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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生74巻6号

2010年06月発行

雑誌目次

特集 肥満とやせ

フリーアクセス

ページ範囲:P.449 - P.449

 現代における疾病構造の変化に伴い,生活習慣病はわが国最大の健康課題となりました.平成20年には,これらの生活習慣病を予防するために,国民一人ひとりが自らの生活習慣を改善するという「行動変容」に着目した特定健診・特定保健指導が開始されました.

 これらの施策の柱となった「メタボリックシンドローム」という言葉は,いまや国民一般に広く普及しており,「メタボ解消」などのキャッチフレーズとともに,腹腔内脂肪の減少を意識したさまざまな取り組みが各分野で行われています.

肥満,肥満症の病態

著者: 宮崎滋

ページ範囲:P.450 - P.455

日本の肥満

 現在,肥満の判定にはBody Mass Index[BMI:体重(kg)÷身長(m)2]を用い,日本ではBMI25以上を肥満としている.このBMI25以上の肥満者が増加し,医学的にも社会的にも問題となっているのは周知の通りである.

 第二次世界大戦後の日本人の性別,年代別の平均BMIの変化を見ると,1947年には男女とも21~22の間であったが,男性は以後全年代で増加の一途をたどり,現在の30歳以上の男性の平均的BMIは23.5~24.0であり,ほぼ2.5kg/m2増加している(図1).これは体重にすると6~8kgの増加に相当する.一方,女性は40歳代以下ではBMIは減少し続けており,やせすぎの問題が生じている.しかし,60歳代以降では体重の増加が認められている.メタボリックシンドロームの該当者も,全世代の男性と高齢の女性に多いことも,体重の増加との関連があると思われる.

肥満症治療の最前線

著者: 高本偉碩 ,   門脇孝

ページ範囲:P.456 - P.461

はじめに

 日本肥満学会は2000年の東京宣言で「肥満」と「肥満症」とを区別し,疾患としての肥満症対策の重要性を提起した.2005年,日本内科学会等の内科系8学会が合同で,動脈硬化を促進し心血管疾患を惹起するハイリスクな肥満症として,メタボリックシンドロームの疾患概念とわが国独自の診断基準を示した1).翌2006年,日本肥満学会は肥満症・メタボリックシンドロームの予防の重要性を喚起する神戸宣言を発表し,食生活の改善と運動の増加により,3kgの減量,3cmのウエスト周囲径の短縮を目指す「サンサン運動」を提案した(表1)2).また同年,日本肥満学会は『肥満症治療ガイドライン2006』を作成・公表し,わが国における肥満症治療の標準的な指針を示した3)

 最近の調査によれば,わが国では20歳以上において,メタボリックシンドロームが強く疑われる者の比率は男性25.3%,女性10.6%,予備群と考えられる者の比率は男性21.9%,女性8.3%である4).40~74歳で見ると,男性の2人に1人,女性の5人に1人がメタボリックシンドロームが強く疑われる者,または予備群と考えられ,その対策には医療関係者と行政の協力による公衆衛生学的立場に根差した戦略的なアプローチが不可欠である.2008年4月より,40歳以上の被保険者・被扶養者を対象とするメタボリックシンドロームに着目した健康診査および保健指導(いわゆる特定健診・保健指導)が全国で開始された.これをきっかけとして,わが国では急速にメタボリックシンドロームが人口に膾炙し,その医学的意義ならびに社会的意義に対する関心が高まった.

 本稿では,『肥満症治療ガイドライン2006』の要点に触れつつ,肥満症治療の最前線についてまとめる.

肥満の健康影響

著者: 栗山進一

ページ範囲:P.462 - P.468

はじめに

 肥満の健康影響を検討するのに疫学研究は不可欠である.疫学(Epidemiology)は,動物実験や培養細胞実験ではなく,実際の人口集団(population)を対象として,疾病とその規定因子との関連を明らかにする科学である.症状を訴えている患者さんに限らず,健康に暮らす人々を対象として,疾病予防に資する介入方法を明らかにする際には特に,その方法論を必要とする.

