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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生75巻1号

2011年01月発行

雑誌目次

特集 ヒトと家畜・ペット・野生動物の感染症―口蹄疫から学ぶ

近年のチクングニア熱の流行状況

著者: 林昌宏 ,   高崎智彦

ページ範囲:P.39 - P.42

はじめに

 チクングニア熱はチクングニアウイルスを原因とする蚊媒介性急性熱性ウイルス性疾患である.時に激しい関節痛,発疹を伴う.近年,アフリカ,南アジア,東南アジアの熱帯・亜熱帯地域を中心に流行が認められている.2006年には日本において初めての輸入症例が確認され,以後2010年10月までに計18例の輸入症例が確認されている.また2007年にはイタリアにおいて温帯地域で初めての流行が確認され,さらにフランスにおいても2010年9月に国内流行が発生した.イタリア,フランスにおけるチクングニア熱の国内流行は,日本にも生息するヒトスジシマカにより媒介されているため,チクングニアウイルスの日本への侵入,定着の可能性は否定できない.現在「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律」で4類感染症に指定されるべく手続きが進行中である.4類感染症に指定された場合,当該患者を診断した医師はただちに保健所を経由して都道府県知事に届け出ることが求められる.

E型肝炎

著者: 石井孝司 ,   李天成

ページ範囲:P.43 - P.46

歴史とウイルスの性状

 1955年,インドのニューデリーで飲料水を介した大規模な急性肝炎が発生し,黄疸性肝炎と診断された症例だけでも29,000人に及んだ.これがE型肝炎に関する最初の学術的記述である1).1983年のBalayanによるボランティア実験により,この非A非B型肝炎が糞口感染により伝播することが証明され,また患者の糞便中には直径27~30nmのエンベロープを持たない小型の球形ウイルス粒子が観察された2,3).1990年にReyesらは感染サルの便と胆汁からcDNAのクローニングに成功し,このウイルスをE型肝炎ウイルス(hepatitis E virus:HEV)と命名した4)

 HEVは小型球形のウイルスであり,その粒子の直径は約30nmである(図1).HEVのゲノムは約7.2Kbのプラス一本鎖RNAで5’末端にはcap構造が,3’末端にはポリアデニル酸が付加されている.HEVの遺伝子上には3つのopen reading flame(ORF1,ORF3およびORF2)が5’末端から一部重複しながら配列している5).約5,000塩基のORF1は非構造蛋白をコードし,ORF2は72kDaの構造蛋白をコードする.ORF3はORF1とORF2の間に位置する(図2).多くの株が解析され,HEVには少なくとも4つの遺伝子型(Genotype)が存在することが明らかになっている(図3).HEVは2004年にヘペウイルス科(Hepeviridae),ヘペウイルス属(Hepevirus)に分類された6)

ペット(イヌ・ネコ)と動物由来感染症

①カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症

著者: 鈴木道雄

ページ範囲:P.26 - P.27

病原体

 カプノサイトファーガ属菌は糸状のグラム陰性桿菌であり,二酸化炭素要求性および寒天培地上での滑走能を有し,栄養要求性が厳しく成育が遅いことが特徴である1).現在8種が知られており,そのうち6種はヒトの口腔内常在菌で,それ以外の2種,Capnocytophaga canimorsusC. cynodegmiがイヌ・ネコの口腔内常在菌である.どちらもヒトに対して病原性を有するが,ヒトの重症例のほとんどはC. canimorsus感染によるものである.国内の調査ではイヌの74%,ネコの57%がC. canimorsusを保有していた2)

②コリネバクテリウム・ウルセランス感染症

著者: 岩城正昭

ページ範囲:P.28 - P.30

 コリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans)はジフテリア様疾患の原因菌として先進国で近年注目を集めている.感染症法上(2類感染症)のジフテリアは,ジフテリア菌Corynebacterium diphtheriaeを原因菌とし,終戦直後には年間の患者数が1万人以上を数えたが,その後ワクチンの普及,衛生状態の向上により抑えられ,現在わが国では年間の患者数は1人以下である.1999年以来患者の届出はない.

