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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生74巻5号

2010年05月発行

雑誌目次

特集 自然毒 刺傷・咬傷―野外危険生物

フリーアクセス

ページ範囲:P.361 - P.361

 5月,初夏を迎え,屋外でのレジャーシーズンとなります.野山や海や川,あるいは公園などでの活動に伴い,動物や昆虫による刺傷や咬傷が発生します.その中には,周知のとおり,毒を持った生物によるものもあり,毎年死者が発生しています.また,近年は日本国内に外来生物が多数生息しており,その中にはセアカコケグモのように毒を持った生物による咬傷が危惧されるものあります.また,野外活動とは関係ありませんが,途上国との貿易の増大やペットブームにより,サソリによる刺傷の事例が報告されています.さらに海外旅行も行き先が多様化するに伴い,マラリアやデング熱といった蚊が原因となる疾病以外に,野外生物の刺傷や咬傷に注意が必要となってきています.

 野外生物による刺傷や咬傷は公衆衛生上重大な問題とは言い難い面もありますが,住民がこれらの問題について相談する先は,保健所や市町村です.

 そこで,夏に向かって今回,野外生物による刺傷と咬傷を取り上げて,特集を企画しました.特集は自然毒を持った生物による野外での刺傷と咬傷を中心としましたが,毒を持たない生物による咬傷等や屋内での咬傷等についても,近年話題になっているものを取り上げました.

わが国における野外動物の自然毒と刺傷・咬傷の概要

著者: 宇仁茂彦

ページ範囲:P.362 - P.366

はじめに

 生物が生産あるいは保有する毒は自然毒と呼ばれる.毒を持つ生物の種類に応じて,自然毒は細菌毒,植物毒,動物毒の3つに分類される.わが国においてよく知られている有毒動物はマムシ,ハチ,フグなどである.1995年,外来種であるセアカゴケグモが見つかり,予防や治療において新たな対策が必要になってきた.また,魚類や貝類など,海洋生物から多様な種類の毒が見つかっている.

 これらの有毒動物の知識は,安全な食物の確保と刺傷や咬傷の回避にとって重要である.さらに,毒の成分や作用機序の研究は,有毒動物によって被害を受けた人々の診断や治療に必要であることに加え,新しい医薬品や研究用試薬の開発にも貢献する.

 本稿では,わが国に生息する主な有毒動物の種類とそれらの毒による症状の概要を述べる.

ハチ・ハチ毒:スズメバチ類の行動と生態―複雑な社会生活と刺針行動を誘起する諸要因について

著者: 小野正人

ページ範囲:P.367 - P.372

はじめに

 厚生労働省の人口動態統計1)には,蜂刺症により年間約20~40名もの死亡者が記録されている.特に1984年には,その数が73名に達しており,北海道のヒグマや沖縄県のハブによる犠牲者数を大幅に上回るものとなっている.先進国日本において,現在もなお,野生生物(昆虫)が原因で多くの尊い人命が毎年のように失われているという認識は低いかもしれない.本稿では,蜂刺症の中でもその被害の大半を占めると思われる「スズメバチ類(図1)」に焦点を合わせ,刺針行動の成因などについて行動・生態学的見地から解説したい.

クモ・クモ毒

著者: 小林睦生 ,   駒形修 ,   二瓶直子 ,   吉田政弘

ページ範囲:P.373 - P.376

はじめに

 クモの仲間は世界中で約35,000種が報告されており,多くは陸棲であるが,一部水棲のクモも知られている.日本での種類数は1,000種ほどで,多くは人に何ら危害を与えるものではなく,目立たない場所で生活している種類が多い.

 クモの頭胸部には1対の毒腺がある.毒腺は牙と導管で結ばれており,毒液が糸に捕捉された獲物の昆虫や土壌動物の体内に牙から注入される.一般に,毒グモと呼ばれているクモ類の毒には,哺乳動物に対して激しい痛みの原因物質を持つもの,神経毒や細胞毒性のある壊死毒を持つものが知られている.1995年に大阪地区で初めて発見され,その後,近畿地方全体に分布域を広げているセアカゴケグモに関して,本稿では生態,毒性,分布域拡大,咬症例などをまとめる.