 疫学研究として最も信頼性の高いデザインは介入研究であるランダム化比較試験である.しかしながら,人を太らせてその影響を検討するという研究は倫理上許されない.したがって,観察研究のうち最も信頼性の高いコホート研究がベストエビデンスとなる.実際の人々の体型や生活を調査して,どのような体型,生活習慣の人が病気になりやすいのか,あるいはなりにくいのかを,長い年月をかけて追跡調査する.このような特定集団を追跡調査する方法を,コホート研究という.

 肥満の健康影響に関してはさまざまな疫学研究が行われデータが蓄積されてきた.本稿では特に日本人を対象としたコホート研究データに焦点を当ててレヴューし,日本人における肥満の健康影響に関するエビデンスを概説する.脳血管疾患と心筋梗塞は,がんと並んで日本の三大疾病と呼ばれる.また,日本人には2型糖尿病が多い.したがって,肥満が脳血管疾患や心筋梗塞,がん,糖尿病リスクに与える影響,ならびにどの体型の人が総合的に健康と言えるのかを表す指標としての総死亡率,医療費に与える影響を検討する.なお,本稿ではBody Mass Index(BMI)25以上30未満を過体重,30以上を肥満と呼ぶ.

肥満者への保健指導の取り組み

著者: 津下一代

ページ範囲:P.469 - P.473

 特定保健指導が開始されて2年が経過した1,2).その数年前より各医療保険者・保健指導機関等では,実施計画の策定や指導方法の検討,指導者に対する研修,制度導入に関する事務手続き変更,住民への周知,「健診受診率,保健指導利用率」向上策の検討と進んできた3)が,いよいよ「保健指導の効果に関する検証」へと関心が集まってきている.

 保健指導現場では,対象者一人ひとりの意欲を引き出し,行動変容を支援し,体重減量と検査値改善に導くための地道な努力が繰り広げられている.特に積極的支援においては,6か月以上継続的に関わるなかで,対象者の変化に勇気づけられ,やりがいを感じている指導者も多いが,一方では保健指導者自身が自らの課題に直面し,指導技術向上の必要性を実感している人も少なくない.

 保健指導の効果に関する国全体の集計値はいまだ公表されていないため,本稿では筆者が主任研究を務める厚生労働科学研究4)の状況も踏まえ,効果的な保健指導の方法に関する取り組みを紹介し,効果的な保健指導のあり方について考察することとしたい.

子どもの肥満の現状と保健指導

著者: 大関武彦

ページ範囲:P.474 - P.479

 肥満の増加は生活習慣,すなわち現代社会における生活様式の変化が大きく関与していると考えられる.したがってその病因・病態の解明や効果的な介入方法を検討する際には,公衆衛生学的なアプローチは有用なものの1つであると言える.成人だけでなく肥満,そしてメタボリックシンドロームは,現代の子どもたちにとってもますます注目されるようになってきた1~4)

 その理由にはいくつかが挙げられるが,世界的にも多くの国々で,そしてわが国でも,2型糖尿病が成人や小児においても増加し,それと関連する肥満・メタボリックシンドロームの関与が指摘され,小児期はその発症や介入においても重要な時期と考えられる2,3,5~7).小児肥満が世界的に増加傾向にあることは,一個人の問題と言うよりは,広く社会的な課題を内包していると言え,メタボリックシンドロームの概念の提唱にも伴い,公衆衛生学においてもより大きなテーマとなってきたと言えよう.

やせの健康への影響

著者: 鈴木隆雄

ページ範囲:P.480 - P.483

 「やせ」は単にある時点で体重がある基準よりも少ない状態を示す.通常の基準は体格指数(Body Mass Index:BMI)が用いられ,身長(m)と体重(kg)により次式で求められる.BMIが18.5以下を「やせ」と定義する.

  BMI=kg/m2
 一方,体重減少(Weight Loss:WL)は,ある時期での体重の減少を示し,通常の期間は6か月間を用い,次式で求められる.WLが5%以上の体重減少は有意とされ,疾病状態や低栄養の存在を想定することができる.