 一方,それに代わるようにして,コリネバクテリウム・ウルセランス感染症が国内で見られるようになった.2001年に最初の発生が認められ,以来2009年までに6例を数える.

野生動物と動物由来感染症

①つつが虫病と日本紅斑熱

著者: 馬原文彦 ,   藤田博己

ページ範囲:P.31 - P.35

はじめに

 わが国に存在するリケッチア感染症としてはつつが虫病と日本紅斑熱が主となる.本稿では再興感染症としてのつつが虫病,新興感染症としての日本紅斑熱について詳述した.2007年の感染症法改正では,新たにロッキー山紅斑熱が第4類届出感染症とされた.人と物が大量に移動する時代にあって,日本国内のみでなく,グローバルな視点からのリケッチア感染症を視野に,節足動物を介する動物由来感染症としての認識も必要である.

②ダニ媒介性脳炎

著者: 苅和宏明 ,   好井健太朗 ,   高島郁夫

ページ範囲:P.36 - P.38

はじめに

 ダニ媒介性脳炎(tick-borne encephalitis:TBE)は,ダニ媒介性脳炎ウイルス(tick-borne encephalitis virus:TBEV)によって引き起こされる人獣共通感染症で,重篤な脳炎を主徴とする.わが国ではTBEの発生は稀ではあるが,ウイルスが常在していることが明らかになっている.世界的には年間6,000名以上の患者発生がある.本稿では,TBEについて疫学を中心に概説する.

視点

喫煙対策と肥満対策に思う

著者: 大島明

ページ範囲:P.2 - P.3

 健康日本21のスローガンは「1に運動,2に食事,しっかり禁煙,最後にクスリ」であるが,喫煙と肥満は,日本だけでなく,発展国と途上国を問わず,世界の人々の健康への大きな脅威である.

トピックス

「川崎病の子供をもつ親の会」保健文化賞を受賞

著者: 浅井満

ページ範囲:P.48 - P.49

はじめに

 1967年に川崎富作先生(当時日赤中央病院)によって報告された川崎病は原因不明のまま増え続けており,この4年間,日本において毎年1万人を超える発症があり,2008年の罹患率(0~4歳人口10万あたりの年間患者数)は過去最高になってしまいました1)

 また,日本における発症がなぜか圧倒的に多いのですが,今や世界60か国以上の国,地域で報告されています2).地球のどこにも川崎病児がいて,悲しむ親がいるという現状です.

連載 人を癒す自然との絆・18

成長の庭

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.50 - P.51

 この夏から,カリフォルニアにある「シエラ・ユース・センター」(以下,シエラ)という少女のための更生施設に通っている.10年ほど前にも何度か取材に通ったことがある場所だが,その当時は少年が中心の施設だった.それが,3年前からは少女の施設に変わり,少年とはまた違った課題を抱える少女の社会復帰支援にフォーカスするようになった.日本と同様,アメリカでも少女のための更生施設は数少ないため,シエラは貴重な存在だ.

 シエラの収容人数は17人.麻薬や凶器の不法所持,窃盗,恐喝,喧嘩などの罪を犯した12~18歳までの少女たちが収監されている.機能不全や低所得の家庭に育ち,虐待やネグレクトを経験した子が多い.そんな彼女たちへの教育のなかでシエラがもっとも重視するのは,セルフ・エスティーム(自己肯定感)を築くこと,家族関係を改善すること,学力をつけさせること,そして自分の行動に責任を持たせること,の4点だ.そのために,学業の他に,ファミリーセラピーやアルコール/薬物依存者の自助ミーティング,性的虐待の犠牲者へのカウンセリング,ガールスカウトによる野外活動や奉仕活動への参加,ヨガなど,多彩なプログラムを行っている.

保健所のお仕事─健康危機管理事件簿・10

新型インフルエンザへの対応(平成21年度)その3

著者: 荒田吉彦

ページ範囲:P.52 - P.55

 エンディングノートを買いました.

