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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生74巻2号

2010年02月発行

雑誌目次

特集 現代の更年期

フリーアクセス

ページ範囲:P.93 - P.93

現代の更年期

 戦後,日本女性の平均寿命は55歳ぐらいであったのが,今では85歳を超えるまでに延びています.一方,日本女性の閉経年齢は50歳前後と,ここ60年あまり変わっていません.現代女性にとって,閉経後30年以上ある人生を健やかに過ごせるかどうかは,大きな問題であります.また,日本男性の平均寿命も延伸しており,定年後約20年続く夫婦生活を,お互い生き生きと健康に暮らすことが男女共通の願いと言えるでしょう.

 しかしながら,女性の社会進出や晩婚化とともに,現代社会における様々なストレスが原因となり,30代後半の女性に卵巣機能の低下が見られる更年期障害の早発や,長期化が問題になってきています.最近では,ストレス過多のためにホルモンバランスに異常をきたし,20~30代前半で更年期障害のような症状をきたす女性も見られると言われています.

社会的背景

日本女性のライフスタイルの変化~戦後60年

著者: 三砂ちづる

ページ範囲:P.94 - P.98

 日本最大の美的産物は象牙細工でもなく,青銅製品でもなく,陶器でもなく,日本刀でもなく,驚くべき金属製品や漆器でもなくて,日本の婦人である.

 現世界にこのような型の女性は今後何十万年を経るといえども再びあらわれないであろう.

 ラフカディオ・ハーン(1850-1904)

 

 人間そのものは,そんなに変わらない.いくら時代を経ても,科学技術が発展しても,今のところすべての人間は,母親から生まれ,育つものは育ち,育たぬものは育たず,多くは,次の世代を残すための働きに(それが賃金労働であろうが家内労働であろうが)身を粉にし,病を得たり,得なかったりして,死ぬ.いまだ,子宮の外で育ってきた人間もいないし,死ぬことを免れたものもない.毎日,食べて,排泄して,活動し,寝る.人間そのものはそんなに変わってはいない.しかし,このタイトルにある「ライフスタイル」は大きく変わってゆく.

更年期障害とその特徴

現代女性と更年期障害

著者: 河端恵美子

ページ範囲:P.99 - P.104

 最近では更年期障害についての専門著書も出版されるようになり,更年期に関する情報も得られやすくなった.しかし情報が得られやすくなった反面,診断や治療など専門家の間でも意見の分かれることもあり,一般市民のみでなく,医療関係者においても混乱する事柄も多い.

 本稿では,更年期障害の定義とその解釈,性ホルモンとの関係,要因とその機序,症状,更年期女性の受診行動について整理し,現代女性と更年期障害との関係,その問題点について記述する.

女性の社会進出と晩婚化に伴う婦人科疾患の動向―経口避妊薬による健康管理

著者: 野崎雅裕

ページ範囲:P.105 - P.108

現代女性の健康リスク

 日本人女性におけるライフサイクルの変化は,初産年齢の高齢化と出産回数の減少において著明であり,必然的に初経から閉経に至る間の月経回数も明らかに増加した(図1)1).このライフサイクルの変化がもたらした健康リスクを表1にまとめた2~5).いずれの疾患も生命予後を左右するようなリスクは低いが,就労女性が増加している社会環境では,女性の日常生活におけるQOLを著しく低下させる要因となっていることは明らかである.また,晩婚化に伴い,40代周辺は卵巣機能の低下が始まる一方で,依然として妊孕性も有しており,性成熟期における様々な疾患の治療から,避妊,退行期疾患の予防など,個々の症例において対応に苦慮することも多い年代である.

 平成16年度厚労省人口動態統計(図2)では,40~44歳の人工妊娠中絶が人口千人対約5人,45歳以上の件数も依然として報告されている6).さらに,女性の40代は来るべき更年期への準備段階であり,高血圧,脂質異常症,骨量減少もすでに始まっていることも常に念頭に置いておく必要がある.