女性のやせと次世代への健康影響

著者: 堤誠司 ,   高田恵子 ,   倉智博久

ページ範囲:P.484 - P.487

はじめに

 母体の妊娠前の体型と出生した児の転帰については国内外より数多くの報告がなされ,妊娠前のbody mass index(BMI)が高すぎても低すぎても,母児双方における合併症の危険性が上昇することが知られている.すなわち,妊娠する世代の女性の体型を標準に保つことが非常に重要である.

 妊娠前の肥満は妊娠糖尿病1),妊娠高血圧症候群2),肩甲難産3),帝王切開4)などのリスクを上昇させる.一方,「やせ」妊婦は安産であることが多いが,妊娠前のやせは早産5)や低出生体重児6)のリスクを上昇させる.

 近年の多くの疫学研究より,母体の妊娠前の体型は出産時の合併症に影響するのみならず,子どもの将来の生活習慣病が,受精時,胎芽期,胎児期,乳幼児期にその素因が形成され,その後の環境の作用を受けて疾病として発症することが明らかになりつつある.

若い女性のやせ志向とダイエット―健康教育の課題

著者: 瀧本秀美

ページ範囲:P.488 - P.491

はじめに

 若い女性の「やせ」志向は,先進国で今では広く見られる現象となっている.やせ願望の強い若年女性にとって,肥満への恐怖心が不必要な減量行為の引き金となることが危惧される1).過度の減量行為は,栄養素の欠乏や月経不順,摂食障害の原因となることが先行研究によって指摘されている2~4)

 これから妊娠・出産を迎える年齢の女性における「やせ」で最も大きな問題は,胎児への影響である.母体が妊娠前から「やせ」であった場合に児の出生時体重が低下するという現象は,あらゆる国で普遍的に見られるものである5).これは,「やせ」の女性では胎児への栄養素の供給源となる体内の栄養素の蓄積量,すなわち内臓や骨などの除脂肪体重が少ないためではないかと考えられている.

視点

公衆衛生学は人間集団を対象とする科学(Science)であり技(Art)である

著者: 田中平三

ページ範囲:P.446 - P.448

 私が大阪市立大学医学部に入学したのは,1959年である.当時,日本の脳卒中死亡率は世界一であり,国内では東北・北関東・甲信越で高く,近畿・瀬戸内海沿岸で低かった.脳卒中に関するコホート研究はなく,臨床医学の場での経験から,高血圧が脳卒中危険因子とされていた.大企業では,健康診断時に血圧測定が行われていたが,農山村在住者は,都市在住者に比べて,脳卒中死亡率がはるかに高かったにもかかわらず,血圧測定を受けたことがあるという人々は30%にも満たなかった.患者は自主的にクリニックを受診するので,医師は椅子に座って患者の訪問を待てばよい.しかし,一見健康者は,クリニックを訪れて血圧測定を受けることはないので,医師が“患者”を訪問することになる.

 このようなことを知った私は,医学部4回生の終わり頃に,農村の人々に血圧測定の機会を提供すべきであるという思いにかられ,公衆衛生学教室(大和田國夫教授)の主催する集団検診に参加した.そして,インターンを終え,医師免許証を取得後,大学院公衆衛生学専攻に入学した.研究よりも,検診に従事する時間が長かった.地域の集落を巡回し(「どさ回りの医者」と自称していた),写真に示したように,公民館や小学校の教室を借りて,検診と事後指導を行った.心電図・眼底撮影フィルムの読影,血液一般検査や血清コレステロール等生化学的検査の測定も,自身で行った.

特別寄稿

地域の感染症対策における感染症情報センターの課題―麻疹対策体制整備等を通して見えたもの

著者: 倉本早苗

ページ範囲:P.492 - P.496

はじめに

 公衆衛生の領域において,“感染症”はいつの時代でも重要テーマの1つでした.医療が格段に進歩した21世紀においても,2002年のSARS,2003年のウエストナイル熱,2009~2010年にかけての新型インフルエンザと,次々と新しい感染症が登場してきました.このような背景の中,本来最も期待されるはずの地方感染症情報センターですが,果たしてどれだけその役割を果たせているのか気になります.

