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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生74巻3号

2010年03月発行

文献概要

特別寄稿

ヘルスプロモーションの視点から見たがん対策―「すべての国民」をがん対策に巻き込もう

著者: 助友裕子1 祖父江友孝1

所属機関: 1国立がんセンターがん対策情報センターがん情報・統計部

ページ範囲:P.217 - P.223

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はじめに―がん対策だからこそヘルスプロモーション活動を

 健康はどこでつくられているのか.WHOの健康の定義論争にも見られるように,人々の健康観が拡大した今日,多様な健康観を支援するための施策のあり方が議論されている.その経過の1つにWHOが1986年から7回に亘り開催してきた,国際会議の中で検討されているヘルスプロモーション戦略がある(表1).

 ヘルスプロモーションとは,人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし改善することができるようにするプロセスであると定義される1,2).図1は,ヘルスプロモーションの考え方を導入した島内によって作成された図解ヘルスプロモーション3)である.

 この図は,人々の健康を支援するためには健康的なライフスタイルの形成とそれを支援するための環境整備が必要であることを提示している.この2つ(ライフスタイル形成と環境整備)の考え方は,それぞれ厚生労働省の健康日本21(2000年)4)や健康文化都市構想(1992年)5)等に反映され,多くの地方自治体健康部門関係者の間で認知されるようになった.その結果,健康なまちづくりや健康なコミュニティづくりを通じて,従来の保健事業を市民と共に遂行していこうとする自治体が多く見られるようになった.

 ところが,2000年代に入ると,国では高齢化やそれに伴う医療費高騰を背景に,疾病対策が強調されるようになった.疾病予防や健康づくりを進めてきた市町村では,それまで取り組んできたポピュレーションアプローチによる事業展開から,特定健診・特定保健指導の導入により再びハイリスクアプローチを主体とした取り組みを余儀なくされ,両アプローチの兼ね合いを懸念する自治体関係者の間では,混乱の時期を迎えている.このような現状を察する限り,わが国の疾病対策はハイリスクアプローチを主体としているように見える.しかし,次なる課題として提起されたがん対策ではどうだろうか.がんという疾病に対する対策ではあるが,がん対策だからこそ,両アプローチを包含しうるヘルスプロモーション活動が再び必要とされる理由を,本稿で述べたい.

参考文献

1) WHO:Ottawa charter for health promotion. Geneva, 1986(WHO/HPR/HEP/95.1)[島内憲夫(訳):ヘルスプロモーション―WHOオタワ憲章.垣内出版,1990]
2) WHO:The Bangkok charter for health promotion in a globalized world. Geneva, 2005[島内憲夫,高村美奈子(訳):ヘルスプロモーションに関するバンコク憲章,JHPRC, 千葉,2005]
3) 島内憲夫:ワークサイトヘルスプロモーション―新しい職域健康づくりをめざして.健康管理6(612):21, 2005
4) 財団法人健康・体力づくり事業財団:健康日本21.(http://www.kenkounippon21.gr.jp/)
5) 財団法人日本ウエルネス協会:健康文化都市シンポジウム報告書,1993
6) 国立がんセンターがん対策情報センターがん情報サービス:都道府県がん対策関連情報(http://ganjoho.jp/public/news/2008/plan.html)
7) Kickbusch I:Issues in health promotion. Health Promotion International 1(4):437-442, 1986
8) WHO:Adelaide recommendations on healthy public policy. Geneva, 1988(WHO/HPR/HEP/95.2)
9) 今井博久:自治体におけるがん対策の現状分析とマネジメントシステムの構築支援に関する研究.厚生労働科学研究費補助金がん臨床研究事業 自治体におけるがん対策の現状分析とマネジメントシステムの構築支援に関する研究 平成20年度総括・分担研究報告書(主任研究者 今井博久),pp1-12, 2009
10) 埴岡健一:全都道府県のがん対策ランキング―秋田,埼玉,奈良は努力を 計画と予算で島根は突出.中央公論124(3):150-157, 2009
11) 内閣府国民生活局市民活動促進課:平成14年度ソーシャル・キャピタル―豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて(http://www.npo-homepage.go.jp/data/report9_1.html)
12) 奥野ひろみ:行政事業協力型保健ボランティア活動の類型化と運営の特徴.日本健康教育学会誌16(4):163-175, 2008
13) 河原和夫,助友裕子:都道府県がん対策推進計画におけるがん予防の評価.厚生労働科学研究費補助金がん臨床研究事業 自治体におけるがん対策の現状分析とマネジメントシステムの構築支援に関する研究 平成20年度総括・分担研究報告書(主任研究者 今井博久),pp25-33, 2009
14) National Cancer Institute:Theory at a glance;a guide for health promotion practice. NIH Publication, 2005[福田吉治,八幡裕一郎,今井博久(監修):一目でわかるヘルスプロモーション:理論と実践ガイドブック.国立保健医療科学院,2008]
15) John Kemm, Jayne Parry, Stephen Palmer(編),藤野善久,松田晋哉(監訳):健康影響評価―概念・理論・方法および実施例.社会保険研究所,2008
16) 助友裕子,片野田耕太,祖父江友孝:市区町村におけるがん予防事業の環境整備のあり方に関する研究―がん対策推進員の活用状況と庁舎内外の連携体制に焦点をあてて.厚生労働科学研究費補助金がん臨床研究事業 自治体におけるがん対策の現状分析とマネジメントシステムの構築支援に関する研究 平成20年度総括・分担研究報告書(主任研究者 今井博久),pp79-92, 2009
17) 厚生労働科学研究費補助金第三次対がん総合戦略研究事業 生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究班(主任研究者 津金昌一郎):日本人のためのがん予防法(http://epi.ncc.go.jp/can_prev/preventive_measures.html)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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