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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生74巻7号

2010年07月発行

雑誌目次

特集 現場が求める保健師教育

フリーアクセス

ページ範囲:P.543 - P.543

 地域における保健活動の最前線に保健師が配置されています.保健師は地域保健活動における必要不可欠の職種と位置づけられています.そのため,都道府県単位に公立の保健師学校が設けられ,保健師の養成が行われてきました.保健師学校を卒業した者の大部分は保健所に入り,都道府県により卒後の現任研修が行われてきました.国立公衆衛生院(現保健医療科学院,結核研究所)などの研修コースも設けられています.保健師は,言わば厚生労働行政が進める保健活動の担い手として,厚生労働省の枠組みの中で育成と現任教育が行われてきました.

 ところが,近年は保健師教育の場が大学となり,保健師の卒前教育は厚生労働省の枠組みの外で行われる状況となってきています.地域保健活動に関わる関係者が暗黙の知としていた保健師教育のあり方の転換が,今,不可避となってきています.「保健師とは何か」について明文化し,大学教育の中で必要な教育内容を盛り込んでいくことが必要となっています.

保健師活動の源流を辿る

著者: 大國美智子

ページ範囲:P.544 - P.547

はじめに

 保健師活動の源流は,ヨーロッパにおいては,1859年にイギリスのLiverpoolで行われたDistrict Nursingや,1870年ManchesterやSalfordの乳幼児保護事業に見られるHealth Visitorであろうとも言われているが,定説はない.

 日本の保健師活動の源流は,1910年代(大正中期)から1930年頃(昭和初期)にかけてのいくつかの社会事業の中に見出すことができるが,その後の合流によって,保健師事業はさまざまに変化して今日に至っている.

地域(現場)が求める保健師活動と保健師教育への期待―公衆衛生医師の立場から

著者: 田上豊資

ページ範囲:P.548 - P.551

はじめに

 近年,保健行政を取り巻く環境が激動する中,保健師活動の現場は一層混迷の度を増している.そうした中にあって,大学化とともに保健師教育の見直しが進められている.公衆衛生の現場で勤務する医師の立場から,わが国の公衆衛生行政の歴史的な変遷を振り返りながら,今,地域(現場)が求める保健師活動と保健師教育への期待を述べてみたい.

保健師教育の展望―日本公衆衛生学会“公衆衛生看護のあり方委員会”の提示したコアカリキュラムから

著者: 村嶋幸代

ページ範囲:P.552 - P.560

はじめに―制度疲労を起こしている「保看統合化カリキュラム」

 保健師教育は,目下,変革の只中にある.変革の原因は,看護系大学で従来行われてきた「保健師看護師教育統合化カリキュラムによる保健師教育制度が,時代の流れと共に持ち堪えられなくなった」という,看護学教育の制度疲労である.国家資格である「保健師」の教育を,今まで,看護系大学では,「看護師の幅を広げるために必要」という理由で,全員必修(卒業要件)にしてきた.一方で,看護教育を大学化することは看護界の長年の願いであり,近年,それは「看護系大学の増加」という形で実現してきている.

 筆者は,看護系大学の増加自体は良いことだと考えるし,看護師教育の幅を広げることにも勿論賛成である.しかし,「看護師教育の幅を広げるために,学士課程で保健師の免許教育を必須とすること」「保健師教育課程を大学の卒業要件とすること」は,弊害が大きすぎると考えている.その理由は,大学4年間の中に,国家資格である看護師教育と,同じく国家資格である保健師教育の両方を詰め込むことによって,看護師としても保健師としても中途半端にしか育たないからである.中途半端な教育は,学生にとっても,また,採用する側にとっても,大きな問題を引き起こす.さらに,免許に付託した国民の信頼を損なうという意味でも,やってはいけないことである.

