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沈思黙考
高齢者の医療と法
著者: 林謙治1
所属機関: 1国立保健医療科学院
ページ範囲:P.862 - P.862
文献購入ページに移動数年前の終末期医療論争のとき,筆者はこのことに関する研究班を担当しており,「論点は倫理面に限るべきで,医療費と関連づけて議論すべきでない」と主張した.その理由は,この問題は単なる終末期の問題ではなく,要するに判断能力が不十分かそれを失った人の医療のあり方全般にかかわる問題と意識したからである.特に高齢社会を迎えた今日において,認知症に至らなくても,自分に行われる医療が妥当であると判断できる一線を引くことは必ずしも容易ではない.実際,判断のサポートシステムが日本には構築されているとは言い難い.例えば,施設に入居している身寄りのない認知症の老人に予防接種を実施するにしても,医師が万が一の副作用を心配して戸惑うのは,むしろ良心的と言えるかもしれない.平成12年以前の民法にあった禁治産者制度を廃止した後にできた成年後見制は,確かに判断をサポートするシステムであり,大きな進歩と言えるが,その歴史は日本では10年程度である.成年後見制は基本的には財産管理に関する事項であり,医療については何も触れていない.法律家の間では,医療の判断はしたがって含まれないと解釈している.精神保健法にある保護義務者は,財産管理より一歩踏み込んで精神疾患の治療について意見を表明することはできるが,身体的な疾患については意見陳述を認められていない.最近法曹界の一部から「成年後見制に医療を加えよ」との主張が出ている.
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