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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生74巻11号

2010年11月発行

文献概要

特集 再考:HIV/AIDS予防対策

HIV感染者/AIDS患者に対する医療システムの現状と今後の課題

著者: 白阪琢磨1

所属機関: 1独立行政法人国立病院機構大阪医療センターHIV/AIDS先端医療開発センター

ページ範囲:P.918 - P.922

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はじめに

 HIV感染症患者に提供する医療は,HIV感染症とそれに合併する疾患に対する診断や治療などの専門的医療と,HIV感染症患者に対するそれ以外の一般の医療に大別できる.前者はニューモシスチス肺炎に代表されるAIDS指標疾患などの診断と治療,および抗HIV療法,後者はHIV感染症患者の急性虫垂炎,花粉症,腰痛等の診断や治療である.本稿では,それぞれを専門的医療と一般的医療と呼び,主に専門的医療システムを中心に述べる.しかし,未だにHIV感染症患者に一般的医療の提供が困難な状況が現存しており,本稿でも部分的に述べることとした.

 さて,わが国でHIV医療体制が構築されてきた経緯を理解するためには,この疾患の歴史を知る必要がある.エイズの歴史は1981年に米国の大都市を中心に発生した免疫不全病の報告に始まる.当時は,原因不明で,有効な治療薬がなく,死亡率が高い病気であったエイズは市民に恐れられ,忌み嫌われた.患者の多くがゲイや麻薬静注者という社会の偏見差別の対象であったこと,エイズ患者が痩せ衰えて死を迎える様子やカポジ肉腫の映像などが市民にエイズに対する恐怖の念を植え付け,「エイズ」は社会のスティグマとして一般市民の脳裏に刻み込まれた.1983年に原因ウイルスであるHIVが発見され,エイズの病態が次々と解明され,感染経路もわかり,感染予防の方法も明らかにされた.しかし,一旦できあがったエイズのイメージによって,次々とエイズパニックが引き起こされていった.医療従事者も含め市民の多くには,かってのイメージが未だに脳裏に焼き付いていると思われる.HIV感染症に対する正しい知識の啓発が,医療や福祉の分野も含めて必要と考える.

 病気の発見から約30年が経過した現在,有効な抗HIV薬の多剤併用療法が可能な先進諸国では,HIV感染症/エイズの予後は画期的に改善し,HIV感染症は今や慢性疾患と認識されるまでになった.病院での感染対策上,HIVはB型肝炎ウイルス(HBV)と同様に血液媒介感染に位置づけられており,感染力の比較ではHIVはHBVよりも感染力は弱く,さらに針刺し事故等でも有効な職業曝露後予防方法が確立している.HIV感染症は文字通り,医学的管理ができる慢性の疾患となった.

 本稿では,わが国のHIV医療体制の構築の経緯,現状,問題点につき述べることとする.

参考文献

1) 簔輪眞澄(監修),エイズ対策研究会(編):エイズ対策.東京法規出版,1995
2) 大阪HIV訴訟弁護団 松本剛:薬害エイズ国際会議.大阪HIV訴訟弁護団発行資料集,1996
3) 簔輪眞澄(監修),エイズ対策研究会(編):エイズ対策補遺1999.東京法規出版,1999
4) 大阪HIV訴訟原告弁護団:変わるHIV医療(第三版),2000
5) 白阪琢磨:HIV感染症治療の最前線と課題.日本医事新報(4401),2008年8月30日発行
6) 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業:「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究」,平成20-21年度総合研究報告書
7) 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業:「HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究」,平成21年度研究報告書
8) 厚生労働省健康局疾病対策課長:労災保険におけるHIV感染症の取り扱いについて(通知).健疾発0909第1号,平成22年9月9日

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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