ヘビ・ヘビ毒

著者: 堺淳

ページ範囲:P.377 - P.381

日本の毒蛇

 1.九州以北

 日本ではウミヘビ類を含めて50種近いヘビが見られ,そのうち20種類が毒ヘビである(表1).九州以北では毒ヘビ3種と無毒ヘビ8種が生息している.近年,長崎県の対馬に生息するマムシはツシママムシとして別種とされたが,統計的にはマムシ咬症として扱われている.これら3種のうちほとんどが,ニホンマムシによる咬症である.

 ニホンマムシは60cmほどの小型のヘビで,九州から北海道まで生息している.色彩は茶褐色で,体の左右に丸い模様が並んでいるのが一般的であるが,色彩変異は非常に大きい.そのためヘビが判別できないケースや判別の間違いなども多い.活動時期は3月後半から10月で,春と秋は昼間,夏は気温が少し下がった夕方から夜や曇りの日,また雨の降った後に活動することが多い.

サソリ・サソリ毒など―海外における危険生物

著者: 大利昌久

ページ範囲:P.382 - P.383

 島国日本を離れると,海外にはいろいろな危険生物に出会う機会がある.本稿では,他稿では触れていない危険生物,主にサソリ・サソリ毒について触れる.

海洋危険生物

著者: 神谷大二郎 ,   稲福恭雄

ページ範囲:P.384 - P.388

はじめに

 人間に健康被害を与える海洋生物の一群は海洋危険生物と呼ばれている.これら海洋危険生物が引き起こす刺咬傷被害は,大きく2つのタイプに分けられる.1つはダツやサメなどの,刺す,咬むといった物理的な外傷被害である.2つめは,刺す,咬むという行為と同時に,毒を注入する刺毒・咬毒被害である.沖縄県で報告される刺咬傷事故の多くは,後者によるもので1),毒を有するクラゲやイソギンチャクなどがその代表的な加害生物である.

 海洋危険生物の毒は,本来,捕食や自己防衛のために獲得した生存手段であるが,その毒により人間にとって致命的な刺咬傷被害を引き起こすことがある.これらの生物による健康被害は,死亡事故も含め数多く報告されている2).そのため,被害防止対策は公衆衛生上重要な課題の1つである.特にサンゴ礁を中心とする海域は多様な生物相を有し,海洋危険生物も多く生息しているため,未然に被害防止対策を講じていくことが必要である.

 本稿では,海洋危険生物の中でも毒による刺咬傷被害を引き起こす生物を対象とし,被害の現状,加害生物,応急処置,沖縄県における被害防止対策の取り組みなどについて概要を述べる.

刺傷・咬傷への医学的対応

著者: 宮城良充

ページ範囲:P.389 - P.393

 野外活動時に有害生物に咬まれたり,刺されたりすることがしばしば起こっているが,慌てず対応することが大切で,そのためにも毒による症状や,応急処置などの知識を持っていることは重要なことである.

生物による刺傷・咬傷:最近の話題

①神奈川県のヤマビルについて―ヤマビル防除対策研究から

著者: 岩見光一

ページ範囲:P.394 - P.396

はじめに

 神奈川県の丹沢の里山にニホンヤマビル(Haemadipsa zeyranica japonica)が生息するようになり,農業者や住民に吸血被害が出始めてから概ね10年以上が経過した.ヤマビルの被害の深刻さは,吸血による身体的なダメージではなく,薄気味悪さや恐怖といった精神的なダメージが大きく,その分地域社会にとって深刻な問題となっている.

 ヤマビルの研究は平成19年度から2か年,県の5つの試験研究機関と大学,民間の研究機関が共同して実施したが,このうち,筆者が所属する自然環境保全センターは,ヤマビルの生理と生態,ヤマビルの生息域および拡大要因の解明,被害予防や駆除対策に関する調査研究を担当した.

②トコジラミ(ナンキンムシ)

著者: 元木貢

ページ範囲:P.397 - P.399

はじめに

 1960年代後半まで日本でも発生がよく見られ,その後,減少の一途をたどっていたトコジラミの被害が,ここ数年,ホテルや簡易宿泊施設,マンションを中心に急増している.被害経験が少ない人が多いため,何が原因かわからず,その分被害が広がる傾向がある.また,最近屋内の害虫駆除に用いられるピレスロイド剤は効力が低く,今後さらに増加することが懸念される.