 筆者らは,保看統合化カリキュラムについて,看護系大学が取らなければならない「根拠」を求めて,文部科学省にも足を運び,問い合わせた.わかったことは,保看統合化カリキュラムには,根拠法令は何もないということであった.近年,現場からも,保健師になる気のない学生が,「卒業要件である」ために大量に実習に来ることについての批判が高まり,ついに「大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会(中山洋子座長)第一次報告」1)(平成21年8月18日)で,『保健師教育については,大学による選択制の導入を可能とする』『学士課程において保健師教育の選択制を導入することに伴い,大学専攻科あるいは大学院において教育を実施する等の方策を通じ,その充実について考慮されるべきである』とされるに至った.

職能団体から見た保健師卒前教育のあり方

著者: 井伊久美子

ページ範囲:P.561 - P.565

看護教育制度改革の必要性

 「保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律を一部改正する法律案」が平成21年7月9日,第171回通常国会の衆議院本会議において全会一致で可決成立し,22年4月より施行された.この法改正は保健師,助産師,看護師の基礎教育の年限延長・充実であり,保健師助産師看護師の国家試験受験資格の改正は60年ぶりである.具体的には,看護師の国家試験受験資格として「4年制大学を卒業した者」が1番目に明記され,4年制大学卒業が基本となることが打ち出された.保健師・助産師についても,国家試験受験資格としての教育年限が6か月以上から1年以上に延長され,教育内容の充実が図られることとなった.看護職能団体としては,社会のニーズに対応するために看護基礎教育改革の必要性から,教育制度として検討し,法改正の実現に向けて取り組んできた.

 少子高齢化,疾病構造の複雑化や医療の高度化,チーム医療の推進などにより,看護師に求められる能力や需要は増大している.しかし,看護師基礎教育においては,抜本的改革は行われず,教育年限は60年近くそのままのため,実際のカリキュラムは超過密な状態であり,それでも実践力につながる基礎教育内容は十分ではないと指摘されていた.新人看護師の看護実践能力と医療現場の期待する能力とが大きくかい離し,医療安全という観点から問題であるばかりか,1年以内に1割近くの新人看護師が早期離職をするという,深刻な事態を招いている.

保健師の卒後教育,現任教育のあり方

著者: 佐伯和子

ページ範囲:P.566 - P.570

はじめに

 就業保健師数は,平成20年末就業届出では43,446人である.平成21年度保健師活動領域調査1)では,地方自治体の常勤保健師数は31,699人である.保健師の就業分野は,介護保険などの福祉分野,産業分野へと拡大し,一方では,非常勤での勤務者が増加している.健康課題の複雑化・困難化,雇用形態の多様化により,保健師の現任教育の課題は多様化している.

 保健師の現任教育体制は,平成14年度地域保健従事者の資質に関する検討会報告書2)以降,徐々に整備されつつある.保健師活動基盤調査3)によると,新任研修の受講経験は全体で8割,20代前半では9割であり,新任研修は浸透してきた.しかし中堅研修は約1/3,管理研修は約1/2の者に受講機会がなかった.現任教育の重要性は認識されてきたが,教育体制の整備と指導者の育成が課題である.

 本稿では,保健師の卒後教育および現任教育の重要な課題として,新任期の卒後研修制度と現任教育,地区活動が展開できる中堅期の育成,人事管理・組織管理ができる管理者の育成,指導者育成と現任教育を推進するOJT体制の構築に向けての活動について述べる.

イギリスにおける保健師教育の現状―卒前・卒後教育

著者: 岡本玲子

ページ範囲:P.571 - P.575

保健師のアイデンティティを育てて卒業させること

 日本では,保健師国家試験合格者のうち大卒者の割合が90%を越えており,保健師供給における看護系大学の責任は大きい.しかしすべての看護系大学は,平成22年度入学生まで,文部科学省の指導の下,保健師看護師統合化カリキュラムを実施してきた.この体制は,看護師が幅広い視野を持って育成されることには貢献したものの,保健師として就労する者にとっては多くの課題をもたらした.それは,教育期間,とりわけ実習の不足による実践能力の低さ,自信のなさやリアリティーショック,そして何と言っても保健師のアィデンティティが育まれていない,という課題である.

