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連載 地域保健従事者のための精神保健の基礎知識・4
自殺問題から明らかになる精神科医療・精神医学の課題
著者: 松本俊彦1
所属機関: 1国立精神・神経センター精神保健研究所自殺予防総合対策センター
ページ範囲:P.325 - P.329
文献購入ページに移動わが国の自殺による死亡者数は,1998年に3万人を超えて以降,11年間にわたって高止まりのまま推移している.その背景にはバブル崩壊後に急増した多重債務や過重労働,さらに最近では,リーマン・ショック以後に問題化した雇用の悪化といった社会的要因の影響が大きいと言われている.こうした認識に基づいて,現在わが国では,自殺対策を精神保健的対策に限定せずに,総合的な対策として進められている.自殺総合対策大綱において「総合」という言葉がついているのは,まさにそういった理由からである.しかし,穿った見方をすれば,その裏には,これまでの国の自殺対策があまりに精神保健領域に偏っていたという反省がある.確かにわが国には,長い間自殺対策をうつ病対策にすりかえてきた暗い歴史があることは否めない.
ところで精神保健に限定しない「総合対策」とは,読み方を変えれば「精神保健的対策だけでは自殺は防げない」ということを前提とした対策と理解することもできる.このことは,自殺リスクの高い精神障害と日常的に対峙する精神科医療の責任が軽減したことを意味するのであろうか?
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