視点

アスベスト災害と予防原則―震災対策と関連して

著者: 宮本憲一

ページ範囲:P.358 - P.359

 わが国は第二次大戦後,水俣病や四日市大気汚染公害など深刻な産業災害を経験した.公害・環境破壊の被害は他の経済的被害と異なり,絶対的不可逆的損失をもたらす.健康被害・死亡,埋め立てなどの大規模な自然破壊や歴史的文化財・景観などの損傷は,後から補償をしても回復しない.多くの公害事件は,事前調査をして予防をしておれば,経済的にも少ない費用で防げたことがわかっている.いま世界政治の焦点になっている地球温暖化防止は,この環境破壊の教訓から予防原則によって対策が始まっている.

 予防原則とは一定の損害が発生するおそれがある場合には,科学的不確定性があっても,損害を未然に防止する措置を取るべきであるというのである.これは日本の戦後の公害事件から生まれた教訓と言ってもよい.にもかかわらず,日本は欧米に比べて30年遅れて1997年環境影響評価法ができて,99年から適用された.それでも事業が決まってからアセスメントをするので,環境破壊がわかっても事業を中止したり,大きな変更をすることはできなかった.そこで今年からようやく戦略アセスメントを採用して,事業の計画段階からアセスメントを行うことになっているが,肝心の発電所などは適用外となっている.

特別記事

[対談]社会的排除と自殺

著者: 本橋豊 ,   近藤克則

ページ範囲:P.400 - P.406

本橋 私が公衆衛生の領域に入ったのは1980年代の前半で,当時は疫学的にリスクを明らかにして,脳卒中,心筋梗塞,循環器系疾患の予防を行うというハイリスクアプローチが多かった.私自身は,公衆衛生学は社会的要因が健康にどう影響を及ぼすかということを明らかにする学問であるから,社会的な側面と健康との関係を重視する方向があってもいいと考えていました.90年代に入って,公衆衛生の関心はハイリスクアプローチからポピュレーションアプローチに移ってきました.この背景には1986年のオタワ憲章,ヘルスプロモーションの流れがあったと思います.90年代後半から経済金融危機が日本を襲って,社会変動が大きくなって失業者が増え,終身雇用制が崩れて,非正規雇用が増大する中,1998年に日本全体の自殺者数が3万人を超えるという非常事態に至った.ここから,自殺が社会的な問題として取り上げられてきたという経緯があります.

 私自身は1987年から自殺に関する論文を書いているのですが,デュルケムの『自殺論』や他の自殺関係の論文を読む中で,うつや自殺の問題は社会的要因と密接に結びついたテーマだと確信し,自殺研究,自殺対策研究に入り込みました.その後,自殺率日本一だった秋田県で10年ほど自殺対策にかかわり,現在は社会的排除の要因を見ながら,自殺対策を公衆衛生の中でやっているという立ち位置にいます.

連載 人を癒す自然との絆・10

虐待のサイクルを断ち切るシェルター

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.408 - P.409

 「忘れな草」という美しい名前を持つ農場が,カリフォルニア州サンタ・ローザにある.ここでは1992年以来,虐待を受けた子どもたちに動物や植物のケアを教え,虐待のサイクルを断ち切るプログラムを行っている.この農場は,アメリカ最大のアニマル・シェルターである「ヒューメイン・ソサエティ」の一部.そもそもは子どもたちに動物を虐待しないよう教えるためのプログラムとして始まったのだが,やがて動物を手荒く扱う子どもは,多くの場合彼ら自身が虐待の犠牲者だということがわかってきた.

 アメリカでは近年,児童虐待と動物虐待の密接な結びつきが認識されるようになった.暴力を受けている子どもは,自分より弱い動物に対して同じように接してしまうことがある.また,子どもが虐待されている家庭では,ペットも虐待を受けているケースが多い.そのため,動物虐待の通報を受けて関係者が立ち入る際には,そこの家の子どもがどのように扱われているかにも注目するようになっている.

