冨田和巳:小児心療内科読本―わたしの考える現代の子ども.医学書院,2006
2) 冨田和巳:心療小児科からみた現代の子どもの問題.日本心身医学会第40回学術集会,ワークショップ「小児科における心身医学」,1999
3) 鷲田清一:悲鳴をあげる身体.PHP新書,1998
4) 冨田和巳:厳しさを忘れた家庭・学校教育―小児科医の教育診断.ぱすてる書房,2001

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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