電話相談から見た更年期女性の実情と問題

著者: 三羽良枝

ページ範囲:P.109 - P.114

はじめに

 日本の更年期世代女性(当会では40~64歳とする)は,人口ピラミッド最大群の約2,140万人1)を数え,また労働力率においても20代と肩を並べるなど2),いわば日本の社会・経済の中核を担っていると言えよう.このような存在の更年期世代女性が「生涯を通して健康でQOLの高い人生を歩むこと」が,女性自身のみならず,高齢型社会にとっても重要課題となっている.また,女性にとって生理的大変化の時期である更年期の健康管理・増進は,高齢期の健康寿命にも影響することが専門家からも指摘されており,更年期からの健康づくりはますます求められている.

 しかしながら,当会が実施している更年期電話相談等の調査から見た更年期女性の医療状況は,①更年期についての適切な情報や理解が社会的に未だ周知されていない,②各地方自治体における更年期の健康施策は周産期と高齢者対策のはざまで手薄状態である,③更年期医療についての情報不足から,更年期女性に複数科受診が多く見られる,などの問題点が把握されている.

 NPO法人女性の健康とメノポーズを考える会は,1996年に発会以来,女性の視点から更年期世代女性の医療と健康についての啓発とサポート活動を続けている.更年期世代の女性が,「家庭・地域・職場などで,元気に自らの持てる力を発揮しながら,高齢社会の中で生涯に亘りQOL(生活の質)の高い前向きな生き方をしていくこと」を目標に,8部門の活動〈電話相談〉〈フォーラム〉〈語り合いの会〉の開催,〈健康調査〉〈女性検診受診率向上運動〉〈メノポーズ健康エクササイズ普及〉〈女性健康教室等での講演〉等を,ニュートラルな立場から提案型で行っている.

 当会の電話相談(無料)は,毎週火・木曜日に実施し,更年期に関するご相談が全都道府県から寄せられており,1998年の開設時から作成した電話相談カード総数は3万件近くに及ぶ.ご相談には,当会の研修と実習を経た,認定・更年期相談対話士が当たり,「ご相談者のお話を共感して聴き,一緒に考え,不調を改善していただくきっかけとなること」を心掛けている.

更年期をめぐる相談・支援体制と助産師の活動

著者: 高橋真理

ページ範囲:P.115 - P.119

更年期女性への健康支援は生涯の視点から

 女性の健康は性周期を持つことから,1か月サイクル,生涯どちらにおいても,女性の心と身体に大きな影響を与え,その点男性とは大きく異なる.その影響は,初経を迎え,身体が成熟し,妊娠や出産を経て,閉経,エイジングに至るまで,女性の各ライフステージにおける女性ホルモンの状態,特にエストロゲンの分泌に大きく左右される.そして,各ライフステージの健康問題は,その後のライフステージの健康問題に連鎖しながら影響することが少なくないため,女性の健康支援には生涯の視点が重要である.また,特に思春期と更年期は,初経と閉経に伴う急激なホルモン環境の変化から,心身ともに不安定になりやすいなど心と身体とが密接に関係することから,看護支援においてはよりきめ細やかなケアが必要な時であり,移行期と呼ばれている(図1).

 このように更年期はホルモン環境の変化と心理社会的な要因が複雑に絡み合い,女性にとって心身ともに様々な不調が見られる変わり目の時期である.が,一方,人生の折り返し点である大きな節目の時期でもあり,人生後半に向けての価値観や適応様式を変えていくことが求められる.したがって,必要な時には医療機関や地域の健康相談などを受けながら,様々な心身不調に対するセルフコントロール法を活用し,自らの健康の維持,閉経後の健康管理への主体的な健康姿勢を身につけていくことが,この時期には大切である.

男性の更年期障害

著者: 河源 ,   松田公志

ページ範囲:P.120 - P.123

男性更年期障害の概念とその背景

 ここ10年足らずの間,本邦において「男性更年期障害」という概念がたびたびマスコミに登場し,今日においては比較的広く認知されるに至っている.しかし,その定義は未だ明確とは言えず,医療の現場においても類義の疾患との区別が曖昧で,一部混乱が生じているようにも見受けられる.まずは,これらを研究対象としている学会での男性更年期障害に関連する疾患の定義ならびに位置付けを紹介する.