 英国では,大学での看護師(助産師)教育課程を終え,その免許を取得し,多くは数年の看護師(助産師)としての経験を経てから,保健師の教育課程に進み,免許を取得する.看護職数の日英比較を見ると(表1),英国の保健師数は日本の1.4倍程度であることがわかる.その「保健師:Specialist Community Public Health Nurse(通称SCPHN:スカフン)」の免許は,自分でその進路を選んだ者が,選抜されて教育課程に入り,国の専門能力基準を満たす実力に至ったという大学の評価を受けて,ようやく得られるものである.保健師になりたいという時点でその者には志向性がある.さらに入試において,統計の試験や,与えられた公衆衛生の課題に対する口頭発表,小論文等を経て,選ばれて入学する.この時点ですでにアィデンティティが芽生える準備万端である.保健師の免許はおまけではなく,目的意識を持った者が,この後述べるような1年間の学習を積み上げ,獲得する.

保健師教育の現状と課題:保健師学生,保健師を受け入れている立場から

著者: 森岡幸子

ページ範囲:P.576 - P.579

はじめに

 医師の養成のためには,患者と研修病院が必要である.同様に,保健師の養成には,地域の人々と活動事例,そして地域実習が行える保健所・保健センターの実習施設の確保が必要である.実習の場だけでなく,そこでの一定期間の実習が必須となる.しかし,近年,養成者数は需要をはるかに超えており,深刻な実習施設の不足を引き起こしている.その上,地域看護実習の単位が他の科目で読み替えられるなど,保健師養成の質保証に負の影響を及ぼしている.

 保健師の専門性は,保健師助産師看護師法には「保健師の名称を用いて保健指導に従事することを業とする」と明記され,法律制度に依拠するのではなく,対象者または対象地域の様々な健康課題を中心とした相談・支援を含めた地域活動によって生ずる.したがって,実践者として地域活動ができる保健師の養成が求められている.保健師教育においては,保健師による地域活動のイメージが持て,地域活動の責任性の理解と態度の形成ができるよう,教育カリキュラムや実習体験が保証されなければならない.

 専門職業人教育に対して各種の職業高校や専門学校が社会的需要を満たしていた時代から,一律大学において職業人養成がなされるようになった.看護師・保健師の養成が大学教育で行われるようになったことは,良い面もある半面,マイナス面もあることは否めない.近年,マイナス面が現場の活動に与える影響を看過できなくなってきた.今こそ危機感を持って,保健師教育のあり方や現任教育を再考していく必要がある.

地域で求められる保健師活動―自治体におけるこどもの地域支援活動

著者: 新堀嘉代子

ページ範囲:P.580 - P.583

 横浜市都筑区は,平成6年の再編により誕生し,平成21年に区政15周年を迎えた.横浜市の中でも平均年齢38.3歳と最も若く,15歳未満の年少人口比率が高い特徴がある(図1).従来から子育て支援を区の重点施策として取り組んでいる.乳幼児から学齢期,青少年期(18歳未満)までの福祉,保健,教育等の総合的・一貫した支援体制を構築するため,平成21年度こども家庭支援課に学校支援・連携担当を設置し,組織機構の体制を強化した.

 本稿では,平成21年度に策定した「都筑区こども・青少年育成計画」を紹介し,子育て支援に関わる保健師の役割について述べる.

地域で求められる保健師活動:NPOにおける実践活動から

著者: 毛受矩子

ページ範囲:P.584 - P.587

はじめに

 わが国は今,合計特殊出生率1.37と少子化時代を迎え,世界でも代表的な出生率低下国の1つとして挙げられている.一方で,女性の平均寿命は世界一の86.05歳となり,数年後,団塊世代が高齢期に突入する時代には,これまた世界に類を見ない超高齢社会を迎えることになる1).そして今,約1千万人の団塊世代は,社会から退職し,地域社会に入る時代を迎えている.団塊世代の保健師もその1人である.

