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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生75巻10号

2011年10月発行

雑誌目次

特集 睡眠と健康

フリーアクセス

ページ範囲:P.745 - P.745

 私たちが毎日を健康で活動的に過ごすには,睡眠が不可欠です.私たちは1日24時間のうち3分の1から4分の1を眠って過ごしますが,わが国は高度経済成長により24時間眠らない社会となりました.

 平成に入りバブル景気がはじけ,近年はリーマン・ショックの影響などで経済の先行きが不透明な中,不眠を訴える人は増大しており,最近の報告では働き盛りの2人に1人が,睡眠に関する不満や悩みを抱えているとも言われています.

現代社会における睡眠障害の実態と疫学

著者: 土井由利子

ページ範囲:P.746 - P.750

はじめに

 エジソンによる発熱球の発明(1879年)から100年以上が経ち,私たちの文明は,夜でも昼間の明るさを誰もが簡単に手に入れることを可能にした.日が暮れても,仕事を続けることができるし,塾で勉強することもできる,深夜にコンビニエンスストアで買い物さえできる.一昔前なら昼間に済ませていた活動の時間帯が夜間に伸び,昼夜の区別のない24時間社会を作り上げた.眠ってなどいられない魅力的な現代社会では,睡眠以外の活動に自分の時間を配分するために,睡眠時間を削り続け,睡眠負債を抱え込んでしまった人たちが増えている.

 24時間社会は,潤沢な電力供給という必要条件の下に加速され拡大したが,2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響により,原子力発電所からの電力供給が激減する事態となって,状況は大きく変わった.発災後,当該電力会社管内においては,計画停電や電力使用制限令の下で節電が実施され,今に至っている.

 この現在進行形の状況が,今後,私たちの人生や生活にどのような影響を及ぼすのか予測することは難しいが,このような時期だからこそ,未来を見つめる機会として,これまで私たちが築き上げてきた社会について,振り返ってみる意義は大きいと思われる.そういう視点に立ち,本稿の睡眠と健康の問題について,筆を進めたいと思う.

睡眠研究の進歩

著者: 井上昌次郎

ページ範囲:P.751 - P.754

なぜ最近になって睡眠研究は進歩したのか

 「睡眠とは何か」という問題は,有史以来人々の大きな関心のひとつであった.それはまた,生命そのものを問うことでもあり,さらには死について洞察することでもあった.睡眠にまつわる夢をどのように解釈するかという議論もそうであった.こうして,睡眠や夢は古くから神話,宗教,政治,文芸の研究対象になっており,世界各地でそれぞれの文化を背景にしてさまざまに取り扱われてきた.不眠や眠気に関連するいわゆる睡眠障害も,医療の立場から重要な研究対象であった.つまり,睡眠研究はその原点からすでに,あらゆる社会とあらゆる学芸にかかわる総合的な学問の性質を持っていたのである1)

 とはいえ,「睡眠とは,生とは,死とは,夢とは,睡眠障害とは,このようなものである」という説明に対して,たといそれがその時代の最先端を行く権威あるものであったとしても,人々は納得したためしがない.なぜなら,自然哲学ないし自然科学の無力さから,これらの問題については,いつの時代も不完全な認識しか得られなかったからである.睡眠研究の進歩を阻んだ大きな理由は,再現性・客観性を証明する方法論がなかったことである2)

睡眠と生活習慣病

著者: 三島和夫

ページ範囲:P.755 - P.759

はじめに

 基本的な生活習慣の一つである睡眠に問題を抱えている現代人が増えている.睡眠問題として,睡眠不足(睡眠負債)やシフトワークのような現代に特徴的な睡眠習慣の問題に加えて,不眠症や睡眠時無呼吸症候群に代表されるような種々の睡眠障害が挙げられる.不適切な睡眠習慣や睡眠障害が,食事や運動の問題(過食,肥満,運動不足)と同様に生活習慣病の発症や悪化と関連していることが明らかになり,睡眠医療のみならず,内科学,プライマリケア,公衆衛生学などの分野でも大きな関心を集めている.

 睡眠不足や睡眠障害と生活習慣病は相互増悪的な関係にあり,そのメカニズムは重層的かつ多因子的である(図1).睡眠は自律神経機能,神経内分泌機能,代謝,循環その他の多数の生理機能と連動して生じている複雑な生理現象であり,その障害は同時に,これら諸機能の変化を伴うためである.