 男性においても,女性と同様,中高年期における性ホルモンの低下によりさまざまな症候が生じ得ることは以前より指摘されていた.しかし,女性の場合は閉経という比較的ドラマチックと言える女性ホルモン(エストロゲン)環境の変化が生じ,それに伴い症候の出現も割合明確であるのに対して,男性における男性ホルモン(テストステロン)の減少は比較的緩徐であるために,その症候は自覚的にも他覚的にも明確に意識されることが少なく,そのために男性におけるこれら性ホルモン減少に伴う症候について,議論が発展することは少なかったようである.しかし,近年本邦を含めた先進国が軒並み高齢化社会を迎え,日を追うごとにこれが現実化していることが実感されることにより,改めて男性の更年期に焦点が当てられることとなった.1998年に国際学会として「International Society for the Study of the Aging Male(ISSAM)」という中高年男性を対象とする専門学会が発足し,本邦においても2001年に「日本Aging Male研究会」(2006年に学会化)が発足,男性更年期について科学的な議論を行う場が誕生することとなった1).これらに並行し,大学附属病院を中心に「男性更年期外来」なるものが相次いで開設され,主に泌尿器科医が専門的な診療にあたるようになってきている.

現代の新たな問題(早発更年期障害と若年層の擬似症状)

ストレスと若年層の更年期類似症状

著者: 館直彦

ページ範囲:P.124 - P.127

はじめに

 最近,若年性更年期障害とか,プチ更年期とかいった言葉をしばしば目にするようになった.通常更年期とは言えない年齢でありながら,無月経などの月経異常があり,更年期障害と類似の症状を伴う状態が,そのように呼ばれているのだろうと推測することができる.概念が曖昧なので正確なことは言えないが,そういう言葉を目にするということからも,こうした状態が増えていると考えることができるだろう.

 一方,現代社会ではかつてないほどストレスが増大し,そのことが現代人に様々な影響を与えていることが指摘されている.こうした現代社会のストレス状況が,若年で更年期類似症状を持つ患者たちとどのように関わり合うのかを解説し,さらに現代社会における心身の健康について,精神科医の立場から検討を加えることが,筆者に与えられた役割である.なお本稿では,男性で更年期障害類似症状を持つ若年層の患者と言っても何を指すのか余り明確ではないので,若年女性の場合を中心に論じていくことにしたい.

自治体における健康支援の取り組み―女性の生涯にわたる健康づくり

著者: 山崎晋一朗

ページ範囲:P.128 - P.132

性差に基づく健康支援への挑戦

 千葉県では,平成13年度から,それまで母子保健を中心としていた女性の健康支援施策を転換して,生涯にわたる女性の健康を支援するための政策を総合的・体系的に進めてきました.

 この取組は,平成13年の堂本前知事の着任から始まりました.これまでの日本には,妊娠から出産までを中心とした母子保健の視点からの女性の健康支援はあっても,更年期などを含めた女性の生涯を通じた健康支援については政策として取り上げられることはほとんどありませんでした.

 こうした状況の中,千葉県では当時作成中であった県の健康増進計画「健康ちば21」に,「女性の特性を踏まえた健康づくりと医療」という項目を立てるとともに,女性外来の開設を皮切りに,性差に基づく健康支援への取組を始めました.

若年層の性生活と老後のライフスタイル

日本人における性生活~人生80年を健やかに生きる

著者: 大川玲子

ページ範囲:P.133 - P.137

はじめに

 日本人の性生活が変化してきたかどうか,過去,現在を比較できるデータは少ない.しかし筆者は30年余の産婦人科医,特に性に関わる診療を通して,若者にしても中高年にしても,セクシュアリティについての変化と不変,両面の実感を持っている.また様々な切り口で行われた性調査の結果や,メディアでの性の取り上げ方からも,同様のことが感じとられる.広い年代にわたる調査では,若者のほうが性に対して自由な意識性を持っており,その傾向は女性に著しい.しかし性的活動性について言えば,必ずしも若者が活発というわけでもなく,セックスレスや草食系男子などのことばが一定の共感を得ている.ひとくちに言えば多様化であるが,そのなかで中高年に向けた,より良い性を模索してみる.

視点

感染症への対応―何が必要か?

著者: 倉田毅

ページ範囲:P.90 - P.91

 昨年4月末に,突如降って湧いたような,国をあげての大騒ぎになった新しい豚由来インフルエンザ(H1N1)は,またたくまに世界を制し,いわゆるパンデミック状態となった.世界が淡々とインフルエンザへの対応をしているのに対し,わが国だけは“新型インフルエンザ”として異常な反応(対応)をしてきた.患者(一般人)ならわからないでもないが,行政も,専門家も,そしてメディアも,政治家も,まさに百家争鳴状態であった.