 2001年の麻疹大流行1)を受け,石川県では2002年から全国に先駆けて麻疹対策体制整備を進め,一定の成果を得ることができました.保健環境センター(以下,当センター)もこのプロジェクトに関わりましたので,その過程を振り返り,地域の感染症対策における感染症情報センターの課題を考えてみたいと思います.

連載 人を癒す自然との絆・11

薬物からの解放のメタファー

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.498 - P.499

 ワシントン州のあるコミュニティ・ガーデンのコーディネーターとして働いているハイジは,裕福な家庭に育った.成績優秀で,コロンビア大学の大学院でジャーナリズムの修士号を修めたという.その彼女には,アルコール依存症からエスカレートして麻薬に溺れるようになり,何年もリハビリ施設を出たり入ったりする生活を送った,つらい経歴がある.自分に暴力を振るう男たちとのつき合いも繰り返してきた.

 物質的には何不自由ない環境で育ち,高い教育も受けた彼女が,どうしてそんなことになったのだろうか.実はハイジは,8歳で両親が離婚したあと,母親が再婚した相手から性的虐待を受けていたのだという.

保健所のお仕事─健康危機管理事件簿・3

集団胃腸炎への対応―(平成14年度)その3

著者: 荒田吉彦

ページ範囲:P.500 - P.503

 警察は警察,消防は消防です.言うまでもないことですが,名称が変わることはありません.ところが,保健所はどんどん名前が変わっていきます.現在の保健所の名称は全国様々であり,機構改革のたびに耳慣れない名称に変わります.北海道でもこの4月,「保健福祉事務所保健福祉部」から「保健環境部保健福祉室」に変わりました.なぜ,こんなことになってしまうのでしょう.私は「保健所」に就職したつもりでいたのに…….


 さて,先月号の続き,小中学生を中心とする大規模集団胃腸炎その3です.

 少しおさらいをします.平成15年1月24日(金)に少なくとも500名を超える集団胃腸炎が発生しました.患者たちはいずれもA町の学校給食を食べています.その後の検査において,患者便から黄色ブドウ球菌が生えてきているとの情報を得たこともあり,24日の給食による黄色ブドウ球菌による食中毒も視野に入れ,早期解決への淡い期待を抱きました.しかし,26日(日)夜には患者便からSRSV(小型球形ウイルス.その大部分はノロウイルスであり,ここで検出されたのもノロウイルスなので以下はノロウイルスと表記)が検出されたという情報が入ってきたため,2次感染防止の観点からこのことを公表した,というところまでが前回までのあらすじです.今回はデータ中心の内容で堅苦しく感じられるかもしれませんが,しばしお付き合いください.

働く人と健康・17―過労死・自死相談センター代表の立場から③

過労死の予防対策を考える

著者: 上畑鉄之丞

ページ範囲:P.504 - P.508

90年代後半,学会委員会提言とその背景

 前号で紹介した日本産業衛生学会の「循環器疾患の作業関連要因検討委員会」の報告書「職場の循環器疾患とその対策」をめぐる経過を紹介する.この報告は今日でも十分通じる内容でもあるが,当時,大企業に勤務する産業医グループから痛烈な批判を受けたいわく付きのものである.

 発端は,過労死の労災認定や予防に関心を持つ学会員有志が1991年,理事会に設置を提案したことに始まる.提案は翌年学会理事会で承認され,1992年に委員会が設立された.メンバーは,学会地方会や関連委員会から推薦を受けた学会員を中心に20人で構成,大学などの研究者,企業の産業医,中小零細企業労働者の健診や健康管理に従事する勤務医などで,労働組合機関の産業医も1名加わった.

地域保健従事者のための精神保健の基礎知識・6

自殺問題から明らかになる地域保健の課題・2

著者: 川野健治

ページ範囲:P.509 - P.512

入口の支援だけではないということ

 筆者は,幸いにして自殺予防に取り組むさまざまな立場の方とお話しさせていただく機会があり,それがとても勉強になる.その1つ,救命救急センターの医師からガッデム症候群についてお聞きしたのは,ずいぶん前のことのように思う.ご存知の方も多いと思うが,これは自殺未遂者・自傷行為を行う者に対し,救命救急センターで医療従事者が抱く陰性感情のことである.たとえば,救命救急センターの医師は,以前自分が救った過量服薬による自殺未遂の患者が,また同様に自分の前に搬送されてきたとき,生きたいのに生命の危機にある患者を救い続けている身として,思わず不愉快でいらだつ感情[これがgoddamn(ガッデム)と表現される]を抱いてしまうというのである.