睡眠時無呼吸症候群(SAS)対策の現状

著者: 淡野桜子 ,   谷川武

ページ範囲:P.760 - P.763

 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)はありふれた症候群であるが,見過ごされていることが多い.SASが放置されると,単に本人の生活の質や将来の健康が脅かされるばかりではなく,交通事故や労働災害の増加により,社会活動全体にも悪影響が及ぶことが懸念される.公衆衛生の向上のためにも,われわれは,一人でも多くの患者が適切な治療を受けられるように働きかけていく必要がある.

不眠とうつ,アルコール

著者: 野田哲朗

ページ範囲:P.764 - P.768

はじめに

 1998年を境に中高年男性の自殺者が急増し,以後13年間,自殺者数3万人以上の高い水準で推移し,現在も深刻な状況が続いている.

 自殺は追い込まれた末の死とされ,自殺者の75%にうつ病,統合失調症,アルコール,薬物依存などの精神疾患がありながら,未治療者が多いと考えられている(図1).そのため,自殺予防には精神疾患の早期発見,治療が重要なポイントになる.

 うつ病の症状として多い不眠は,本人や周りから気づくことのできる症状であり,内閣府は「2週間以上続く不眠はうつのサインかも」といったフレーズの睡眠キャンペーンを自殺対策に取り入れ,うつ病の早期発見,治療を促す取り組みを行っている.

 また,睡眠薬代わりの寝酒は,睡眠の質を悪化させるばかりでなく,連用しているとアルコール依存症が発症しかねない.

 保健医療従事者は,心身の健康に害を及ぼす,不眠,うつ,アルコールの関係を正しく理解し,業務を行いたい.

不眠症の診断と睡眠薬

著者: 山寺亘

ページ範囲:P.769 - P.773

はじめに

 睡眠障害の原因は,生物学的・心理学的・社会学的な観点から多岐に亘る.留意すべきは,原因によらず患者の主訴には,夜間の睡眠困難(不眠)と日中の覚醒困難(過眠)のいずれもがあるということである.不眠症医療の基本は,専門医への紹介が必要な患者を鑑別した後に,睡眠衛生指導を施行しながら薬物療法を併用することにある1)

 本稿では,不眠症の診断・治療,特に薬物療法を概説する.

睡眠と子どもの成長発達

著者: 神山潤

ページ範囲:P.774 - P.778

はじめに

 本稿では,子どもの眠りと成長発達に関する国際的な動きの紹介に加え,これと深く関連するスリープヘルス,読み聞かせ,Morning luxury timeについて紹介する.

高齢者の睡眠

著者: 内山真

ページ範囲:P.779 - P.783

はじめに

 高齢者には睡眠障害が多い.本邦での一般人口を対象とした疫学的調査では,成人の21.4%に入眠障害,中途覚醒,早朝覚醒のいずれかの不眠が見られている1).この頻度は,20および30代では18.1%で,40および50代においても18.9%と大きく変わらないが,60歳以上では29.5%になる.不眠のタイプ別で見ると,60歳以上になるといずれの不眠においても若年成人や中年と比べ頻度が高くなるが,中途覚醒や早朝覚醒では若年成人のほぼ倍になる(図1).過去1か月間に睡眠薬を使用した人の頻度は,日本において男性で3.5%,女性で5.4%であった2).この睡眠薬使用頻度も,不眠と同様に高齢になるほど高くなる2)

 高齢者の睡眠障害は,睡眠時無呼吸症候群,むずむず脚症候群,周期性四肢運動障害などの身体的要因による睡眠障害の頻度が高いことが特徴である.さらに高齢者においては,うつ病による不眠が多く見られることも臨床的に重要である.高齢者特有の生活スタイルや心理社会的な問題が不眠を引き起こしている場合も多い.睡眠障害のケアにあたっては,このような高齢者の特性を踏まえておく必要がある.本稿では,これらの点について臨床的に展望する.

女性の睡眠とその障害

著者: 相良雄一郎 ,   大川匡子 ,   山田尚登

ページ範囲:P.784 - P.788

はじめに

 女性の睡眠はホルモンのサイクルの影響で,男性とは異なったパターンを示す.平成18年社会生活基本調査では,女性は男性に比べて,平日で13分,日曜日では22分も睡眠時間が短い.特に45~49歳では6時間51分と最も短くなる.この原因としては,結婚・出産や家事・育児の時間が増加することが要因として考えられる.加えて現代社会は,共働きや24時間社会による交代勤務など,様々なリスクが女性にも加わっている.

 本稿では,女性のホルモンやライフステージの睡眠への影響を述べていく.また,女性の睡眠に影響を及ぼす冷えやうつ病についても併せて述べていく.