 このところ少し落ち着きを取り戻したかに見える.これは結局,季節性も新しいものも“インフルエンザ”として治療対応は全く変わらないと,ようやく認識がなされてきたからだと思われる.この期に及んで,まだ“新型”などと特別視しているようでは,感染症への対応はなし得ないと思うべきである.

連載 人づくりの足跡・3

赤ちゃんから高齢者まで,世代を越えてふれあい暮らせるまちづくり―「ふれあいの家おばちゃんち」

著者: 渡辺美恵子 ,   三井ひろみ

ページ範囲:P.138 - P.144

 ここは東京・品川区.JR品川駅は東海道新幹線,羽田空港へ向う京浜急行,都内を廻る山手線など様々な往来の拠点です.品川駅から京浜急行に乗り,2駅目の新馬場駅で下車すると,目の前にはその昔,旅人が歩いた旧東海道の品川宿のまちが見えてきます.「東海道中」の面影を残す道と,高層ビルのはざまから,どこかなつかしい声が聞こえてきました.通りの向こうの商店街に目をやると,近所のおばちゃんと子どもたちの遊ぶ姿.道ばたに出ての会話と笑い声は,和やかな色合いの風を吹かせてきます.誘われるように商店街の中程を歩いていくと,レトロモダンな建物が現れてきました.駄菓子屋のような店構えの一軒家.看板には「子育て交流ルーム 品川宿おばちゃんち」と書いてあります.

 風変わりなネーミングの家の中が気になって覗いてみると,店先の奥に8畳間ほどの板張りとたたみの部屋があり,いろいろな年齢の子どもたちが楽しそうに遊んでいます.子どもと一緒に積み木をしているおばちゃん,絵本を読んでいるおばちゃん.お母さんらしい若い女性とおばちゃんがお茶を飲んで,おしゃべりの華が咲いていて,あったかなぬくもりに満ちていました.通りがかって,興味本意に覗き込む私に「上がって,上がって」と声をかけてくれる女性.ふくよかな笑顔で手招きします.ふっと子どもの頃,隣の家の茶の間に上がって,おやつを食べたり,おばちゃんに遊んでもらった記憶が鮮ってきました.私は門前町の商店街で暮していたので,学校から帰ると隣近所のお店のお宅に気軽に上げてもらって,過ごしていた時間が日常の中にたくさんあったものです.大人になった今,改めて周りの子どもたちの居場所を見てみると,隣近所の家に上がり込んでご飯を食べさせてもらったり,世話を焼いてもらったりする光景は滅多に見られなくなりました.

人を癒す自然との絆・7

受刑者の心のリハビリと動物

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.146 - P.147

 前号,前々号で,介助犬を育てる少年更生施設について書いたが,今回はアメリカの刑事施設で介助犬を訓練するプログラムの草分けとなったワシントン州の「プリズン・ペット・パートナーシップ・プログラム」(以下PPPP)を紹介したい.

 PPPPが産声を上げたのは1982年.州政府に設立を働きかけたのは,かつてドラッグやアルコールに溺れ,いくつもの更生施設を出たり入ったりした過去を持つ女性で,心を許せた相手は自分の犬だけだったという自分自身の経験から,刑務所に介助犬育成プログラムを導入することを思いついたのだった.彼女の訴えに動かされ,州矯正局,ワシントン州立大学獣医学部,それに地元のコミュニティ・カレッジが参画し,最重警備女子刑務所「ワシントン・コレクションズ・センター・フォー・ウイメン」でプログラムが始まったのである.

働く人と健康・14―フランス在住ジャーナリストの立場から②

プシコソシオ問題(職場のメンタルヘルス)で闘いを開始したフランス・2―CHSCTと専門鑑定の経験

著者: 山本三春

ページ範囲:P.148 - P.152

 前回は,フランスでどのようにプシコソシオ問題が自覚されるに至ったかを概観し,対応策としてとられたモラル・ハラスメント刑事犯罪化の成果,にもかかわらず起きたテクノサントル・ルノー(Technocentre Renault)での連続自殺と労働組合(以下,労組)の役割,などについて紹介した.

