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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生74巻7号

2010年07月発行

文献概要

特集 現場が求める保健師教育

保健師教育の展望―日本公衆衛生学会“公衆衛生看護のあり方委員会”の提示したコアカリキュラムから

著者: 村嶋幸代1

所属機関: 1東京大学大学院医学系研究科地域看護学

ページ範囲:P.552 - P.560

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はじめに―制度疲労を起こしている「保看統合化カリキュラム」

 保健師教育は,目下,変革の只中にある.変革の原因は,看護系大学で従来行われてきた「保健師看護師教育統合化カリキュラムによる保健師教育制度が,時代の流れと共に持ち堪えられなくなった」という,看護学教育の制度疲労である.国家資格である「保健師」の教育を,今まで,看護系大学では,「看護師の幅を広げるために必要」という理由で,全員必修(卒業要件)にしてきた.一方で,看護教育を大学化することは看護界の長年の願いであり,近年,それは「看護系大学の増加」という形で実現してきている.

 筆者は,看護系大学の増加自体は良いことだと考えるし,看護師教育の幅を広げることにも勿論賛成である.しかし,「看護師教育の幅を広げるために,学士課程で保健師の免許教育を必須とすること」「保健師教育課程を大学の卒業要件とすること」は,弊害が大きすぎると考えている.その理由は,大学4年間の中に,国家資格である看護師教育と,同じく国家資格である保健師教育の両方を詰め込むことによって,看護師としても保健師としても中途半端にしか育たないからである.中途半端な教育は,学生にとっても,また,採用する側にとっても,大きな問題を引き起こす.さらに,免許に付託した国民の信頼を損なうという意味でも,やってはいけないことである.

 筆者らは,保看統合化カリキュラムについて,看護系大学が取らなければならない「根拠」を求めて,文部科学省にも足を運び,問い合わせた.わかったことは,保看統合化カリキュラムには,根拠法令は何もないということであった.近年,現場からも,保健師になる気のない学生が,「卒業要件である」ために大量に実習に来ることについての批判が高まり,ついに「大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会(中山洋子座長)第一次報告」1)(平成21年8月18日)で,『保健師教育については,大学による選択制の導入を可能とする』『学士課程において保健師教育の選択制を導入することに伴い,大学専攻科あるいは大学院において教育を実施する等の方策を通じ,その充実について考慮されるべきである』とされるに至った.

参考文献

1) 大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会 第一次報告(平成21年8月18日) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/40/toushin/_icsFiles/afieldfile/2009/08/18/1283190.pdf
2) 村嶋幸代:連載 保健師助産師看護師法の改正と保健師教育の展望(1)保健師教育の問題点と日本公衆衛生学会「公衆衛生看護のあり方委員会」の活動.日本公衛誌56(9):692-696,2009
3) 日本公衆衛生学会公衆衛生看護のあり方に関する検討委員会:「保健師のコアカリキュラムについて」中間報告書.日本公衛誌52(8):756-764,2005
4) 麻原きよみ,他:保健師教育機関卒業時における技術項目と到達度.日本公衛誌57(3):184-193,2010
5) 安齋由貴子:連載 保健師助産師看護師法の改正と保健師教育の展望(3)「大学における保健師教育課程の問題点―卒業時の到達度の観点から」.日本公衛誌56(11):821-824,2009
6) 田沼寮子,他:保健師の育成のための教育の技術項目と授業・実習修了時の到達度からみた学生の学び.お茶の水看護学雑誌4(2):26-33,2009
7) 厚生労働省:看護教育の内容と方法に関する検討会(第1回:平成21年4月28日) http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/04/dl/s0428-8a.pdf
8) 保育師実習―看護系大学急増に疲弊する現場:北海道,大阪など自治体で学生受け入れ制限の動き.週刊保健衛生ニュース1547:29-38,平成22年3月1日
9) 村嶋幸代:修士課程における保健師教育の必要性と実際.保健の科学52(4):234-240,2010
10) 佐伯和子:連載 保健師助産師看護師法の改正と保健師教育の展望(4)実践力の構造に基づく保健師教育のカリキュラム:高度専門職業人の養成.日本公衛誌56(12):897-901,2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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