 ご存知の方が多いと思いますが,「まさかの時」に備えるノートです.もっと平たく言えば,私が死んだ時に残された人に伝えるべきことを書いた記録のことです.実は,数年前に父を亡くした時,どこに連絡していいのか,何の保険に入っているのか,次から次へとわからないことが続出し,家族で様々な書類をひっくり返すはめに陥りました.こういう時のための必要なメモを集約したものが,エンディングノートです.

 ところが,いざ自分で書き始めると,家系図が書けませんし,住宅ローンも生命保険も十分に把握していないことがわかりました.さらに,葬儀についての希望やパソコン・携帯電話のデジタルデータの処分等も,これまで真剣に考えたことがありませんでした.“これじゃあ,簡単に書けないじゃないか”.せっかく買ったノートです.このノートを全部書き終わるまでは死ねないということがわかりました.

保健師さんに伝えたい24のエッセンス―親子保健を中心に・22

思春期の性の問題点

著者: 平岩幹男

ページ範囲:P.56 - P.59

 思春期の性の問題を考えるときに,その時代の社会的背景は避けては通ることができません.わが国での思春期を対象とした性教育については次回お話ししますが,性教育一つをとってもその必要性が叫ばれた10年前には正確な情報を与えることについて,社会からの追い風もありました.しかし数年前からは「教えることが性行動を誘発する.なぜそこまで教えるのか」という気運が高まり,性教育は危地に立たされています.実際に子どもたちの性の問題に対応する場合には,こうした建前と現状,すなわち本音との間で違和感を覚えることもあります.

 したがって性の問題を考えるときには,その社会的な背景や,社会的な合意のあり方についても,認識する必要があることになります.たとえば30歳の男女が性交渉をするとしたら,反社会的要素がない限り誰も不思議には感じないと思いますが,これが15歳の男女の性交渉であれば,現実にはそうした事態は少なくないにもかかわらず,違和感を覚える人が多いと思います.しかしわずか100年前のわが国では,15歳同士の性交渉はごく一般的なことでした.以前に思春期の子どもたちの性交渉がなぜ問題かということを,中学校3年生の子どもを持つ母親を対象として調査をしたことがあります.性交渉は認めがたいという結論は100%でしたが,その理由としては,経済的に自立できていない,身体的に負担がかかる,子どもが生まれても責任ある社会生活が送れないことなどでした.しかしこれらの理由は個々にはクリアーすることができますから,本当は個人の価値観だけで決めてしまうのではなく,社会として対応する基本的な合意が必要であり,それに基づいた対応が行われるべきであると思われます.そうでなければ,実際に問題を抱えてしまった子どもたちが非難されたり,困難に直面したりするという状況を変えることはできません.

トラウマからの回復─患者の声が聞こえますか?・10

“被害者”をやめたら,前に進みたくなった

著者: 橋本寛子 ,   麻生英子

ページ範囲:P.60 - P.63

旅先で被害に

 橋本寛子さんが性被害に遭ったのは,11歳のときだった.当時,寛子さんの一家は,母親の姉夫婦とごく近所に暮らしており,1つの家族のように生活していた.寛子さんは姉,弟に挟まれた第2子で,父の関心は姉に,母の愛情は弟に注がれていたと感じており,伯母夫婦を慕っていた.叔父も息子しかいなかったからか,寛子さんをとても可愛がっていた.しかし,その叔父がSA(sexual abuse)の加害者となった.

 「小学校6年生の夏休み,叔父の実家を訪ねる九州旅行に同行したときに,その事件は起こりました.その時,なぜか伯母は一緒に行かず,叔父,叔父の長男,私,弟の4人でした.初日の夜,叔父は私のふとんに入ってきて,胸を触り,腟に指を入れてきました.性器の挿入の手前までいったところで私は逃げ出しました.旅行の残りの数日が苦痛でなりませんでした.お風呂に一緒に入ることを拒絶すると,ものすごい剣幕で怒られました.九州からの帰りの電車で,“おじちゃんが触ったことは,両親にも誰にも言ってはいけないよ”という内容の手紙をもらい,すごく恐ろしく感じました」.