 そこで今回は,テクノサントル・ルノーの悲劇に際してとられた実践対応,とりわけ衛生安全労働条件委員会と専門鑑定について,詳述をしていきたい.

ドラマティックな公衆衛生―先達たちの物語・14

生命のための政治―深沢晟雄

著者: 神馬征峰

ページ範囲:P.153 - P.156

「…本来は国がやるべきことをやっていない.だから沢内がやるんだ.国は,必ずあとからついてくる」(深沢晟雄)(文献1),p172)

 

 深沢晟雄[1905(明治38)年12月11日~1965(昭和40)年1月28日]は,岩手県沢内村の村長.東北大学法文学部を昭和6年に卒業.その後上海銀行,台湾総督府,満州拓殖公社を経て,終戦時は北支開発山東鉱業会社溜川炭鉱に務め,終戦後の昭和21年に帰郷.一時,佐世保造船所の次長となるが,29年に再度帰郷し,沢内村の教育長,助役を経て,昭和32年の5月,村長となる.

地域保健従事者のための精神保健の基礎知識・2

地域精神保健の発展を振り返る

著者: 竹島正

ページ範囲:P.157 - P.161

はじめに

 前回は精神保健の定義について述べた.そこで今回は,地域精神保健活動の歴史から,精神保健の実践を捉えてみたい.

 地域精神保健活動の動向は,精神保健福祉制度等の発展と密接なつながりがある.第二次世界大戦後の精神保健福祉制度は,私宅監置を廃止した精神衛生法制定(1950),保健所を地域における精神衛生行政の第一線として,在宅精神障害者の医療確保のために通院医療費公費負担制度の導入を行った精神衛生法改正(1965),入院患者の人権擁護,社会復帰の促進,そして国民の精神的健康の保持増進を三本柱とした精神保健法改正(1987),障害者基本法(1993)の成立に基づく精神保健福祉法改正(1995),さらに,心神喪失者等医療観察法(2003)の成立,「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(2004)と障害者自立支援法の成立と精神保健法改正(2005),というプロセスにまとめることができる.また,精神保健福祉制度そのものではないが,地域保健法(1994),医療法の改正(1985,1992,2000,2007),国民健康づくり運動(健康日本21,2000),自殺対策基本法(2006)なども,地域精神保健活動の発展に深く関与している.

 本稿では,地域精神保健活動の発展に特に大きく影響した,1965年の精神衛生法改正前から地域精神保健活動の行われていた,宮城県と高知県の取組,法改正にまたがる群馬県の生活臨床の取組,法改正後に発展した大阪府と川崎市の取組を例にとって,地域精神保健活動の発展に重要な要素を抽出する.

リレー連載・列島ランナー・11

仙台市成人保健行政の歴史から健診受診率向上の背景を探る

著者: 伊藤加奈子 ,   小林浩子

ページ範囲:P.162 - P.167

 大津市の北林さんからバトンを受けました.本稿では,これまでの老人保健事業の取り組みを振り返ることによって,今後の特定健診受診率向上策を検討しましたので,その内容について述べたいと思います.

保健師さんに伝えたい24のエッセンス―親子保健を中心に・11

言葉の遅れ

著者: 平岩幹男

ページ範囲:P.168 - P.171

 言葉の遅れとは何でしょうか.言葉とは,その人が暮らしている社会の中での一般的なコミュニケーションの手段です.ですからそれが遅れているということは,そのままでは社会の中で暮らしていくことが困難になるということでもあります.

 コミュニケーションは,話す,聞く,読む,書くに代表される言語的コミュニケーションと,視線を合わせる,身振り,手振りなどの動作の理解や,まなざし,表情の理解などを含む非言語的コミュニケーションに分けられ,発達の上では言語に注目されがちですが,非言語的コミュニケーションの基礎が乳児期に育てられることが,その後の言葉的コミュニケーションの発達には欠かせません.

衛生行政キーワード・62

黄砂の健康影響について

著者: 佐方信夫

ページ範囲:P.172 - P.174

はじめに

 黄砂とは中国大陸内陸部のタクラマカン砂漠,ゴビ砂漠や黄土高原など,乾燥・半乾燥地域で,風によって数千mの高度にまで巻き上げられた土壌・鉱物粒子が偏西風に乗って日本に飛来し,大気中に浮遊あるいは降下する現象である.