視点

日本における公衆衛生学の変遷―内科医の視点から

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.742 - P.743

 私は1911年10月4日生まれで,今年10月4日には満百歳の誕生日を迎える.私が昭和12年3月に京都大学医学部を卒業した時は,学士記を内務省に提出すれば医師国家試験なしで医師免許証が下付された.それ以来,74年間現役の内科医を務め,今日に至っている.

 そこで私は内科医の視点から見た,日本における公衆衛生学の変遷について述べたいと思う.

トピックス

「災害支援パブリックヘルスフォーラム」仙台フォーラムの開催と今後の活動

著者: 災害支援パブリックヘルスフォーラム

ページ範囲:P.789 - P.791

はじめに

 東日本大震災によりお亡くなりになられた皆様,被災された皆様に,心からお悔やみとお見舞いを申し上げます.また福島第一原発事故に伴い避難されておられます皆様の1日も早い生活の復帰をお祈り申し上げます.

 2011年3月11日の大震災の発災後,健康を守るための医療支援や公衆衛生的な支援が各地域においてなされている.しかし,被災地全体を視野に入れた包括的・体系的なパブリックヘルスの取り組みが十分ではないことを,全国の多くの関係者が気づかされることとなった.

 地域の健康に責任を持つ関係者の集まりである「災害支援パブリックヘルスフォーラム」は,被災地内外の関係者が一堂に会して,現状と課題および今後のより効果的な支援のあり方についての意見交換を行う会合を,7月18日に仙台で開催した.

特別寄稿 複合災害の被災地における保健師活動・2

保健師ボランティア・チームとして原発特区の支援に入るまで―平時に備えのないことは非常時には対応できない

著者: 荘田智彦

ページ範囲:P.792 - P.795

 本稿・1の入稿から,また一月,大震災からすでに4か月が経っている(注:本稿執筆時).私たちが原発特区とも言える福島県南相馬市,また相双保健所圏域の保健師たちの窮状を知って,急遽呼びかけ合ってつくった「全国保健師ボランティアチーム(PHN/V/T)」として総勢8人(行政保健師5,公衆衛生医1,ジャーナリスト2)で県外からの派遣としては初めて「東京電力福島原子力発電所から20~30km圏」の保健師支援に入ったのは,5月16~22日だった.ある意味,全員が悲壮な覚悟と勇気を持って参加した第1次訪問から2か月,やっと保健師ボランティアチームとして7月16~19日,2回目の現地訪問と支援活動を果たして帰ってきたばかりである.

 私たちのチーム結成と活動は,反省も多いが,いくつかの点で果敢,かつ画期的な取り組みだったと思う.それは日常業務(ルーティン)感覚でしか思考できなくなっている,行政現場への失望と挑戦の連続だった.これからの継続支援をどうして行ったらいいか,大きな問題はそのまま居座って,無為な時間の経過がますます被災地の心を蝕み闇を広げているように思う(以下本文中敬称略).

連載 人を癒す自然との絆・27

児童養護施設退所後に備えるメンターリング・プログラム

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.796 - P.797

 日本と同様,アメリカでも,里親家庭や児童養護施設で暮らしていた子どもたちは,基本的に18歳になったら独り立ちしなければならない.虐待やネグレクトを経験し,トラウマを抱えた少年少女たちの多くに共通するのは,年齢相応の学力やソーシャル・スキルが不足していることだ.また,健全な人間関係を築くのが苦手で,セルフ・エスティーム(自尊感情)の低い子も多い.それが,18歳の誕生日を迎えたとたん一人前の大人と見なされ,それまでの保護のシステムから出されてしまうのだから大変だ.社会に出てやっていくだけの十分な準備がなければ,とても自立することはできず,やむなく暴力的な家族の元に戻らざるを得ないこともある.

 2010年5月号(本誌74巻5号408頁)でも紹介したカリフォルニアの「忘れな草」牧場は,1992年,ヒューメイン・ソサエティという全米最大規模のアニマル・シェルターのプログラムのひとつとして始まったが,2006年に「Forget Me Not Farm Children's Services」という非営利団体として独立.2009年からは司法省の助成を受け,里親家庭やグループホームで育った14~19歳までの少年少女を対象に「メンターリング・プログラム」と呼ばれる職業訓練を実施している.プログラムが目指すのは,アニマル・シェルターでの仕事を経験することによって,少年少女たちに生活スキル,ソーシャル・スキル,初歩的な職業スキルを身に付けさせることである.

保健活動のtry! 学会で発表しよう 論文を執筆しよう・7

ポスターの作成

著者: 中村好一

ページ範囲:P.798 - P.801

 今回はポスター発表の際のポスターの作成について述べる.