リレー連載・列島ランナー・22

県職員に対する健康管理対策の取り組み―初めて保健師が配属された部署における活動

著者: 菊地とも子

ページ範囲:P.64 - P.68

 先月号の執筆者である徳島県三好保健所の梅田さんからバトンを受け取りました.

 彼女とは,筆者が福島県職員の健康管理部署に保健師第1号として初めて配属され,健康管理体制をどのように構築していけばよいか悩みながら勤務していた頃,同じ立場で,事務職の中で「専門職1人の職場」を乗り切った保健師仲間でした.

お国自慢─地方衛生研究所シリーズ・10

無毒大麻「とちぎしろ」の開発―栃木県保健環境センター

著者: 黒﨑かな子

ページ範囲:P.69 - P.71

 大麻は,麻繊維の原料として栃木県内で古くから栽培されてきた植物であるが,昭和40年代以降マリファナ等の原料として注目を集め,栽培農家では盗難などの問題に悩まされていた.

 この問題を解決するため,栃木県衛生研究所(現栃木県保健環境センター)と栃木県農業試験場が協力して研究開発したのが,無毒大麻「とちぎしろ」である.

 本稿では,この「とちぎしろ」の開発と,当研究所の関わりについてご紹介したい.

衛生行政キーワード・72

チーム医療の推進について

著者: 石井安彦

ページ範囲:P.73 - P.75

 近年,医療の高度化・複雑化に伴う業務の増大や高齢化による合併症患者の増加等に対応するため,チーム医療の推進は必須となっている.これまで,厚生労働省においては平成14年には看護師等が診療の補助として静脈注射を実施できること,平成19年には病院勤務医師等の厳しい勤務環境を背景に,事務職員による書類作成の代行,看護職員による薬剤の投与量の調整,救急医療等における診療の優先順位等の決定が可能であることや,薬剤師によるミキシングや与薬等の準備を含む薬剤管理の実施などについて,積極的な役割分担を行うことにより医療安全の確保及び医師等の負担の軽減が可能となることを医政局長通知により示した.

 このような状況を踏まえ,更にチーム医療を推進するため,日本の実情に即した医師と看護師等との協働・連携のあり方について検討を行うことを目的に,平成21年8月に「チーム医療の推進に関する検討会」を立ち上げ,平成22年3月に報告書を取りまとめた(表1).

世界の健康被害・1【新連載】

「ひばく」は暮らしのなかに

著者: 鎌仲ひとみ

ページ範囲:P.76 - P.77

隠され続けてきた事実

 広島や長崎の原爆も,チェルノブイリ原発の事故も,過去のこととして捉えている人々が大多数だろう.核爆発も原子炉の爆発も確かに過去のことだが,それによってもたらされた「ひばく」は今も現在進行形だ.例えば2009年長崎大学の研究チームがもう亡くなった被爆者の人体の一部にプルトニウムの微粒子が残留し,今も放射線を出している様子を映像で撮影した.世界で初めてのことだった.

 チェルノブイリ原発が1万メートル上空まで噴出させた大量の放射性物質は,何度も地球の周囲を回りながら放射性下降物質を地球上のあちこちにばら撒いた.

列島情報

食生活改善推進員のエネルギー

著者: 日置敦巳

ページ範囲:P.30 - P.30

 全国食生活改善推進員団体リーダー中央研修会,全国食生活改善大会および全国食生活改善推進員団体連絡協議会大会が2日間にわたって岐阜市で開催された.これらは(財)日本食生活協会,全国食生活改善推進員団体連絡協議会,岐阜県などの共催によるもので,協議会大会では参加者数が1,700名に及んだ.

