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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生74巻6号

2010年06月発行

文献概要

連載 路上の人々・6

「生」

著者: 宮下忠子

所属機関:

ページ範囲:P.537 - P.537

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 上野の公園は,修学旅行や体験学習の学生たちで賑わっていた.優しそうな男子学生が同級生の後から,路上生活者の人々に深々と頭を下げながら笑顔で通り過ぎていく.「時々,ああやって挨拶をしていく優しい子たちもいるよ.励ましてくれているのだね」.

 学生を見送りながら,柔和な顔付きで道夫さんは言う.公園は,外国人も多くなり,世界の縮図のようになっている.その中の1人,道夫さんはもう6年位前から西郷さんの裏側で仲間5人と路上生活を続けている.生活費は,夕方から夜にかけて缶集めをして売って,何とか小銭を稼いできた.昼間は仲間の荷物番もしている.既に69歳になった.「もう,体中病気だらけなのだよ.なぜ福祉事務所に生活保護の相談に行かないのかって? もうこれだけ生きれば,後は死ぬのを待つだけだよ.いつかコロリと死ねれば本望さぁ.だって,そうだろう.人間は,死ぬために生きているのだよ」.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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