地域づくりのためのメンタルヘルス講座・7

地域での取り組みを教えて下さい

著者: 野口正行

ページ範囲:P.802 - P.805

はじめに

 近年,市町村が精神障害の相談の窓口になってきているが,他にも多様な業務が求められている上,市町村によっては精神障害に対する知識やスキルが十分とは言えない場合もある.保健所が市町村をカバーをすることが求められているが,保健所も業務の多様化と人員の減少で,こうしたことも困難となっている1,2)

 精神保健福祉センターも県全域の専門機関として保健所の支援に当たることになっているが,十分な人員が手当てされていないため,本来の働きが十分にできているとは言えない3).ここで出現している状況は,市町村は多様な業務の負担に加えて,慣れない精神障害の対応を迫られ,保健所も精神保健福祉センターもマンパワーの問題もあり,それを十分にカバーできない状態がある.

 医療機関に勤めていた者の目からすると,この事態はかつて「医療崩壊」と呼ばれていたこと(今はかつてほど騒がれなくなったが,事態がどれくらい改善したかは疑わしい)の保健機関版,いわば「保健崩壊」であるように映る.つまり医療に倣って保健が崩壊しつつあるということだ.これをこのまま放置しておけば,精神科救急への負担が増大することで「医療崩壊」を増悪する,あるいは地域でも病院でも受け止め切れない精神障害者が「難民化」する,という事態も起こりうる.

 地域で精神障害者をサポートできるためには,現在曖昧な位置づけのまま崩れつつある保健の再強化,市町村や保健所がきちんとした役割を果たせる体制を作ることが必要であろう.こうした問題意識の下,本稿では地域のサポート体制をどのように整備するか,について論じたい.

[番外編]保健所のお仕事─日常業務編・1

研修会実施の楽しみと苦しみ

著者: 荒田吉彦

ページ範囲:P.806 - P.807

 保健所の仕事は多岐に亘っており,県型保健所と市型保健所では同じ保健所とは思えないくらいに仕事の内容も変わってきます.さらに,都道府県によってその役割にも大きな違いがあります.あと3回,私が関わってきた保健所の仕事例を“日常業務編”としてお示ししていきたいと思います.

リレー連載・列島ランナー・31

地域に発達支援システムをつくる

著者: 土岐篤史

ページ範囲:P.808 - P.810

 鹿児島県指宿保健所長の岩松洋一先生よりバトンを受けました.岩松先生は,1991年に沖縄県立中部病院の小児科医研修でお世話になり,2009年から筆者が鹿児島県に異動したためお会いする機会が増えています.筆者は,児童精神科医として,主に愛知県と沖縄県の公的医療機関で臨床活動を行い,現在は臨床心理専門職大学院で教職に就いています.本稿では,私の研究テーマである「地域発達支援システム」,特に乳幼児期における早期支援についてご紹介いたします.

衛生行政キーワード・78

国立病院の在り方について

著者: 新田惇一

ページ範囲:P.812 - P.813

 「厚生労働省独立行政法人・公益法人等整理合理化委員会」報告書(平成22年12月27日)において,「国立病院機構と労働者健康福祉機構は,傘下の病院のネットワークの統合や個別病院の再編,整理のために『国立病院・労災病院等の在り方を考える検討会(仮称)』を設置して検討を始め,1年を目途に結論を得る」とされたことを受け,現在「国立病院・労災病院等の在り方を考える検討会」が開催されている.

 本稿では,これまでの検討会での議論等を踏まえ,国立病院の在り方について述べてみることとしたい.なお,今回は独立行政法人国立病院機構が運営する病院を国立病院と定義した.

世界の健康被害・10

福島の子どもたちの現在―放射能汚染地に生きる

著者: 鎌仲ひとみ

ページ範囲:P.814 - P.815

福島市内に住む子どもたちの現況

 3.11から約半年が経った(注:本稿執筆時).依然として事故への対策は,①原発そのものの放射能汚染放出を封じ込め除染する,②被ばくを避ける避難措置をとる,という2つの方法が停滞し,混乱している.福島県以南にあたる茨木,群馬,千葉,埼玉,東京も含めてホットスポットが散在しており,どれだけの人口が年間どれだけの被ばくをすることになるのか,未だ全貌がつかめない.

 例えば福島県全体には15歳以下の子どもたちが約28万人,福島市内には4万3千人いる.県全体で約1割の子どもたちが転校した.残った9割はもうすぐ被ばく量が10マイクロシーベルトに達しようとしている.これは最低限の数値であり,呼吸や食事によって引き起こされる内部被ばくは計算に入っていない.福島県内で500人以上の子どもたちの検診を行った小児科医の山田真医師によれば,鼻血,下痢,が高い割合で出てきている.