 自殺念慮を持つ人や,自殺未遂者・自傷を行う人に対して抱いてしまう陰性感情は,ガッデム症候群に限らず,さまざまな支援の場面で,もちろん地域保健においても形を変えて現れる.自殺は背景や関わる要因が多様な現象であるが,それらの条件を超えて,自殺予防という問題に共通する課題ではないだろうか.

保健師さんに伝えたい24のエッセンス―親子保健を中心に・15

歯科保健をめぐって

著者: 平岩幹男

ページ範囲:P.513 - P.516

はじめに

 広辞苑の第6版では,歯について「鳥類を除く脊椎動物の口腔内にあって食物の摂取,咀しゃく,攻撃,防御にあずかる器官.哺乳類で特に発達し,人間では言語の発声にも関与する.主部は象牙質からなり,表面露出部はエナメル質,歯茎の中はセメント質で覆われる.人間では小児期のもの(乳歯)は永久歯に生えかわる」と書かれており,乳歯は「換歯性(歯の生え変わる)の哺乳類で最初に生える歯,ヒトでは生後6か月頃から生えはじめ,7,8歳~11,12歳の頃まで永久歯とぬけかわる」となっています.

 歯の重要性は誰しも認識していますし,親子保健でも重要な課題のひとつです.生後6か月を過ぎると歯が生え始め,3歳頃には乳歯列が完成し,6歳頃から永久歯との生え変わりが始まり,12歳頃,永久歯列が完成するわけで,この間にはう蝕(虫歯)の問題だけではなく,多くの問題があります.もちろん永久歯列が完成してから後は,生活習慣病に関連する歯周病の問題もありますし,健康な歯を維持することによって,8020(80歳で噛める歯が20本以上)運動へと続いていくわけです.

 また,児童虐待の早期発見の面でも歯科保健は重視されています.歯科健診で,あまりにも汚い口腔,多数のう蝕(たとえば3歳児健診では10本以上)などはネグレクトを中心とした児童虐待を疑うきっかけにもなります.

トラウマからの回復―患者の声が聞こえますか?・3

依存症と家族の絆

著者: 前田智香子

ページ範囲:P.517 - P.520

買い物依存と寂しさ

 私がS先生のクリニックに通い始めたのは,買い物が止まらなくなったからでした.呉服にハマり,半端ない買い物っぷり.作った借金は1千万円をはるかに超え,生活もままならない状態になっていました.誰にも相談できなくて,自分で何とかしようと奮闘しましたが,どうにもならなくて.2005年の年末のことでした.

 不思議なことに,初診と同時に買い物がピタリと止まりました.さらに,S先生のミーティング(集団療法)でシェア(体験の分かち合い)をしているうちに,誰にも言えずにひとりで抱えていた借金問題が解決しました.両親(離婚している)に借金をカムアウトして「助けて欲しい」と言えたのです.父は「おまえもストレスが沢山あったんやな」と助けてくれました.初診から半年,借金もクリアーし,万事解決…のはずが,私はひどい空虚感に襲われました.

リレー連載・列島ランナー・15

自動車製造業における建屋内禁煙への取り組み

著者: 垣内紀亮

ページ範囲:P.521 - P.523

 2010年1月に先月号の執筆者である新日本製鐵(株)君津製鐵所歯科診療所長の大島晃先生から執筆依頼があった.大島先生は歯科臨床医であるが,予防歯科についても積極的な先生である.今回私は,弊社が取り組んでいる喫煙対策について書かせていただこうと思う.