 本稿では保健師がNPO設立に至った経緯から,またNPOにおける実践活動から見えてきた健康課題を通して,地域で求められる保健師活動と保健師教育について再考してみたい.

視点

森と木と―「公衆衛生」をめぐって

著者: 西正美

ページ範囲:P.540 - P.541

 旧聞に属するが,「伝染病予防法」が改正されようとしていた頃のことである.

 感染症の拡大防止策として,旧法の制定時代では,感染症の種類やその致命率の高さなどの要因も考慮すれば,患者隔離が最も効果の期待できる方策であった.自然治癒力に期待するしかなかった当時と,今日の医療状況は隔世の感のあることは論を俟たない.社会状況も,高速交通機関が発達し,人間や社会の相互接触の度合いが格段に広がった現代では,旧法は実情に合わないことは明白であった.

トピックス

CPH(Certified in Public Health:公衆衛生師)とは何か

著者: 井上美喜子

ページ範囲:P.588 - P.591

はじめに

 Master of Public Health(MPH)という称号はよく見かけるが,Certified in Public Health(CPH)をご存じの方はそんなに多くはないだろう.CPHはMPHを修了し公衆衛生試験委員会(The National Board of Public Health Examiners)が主催する公衆衛生師検定試験(Public Health Exam)に合格すると与えられる称号である.

 本稿は,はじめに私の母校であるSan Jose State University(SJSU)のMPHプログラムを紹介し,そこでの経験を述べた後,CPHについて詳しく紹介していきたい.これをきっかけに多くの方々が公衆衛生学に興味を持ち,CPHの受験を希望するきっかけになればと願っている.

連載 人を癒す自然との絆・12

緑の力を生かした人と地域再生の試み

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.592 - P.593

 この原稿を書いている4月は,冬の間静まり返っていた庭や畑が目覚め,命の息吹で満たされる季節.今回は,緑の力を生かした人と地域再生の試み「ガーデン・プロジェクト」について書きたい(前号の本欄「薬物からの解放のメタファー」でも簡単に触れている).

 サンフランシスコ郡刑務所の中にオフィスと畑を持つガーデン・プロジェクトは,1984年に刑務所の園芸プログラムとして始まり,1992年には独立したNPOになった.創始者は刑務所のカウンセラーだったキャサリン・スニードという女性.自分がカウンセリングをとおして関わった人たちの多くが,またすぐに再犯で戻ってくるのを見るうち,再犯防止にはその人の生き方を変えるための包括的なサポートシステムが必要であることを痛感するようになった.そこで,薬物依存の受刑者たちとともに刑務所内に畑をつくって,オーガニックの野菜づくりを始めたのである.オーガニック農業が薬物依存の人たちにとって解放のメタファーとなることは,前号で書いたとおりだ.

保健所のお仕事―健康危機管理事件簿・4

集団胃腸炎への対応―(平成14年度)その4(解決編)

著者: 荒田吉彦

ページ範囲:P.595 - P.598

 4月の人事異動で保健所を離れました.「保健所のお仕事」と題する連載を始めた矢先に異動になるとは,皮肉なものです.しかし,どこに所属していても,引き続き保健所のPRと応援に努めたいと考えていますので,今後ともよろしくお願いいたします.

 私の新しい職場は道庁の医師確保推進室です.北海道でも,地域医療に従事する医師を確保することは,道政上の重要課題とされています.広い北海道では,医師不足のために存続の危機に瀕している医療機関が多数あります.皆さんの身近に,北海道の市町村立病院,診療所等に勤務してみたいと考えている方がいらっしゃいましたら,ぜひ私あてご連絡ください.

 さて,前回「その3」まで続いてきた集団胃腸炎への対応,いよいよ「その4(解決編)」となります.ご愛読いただいている方がどの程度いるかわかりませんが,この回を読んで,少しでもスッキリしてもらえたら幸いです.