沈思黙考

精神医療の変遷

著者: 林謙治

ページ範囲:P.750 - P.750

 人は体調が悪くても軽度で済めばあまり気にしない.しかし,症状がある程度重ければ人は医療を求め,そして適切な治療法に出会ったときにやっと安心する.ところが病名すら診断がつかないとなると,医師は治療方針が定まらず,患者はあせりを感じる.その間,医師は取りあえず対症療法を続け,経過を見ながら病名を模索する一方,自然治癒に期待をかける.多くの難病患者は「診断名にたどり着くまで長い期間かかったことが何よりも精神的に負担であった」と訴えている.医師も患者も,診断は治療への第一歩と認識しているからである.

 近代医療は,主観的な訴えに結びつく客観的臨床所見を含む生物的・生化学的根拠を求めて進歩してきた.主観的な訴えは測定が難しいため,現代では生物的・生化学的根拠にますます依存するようになり,パソコン場面ばかりに向かう医師の姿が目立つようなった.しかしながら,生化学的測定値にしても,正常と異常の間のカットオフ・ポイントを決めるのはやはり簡単ではない.メタボ検診に見るように,HbA1Cのカットオフ・ポイントの設定によっては,要指導の対象者が大幅に違ってくる.

映画の時間

ゲーテを一夜で有名にした傑作に秘められた,切なくも美しい恋の真実とは――?―ゲーテの恋―~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.773 - P.773

 古今東西の作家のなかでも,文豪という敬称が最もぴったりくるのはゲーテでしょう.その文豪ゲーテの作品の中でも『若きウェルテルの悩み』は,18世紀後半に発表されて以来,時代を超えてベストセラーの地位を保っています.今月はこの『若きウェルテルの悩み』を執筆した頃のゲーテを主人公にした映画をご紹介します.

 大学での口頭試問.試験官の質問に答えられなかったゲーテは学友たちに嘲笑されても意に介しません.不遜な態度の背景には,書き上げたばかりの戯曲がありました.作家志望のゲーテは自信満々で戯曲を出版社に送ります.

列島情報

救急患者の受診状況

著者: 日置敦巳

ページ範囲:P.778 - P.778

 生活様式の変化に伴う夜間救急患者の増加や,高齢化の進展に伴う慢性疾患を有する高齢者の急変例の増加など,救急医療のニーズの変化が見られている.

 ここでは,平成22年度における岐阜県内救急告示医療施設への救急車による搬送と救急車以外による時間外受診,および救命救急センター受診の状況に関する5つの二次医療圏単位での比較結果について紹介する.なお,救急受診患者の住所地は医療施設と同じ二次医療圏内とは限らないが,ここでは,医療施設の存在する二次医療圏の人口あたりの数値を用いている.

予防と臨床のはざまで

ミシガン大学Graduate Summer Session in Epidemiology 2011参加記~その1

著者: 福田洋

ページ範囲:P.811 - P.811

 以前も本欄で取り上げたことがある,米国ミシガン大学公衆衛生大学院(SPH)の社会人向け疫学セミナーGSS(Graduate Summer Session in Epidemiology)についてご紹介したいと思います.夏休み期間に行われる疫学研修プログラムは,名門Johns Hopkins大学やHarvard大学にもありますが,同プログラムは今年で46回目を迎える全米で最も古い伝統あるもので,今年も世界中から290人が参加.内訳は医師だけでなく,疫学者,看護師・保健師,薬剤師,衛生管理者,政府関係者,修士課程の学生と,本当に様々です(http://www.sph.umich.edu/epid/GSS/index.html).

 この疫学セミナーには,Certification Programがありますが,修了には12単位以上の取得が必要です.初年度に受講するBasic Epidemiology(基礎疫学)3単位,Basic Biostatistics(基礎統計学)3単位に加えて,Data Management(SASの使い方)1単位と,Intermediate and Advanced Methods and Biostatistics(中級+上級),Public Health Practice and Applied Research(実践と応用)およびSpecific Epidemiology(各論)を含む各分野から合計5単位以上選択します.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.817 - P.817

あとがき・次号予告 フリーアクセス

著者: 品川靖子

ページ範囲:P.818 - P.818

 もう15年ほど前になりますが,睡眠に関係した悩みを抱える人が約5人に1人という調査結果が報告された頃は,今ほど不眠という概念が一般的ではなかったため,当時はあまり気に留めなかった方も多いかと思います.

 しかしながら,今や周りを見渡せば,睡眠剤を処方してもらっている人が何人もいるような時代となりました.睡眠に関する悩みは人には打ち明けにくいため,潜在的な睡眠障害はもっと多いと考えられます.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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