保健所のお仕事―健康危機管理事件簿・2

集団胃腸炎への対応―(平成14年度)その2

著者: 荒田吉彦

ページ範囲:P.410 - P.413

 喫煙歴30年以上になります.

 この8年間あまり,禁煙と喫煙再開を何度も何度も繰り返してきました.その間の禁煙チャレンジ回数は優に100回を超えます.さすがに最近は,タバコからニコチンガムへの移行は無理なく進められるようになりました.しかし,今度はニチコンガム依存状態を改善できず,なかなかニコチンフリーには至りませんでした.今年は何とかここまでタバコを吸わずに頑張ってきました(と言っても,この原稿を書いているのは2月ですが).ついに,ニコチンガムもやめることができました.今回こそは,タバコをやめることができそうな気がしています.

 少年時代についつい口にしてしまったあの1本が,これほどの苦しみを生むことになるとは,夢にも思いませんでした.今は,少しでも多くの人に禁煙に取り組んでほしいと思っています.私にタバコを与えないためにも…….

 さて,先月号に続き,小中学生を中心とする大規模集団胃腸炎その2です.

働く人と健康・17―過労死・自死相談センター代表の立場から②

最近の過労死裁判での経験

著者: 上畑鉄之丞

ページ範囲:P.414 - P.418

過労死の労災認定基準

 現在の過労死(脳血管疾患および虚血性心疾患等)の認定基準は,平成13(2001)年12月に改訂されたものである.この改訂作業では,1999年に最高裁でそれまでの労働省の認定基準が否定されたことから,労働省が「脳・心臓疾患の認定基準に関する検討委員会」を立ち上げ,その報告書をもとにして決められた.

 この検討委員会で思い出すのは,筆者が国立公衆衛生院在籍中に,労働省の事務官が数人訪ねてきて,「今回,認定基準改定の委員会が発足し過去の資料を集めることになりました.ついては,先生が日本産業衛生学会で委員長として1995年にまとめられた循環器疾患の作業関連要因検討委員会の報告書『職場の循環器疾患とその対策』をいただけないでしょうか」と要望されたことである.筆者は,「あの報告書は当時の学会誌にも掲載されているので,そちらを参考に」と返事をしたところ,報告書の現物そのものが入用とのことで,残り少なくなっていたのを差し上げた.訪問者は,「ありがとうございます.この報告書は,基準改定のために必ず役立たせていただきます」と言って帰った.その後は全くナシのつぶて.当時は委員会のメンバーも公表されておらず,メンバーが誰かも知らなかった.そして,約1年後,新聞で認定基準が改定されたとの記事を見た.労働省からは筆者に報告書さえも届かず,雑誌に掲載された報告書を読んでみたが,筆者が提供した学会の委員会報告は一行たりとも引用されていなかった.

地域保健従事者のための精神保健の基礎知識・5

自殺問題から明らかになる地域保健の課題・1

著者: 松本俊彦

ページ範囲:P.419 - P.422

地域保健の支援は総合的・包括的

 筆者はここ数年,いくつかの保健所や精神保健福祉センターで定期的に開催される事例検討会に助言者として参加し続けており,毎回,「今日はどんな事例だろう?」と楽しみにしている.もっとも,そんな風に思えるようになったのは比較的最近のことだ.正直に告白すれば,精神科臨床医時代,保健所からそうした依頼があると,いささか煩わしく感じていた.なにしろ,当時は病院業務に追われたし,油断すると「地域の厄介者」のような患者の主治医に押しつけられるのではないかという不安もあった.

 しかし,研究所に勤務するようになってから心境の変化が生じた.病院を離れて研究所生活を始めて数か月ほど経過したとき,「このままでは臨床センスは永遠に失われてしまう」と不安を感じるようになったのだ.「何もしないよりは,せめて事例検討会にでも参加すれば,多少とも臨床の緊張感に浴することができるかもしれない」.幸い,もともと自分がアルコール・薬物依存臨床という人材の乏しい領域を専門としてきたこともあって,事例検討会に声をかけてもらう機会は少なくなかった.