働く人と健康・19―診療所医師の立場から・1

「外国人労働者」とは誰か?

著者: 沢田貴志

ページ範囲:P.599 - P.602

はじめに

 私が勤務している港町診療所は,横浜の港で働く人々の健康問題に対応できる医療機関をめざして,1979年に開設された.以来,労働災害や職業病への対応に力を入れてきたが,1990年代からは外国人が多数訪れる診療所としてより知られるようになってしまった.これは,高度成長期に多数雇用されていた外国人労働者が,労働災害に被災し当診療所を訪れることが相次いだことを機会に,健康保険のない外国人も積極的に治療を行うように取り組み始めたためである.この結果,これまでに1万人以上の外国人を診療することとなった.

 日本で働く様々な外国人労働者の診療にあたってきた立場から,外国人労働者の健康問題について,本稿から3回にわたって話題提供したい.

地域保健従事者のための精神保健の基礎知識・7

一般住民中の精神疾患および精神保健的問題

著者: 立森久照

ページ範囲:P.603 - P.606

はじめに

 精神保健の問題は,国民健康の大きな課題と言われています.では地域における精神疾患や精神保健の問題は,どれほどの大きさなのでしょうか.

 例えば,今日本に精神疾患を有する人は何人ぐらいいるのでしょうか.そうしたことについての情報は,断片的に目にする機会は多いと思いますが,研究者や行政関係の方を除いてはまとめて情報を得る機会はあまりないのではないでしょうか.

 そこで本稿では,精神疾患に加えて自殺やひきこもりのように,それ自体は精神疾患ではありませんが精神疾患との関連があり,精神保健の観点からも対策が必要であると考えられるものについて,それらが日本の地域住民においてどのぐらい存在し,それが社会にどれだけ影響があるのかを,量的な側面から見てみたいと思います.こうした情報は,個々の地域住民に対して,ふさわしい精神保健的な支援を具体的に考える上では直接役立つものではありませんが,地域全体,もしくは日本全体の精神保健の戦略を考える上では,どうしても必要なものです.

保健師さんに伝えたい24のエッセンス―親子保健を中心に・16

地域保健と予防接種

著者: 平岩幹男

ページ範囲:P.607 - P.611

親子保健と予防接種

 親子保健の領域では,感染症の予防という点から見て予防接種は大切なものです.重症感染症の予防は子どもたちの生命にとっても,また医療経済学的に見ても,明らかに効果があることが証明されており(残念ながら証明の多くは海外のデータですが),定期予防接種が行われています.

 しかしながら,国際的には日本はワクチン後進国と位置づけられており,世界では当たり前に使用されているワクチンがなかなか認可されなかったり,高額の自己負担を伴ったりするという現状もあります.今回はこうした現状とともに,現在使用されているワクチンの問題点についても触れてみたいと思います.

トラウマからの回復―患者の声が聞こえますか?・4

夢叶えても,レ・ミゼラブル!?

著者: 進藤啓子

ページ範囲:P.612 - P.615

 2001年9月に,夫と2人だけの小さな一軒家のフレンチ・レストランをオープンしました.私が17歳の時に,アルバイト先で知り合った1歳年上の夫と夢みて,90年頃から本格的に計画を立て,97年に古民家を購入,その後3年間で開業資金を貯め,やっとの思いで開店に漕ぎ着けました.店は開店後すぐに雑誌で取り上げられ話題の店となり,私は幸せの絶頂にいました.

 でも,その代償に,お客様の評価やマネジメントのプレッシャー,肉体疲労から精神的に不安定となり,夫とも喧嘩が絶えなくなりました.営業時間中からワインを飲むようになり,営業終了後も毎日ボトル1本以上を飲むアルコール依存状態になっていき,心身ともに衰弱していきました.不眠で04年10月に精神科に行き薬を処方してもらいましたが,「これじゃ治らない」という漠然とした不安がありました.その後,しばらくは多行動(仕事・スポーツ・語学・旅行等)で気を紛らわせますが,ますます症状は悪化し,息苦しさや窒息感,突然涙が溢れ出すなどのパニック症状も現れ始めました.言いようのない寂しさが襲ってきて,そして06年の2月にどうにもならなくなり,“底つき”状態になったのです.