 黄砂現象は従来,自然現象であると理解されてきたが,近年ではその頻度と被害が甚大化しており,急速に広がりつつある過放牧や農地転換による土地の劣化等との関連性も指摘されている.日本においては,黄砂は一般的に3~4月に多く観られ,11月にも観測される場合もある.

 黄砂粒子(写真)には,石英や長石などの造岩鉱物や,雲母,カオリナイト,緑泥石などの粘土鉱物が多く含まれており,日本まで到達する黄砂の粒径の分布は,直径4ミクロン付近にピークを持つことが分かっている.また,黄砂粒子の分析から,土壌起源ではないと考えられるアンモニウムイオン,硫酸イオン,硝酸イオンなども検出され,輸送途中で人為起源の大気汚染物質を取り込んでいる可能性も示唆されている.

 このように黄砂の物理的・化学的性質は解明が進んでいる一方,黄砂による健康影響については,海外の疫学研究において呼吸器系および循環器系疾患等の増加が指摘されているが,わが国における黄砂の健康影響については,疫学的調査報告をはじめ研究成果は今のところほとんど見当たらず,知見の集積が十分とは言えない状況である.

路上の人々・2

「愛する妻よ」妻の位牌と34年

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.179 - P.179

 2000年,厳寒の日々,東京都の路上に5,700人が身を晒す.上野公園の美術館近くの木立の中に,一歩足を踏み入れる.寒気が襲う.身を震わせ小道を進んでいくと,生い茂る木々の間に,晒し身に毛布を被って寝ている人や,座っている人がいる.昼間は,青いテントは壊さなければならない.その路上の人々の中に,白髪を丸坊主にした老人の姿があった.

 「こんにちは,寒くはありませんか」

 「いや,上野の森で生きていることに感謝していますよ」

 口髭が銀色に輝いていた.

 やがて厳しい冬も過ぎ,春から夏へと季節は変わっても,老人はその場所から動かなかった.

海外事情

ウィーンでのヨハン・ペータ・フランクの事跡を訪ねて

著者: 華表宏有

ページ範囲:P.175 - P.177

 ヨハン・ペータ・フランク(Johann Peter Frank/JPFまたはフランク,1745~1821年)は,その生涯を賭して『完全な医事行政の体系』(6巻)をまとめ上げた衛生学者として,医学の歴史にその名前をとどめている.先に筆者1)は,彼の故郷ロダルベン(ドイツのファルツ地方)を訪ね,新たに命名された生家前の「JPF広場」とそこに建立された一連の記念碑について,その概略を記した.

 はじめてロダルベンを訪問した際に,当地で入手したJPF協会編集の文献2)から,彼が勤務したさまざまな土地に,事跡があることを知った.そこで2008年4月,2回目のロダルベン訪問の後,ブリュクザル(バーデン地方),イタリアのパヴィア,コモを訪ねた他,ウィーンでフランクの事跡を見てまわった.ウィーンには2008年10月にも1週間ほど滞在して,医学関連の事跡を見学したが,その際に参考とした文献は,2人の麻酔医(ウオルフガング・レガルとミカエル・ナヌート)がまとめた医師のための案内書3)とエルナ・レスキのウィーン医学史4)である.

 本稿では,ウィーンにおけるフランクの活動の舞台となった旧総合病院(Allegemeines Krankenhaus/AKH),そして現在は医学史博物館となっているジョセフィヌム(Josephinum)の成立過程などにも触れながら,彼にまつわる事跡について述べてみる.

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あとがき フリーアクセス

著者: 品川靖子

ページ範囲:P.180 - P.180

 今月の特集はいかがでしたか.

 三砂先生は,戦後60年間の日本人女性のライフスタイルにおける一番大きな変化は,外で賃金労働しながら家庭を持っている現代女性の「忙しさの質」が変わったことではないかと書いておられます.

 野崎先生は,初産年齢の高齢化と出産回数の減少が生涯における月経回数の増加をもたらし,このライフサイクルの変化が月経困難症や子宮筋腫,子宮内膜症,月経前症候群(PMS)といった健康リスクをもたらしたこと,そして,就労女性が増加している社会環境では,これらの疾患が女性の日常生活におけるQOLを著しく低下させる要因となっていると述べておられます.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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