保健師さんに伝えたい24のエッセンス―親子保健を中心に・14

運動発達をめぐって

著者: 平岩幹男

ページ範囲:P.423 - P.426

はじめに

 運動発達で知っておいていただきたいこと,気をつけることはたくさんあります.今回は新生児訪問,乳幼児健診など親子保健での節目での注意しておきたいことを中心にお話しします.

 乳幼児の運動発達ではいくつか覚えておいていただきたいことがあります.

 1) 左右差に気をつける.全体的な反応に目がいきがちですが,左右差はよく見ておく必要があります.筋緊張や動きに左右差がはっきりと見られる場合には,筋肉や関節の問題であっても,脳や脊髄の問題であっても,精密検査の対象になります.

 2) 乳児期から2歳頃までは,一見運動発達が遅れているように見えても,自然に追いついてくる良性の筋緊張低下(benign hypotonia)があります.つかまり立ちや歩行の遅れがある場合に,ただちには障害とは決めつけられません.この場合には,まねをする,動作を理解するなどの知的な発達には異常はありません.

 3) 関節に注意する.運動発達というととかく筋肉に注目しがちですが,関節の動きのチェックも大切です.大きな関節でのチェックになり,私は肘と膝の関節を見るようにしていますが,関節の動きに制限がないかどうか,過伸展がないかどうかは,運動の問題を考える際には大切です.関節の動きに制限がある,関節が硬いという場合,乳児期では精密検査の対象になります.

 4) 低出生体重児の場合には,多くは在胎期間も短いので,修正月齢で判断する必要があります.

 一般の乳幼児健診では,修正月齢ではなく暦年齢で健診を行いますので,特に妊娠36週以前での出生の場合にはマークをつけておく,修正月齢を併記するなどの配慮が必要になります.またそれほど多くはありませんが,一過性の筋緊張の亢進が見られることがあり,脳性まひとの区別に悩むこともあります.

トラウマからの回復―患者の声が聞こえますか?・2

Let's Enjoy Survivors Life!―虐待ママからの飛翔

著者: 福井和絵

ページ範囲:P.427 - P.430

 「わが子を虐待してしまう」と,Sクリニックの診察室で訴えてから14年が過ぎ,当時1歳半だった娘が,高校入学の春を迎えた.

 あれから14年も生き延びて,こんな日が来るなんて,当時は想像もできなかった.大げさな表現ではなく,本当に,わが子を殺してしまうのではないか…と思ったのだ.また,小さな娘に暴力をふるってしまうたび,自分のことを「母親失格だ.こんな私は,死んだほうがよい…」と考え,自殺の方法について想いめぐらしながら生きた日々だった.

 今振り返ると,育児のつらさや,自分の親としての至らなさばかりに目が向いて,「かわいい」とか「楽しい」とか感じることを自分に禁じていたかのように過ごしてしまったことが残念で仕方ない.しかし一方で,そのプロセスから得たものも確かにあって,私のその体験が誰かの役に立つのなら,語っていこうと思う.

リレー連載・列島ランナー・14

歯科診療所の臨床歯科医師からの情報発信

著者: 大島晃

ページ範囲:P.431 - P.434

はじめに

 筆者は,前号執筆者の産業医科大学産業生態科学研究所産業保健管理学講座の川波祥子先生に,新日本製鐵(株)技術開発本部(富津)産業医時代(平成9年9月~平成15年4月末)よりご指導いただいている.最近は日本産業衛生学会を通じた交流をしている.

 さて,筆者を含む日本中の多くの歯科医師は臨床を通じ,日々患者さんと向き合い口腔の健康の維持,増進に努力している.日常の仕事は,公衆衛生業務というより診療がほとんどである.筆者にとって今回の「列島ランナー」執筆そのものが,臨床歯科医師による公衆衛生活動の1つと位置付けている.前半は予備知識,後半は新日本製鐵(株)君津製鐵所歯科診療所(以下,歯科診療所という)内から始まる,臨床歯科医師の情報発信活動を紹介する.