リレー連載・列島ランナー・16

独立系産業医の活動

著者: 林田耕治

ページ範囲:P.616 - P.618

 ダイハツ九州株式会社の垣内紀亮先生からバトンを受けました.垣内先生は3,000人を超える大きな事業場の専属産業医としてご活躍です.筆者は嘱託産業医として,複数の中小規模事業場で産業医を担当しています.

 本稿では,嘱託産業医を生業とする独立系産業医の活動について,ご紹介させていただきます.

お国自慢―地方衛生研究所シリーズ・4

滋賀県衛生科学センターの機能と活動

著者: 林賢一 ,   苗村光廣

ページ範囲:P.619 - P.622

 最近,研修などで当所を訪れる方々に対して,滋賀県衛生科学センターの紹介をするとき,「滋賀県衛生科学センターの機能と活動」というタイトルで説明している.組織の使命を果たすため,常に動いているという意識を持ち続けたいという“思い”からである.

 当所の自慢は,何と言っても“滋賀県衛生科学センターで働いている28名の職員”である.今後とも自慢の職員が,日常業務の他,種々の緊急対応に応えてくれることと確信している.

 さて,与えられた命題に対しての答えは“これで終わり”と思うが,これだけでは当所の紹介ができていないので項目を起こして書き足したい.

衛生行政キーワード・66

国立高度専門医療センターの独立行政法人化および(独)国立病院機構の現状について

著者: 前田彰久

ページ範囲:P.623 - P.626

 平成22年4月1日現在,いわゆる「国立病院」としては,6つの国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)に所属する8病院,国立病院機構に所属する144病院,国立ハンセン病療養所の13病院がある.

路上の人々・7

人は誰のために生きるのか

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.629 - P.629

 室内に倒れていたTさんが,緊急入院で特別室に運ばれてきた時の驚きは,今も鮮明に思い出す.左右の耳は原形を失い,ケロイド状になって耳穴だけが残っている.顔全体がケロイド状になって顎の肉も溶け,引きつるように首に繋がっている.右手の親指はなく,火傷の痕だけが鱗のようにケロイド状になって引きつっている.緊急を要する病状は,栄養失調,高血圧,肝障害など,病気を一身に集めたような人だった.衣類は汚れきり,野宿生活の長さを物語っていた.崩れるようにベットに横になったTさんの口から,言葉が出た.

 「5年前,千葉でボイラーの仕事をしていたとき,ボイラーが爆発し,吹き飛ばされて大火傷をした.この火傷のために,俺の人生は大きく狂い,絶望的なものに変えられた.この姿では故郷に帰れず,でも何とか自力で生きてきた.だがもう,力尽きたよ.俺の体はぼろぼろだ」

列島情報

上司に受けてほしい研修

著者: 日置敦巳

ページ範囲:P.547 - P.547

 公衆衛生とは少し離れるが,県の職員研修所が職員研修後に行った「これからの研修の希望」についてのアンケート調査結果について紹介する.特に興味が持たれるのは,「上司に受けてほしい新たな研修メニュー」への回答である.従来の「部下指導」「危機管理」「コミュニケーション能力」「リーダーシップ」「コーチング」「折衝交渉力」「目標管理・進行管理」に加えて,どのような研修を希望するかというものである.

 部次長級の上司に受けてほしい研修としては,「パワーハラスメント(29.4%)」「調整能力(27.8%)」「タイムマネジメント(17.1%)」の順であった.部次長級は該当者数が少なく,アクティビティの高い人が就任することが多いため,一部は納得できる結果とも思われる.しかしながらこうした結果は,例えば県の職員が市町村の職員や県民に対しての文書や応対で,あるいは県庁の職員が出先機関の職員に対しての応対で参考にすべきこととして有用と考える.上意下達の名残が慣習となって当然のように行われているものが散見される.