はじめに

 2003年5月施行の「健康増進法」や「職場における喫煙対策のための新ガイドライン」の策定を受け,受動喫煙対策は企業の管理者責任が問われる時代となっている.また,2010年2月25日付で厚生労働省から「受動喫煙防止対策について」の局長通知があったことは記憶に新しい.現在,自動車製造業では,建屋内禁煙を行っている企業は少ない中,当社では新工場建設を契機に,「建屋内禁煙」と「禁煙外来」を軸とした総合的喫煙対策活動を行った.

お国自慢―地方衛生研究所シリーズ・3

富山県衛生研究所・その2

著者: 倉田毅

ページ範囲:P.524 - P.530

 前号でウイルス部と細菌部の活動を紹介したが,今回は他の3部を紹介したい.


化学部

 化学部では,食品や飲料水,温泉等に関する理化学分野の試験研究を通して,県民が安心して安全に快適に生活することができるよう,業務を行っています.最近,輸入冷凍加工食品から農薬が検出される事件や,フグによる食中毒事件が発生するなど,県民の健康が脅かされる事件が続いています.その原因追及や未然防止を図るため,微量成分を正確に迅速に効率的に分析するための新しい検査方法等の開発を行い,化学分析の県内最後の砦としての機能を果たすことができるよう努めています.その試験研究のうち,主なものを紹介します.

路上の人々・6

「生」

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.537 - P.537

 上野の公園は,修学旅行や体験学習の学生たちで賑わっていた.優しそうな男子学生が同級生の後から,路上生活者の人々に深々と頭を下げながら笑顔で通り過ぎていく.「時々,ああやって挨拶をしていく優しい子たちもいるよ.励ましてくれているのだね」.

 学生を見送りながら,柔和な顔付きで道夫さんは言う.公園は,外国人も多くなり,世界の縮図のようになっている.その中の1人,道夫さんはもう6年位前から西郷さんの裏側で仲間5人と路上生活を続けている.生活費は,夕方から夜にかけて缶集めをして売って,何とか小銭を稼いできた.昼間は仲間の荷物番もしている.既に69歳になった.「もう,体中病気だらけなのだよ.なぜ福祉事務所に生活保護の相談に行かないのかって? もうこれだけ生きれば,後は死ぬのを待つだけだよ.いつかコロリと死ねれば本望さぁ.だって,そうだろう.人間は,死ぬために生きているのだよ」.

活動レポート

携帯電話のメール機能を利用した身体活動量評価支援ツールの開発

著者: 久保田晃生 ,   竹内亮 ,   永田順子 ,   石塚貴美枝

ページ範囲:P.531 - P.535

緒言

 2006年7月に,厚生労働省は健康づくりのための身体活動量・運動量,さらに体力を定めた健康づくりのための運動基準2006―身体活動・運動・体力―(以下,運動基準)1)と健康づくりの運動指針2006―生活習慣予防のために―(エクササイズガイド2006)(以下,エクササイズガイド)2)を発表した.この運動基準では,身体活動量,運動量,体力と生活習慣病発生に関するシステマティックレビューを行った研究成果3)から,国民の健康づくりのための運動基準が示されている.

 一方,エクササイズガイドは,運動基準に基づき,安全で有効な運動を広く国民に普及するための具体的な実践方法を示している.また,エクササイズガイドでは,健康づくりのために必要な身体活動量を,日本独自の単位である身体活動の強度(Mets)に身体活動の実施時間(時)を掛けたエクササイズ(Ex=Mets×時)で示している点に大きな特徴がある.

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あとがき フリーアクセス

著者: 品川靖子

ページ範囲:P.538 - P.538

 幼少期にやせすぎが問題で精密検査まで受けたことのある私は,小中学生時代も,健診で体重増加が確認されるたびに親が喜ぶほど太れない少女でした.そのような私が体重増加を喜ぶどころか,体重計に乗るタイミングや測定条件を言い訳にしてまで否定するようになるとは思ってもみませんでした.

 ここ数年のコントロール困難な私の体脂肪増加の要因としては,産後全く運動習慣がなくなったうえに飲み会が増えたことが挙げられますが,どんなに飲み食いしても太らなかった若かりし頃を思えば,「加齢」による基礎代謝量の低下も大きな要因の1つであるかもしれません.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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