お国自慢―地方衛生研究所シリーズ・2

富山県衛生研究所

著者: 倉田毅

ページ範囲:P.435 - P.438

研究所沿革

 富山県衛生研究所は,1960年に富山市のほぼ中心地(富山市大手町,現富山国際会議場)に設立され,1982年には,第4次富山県総合計画および第5次住みよい富山県をつくる総合計画に基づいて,現在の射水市(当時,射水郡小杉町)に移転した.射水市は富山市と高岡市の間に位置し,ベッドタウンとして宅地化が進んでいる.近くには県立大学があり,学生用アパートも増えている.研究所までは,JR小杉駅で下車した後,緩やかとはいえ上り坂が2.7kmも続くため,盛夏や降雪期などは徒歩で通うのはつらい.地方に共通の悩みだが,公共交通機関は少なく,通勤はもっぱら自家用車に頼らざるを得ない.このことは車の免許を持たない人にとっては大悲劇ですらある.

 研究所は3階建の施設である(写真1).平成元年に,がん研究部,ウイルス部,細菌部,化学部,環境保健部の5部門が整い,1992年には総務課,2000年にはさらに富山県感染症情報センターが設置されて現在に至っている.各部6~7名の定員で,所長,次長,総務課とあわせて,2009年5月現在36名の職員が在籍している.富山県は,東南に立山連峰(立山,剣岳),南に薬師岳をあおぎ,北は富山湾に囲まれる.山は美しい,立山から流れ出る水はうまい,その水で育つ魚は日本一うまい.県民性は,実に質実剛健,屁理屈を言わずコツコツと働き,常に前に向かい建設的である.“自虐反省”という日本の国の悪しき風習が余り見られないことは素晴らしい.

 以下,各部署について紹介していきたい.

衛生行政キーワード・65

健やか親子21の第2回中間評価について

著者: 森岡久尚

ページ範囲:P.439 - P.441

健やか親子21のこれまでの経緯について

 健やか親子21は,21世紀の母子保健の取組の方向性と指標や目標を示したものであり,関係者,関係機関・団体が一体となって,2001(平成13)年から10年計画(策定当時)で取り組む国民運動計画である.母子保健に関する主要な課題として,①思春期の保健対策の強化と健康教育の推進,②妊娠出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援,③小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備,④子どもの心の安らかな発達と育児不安の軽減の4課題を設定し,61指標(策定当時)とその目標を定めている.

 健やか親子21の策定時に,10年計画の中間年である2005(平成17)年に,それまでの実施状況等を評価し,見直しを行うこととされたことから,「健やか親子21推進検討会」を設置して,第1回中間評価が実施された.第1回中間評価においては,当時,直近値が出ていた58指標の分析が行われ,41指標(70.7%)が目標に向けて良くなっており,17指標(29.3%)が良くなっていないことが判明した.また,食育や歯科の新たな指標等を追加し67指標とするとともに,今後,①思春期の自殺と性感染症罹患の防止,②産婦人科医師,助産師等の産科医療を担う人材の確保,③小児の事故防止をはじめとする安全な子育て環境の確保,④子どもの虐待防止対策の取組の強化等に特に重点的に取り組んでいくこととされた.

路上の人々・5

雨に心濡れて

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.443 - P.443

 梅雨の時期に入った.昨夜は,激しく雨が降り続いた.今朝は,その雨もやんでいる.いつもの通勤路の水溜りを避けながら職場へと急いでいた.その途中,私は,はっと足を止めた.前方に頭を深く垂れてしゃがみ込んだ人がいる.誰なのかわからない.近づくと,その人は昨夜の激しい雨で,白い上着がびっしょりと濡れている.この姿勢でこの場所で雨に打たれ座り続けていたのだろうか.病気で動けなくなっているのか.

 私は,思い切って声を掛けた.彼は,蒼白な顔を上げ,充血した真っ赤な目を向けた.しかし,何も語ることなく,またもや深くうなだれた.年の頃,30歳後半だろうか.

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あとがき フリーアクセス

著者: 西田茂樹

ページ範囲:P.444 - P.444

 今回は毒物を持った動物による刺傷や咬傷についての特集です.

 動物による刺傷や咬傷は,比較的限定的な地域で起こっている事故のように思われます.また,沖縄に代表されるように,刺傷や咬傷が高い頻度で発生している地域では,保健所や衛生研究所などにその地域で起こっている刺傷や咬傷についての知識は蓄積されていると思います.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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