沈思黙考

日米の社会保障比較

著者: 林謙治

ページ範囲:P.565 - P.565

 プライマリ・ヘルスケアの考え方は一世を風靡した.アメリカでは標準版とされるLast教授編の公衆衛生の教科書には初期医療の意味であるプライマリ・ケアは繰り返し出てくる.他方,プライマリ・ヘルスケアについてはWHOの提唱ということで若干紹介されており,わずかなページしか割かれていない.これに比べ,イギリスの『Oxford Textbook of Public Health』ではプライマリ・ヘルスケアの解説が大変詳しい.この違いは両国の公衆衛生の発展過程を反映しているように思える.かつてプライマリ・ヘルスケアの提唱者であったWHO事務局長マーラ氏の片腕であったジョン・ホプキンス大学のTaylor博士は,大学から余儀なく退職させられたことを知る日本人は少ない.

映画の時間

一瞬でもいい.もう一度会いたい. 瞬 またたき

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.575 - P.575

 家族や恋人など,身近な人を亡くした場合に「複雑性悲嘆」という症状が起こることがあります.いわゆる「うつ」状態を呈するものの,「うつ病」とは治療薬剤などが異なっています.自死遺族対策などでも,この複雑性悲嘆への対応が課題のひとつですが,今月ご紹介する「瞬 またたき」では,主人公がこの複雑性悲嘆の状態にあると思われ,公衆衛生的にも興味深いものがあります.

 主人公・泉美(北川景子)は,生気のない生活を送っています.彼女は交通事故に遭ったようで,徐々にその事故の概要が明らかになってきます.恋人・淳一(岡田将生)の運転するバイクでツーリング中に交通事故に巻き込まれ,恋人は死亡,彼女は意識不明になりながらも一命をとりとめたのでした.身体的な傷は癒えたものの,精神的な後遺症に苦しむ主人公は,定期的に精神科のクリニックに通院しています.自分は生き残り,最愛の恋人は事故死したにもかかわらず,事故のときの記憶が欠落している主人公に対して,主治医(田口トモロウ)は無理に事故の記憶を呼びさまそうとせず,時間をかけて治療していくことを勧めます.恋人との最後の瞬間を思い出したい泉美は,クリニックで知り合った弁護士・真希子(大塚寧々)に,事件の詳細を調査してくれるように依頼します….

予防と臨床のはざまで

iPadがやって来た!

著者: 福田洋

ページ範囲:P.594 - P.594

 また,やってしまいました(汗).オンラインストアの禁断のボタン「すぐに予約する」をポチッと….ニュースの行列報道でもおなじみのiPad(http://www.apple.com/jp/ipad/)ですが,ネットで予約後,予告通り5月28日に自宅に届きました.当日は産業衛生学会で福井におりましたので,学会参加中にアップルから「発送しました」のメールが届き,ソワソワしてしまいました.

 iPadには,無線LANのみ使用可能なWifi+64GBモデルと,ソフトバンクの携帯電話ネットワークが使える3Gモデルがあります.私はvol.73でご紹介したイーモバイルのPocket WiFiを用いて,すでに「いつでもどこでもインターネット」ができる状態にありますので,Wifiモデルを購入しました.

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あとがき フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.630 - P.630

 保健師は,社会のすべての人々を対象として活動する職種であると考えています.ところが近年,対象者を限定的に捉えた活動形態となっていることは,保健師活動らしくないと気がかりに思っています.

 ところで,ハンセン病・結核病の対策と保健師の関係は興味深いと思っています.ハンセン病対策は警察官または官吏が患者に対応されていましたが,これに対し結核患者に対しては保健所が設けられ,「保健師」が配置され,患者に対応する制度がつくられました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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