 開催に向けた準備は,4月に実行委員会が組織されて始まった.県内の協議会には専従の事務局員がいないため,役員らが中心となって県域・地域ごとに頻回に集まり,いかにして他県からの来場者を歓迎するか協議が行われた.各地域の推進員の中から運営スタッフが選出され,地域ごとに受付グループ,会場グループ,懇親・集合写真グループ,展示・物産グループ,案内グループに分かれて取り組んだ.当日は,会場に比較的近いスタッフも会場近くのホテルに宿泊し,「笑顔」を合言葉に,早朝からそれぞれの担当業務にあたった.

沈思黙考

フーバーと,恐慌時の経済政策

著者: 林謙治

ページ範囲:P.38 - P.38

 「フーバーヴィルズ」(Hoovervilles)という地名を聞いたことがありますか? この地名は正式のものではなく,アメリカの大恐慌前後に大統領を務めたフーバーにちなんで名づけられた.フーバーヴィルズにあふれる大勢の失業者は,公園や空き地に段ボール箱で組み立てたテントあるいは掘っ立て小屋で寝起きし,貧しい生活をしのいでいた.ことは1932年,今からおおよそ80年前である.これに似たような風景は2年前の年の暮れ,官庁ビルが林立する霞ヶ関界隈の近くにある日比谷公園でも見られ,われわれの記憶に新しい.

 フーバーは貧困の家庭に育ちながら,クウェーカー教徒である医者のおじから勤勉・独立の気概を教えられ,スタンフォード大学を卒業するまで漕ぎ着け,鉱山技術者として身を立てた.やがて実業家として世界各地で活躍し,財をなした.第一次世界大戦後,飢餓に苦しむヨーロッパの人々を援助するプログラムを立ち上げ,その後ハーディングやクーリッジ大統領時代に商務長官を務めた.商務長官時代に官民の協力,自由貿易などをモットーにアメリカの繁栄を導いた.1928年,不況の足音が聞こえる中,フーバーはそれまでの実績を買われ,共和党の候補として大統領選に出馬し当選した.フーバーは不況というのは金融システムの破綻であり,不況からの脱出は産業の立て直しであると考えた.そこで官・産・労の協調のもと,企業はなるべく雇用を維持し,労働者はストライキを避け,政府は企業に融資あるいは農産物の買い上げに努めた.弱者救済は政府の政策によるのではなく,民間の慈善活動を中心とすべきとした.さらに大幅な関税引き上げを断行したが,諸外国も対抗処置をとり,その結果不況は世界中に広がった.1932年の大統領選に再度出馬したが,民主党候補でニューヨーク市長のフランクリン・ルーズベルトに破れた.フーバーとルーズベルトの政策の違いを見ると,前者は国家や政府レベルの対策しか講じなかったのに対し,後者はニューディール政策を通じて民間経済に積極的に関わったとされている.

予防と臨床のはざまで

第16回産業保健サービス・調査・評価に関する科学分科会ダイジェスト

著者: 福田洋

ページ範囲:P.46 - P.47

 2010年10月6~8日,ICOH(国際産業衛生学会)の産業保健サービス・調査・評価に関する科学分科会(SC HSR & EOH)がロンドンで開催されました.ロンドンはすでに秋の装い,2008年に700人が集まったパリの会議と比べて,今回は35人前後と少人数のワークショップ形式でした.テーマは“Dissemination & Implementation of Evidence-Based OH Practice”(根拠に基づく産業保健サービスの普及と実施).この科学分科会で一貫して取り組んでいるEBOH(根拠に基づく産業保健)をさらに推進しようという狙いです.

 6日のプレイベントを経て,7日の学会初日に私が参加したのは,「産業保健活動のオーディット(監査)」のセッションです.英国の国営医療制度(NHS)の品質評価を行うHealthcare Commission(2004年,2009年からCare Quality Commission)によると,監査の目的は「専門家の実践の改善と,提供されるサービスの総合的な品質を高めることにより患者のアウトカムを高めること」で,産業医や看護職の活動を根拠に基づいたガイドラインと照らし合わせて継続的に検証することにより,産業保健活動の品質が向上するとしています.セッションでは,英国やオランダでの産業保健活動のオーディットについて説明されました.特にオランダからは,2008年から行われているQuality Visitation(品質巡視)が紹介され,5年に1度,5人の専門家のレビュー,30人の患者満足度の評価の実施が全ての産業医に法律で義務づけられているとのことでした.このセッションで武藤孝司教授(獨協医科大学)は,日本のヘルスプロモーションの評価について,RCT(Randomised Controlled Trial)や中小企業での研究が不足していることなどを述べました.また諸外国との産業保健活動の比較から,日本の産業保健活動の幅は広いものの,ILO/WHOによる「すべての労働者をカバーする」という産業保健の目的に照らして,まだ課題が多いことが述べられました.

お知らせ

第2回日韓地域看護学会共同学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.55 - P.55

日時:2011年7月17日(日)・7月18日(月)

会場:神戸市看護大学 神戸市西区学園西町3-4(市営地下鉄学園都市駅徒歩10分)

映画の時間

―日だまりの場所をだれもが求めている.―クレアモントホテル

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.71 - P.71

 本格的な高齢社会を迎えたなかで,1人暮らしの高齢者の方々を地域社会で支えていく仕組みづくりは,公衆衛生・社会福祉の分野の重要な課題です.今月ご紹介する「クレアモントホテル」は,そんな高齢者を支える体制づくりのヒントになるかもしれません.

 舞台はロンドン.空港を降り立った主人公パルフリー夫人(ジョーン・プロウライト)は,タクシーに乗って,料理で有名だと評判(?)のクレアモントホテルに向かいます.だいたいイギリスで料理が評判のホテルというのも怪しげですし,主人公も老人,タクシー運転手も老人,ホテルに着くとベルマンもかなりの年寄りというのも,高齢社会を象徴していて,冒頭から「クスッ」としてしまいます(本当はイギリスにも美味しい料理があります.念の為).

「公衆衛生」書評

「健康なくに」 フリーアクセス

著者: 嶋村清志

ページ範囲:P.72 - P.72

 日本の健康づくりが目指す姿を示しつつ,それに近づくためのヒントが書かれた待望の書,『健康なくに』が出版されました.健康づくりの主役となる方やその支援者の方々に読んで頂こうと書かれた本書は,専門職だけでなく,住民の方々にこそ読んで頂きたいと思います.「健康な人」をつくるためには「健康な地域」,「健康なくに」づくりが不可欠というメッセージが,この本には込められています.

 住民主体の健康なまちづくりを地域で具体的に実践されている健康サポーターの会の会長さんにはじまり,大学教授や保健所関係者だけでなく,市町村の保健師さんなど,幅広い職種の,全国の名だたる方々が分担執筆されています.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.79 - P.79

あとがき・次号予告 フリーアクセス

著者: 西田茂樹

ページ範囲:P.80 - P.80

 寄席で演じられる漫才や曲芸,奇術などは“色物”と呼ばれます.家畜の伝染病は農林水産部局の担当であり,公衆衛生分野では本流のテーマではありません.したがって「公衆衛生」誌の特集の中で,本号の「ヒトと家畜・ペット・野生動物の感染症」はこの“色物”に相当するようなものではないかと思います.寄席の色物がそれなりに面白いように,本号の特集を読むと,ヒトと家畜の伝染病に対する考え方の違いが際立ち,興味深いものがあります.また,感染症の分野で,われわれと農林水産の担当部局と協力できるところがあるのではないかと感じました.

 家畜の伝染病以外で取り上げた感染症は,つつが虫病と日本紅斑熱を除けば,とても発生数の少ない希少感染症です.そのためか,バイオテロで注目されている炭疽やジフテリアに代わるように出現してきたコリネバクテリウム・ウルセランス感染症,わが国にも存在することが明らかになったダニ媒介脳炎,世界各地で流行を起こしているチクングニア熱などについては,公衆衛生従事者にはほとんど知られていないと思われます.そこで,今回,これらについて勉強する機会を作ってみました.熟読して,皆さんの頭の片隅に残しておいて頂きたいと思います.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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